ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか? 作:混沌の魔法使い
メニュー22 ソース焼きそば
ダイダロス通りへ向かって1人の獣人の男と褐色の肌の双子の少女の姿があった。3人はそれぞれ意外そうな表情を浮かべながらも和やかに話をしていた。
「まさかお前達もカワサキと顔見知りとは思わなかったぜ」
グレーの髪に白いファー付きのジャケットを着た男……「ベート・ローガ」は隣を歩いていた露出の激しい格好をした双子のアマゾネス「ティオネ・ヒリュテ」と「ティオナ・ヒリュテ」との2人にそう声を掛けた。
「カワサキはテルスキュラに半年くらいいたから顔見知りよ」
「そうそう、美味しい料理を作ってくれたし、それに結構強かったからさアマゾネスには人気者だったよね〜」
「へえ、飯が美味いのは知ってたが強いって言うのは知らなかったな」
俺がカワサキにあったのは2回だけだ。1回目は俺の生まれた村が草原の主に襲撃を受けた際にゼウスファミリアが助けてくれたのだが、その時に温かい飯を振舞ってくれた料理人がいたが、その時は顔は知らずカワサキという名前だけを知った。それから何年かした後に尋ねてきた旅人がカワサキだと知り、村全体で歓迎したのを覚えている。
「あんたが組手を頼まなかったなんて珍しいわね、ベート」
「料理人に喧嘩を売るほど馬鹿じゃねぇよ。それに強いっていうのは誇示する事じゃねぇ、内に秘めるもんだ。まあ基本的な体の動かし方は教わったけど、鍛えられたってことはないな」
「あんたらしくない言いぶりじゃない?」
ティオナの言葉は完全に図星で硬直するとティオネ達は楽しそうに笑い出した。
「やっぱりね、そんな気がしたのよ」
「カワサキさんにでも言われた?」
「む……あ、ああ。俺はあの人に強いって言う意味を教えて貰ったと思うぜ」
体としての強さの目標は今でもザルドとマキシムと呼ばれた2人の冒険者だ。だが心の強さは今も昔もカワサキが目標だ。
「だからロキファミリアに入ったの? あたしはお姉ちゃんがロキファミリアに入るーって言うからロキファミリアに入ったけど、別のファミリアに良いところがあったらそっちに移ろうかなーとかいろいろ考えてるんだよね」
「お前はそれが良いんじゃねえか? 俺はロキファミリアを中から変える為にロキファミリアに入ったんだ、お前の姉貴の趣味はいっちゃ悪いが最悪だと思う」
「うん、あたしも最悪だと思ってるから気にしなくて良いよ」
「えー? だってほら、団長が俯いてるのなんかゾクゾクしない? もっと卑屈になって欲しいとか涙目になって欲しいとか分からない?」
「分かりたくねぇ」
「お姉ちゃんの事は好きだけど、その趣味は止めた方が良いと思う」
恍惚の表情を浮かべているティオネのサディステックな趣味には思う事があるが、その矛先がフィンだけに向いてるから良いかと思っていると……。
「ふぐおッ!? ばな、なんだ? ボール……」
ダイダロス通りから飛んできた何かが顔に当たり、それを反射的に手に取るとそれは白い白球だった。
「もう少し手加減って覚えた方が良いと思うんですよ私!」
「アーディ、力加減を間違えるのは誰にでもある事だ。俺に出来るのは誰にも当たってない事を祈るだけだ」
「こんな有様で本当にこのスポーツをオラリオに広めるなんて本気ですか!?」
「人間本気になれば大概の事は出来るぞ? 腕に剣が突き刺さっていても、足が折られていても死ぬ気で泳いで逃げれる」
「何の話です!?」
「俺の天敵の腐れメンヘラサイコパスクソ女に捕まったときの事だ。後数分遅かったら俺の腕は根元から切り落とされていただろう」
「なんなんですかその人は!? 後で詳しく教えてください危険人物って事で警戒しておきますから!」
「それは助かる、頼むぞアーディ」
「「「「あ……」」」」
なんか幾つも聞き捨てならない会話をしながらダイダロス通りから出てきたカワサキとアーディがボールを手に持っている俺とティオネとティアナの目が完全にあい、あっという声が4つ重なるのだった……。
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「カワサキ。なんで俺は木の棒を持ってるんだ?」
「ん? 昼飯をご馳走するから手伝ってくれって言ったら良いって言ってくれたじゃないかベート」
「手伝うとは言った。だがそれと木の棒を持ってあんたと向き合う意味はなんだと聞いてる」
手に大きめの手袋を嵌め、手袋をしていない手でボールを握っているカワサキはやれやれと肩を竦めた。
「俺がボールを投げる。お前が打つ、後ろの木の壁に3回当ったらお前の負け、ボールを打ったら走る。ボールを守ってる奴が直接取ってもお前の負け、お前が目標の所に辿り着く前にボールが目標の所に立ってる奴のグローブに入ってもお前の負けOK?」
「違う、俺が言いたいのはそういうことじゃない」
ルールを聞いているわけではないのだ。何故数年ぶりにあった村の恩人とこんな事をしているのかという事を俺は聞いているのだ。
「なんだ、何が不満だと言うのだ。ベートローガ」
「俺がガネーシャだッ!」
「なんでオッタルとガネーシャもいる!?」
「私もいるわよ、ベート」
「ああ、そうだな、あんたもいるな神デメテルッ!」
なんでダイダロス通りにガネーシャとデメテルとオッタルがいるのか、そして何で引退した冒険者達が俺達を見ているのか、聞く事は山ほどある。
「だーかーらー、アーディも言ってただろ? オラリオにスポーツを広げようと思ってるんだよ。でも口で説明するより見てもらった方が早いだろ? だからベートとティオネとティオナに頼んだ訳だ。ちなみにオッタルも後で参加する」
違う、そうではない。俺が聞きたいのはそう言う訳ではないのだ。
「カワサキに稽古をして貰っているから俺もここにいる」
「あんたは黙っててくれ、オッタル。話が拗れる」
こいつもこいつで天然で話が拗れるので少し黙っていてくれと頼む。あとなんかしょんぼりするなと声を大にして言いたい。
「つまり俺達で実験すると」
「言い方は悪いがそうなるな。だが心配するな、野球は楽しいスポーツだよ」
カワサキもマイペースなので何を言っても無駄かと溜息を吐いて俺は木の棒を肩に担いだ。
「大体は分かった。始めようぜ」
「OK、行くぜ。ベート」
(この9つの枠の中にボールが当る前に打てば良いんだろ? 楽勝楽勝)
俺はそう思っていた……のだが……。
「ほい、ワンストライク」
「は? は……? 当ったのか?」
俺が木の棒を振る前にカワサキの投げたボールは木の的に当っていた。しかもちゃんとボールの当った跡があるのでイカサマという余地もない。俺には白い線が走ったようにしか見えず、正直かなり困惑した。
「何やってるのベート。振ってもないじゃん」
「もしかして見えてないのかなー?」
「うっせ、次は打つッ!!」
大きく深呼吸をして木の棒を構えなおしてカワサキをジッと見つめる。腕を大きく振りかぶり、足が上がって……カワサキが前に踏み込みながら全身を使ってボールを投げ込んでくる。
「くうっ!」
俺が木の棒を振りきるより先にまたボールが木の板に当った。
「ツーストライク。あと1回空振りしたらお前の負けだぜ? ベート」
「分かってるよ! 次ぎ来い、次ッ!」
大分早かったが、2回も見れば早さにはなれた。次は打つと気合を入れカワサキの動きをじっと見つめる。
「ちょっ!? おいッ!?」
大きく振りかぶるところまでは同じだったが、そこからボールを握っている右腕を大きく伸ばし、背中の後に腕を回すと全身を使って遠心力を使ってボールを投げ込んできた。だが上から投げ込んでくるのより遅く見えるそれをしっかりと俺の目は捉えていた。
(見える。貰っ……たぁッ!?)
しっかりと踏み込み木の棒を振る。俺の振った木の棒の軌道は完全にボールと並んでいて打ったと思った瞬間……ボールは減速し、大きく弧を描きながら沈み込み、俺の振った木の棒は完全にボールの上を通った。
「空振り三振、1アウトってね」
「おいおいおい!? なんだ今のは!?」
「変化球さ。カーブって奴だ。投げる時に回転を加えたり、弾いたりするとボールは回転が加わって変化する」
「そんな事聞いてねえぞ!?」
「はは、言ってないから聞いてるわけ無いだろ?」
く、くく……カワサキは良い奴なんだが、この子供っぽいところがどうも苦手だ。
「どうよ、ガネーシャ、デメテル」
「うむ、中々面白そうなスポーツであるなッ!」
「そうね駆け引きもあって良いんじゃないかしら? こんな時代じゃなきゃだけど」
「悪いもんって言うのはいつまでも続くもんじゃないさ、平和になったら広めれば良いんだ。健全な精神は健全な肉体に宿るってね。ベートどうよ、案外面白いだろ?」
「あ、ああ。面白いぜ、負けたから悔しいけどなッ!」
「次あたし! よろしくお願いしまーすッ!」
俺から木の棒を奪い取りティオナがカワサキと対峙するが……。
「ムキい! 曲がったり落ちたりするの反則ッ!!」
カワサキの投げるボールは木の棒を避けるように落ちたり曲がったりしてティオナの奴も俺と同じで1球もボールを木の棒に当てる事が出来なかった。
「はっはっは! 駆け引きだ」
「くうう……ティオネ仇よろしくッ!」
「分かった! お願いしまーすッ!」
そして3人目のティオネはなんと奇跡的に木の棒に当てる事が出来たが……。
「や、やった当って……あーっ」
「き、来た来た。よっ、それッ!」
「わっとと、よっし取った!」
「あーッ! ゴールが遠いぃいいいいッ!!」
「ナイスショートッ! ほい、ティオネも負けだな」
それはカワサキの後にいた7人の守り手の1人が簡単に受け止め、ティオネがゴールを踏む前にゴールで待っていた引退した冒険者が手に嵌めている手袋に納まった。
「次! もう1回だ!」
「お、熱が入ってきたな、ベート。ほれほれ打席に立て」
最初は子供の遊びかと思っていたが、何時の間にか完全に熱が入り、俺達だけでは無く観戦していた引退していた冒険者も加わって、カワサキが広げようとしていた野球というスポーツに夢中になっていたのだった……。
鉄板の上にざく切りにした野菜を敷き詰めたカワサキさんは鼻歌交じりで野菜をいため始める。
「お腹空きましたーまだですかー?」
「すぐに出来るから待ってろ」
年甲斐も無くはしゃいでしまった。だけど野球というスポーツは確かに面白いスポーツだった。木の棒……バットでボールを打つ。そう聞くだけでは簡単に思えるが、1回の投球でバットを振って良いのは1回というルールに加えて力任せに投げるだけでもかなり早くて打ち難いのに、カワサキさんはそれを左右に下、馬鹿にしたような緩く向かってくるボールなど多数に投げ分けてくるので打ったと思っても全然飛ばなかったり、空振りしたり、打ち上げてしまったりと子供の遊びと思っていたが実に奥が深かった。
「俺も出来たから面白かったぞ、アーディッ!」
「そうですねーガネーシャ様は普通にホームランでしたっけ? 打ってましたよね!」
「はっははは。適当に振ったら大当たりだっただけだッ!」
この野球というスポーツの意外な所は地上では能力がかなり制限される神でも出来る所だった。
「カワサキに教えてもらったけどボールを投げるのも面白いわね」
神デメテルもカワサキさんに教わるだけで私達以上に野球を覚えてしまっていて、私はデメテル様の投げるボールに1回もバットを掠らせる事ができなかった。
「あーん、曲がらないッ! どうやったら曲がるのよ、これッ!」
「知るか、カワサキが教えてくれた通りに投げてるのになんでだ!?」
ベート・ローガ達はよっぽど悔しいのかボールを曲げれるように練習しているが、全く持って変化せず。ただただ早いボールを投げているだけだ。でも早いだけでも打ちにくいんだよなあっと思っているとジュワッと言う音と共に食欲を誘う香りが辺り一面に広がり、広場で食事を待っていた全員が動きを止めた。
「腹が減った時のソースの香りは暴力そのものでな、食欲爆発ってね」
細い麺と野菜にソースをたっぷりと掛けて全体を良く絡めたカワサキさんは完成した料理を手際よく、皿に盛り付けていく。
「良し出来たぞー! 取りに来いよ」
カワサキさんがそう声を掛けると広場で待っていた人達が一斉に集まってくる。
「今日も良い匂いだな、カワサキ」
「沢山身体を動かしたからお腹すいたわ!」
「ご飯くださーいッ!!」
「ごはんーごはんーッ!」
「おうおう、大丈夫だ。ちゃんと全員に回る分は用意してるからな、押すなよ、順番だ順番」
焼いた麺料理がどんどん配られ、あっというまに私の番が来た。
「待たせたな、アーディ。ほれ、焼きそばだ」
「ありがとうございまーすッ!」
食欲を誘うソースの香りが鼻を擽り、受け取ったばかりの焼きそばをフォークで持ち上げて頬張る。
「美味しいですッ! これパスタとは違うんですね」
「ああ。パスタとはまた違う麺だが、美味いだろ?」
カワサキさんの言葉に広場に座り込んでいた人達が美味いぜーっと声を上げる。
「久しぶりにあんたの飯を食ったが、相変わらず美味いな」
「本当だねー、私食べたの何年ぶりかなあ」
「2年か3年かしら? でもカワサキさんの料理は何時食べても美味しいですね」
「ありがとうよ。そう言って貰えると料理をしている甲斐があるってもんだ」
カワサキさんは嬉しそうに笑い、焼きそばのおかわりの分の調理を始めている。
(本当に優しい人だよね)
ちょっと外見は怖いけど、カワサキさんは穏やかでとても優しい人だ。それに料理も上手だし相談にも乗ってくれるし、頼れる大人って感じだ。
「美味い! 噂には聞いていたが本当に美味いな、お前の料理は」
「喜んで貰えて嬉しいぜ、ガネーシャ」
「美味い物を美味いと言うのは当然だ、美味いッ!」
「もう、ガネーシャ様、もう少し静かに食べれませんか?」
「でも美味いぞ、アーディッ!」
美味しいのは分かっているのだ。パスタよりも縮れているからな独特の食感がある麺にはソースがしっかりと絡んでいる。見た目通りのかなり濃い目の味が運動で汗を流したからか余計に美味しいと思える。
「簡単に作れてこれだけ美味しいって言うのは素晴しいと思うわ。カワサキ」
「時間を掛ければ美味い物を作れるのは当然だが、手早く美味い料理を作れるのが料理人の腕の見せ所だよ」
野菜と肉を炒めてから麺と絡めてソースで味付けする。工程自体は簡単だが、多分私が作ってもこの味にはならないんだろうなと思う。
(野菜もしゃきしゃきで美味しいし、お肉はしっかりと焼かれてて食感も良い。本当にカワサキさんは凄い料理人なんだなあ)
使っている材料も調理方法もオラリオでもある方法だ。だけど同じ調理法、下拵えでも味が全然違っていて料理に対する知識と技術が全然違うんだなと改めて思わされる。
「うん、美味しい」
ガネーシャ様のいう通り、美味しい物は美味しいって自然に口にしてしまうんだなと思いながら私は焼きそばを口へ運ぶのだった……。
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『さぁ今日も始りました。オラリオ野球中継。本日は練習試合の中継となります』
「お、野球が始まるぜ、ゼウスの爺さん」
「でも練習試合じゃろ? どことどこじゃ」
神の鏡を用いた野球中継だが練習試合と聞いて興味無さそうにしていたゼウスだったが、続く言葉に座っていた椅子から跳ね起きた。
『本日は新進気鋭の冒険者ベル・クラネルを団長としたヘスティア・ファミリアとタケミカヅチファミリアの練習試合となります』
「「「ベルの試合と聞いてッ!?」」」
野球など興味ないと言っていたヘラ・ファミリアの団員もヘラもベルが試合に出ると聞いて一気に神の鏡の前へやって来たのだが……。
「……どういう……ことだ。私は今……冷静さを欠こうとしている。これはどういうことなのだ」
ヘスティアファミリアの団員の殆どが少女、美女、男はカワサキとヴェルフとベルの3人しかいない。ヘラが冷静さを欠こうとしていると真顔でいうのも納得の男女比である。
『きゃーっ! ベルさん頑張ってーッ!』
『ベル君頑張れ~』
「おい、あいつフレイヤだろ?」
「ああ、どう見てもフレイヤだな」
「というかベルを応援してる女が多すぎないか?」
「うそ、俺の息子がハーレムを作ってるんだが……?」
「あらあらまぁまぁ……やっぱりベルはモテモテね~」
応援の声にマウンドでぺこぺこと頭を下げているベルの姿にあちこちから黄色い歓声、あと少し野太い歓声が混じる。
「なにがどうなっている……?」
「ヘルメスの奴は何にも言ってなかったがのう……」
『プレイボールッ!』
ベルがカワサキと共にオラリオに旅立ってから1ヶ月、たった1ヶ月でベルの回りが女だらけになっている事に驚愕しているゼウスとヘラ達が目にしている神の鏡に映し出されるベルは大きく振りかぶり白球をキャッチャーのカワサキに向かって投げ込むのだった……。
メニュー23 ハンバーグランチ へ続く
オラリオに野球が導入され何が起きるか、戦争遊戯の内容が増える。探索系ではないファリアが探索系との戦争遊戯に勝てる要素が出来たという所になると思います。野球は完全に私の趣味なので今後出るかは不明ですが、偶に少し混ぜて見たいと思います。次回はフェルズやウラノスとの話を書いてみようと思いますので、次回の更新もどうかよろしくお願いします。
オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは
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間違っている
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間違っていない