ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか?   作:混沌の魔法使い

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メニュー23 ハンバーグランチ

メニュー23 ハンバーグランチ

 

炊き出しを終えたカワサキが荷物を纏めているのを見て、俺はカワサキにどこかに出掛けるのか? と問いかけた。

 

「ギルドに顔を出してくる。ほれ、あの魔石で使えるコンロをカインに売るんだが、ギルドが間に入るっていうからさ」

 

「ああ。それなら心配ないな、今のギルドは中立公平だ。契約をするならギルドナイトに間に入ってもらったほうが良い」

 

フェルズの発案で作られたギルドナイトも7年目ともなれば1から育てられたギルドナイトも増え始めた。ギルドナイトの仕事は非常に多岐に渡るので武力だけではなく、知力も優れた者が多く、下手な探索系ファミリアの冒険者よりも強い一団になりつつある。

 

「それとそのついでにギルドで飯を作ってくるわ」

 

「……何故だ?」

 

なんでギルドで飯を作るんだ? と荷物を鞄につめているカワサキに尋ねる。

 

「フェルズが飯を食いに来る時間が無いから作ってくれって言うからだな」

 

「あいつはなんなんだ?」

 

フェルズが多忙なのは分かるがそれでカワサキをギルドに呼ぶのは職権乱用ではなかろうか? と首を傾げながらカワサキのポケットに羊皮紙を詰め込んだ。

 

(調査結果だ。それと闇派閥の動きが大分怪しい、まぁそれも当然と言えるが)

 

カワサキによって闇派閥の傘下の大半が潰された。手駒を失ったタナトス達が本格的に動き出すのは時間の問題という状況になりつつある。火炎石が運び込まれているという話もあるのでまた自爆テロが始まるかもしれないとカワサキに伝える。

 

(火炎石っつうのが爆弾の原料なのか?)

 

(あ、ああ。モンスターからドロップするアイテムだが、それがどうかしたのか?)

 

(いや、確認だ。もしかすると無力化出来るかもしれない、詳しくは帰ったら話す)

 

「待て、今話せッ!」

 

火炎石を無力化できるかもしれないというカワサキに今話せと言ったが、カワサキは手をひらひらと振ってダイダロス通りを出て行ってしまった。

 

「……はぁ~……良い加減にしてくれ」

 

善人であるのは間違いないが、良いも悪いもマイペース。こちらの都合なんてお構いなしのカワサキに俺は深い深い溜息を吐いた。確かにオラリオを変える事は出来ているが余りにも劇物が過ぎる。

 

「……もう少し調べておくか」

 

カワサキがいないのならばもう少し調査を進めておくかと呟き、俺もダイダロス通りを後にし、夜カワサキが帰ってくるのをカワサキの家で待っているとカワサキは信じられない者を担いで帰ってきた。

 

「なんか奇襲されたからボコボコにして連れて帰ってきた」

 

「ヴィトーーーーッ!!」

 

顔の形が変わるまで殴られ意識を失っている唯一の眷属の姿に俺は夜ということも忘れてその名を叫ぶのだった……。

 

 

 

 

市場でカインと合流してギルドへと向かったのだが、その門の所を見て俺は思わずほうっと呟いていた。紅い揃の鎧を纏った騎士が2人ギルドの門の所に立っていたからだ。

 

「ああ、ギルドナイトですね。少々厳ついですが彼らはとても親切ですよ。カワサキ」

 

そう笑うカインと共にギルドに入ろうとしている人の列に並ぶ。

 

「こんなにギルドに入るのは厳重なのか?」

 

「いえ、普段はこんな事はないんですが……闇派閥か、黄色い悪魔のせいではないでしょうか?」

 

ああ、俺のせいか。なら仕方ないなと俺とカインの順番が来るのを素直に待つ事にした。

 

「商会のカイン・アベルです。今日は商談に参りました」

 

「カイン氏ですね、2Fの会議室へお向かいください」

 

先にカインが入り、俺も続けて入ろうとしたがギルドナイトが突き出した槍で足を止めた。

 

「申し訳ありませんが、本日は1人ずつ用件と名前を窺っております。ご用件はなんでしょうか?」

 

「カインの商談相手だ。ダイダロス通りで炊き出しをやってるカワサキっていうもんだ。身分証明できるものは無いが……フェルズに聞いてくれ」

 

「ギルド長にですか? それは何故でしょう」

 

「カインとの商談もあるが、フェルズに飯を作るように頼まれて来てる。確認して貰えれば分かる筈だ」

 

俺がそう言うと1人のギルドナイトがギルドの中へ入っていった。

 

「では荷物の確認を先にさせていただきますがよろしいですね?」

 

「ああ。構わない、だがこれは魔道具だから気をつけてくれよ。見た目よりずっと重い」

 

俺が差し出した鞄を片手で受け取ろうとし、その重さに気付いて慌てて両手で持ったギルドナイトが荷物の検分をしているのを待っているとギルドに入っていったギルドナイトが帰ってきた。

 

「ギルド長から確認が取れました。こちら通行証と身分証明書です。今後ギルドに来る際はこちらをご持参ください」

 

「ほいほい、どうも」

 

渡された通行証と身分証を首に下げ、検分が終わった鞄を受け取って俺はカインが待つ2Fの会議室へ足を向けた。

 

「ギルドナイト ベリスが仲介役となります、よろしいですね?」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

「俺はオラリオの事は良く分からんからそれが決まりならそちらへ任せる」

 

「……では、こちらカワサキ氏の作った魔石燃料の持ち運び竃をカイン氏が製作・販売したいでよろしいですね? この場合カワサキ氏が製作者になるので売り上げの3割はカワサキ氏の物、販売仲介として商会とギルドで1割ずつ、そしてカイン氏が5割となりますがよろしいですね?」

 

 

「俺か? 俺は任せると言ったからそちらに任せる」

 

「えっと良いんですか? カワサキさんが5割で私が3割でも構いませんが?」

 

「いや、良い。俺はいつまでもオラリオにいるわけじゃないから、そうだな……ベリスさんだったけか? 俺がオラリオにいない時は売り上げの3割はダイダロス通りの孤児の養育費や、負傷した冒険者の生活費に回して欲しいんだが、出来るかい?」

 

「可能ですが、ギルドで貯蓄しておく事も可能ですよ?」

 

「いや、良い。孤児達と引退した冒険者連中に回してくれ、俺は旅から旅の根無し草でね。あまり金を持ちすぎてても怖い」

 

「契約条項に互いに異論はありませんね? なければ契約成立としますがよろしいですか?」

 

カインと共に異論はないというとベリスが手にしていた羊皮紙が光り、2枚に分かれた。

 

「ではこちらをカワサキ氏が、こちらをカイン氏がお持ちください。お2人ともお疲れ様でした」

 

魔法とかを使うけど結構早く済んだなと思いながらカインと共に会議室を出る。

 

「良い取引が出来ました。ありがとうございます」

 

「いや、便利な物は広がったほうが良い。頑張ってくれよ」

 

「はい! ありがとうございます! では私はこれで」

 

希望に顔を輝かせて賭けていくカインを見送り、少し遅れて会議室から出ていたベリスに声を掛ける。

 

「フェルズに言われて飯を作りたいんだが、厨房はどこだ?」

 

「……こちらです」

 

若干間の空いた後にベリスに案内された厨房は正直に言って……余り使われた痕跡が無かった。

 

(それだけ忙しい、いや料理人が持たないのか)

 

ファミリアへの仲裁や仲介役、パトロールとなればその生活はいうまでも無く不安定な物になる。それに合わせて料理が出来ないからこれだけ綺麗な厨房なのに料理人がいないんだなと思いながら俺は持って来た鞄から材料を取り出していく、玉葱、パン粉、そして魔石で冷やした牛と豚の合挽き肉に卵に塩胡椒などの調味料と乾燥パスタ。ここまで来れば分かると思うが俺が作ろうとしているのはハンバーグ。そしてそれをメインにしたランチメニューだ。

 

「さてと頑張るかね」

 

フェルズとウラノスとギルドナイトに振舞う料理だ。少し気合を入れるかなと呟き、俺は挽肉をボウルの中に入れてハンバーグの準備を始めるのだった。

 

 

 

ギルドナイトに選ばれた者は本名とは別の名前を名乗る事が定められている。ギルドナイトの装備は認識阻害が掛けられており、顔を認識、あるいは記憶出来ないようになっている。それはギルドの中立公平を保つ為の物であり、賄賂などで買収、あるいは家族や恋人が人質にされないようにというフェルズの配慮だった。そしてそんなギルドナイトたちは特別な鍛錬を積んでおり、感情を殺す術を覚えている訳なのだが……。

 

「うっまッ! うわあ……うめえ……」

 

「焼き立てのハンバーグとかめちゃくちゃ美味しい……」

 

「いや、温かい飯が美味すぎるって……」

 

食堂から聞こえて来る美味い美味いという声に笑みを浮かべながら私も食堂の中へ足を踏み入れた。明るさなど無かったギルドの食堂が活気に満ちているのを見てやはり料理人を雇いたいと言う気持ちが沸いてくる。

 

(3人は雇わないと無理か……厳しいな)

 

ギルドナイト、ギルドの仕事は変則的だ。職員、ギルドナイトの人数が少なくとも、変則的な過密スケジュールに対応出来る料理人を見つけるのはやはり難しいなと思いながら厨房を見ることが出来る席に腰を下ろした。

 

「悪いなカワサキ。無理を頼んで」

 

「いや、気にするなよフェルズ、どうせ炊き出しが終われば暇だ。手が空いていれば料理の1つや2つ作りに来てやるさ」

 

「だとしても悪い、お前にもやる事があるだろうに」

 

私が忙しいようにカワサキもやるべき事が山ほどあるなか無理に頼んだ事に申し訳なさが込み上げて来る。

 

「料理人は飯を作るのが仕事だ。俺は仕事をしてるだけさ、ほい。特製ハンバーグランチだ」

 

私と話をしている間も料理を続けていたカワサキが完成した料理を私の目の前に置いた。

 

「これはまた美味そうだな」

 

熱した鉄に乗せられたハンバーグと目玉焼きとトマトを使ったであろうパスタ。それと鮮やかな黄色をしたコーンスープと瑞々しい野菜をたっぷりと使ったサラダには淡い色をしたドレッシングがたっぷりと掛けられていた。

 

「パンとご飯があるがどっちにする?」

 

「パンを貰おう。米は余り馴染みがないのでね」

 

「あいよっと」

 

丸パンが2つ添えられるが若干歪な形のそれは孤児達の焼いたパンだと分かり、思わず笑みを浮かべてしまった。

 

「いただきます」

 

手を合わせていただきますと口にしてナイフとフォークを手に取り、ハンバーグを食べやすい大きさに切り分けた。

 

(おおッ)

 

切り分けた所から溢れた肉汁が鉄板に当り、バチバチを音を立てる。その音を聞いていると自然と口の中に唾液が沸いて来るのが分かる。

 

「……美味い。やはりお前の料理は美味いな」

 

ステーキのような肉の塊も良いが、ハンバーグの柔らかい食感も実に良い。香辛料をたっぷりと使ってるからか肉の臭みも無く、上に掛けられているトマトのソースの酸味と甘みが肉の美味さを引き立てている。

 

「一応料理人なんでね、料理は上手いさ」

 

冒険者でも通るような筋骨隆々のカワサキの言葉に思わず笑ってしまう。

 

「確かにお前なら冒険者でもやっていけるだろうな」

 

「やらねえぞ、めんどくさいからな」

 

「ははは、分かってるさ」

 

カワサキは壊す者ではなく、守り導き、慈しむものだ。恐らく冒険者のような血生臭い商売は向いていないだろう。

 

「嘘……ギルド長がめっちゃ綺麗に笑ってる」

 

「……いつも顰め面なのに……」

 

なお回りにいたギルドナイトやギルド職員達は見たことの無い華の様な笑みを浮かべるフェルズを見て、目を擦り瞬きをするという事を何度も繰り返していたがカワサキもフェルズもそれには全く気付いていなかった。

 

「目玉焼き半熟にしてるから黄身を潰してハンバーグにつけると美味いぞ」

 

「ほお、それはやろうと思わなかった食べ方だな。さっそくやってみるとしよう」

 

カワサキに教えられたとおりに目玉焼きを切り、溢れ出した半熟の黄身に切り分けたハンバーグをつけて頬張る。肉汁と濃厚な卵の黄身の味わいが口の中に広がり、思わず笑みが零れる。

 

「確かに美味い、そのままで食べるよりもずっと味に深みがある」

 

肉と卵の相性がこんなに良かったのかと驚きながらコーンスープを口にするととうもろこしの甘さが口の中に広がり、ほうっと思わず溜息が零れる。

 

「とうもろこしもそうだが、野菜はどうしたんだ?」

 

「ああ、デメテルの所で貰ってきた」

 

「デメテルの所で?」

 

「おう。俺が孤児の面倒を見ていると言ったら分けてくれたんだ。後は孤児の連中も連れて行って畑仕事も手伝わせてるぞ」

 

孤児に関してはカワサキの方がずっと上を行ってる気がする。食べようと千切ったパンを皿の上に戻して、私はカワサキの名を呼んだ。

 

「どうかしたか?」

 

「お前ギルドに雇われる気はないか?」

 

カワサキがいれば孤児関連にまで分野を広げる事が出来るし、カワサキの考え方は私やウラノスにはない考え方なので新しい発見にもなる。そう思ってギルドに雇われないかと提案したのだが、カワサキは首を左右に振った。

 

「俺は旅から旅の根無し草だ。いつまでもオラリオにいるわけじゃないから断っとく」

 

「そうか……まぁ気が向いたら声を掛けてくれ、席は空けておこう」

 

惜しいという気持ちを抱きながら千切ったパンにハンバーグから溢れた肉汁を吸わせて頬張る。柔らかく、小麦の味と香りが生きているパンにハンバーグから溢れた肉汁はとても良く合う。

 

「このパスタはなんというか安っぽい味だ」

 

「それが良いんだよ、口に合わないか?」

 

「いや、うーん。美味い、美味いんだがな……なんだろうなこれは」

 

玉葱とピーマンとソーセージを具材にし、トマトソースで絡めたと思ったパスタは想像していた味よりもずっと安っぽかった。トマトを加工したソースを使っていると思う。美味い事は美味いのだが、トマトソースと思って食べたからか、ん? っとなってしまった。

 

「トマトで作ったケチャップという調味料を使っている。これはそのまま使っても美味いし、パンとかにも良く合う」

 

「なるほど……馴染みの無い味付けだが、悪くない」

 

香辛料とハーブの香り、それと玉葱とにんにくの香りと複雑な味の組み合わせなのだが、どこかチープなその味わいは妙に舌を擽る。

 

「後パンにハンバーグとサラダを挟んでサンドイッチにするのもお勧めだ。欲しければチーズも出そう」

 

「ならそのお勧めを食べる為にチーズを貰うとしようか」

 

カワサキがいうのならば間違いないと思い、貰った板状のチーズ、サラダの中のレタス、トマト、ハンバーグを切り分けたものを挟んで少々行儀が悪いが齧り付いた。

 

「驚いたな、挟むだけで全然別物だ」

 

パンに肉汁とサラダのドレッシングが滲みこみ、レタスのしゃきしゃきした食感と、ハンバーグの濃厚な肉の味わいとそれらの味を全部包み込む濃厚なチーズの味わいには思わず唸ってしまうほどの美味さが合った。

 

「だろう? ハンバーガーの出店とかあると繁盛すると思うんだけどな、どう思う?」

 

「いいんじゃないか? なぁ皆はどう思う?」

 

話を振られると思っていなかった職員とギルドナイトは一瞬困惑したが、すぐに私の問いかけに返事を返してくれた。

 

「凄く良いと思うぞ、ワシももう少ししたらギルドナイトは引退じゃからな、駆け出しの鼻垂れ共でも買える値段で売るのはありじゃ」

 

「ダンジョンに持っていっても良いなと思う。持ち運びを考えないといかんが、1個で腹がだいぶ膨れるからな」

 

「うん、冒険者時代に売ってたら絶対買っていたと思う」

 

口々にハンバーガーが良いと言う意見が出て、後にギルドを引退した職員やギルドナイトによってギルドの近くにハンバーガーショップがオープンするのはこれから7年後の出来事だった……。

 

 

「んで、お前さんは俺に何のようだ?」

 

「いえいえ、目に付いただけですよ。ええ。少々英雄的な行動をしてる流れの料理人、いやあ、実に素晴し……「あ、そう」へぐうっ!?」

 

糸目の男に向かってカワサキは何の躊躇いも無く拳を叩きこんだ。勘違いしないで欲しいのだが、カワサキは別に暴力的な人間ではない、最終的に暴力も手段として使うだけで、話し合いで済めばそれで良いと考える。だがそれとは別にリアルで生き抜いた経験から駄目だと判断できる相手には容赦をしない、それがギルドでの料理を終えて夜人通りの少ない時間に襲撃してきたヴィトーには当て嵌まった。

 

「ぼ、冒険者ではないというのに「とりあえず黙れ、お前の話は叩きのめしてから聞いてやるから……な?」は……?」

 

まだ何かを喋ろうとしたヴィトーの顔面に固く握りこまれたカワサキの右ストレートが叩き込まれ、ヴィトーはその意識を失うまでカワサキは拳を振るう事をやめないのだった……。

 

 

メニュー24 麻婆豆腐へ続く

 

 




ヴィトーは人格破綻者ですね、そしてとある神父も人格破綻者ですね。何が言いたいかは分かると思いますが、ヴィトーも愉快な事になってもらおうと、そう麻婆豆腐で刺激を受けてカワサキさんにカウンセリングを受けて、愉快すぎる人にクラスチェンジして貰おうという事を考えております。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは

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