ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか? 作:混沌の魔法使い
メニュー24 麻婆豆腐
顔の形が変わるまでボコボコにされているヴィトーが目の前の床に転がされる。呻き声も上げる事無く気絶しているヴィトーの額に塗れたタオルを乗せながら荷物を置いているカワサキに視線を向ける。
「何がどうしてこうなった?」
「襲って来たからボコボコにして引っ張ってきた。こいつあれだろ、お前の眷属」
「知っててやったのか?」
俺のただ1人の眷属、そしてヴィトーだと知って叩きのめしたというカワサキを思わず睨む。
「そう睨むなよ。こういう奴は叩きのめされて、地面に叩きつけられねぇとわからねぇ。世の中に全部絶望してて、それでも希望に縋る可哀想な奴だ。こんな奴を俺は何人も見てきた」
その言葉に思わず硬直した。ヴィトーの内面はぐちゃぐちゃだ。グチャグチャの心を無理矢理パッチワークのように繋げて破綻しきってしまった。何も感じられない、何も見えない、何も聞こえない、何の匂いも感じる事が出来ない。
「……お前ならヴィトーを救えるのか? 壊れているヴィトーを救えるのか?」
殺戮と破壊の中でしかヴィトーは生を感じられない、そんな不完全な自分を生み出した世界を憎み、憎悪している。だがそれでいて英雄を敬っていると本人は本気でそう思っている。本当は英雄を嘲笑い、不公平と不条理に怒っていると本気で思い世界を変えようとしている。自分の間違いを過ちを受け入れる根底がヴィトーは壊れてしまっている。だがカワサキなら救えるのか? と問うとカワサキは知らんっと言い切った。
「俺は人を救うなんて大層な事は出来ない。俺に出来るのは飯を作り、飯を食わせて、後はほんの少しだけ背中を押してやるだけだ」
「……それでも良い、ヴィトーを頼む」
俺にはヴィトーは救えない。ヴィトーが俺を敬愛してくれているのは知っているが、俺にはそれに報いる事が出来ない。どうすればヴィトーを救えるのか分からない。主神でありながら眷属を救えない自分を情けない、不甲斐無いと思いながらカワサキにヴィトーを助けてくれと深く頭を下げるのだった……。
全身に走る痛み、特に何度も殴られた顔に走る激痛に顔を歪めながら目を開いた。いつも通り灰色の世界の中に黒が見える。
「エレボス……様?」
「ヴィトー……。ああ、良かった目を覚ましたのだな。手を貸そう、座れるか?」
エレボス様に手を借りてゆっくりと身体を起こした。
「エレボス様が助けてくれたのですか?」
ギルドから出てきた最近ダイダロス通りをかき回している男を襲撃し、返り討ちにあった事を思い出しながらエレボス様が助けてくれたのか? と尋ねる。
「……ヴィトー。あの男は俺の計画の為に俺が連れてきた男だ。つまり……俺達の味方だ」
「みかた? あの男が?」
ダイダロス通りの孤児達にあれやこれやと手を焼いている男が味方と言われてもそれをすぐに信じることが出来なかった。
「詳しくは後で説明する、良いなヴィトー?」
「……はい、分かりました」
エレボス様が味方だと言うのならば私にそれを拒絶する権利はない、戦いになったのは悲しいすれ違いと言う事で謝ろう。
「おう。起きたか、やりすぎちまって悪いな! 俺は手加減っつうもんが苦手でな! まあ良い、まずは飯だ。飯を食おう」
飯を食おうと言われてそれを断ろうと思った瞬間に鼻を擽る香りに目を見開いた。
「匂い……匂いがする」
血の匂いではない、刺激的な肌を突き刺すような刺激的な香りが鼻を擽った。それは今までに無い事だった。
「手を貸そう。立てるか?」
「あ、はい。ありがとうございます―ッエレボス様ッ!?」
「ど、どうした!? ヴィトー!?」
「あ、いえ、いえ、そんな……え……色が見える」
何時もの灰色の世界に燃えるような赤が見える。だが血の色ではない、だが確かに赤い色が見える。
「麻婆豆腐っつう俺の得意料理だ。エレボスは甘口にしてあるから心配しなくて良いぞ。お近づきの印だ夕食にしよう」
夢遊病のように椅子を動かしてその上に腰を降ろした。
「……凄い香りですね」
「香辛料をたっぷり使ってるからな。辛いのは駄目か?」
「あ、いやそう言う訳ではないのですが……えっとその……凄いなと」
色が見える、香りが分かる。それは死体や、私に憎悪を向けてきている人間以外では初めての事で、正直に言って困惑していた。
「とりあえず食おう。俺も腹が減った」
「ああ、そうしよう。話はその後だ」
エレボス様と目の前の男が手をあわせるのを見て私もそれを真似して手を合わしてからおかれているスプーンを手に取った。
(味は分かるのか……?)
香りと色で私を楽しませてくれているが、味が分かるのか? と不安に思いながらスプーンで掬い、それを口に運んだ。
「かあッ! あっ! あああああッ!?」
口の中に広がったのは凄まじい熱、そして痛み、辛味、口の中と喉を焼くその痛みに思わず叫び声を上げる。
「ヴぃ、ヴィトー!? ヴィトー大丈夫か!?」
エレボス様が水を差し出してくれたのを飲むが、余計に口の中の痛みは強くなった。だが……だが……ッ。
「う、美味い……」
「そうか、そいつは良かった。どんどん食え」
美味い、そう美味いのだ。生まれてこの方初めてだ。味が分かる、痛みはあるが、美味いのだ。
「え? だ、大丈夫なのか?」
「大丈夫ですエレボス様」
1口ごとに汗が噴出し、痛みが身体を突き抜けるが……これはきっと美味しい、美味いのだ。
「……あぐ……」
熱い、痛い、辛い、でも美味い。血とは違う赤が私の目を奪う、その赤の中に浮かぶ骨とは違う白が私を引き寄せる。錆びた鉄のような香りとは違う香りが私を惑わせる。
「……あの、これ……まだありますか?」
「あるぞ。おかわりか?」
「……あの、はい。いただいてもよろしいでしょうか?」
味も香りもしない物をただ飲み込む作業が私の食事だったが、私は始めて食事を楽しむという事が出来た。
「とても美味しい食事でした。ありがとうございます」
「いや喜んで貰えて俺も嬉しいよ。俺のことはカワサキと呼んでくれれば良い、お前はヴィトーで良いんだよな?」
「ええ。ヴィトーです、エレボス様のただ1人の眷属であるヴィトーと申します」
互いに自己紹介を済ませ、和やかな空気で話し合いが始まったが、それはすぐに終わりを告げた。
「エレボス様、私を、私を騙したのですか!? 下界を、下界を壊すのではなかったのですか!?」
穏便な方法でオラリオを壊すというエレボス様の言葉に私を騙したのかと私は高ぶる感情のままエレボス様に詰め寄り、カワサキによってエレボス様と引き離されるのだった……。
歪、壊れる寸前でギリギリ壊れていないそれが俺から見たヴィトーと言う男だった。たっち・みーに似ている様で、ウルベルトにも似ていると俺は感じていた。
「まぁ、落ち着けよ。ヴィトー」
「何故、何故落ち着けると……わたし、私は!」
「だから落ち着け、ほれ座れ」
錯乱状態1歩手前のヴィトーの肩を掴んで無理矢理座らせる。
「お前は何でそんなに世界を壊したいんだ?」
「私は殺戮の中でしか全てを感じられないのに、他者が当然の様に享受してる……これは不平等だ。何故私だけが人間とは平等ではないのか」
まぁうん、分かる。主張は判るだよな……ただこう……笑ってんだよなこいつ……。
(自覚してないんだよな、うん。でも駄目だな、自覚させたら駄目だ)
自覚させたら制御不能な化け物が出来ちまう。なんとか説得しようとしているエレボスを手で制して俺はヴィトーに声を掛けた。
「それはお前に対しての試練じゃないのか?」
「は?」
「は?」
エレボス、お前まで困惑しないでくれ、と思いながら昔ギルメンの1人に進められた本に書かれていた男の事を思い出す。
「お前と似たような男がかつていた。その男は神父の家系であり、親は誰からも尊敬され、認められる素晴しい神父だった。だがその神父の息子である男は人が苦しみ、悲しむ光景にしか喜びを見出せなかったそうだ」
かつて自分と同じ様な男がいたと聞いたヴィトーは僅かに、ほんの僅かに落ち着いたようだった。
「その男は何をしたのですか?」
「表向きは神父として、そして裏では外道をなす者を殺して回っていたそうだ」
うろおぼえだけど多分そんな感じだったと思う……ただ問題はそれが原典なのか、のちの創作なのか分からないところだ。
「神父として……何故ですか、自分は何も感じられないのに何故?」
「それは分からん。俺はその男じゃないからな。だけど、その男は神の教えに沿い、そして人々を救い続けることで答えを見出そうとした。自分のような壊れた人間が何故生まれたのか、そして自分は何をする為に生きているのか、それを求め続けたそうだ」
「私もそうしろと?」
僅かな苛立ちを見せるヴィトーに俺は首を左右に振った。
「そういうわけじゃない、確かにお前さんは苦しんでいるだろうよ、痛みや苦しみ人を傷つけるなかじゃないと生を感じられないのは辛いことだと思う。だがそれは逆にそれだけ人により添えるってことじゃないか?」
他者の苦しみと悲しみに共感できるんじゃないかと言うとヴィトーはハッと鼻で笑った。
「それで何をしろと? 慰めろとでも?」
「それは分からんって言ってるだろ? だが壊すんじゃなくて治すっていうのも1つの道じゃないかね?」
「私が苦しんでいるのに? 他者を助けろと?」
「別にそうしろって言ってる訳じゃねえよ。ただエレボスは方針を変える。最終的に壊すことになるかもしれんが、別の道もあるかも知れない。まだ答えを出す段階じゃないってことさ。なぁ? エレボス」
「あ、ああ。ヴィトー、お前を裏切ったわけではないんだ。ただ……」
「ただなんですか?」
「……こいつゼウスとヘラファミリアの関係者でな。下手をするとゼウス達が押しかけてくる」
その言葉にヴィトーはスンッと無表情になり、深く深く溜め息を吐きながら倒れこむように椅子に腰を下ろした。
「貴方何者です?」
「最近冒険者を襲撃してるの―俺」
そう言いながら人化の指輪を外すとヴィトーは一瞬硬直し、次の瞬間笑い出した。今までの鬱憤を晴らすかのように笑って笑って笑い続けた。
「あ……あああー笑いましたね。は、ははは……いや、確かにな……おかしいなって思ったんですよ」
腹を押さえて笑いに笑ったヴィトーは急に立ち上がり俺とエレボスに背を向けた。
「ヴィトー!」
「……少し考えさせてくださいエレボス様。私は何をやるのが1番良いのか、少し見直してみたいと思います」
そう言って出て行こうとしたヴィトーは思い出したように足を止めて振り返った。
「カワサキ、その男は最後どうなりました?」
「死んだんじゃないか? 迷いの先に答えを得れたのかは俺には分からん」
なんせ俺も全然おぼえてない話だから、その神父が善人だったのか、悪人だったのかも分からない。ただその迷いの先に答えを得れたのかどうなのかは少し気になってはいる。
「いい加減な人だ」
まだ迷いも怒りも残しているが、ヴィトーは少し晴れやかな表情で笑い、手を振りながら出て行った。
「ヴィトーの迷いは少しでも晴れたのだろうか?」
「知らん。けどまぁ、少しは考え直す切っ掛けになったのなら良いんじゃないか? あとエレボス、お前もう少し眷属と話しろ。な?」
「……はい」
話し合いで分かり合えるとは言えないが、話し合う事が分かりあうことの第1歩だと俺はそう思う。
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「いたか!?」
「いません!」
「どこへいったんだ!?」
外から聞こえて来る怒号にも似た声に俺は頭を押さえて蹲っていた。暫くしてその気配が無くなった所で隠れていた机の影から顔を出した。
「近所迷惑って言葉知ってます?」
「悪いって思ってるってヴィトー」
俺とエレボスとの話し合いが良かったのか、神父や教師の真似事をしてるヴィトーがジト目で見てくる。
「話し合いが大事なのではないのですか?」
「お前本当に良い性格になったな」
「褒め言葉として受け取りますよ」
まだ認識障害を患っているヴィトーだが、逆にそれで相手が何を言っているのはよく分からないので懺悔とかを聞くだけ聞いて、話が終わったタイミングで適当に励ませば感謝されるから楽な商売だとヴィトーは笑う。
「んでどうよ、答えは出たか?」
「出るわけ無いでしょう。馬鹿ですか? ああ、馬鹿でしたね。失礼しました」
にやにやと笑いながらでもとヴィトーは付け加えた。
「ただ慕われるのはそう悪い気分ではないかもしれませんよ」
「そりゃ良かった」
神父さまーっという子供の声と共に開かれる扉に振り返ったヴィトーの顔には確かに笑みが浮かんでいるのを見てよかったと思う反面、客人が来てしまってここに隠れる事が出来なくなり、俺は次は何処に逃げれば良いんだ? と頭を抱える事になり、そんな俺を見て笑ってるヴィトーに本当に良い性格になったなと思うのだった……。
「それ全部多分お前のせい」
「分かってるよエレボスッ!」
「馬鹿野郎! エレボスって呼ぶなッ! 俺は死んだことになってるんだぞッ! というか引っ掛けた女くらい自分で何とかしろッ!」
「うるせえ!ハゲ頭にしてやろうかッ! あと引っ掛けてないんですけどぉ!?」
「自覚を持てこの馬鹿がッ!」
なおヴィトーは俺とエレボスの取っ組み合いを見て愉悦の表情を浮かべていたりして、それに気付いた俺とエレボスは何とも言えない表情をするのだった……。
メニュー25 ロールアイス へ続く
と言う訳でヴィトーさんは言峰神父みたいな感じで偽名を使い生存ルートにはいります。多分エレボスも認識阻害をしていきてる感じにしたいと思います。ここはもしかすると加筆修正するかもしれませんが、とりあえず暫定でこう言う形にしたいと思います。次回はデメテル農場での話を書いてみようと思いますので、次回の更新もどうかよろしくお願いします。
オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは
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間違っている
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間違っていない