ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか? 作:混沌の魔法使い
幕話3
ギルドからある発表がされた次の日ギルドに怒り心頭という様子で1人の主神が訪れていた。
「ギルド長を出せッ! このような通達受け入れられる物ではないッ!」
月桂冠を被った男……神アポロンの怒号にギルドの受付で作業をしていた受付嬢の1人が駆けて行き、すぐにフェルズがその姿を見せた。
「朝っぱらからうるさいな、アポロン。何事か?」
「何事かだと!? 私のファミリアの団員の改宗前提にした面談とは何だッ!? しかも強制だと!? 横暴がすぎるではないか!」
アポロンが手にしている羊皮紙は間違いなくフェルズが発行した物であり、その内容は全ファミリアを対象とした改宗を前提とした面談の指示書だった。
「お前だけのファミリアではない、全ファミリアが対象だ。まぁお前の所は少しばかり人数が多いが」
「それが横暴だと言っている! 何故こんな事をする!」
怒鳴り散らすアポロンにフェルズは深い溜息を吐き、アポロンを指差した。
「お前は欲しい団員がいたらファミリアに圧力を掛け、更には戦争遊戯を仕掛けてまで無理矢理改宗させている。それを私は問題視している」
アポロンは欲しい冒険者がいたら無理矢理にでも自分のファミリアに改宗させるためにあれやこれやと手を回す悪癖がある。無理矢理戦争遊戯を仕掛けられて馴染んだファミリアからアポロンファミリアに改宗した者も多い。それを問題視していると言われてアポロンはウグッと呻いたが、すぐに食って掛かろうとして続くフェルズの言葉に足を止めた。
「ゼウスとヘラがオラリオを抜け、ロキとフレイヤが失墜した今お前の所が戦力としては上位に食い込む訳だが、数多くの団員を要するアポロンファミリアはこれからの事を考えて戦力を出してくれるのか?」
「そ、それは……」
これから……ゼウスとヘラを失い闇派閥の抑止力になれというフェルズの言葉にアポロンは口ごもる。
「アストレア、ガネーシャファミリアを中心に編成するつもりだが、アストレアとガネーシャファミリアも戦力に乏しい、ほかにも戦力の乏しいファミリアの戦力をある程度均等化させる為だ。我慢してくれ」
「だ、だがな!」
話は分かる。だがそれでも納得出来ない部分のあるアポロンだったが続く言葉に顔色を変えた。
「新規の冒険者は優良なファミリアに研修として配属する。勿論期間付だが、それでも数多くの団員を迎え入れる事が出来る。無理矢理所属させるよりもファミリアの中を見て入団したほうが良いとは思わないか?」
「む?」
無理矢理改宗させた団員はアポロンに忠誠を誓っているかと言われればそうではない、自分の想いが通じなければ冷遇しないにしろ、そこまでサポートしない傾向のある事を分かっているアポロンは一考する。
「つまり私好みの冒険者を仮入団させても良いと?」
「新規の冒険者の登録の際にお前を同席させても良い、今回ばかりは私の顔を立ててくれないか?」
フェルズの顔を立てる。それ即ちフェルズがアポロンに借りを作る事になる。そしてその借りを盾に新規入団の冒険者で気に入ったものを受け入れる事が出来る……。
「良いだろう。今回だけだぞ」
団員の一部は失うが、自分好みの冒険者を受け入れられると受け取ったアポロンはフェルズの申し入れを受け入れた。
「すまないな。では今日の正午から改宗の面談を始める、お前の所の団員に伝えておいてくれ」
「今日の正午だな、了解した」
にやにやと笑いながら帰って行くアポロンの背中を見つめながらフェルズは深い溜息を吐いた。
「やる事が山ほどあると言うのに余計な時間を食ったな」
改宗を希望している冒険者の面談、戦力の均一化を目的とした改宗にギルドナイトの面接とやる事が山ほどあるフェルズは目の下に深い隈を携えてギルド長の部屋へと引き返していくのだった。
フェルズがギルドの改革案として出した仮入団のシステムの恩恵はアポロンにもあり、戦争遊戯を仕掛けなくとも好みのレベル1の冒険者を受け入れ、一定期間自分の手元におき、失恋すれば別のファミリアに改宗させる。また失恋してもアポロンファミリアの雰囲気を気に入った冒険者はそのまま本入団を決める者もおり。更に言えば仮入団の間はアポロンファミリア全体で育成に力を入れるので改宗したとしてもアポロンにはそれなりに感謝してる冒険者も少なからずいて、フェルズの提案を受け入れてよかったとアポロンは思っているのだった……。
「べるきゅん! べるきゅんをなんで迎え入れなかったんだ、私の馬鹿あああああ!!」
しかしこれから14年後にベルに一目惚れし、仮入団の際に迎えいれなかった事に後悔するアポロンの絶叫がオラリオに響き、14年間大人しくしていた反動からかベルに対して並々ならぬ執着をアポロンが見せることになるのだった……。
フェルズの温情でバベルから追い出される事は無かったが、当然ながら私もロキと同様にオラリオを歩ける立場ではなく、ホームである戦いの野に缶詰だった。
(でもこれ以上皆には迷惑を掛けられない)
罵詈雑言が飛び交う神会で神経をすり減らし、ゼウスとヘラがオラリオを見限った原因として課せられた膨大なペナルティを改善しようと奮闘してくれているオッタル達の事を考えれば今までのように好き勝手は出来ないと自制する。
(……ミアは今頃何処かしら、オッタル達は大丈夫かしら……?)
ゼウスとヘラに謝罪する為にオラリオを旅立ったミアに、十分な装備や備えも出来ない中ダンジョンへ挑んでいる自分の眷属の事を考える事しかできない、そして最後に辿り着くのは何故ロキの甘言に乗ったのかという後悔だった。
(真っ向から、勝てなくても交渉をするべきだった……でも私は悪くない)
フレイヤとヘラの因縁は単純に言えばゼウスが原因だった。伴侶を求めて旅をしている間にゼウスにヘラに手紙を渡すように頼まれ、どうせ行く道だからと引き受け手紙を渡した所で切れたヘラに眷属を叩きのめされ、自分も怪我を負った。なんで私が、そして眷属がこんな目に合わなければならないのかというのがヘラとフレイヤの因縁の始まりだった。
「……どうすれば良かったのかしらね」
「そうね、話し合えばよかったのよ」
背後から聞こえて来た声に私は思わず背筋を伸ばしてゆっくりと振り返った。
「デメ……テル?」
「何回も呼んでも返事をしないから勝手に入ってきたわ。ある時で良いからちゃんと返しなさいよ、悲嘆して天界に帰るなんて許さないから」
デメテルがそう言って差し出してきた羊皮紙にはポーション等の消耗品から食料品、そしてヴァリスの譲渡についての事が書かれていた。
「なんで……」
「友達だからでしょう? 貴女もそうだけど貴女の眷属にもよ」
友達……確かにデメテルは神友だった。だけどオラリオに来てからは疎遠になっていた。オラリオで私に寄って来た神が皆手の平返しをする中でデメテルだけが神友だと言ってくれた。
「どうして……助けてくれるの? 私はもう何も出来ないわ」
「困った時に助けるのが友達でしょう。酷い顔よ、ほらほら。少し寝なさい」
有無を言わさずベッドに横にされ、ベッドサイドに椅子を持って来たデメテルがそこに腰掛けた。
「ごめんなさい、貴女から距離を取って」
「これに懲りたら付き合う友達は考えるのね、フレイヤ」
「……うん」
弱ってる時に優しくされたからではない、あれだけ疎遠になっていたのにまだ友達と言ってくれたデメテルに目頭が熱くなるのを感じ、私は布団を頭から被りながら小さく返事を返すのだった……。
なおこれは全く関係のない話だが、ロキの元には誰一人として助けに来てくれるものはおらず、莫大なペナルティだけが日ごとに積み重なっていくだけだったりする……。
夜の草原に響き渡る笑い声を背に少年がしのび足でゼウスファミリアのエンブレムが掲げられた馬車の扉へ手を伸ばし……。
「こうして家出少年が出来るわけだ」
からかうような男性の声に馬車に忍び込もうとしていた少年……ベート・ローガはビクリと背筋を伸ばして動きを止めた。
「そう警戒すんなよ少年」
「……少年言うなよ、ベートだ」
「そうかい、少年」
名を名乗ったのに少年と繰り返し言う声の元を探してベートは周囲を見回すがベートは誰の姿も見つける事が出来なかった。
「ファミリアの人間か?それなら「悪いが口利きは出来ないぞ、俺は居候の料理人だからな」……料理人、宴の料理を作ってくれた人か!
めちゃくちゃ美味かった!」
草原の獣人の長の息子である自分でさえ食べたことの無い美食の数々を作った料理人だと聞いてベートから僅かに警戒心が消えた。
「そいつは良かった。んで、なんでお前は馬車に忍び込もうとしたんだ?」
「……強くなりたかったから」
ベートの脳裏を過ぎるのは草原の主に襲われて倒れていく村の大人達の姿と壊れていく村。子供達は皆隠されていたが、それでも聞こえて来た悲鳴と草原の主の雄叫びは今もベートの耳にこびり付いている。
「強くなりたいか、まぁそうだよな。男なら誰でも地上最強を一度は目指すもんだ」
「あんたもか?」
「あん? 俺か、俺は生憎だが地上最強なんてもんは目指してねえな。俺は自分と自分の大事な物を守れるだけの力があれば良い」
カッカッカと楽しそうに笑う男の声にベートは少しムスっとした表情を浮かべた。
「いや、悪い馬鹿にしてる訳じゃねえぞ。誰だって強くなりたいって思う時がある。だがな大事なのは何の為に強くなるかだ」
「何の……為に?」
鸚鵡返しのように尋ねたベートに姿を隠したままの男は強くなる意味だともう1度口にした。
「強いって言うのは簡単だが、その強さっていうのは千差万別だ。例えばだ、お前の村を襲った草原の主、あれも強い。その草原の主を退けたザルド達も強いわけだが、そこに違いがあるのが分かるか?」
「意味が良くわからねぇ」
「はっはっは、そうだな。ガキにはまだ早いわな。草原の主の強さはお前達を傷つける強さだった。見て恐ろしかっただろう?」
草原の主が起した惨状を思い出したベートは怖かったと絞り出すように呟いた。
「じゃあザルド達の強さはどうだった?」
「……格好良かった。おれもああなりたいってそう思った」
「そうか、格好良かったか、だがな仮にだ。ザルド達がお前達を襲ったらどうだ? それでも格好良いっていえるか?」
ベートは自分達を助けてくれた男達が自分達を攻撃してくる姿を想像し、怖いと呟いた。
「力を持つ者に憧れるのはわかる。強くなりたいって気持ちも分かる。だがな、ただ力をつけて暴れるだけじゃそれは人を怖がらせる力だ。だが逆に誰かを守る力は人を救う力だ。同じ力だがその中身は全然違う、なんでか分かるか?」
何が違うのか分かるかと尋ねられたベートは返事を返す事が出来なかった。まだ幼いベートには男の話は難しすぎたからだ。
「中身が違うんだ。本当に強いっていうのは心も強いのさ」
「心はどうすれば強くなる?」
「んん? さぁなぁ。お前がもっと大きくなれば心の強さも分かるかもな。ま! 今は焦らずじっくり強くなれ。そうすれば心の強さも分かる。お前が心の強さを分かった時にはまた会いに来るさ、ささ、行った行ったガキは寝る時間だ」
男との問答でベートには馬車に潜りこむと言う考えは無くなっていて寝る時間と言われてベートは大きく欠伸をした。
「おじさんの名前は?」
「俺か? 俺はカワサキ。どこにでもいるしがない料理人だ。じゃあおやすみな、ベート」
「うん、おやすみ」
最後に名前を呼ばれたことでベートは今までの不機嫌顔を一転させ、笑みを浮かべてテントへと駆けて行った。
・
・
・
そしてそれから月日が流れたある晴れた日……
「見慣れない顔だが誰だ」
「お? その声はベートか。俺だ、カワサキだ。心の強さは分かったか?」
からかうようにいうカワサキにベートは一瞬きょとんとした顔をした後にニッと牙をむき出しにして笑った。
「少しだけだ。おーい皆! 村の恩人が訪ねてきてくれたぞーッ!!」
大きな声でベートは村に向かって叫び、カワサキへと振り返った、
「歓迎するぜ。荷物持ってやるよ」
「はは、じゃあ頼むかねぇ」
ベートはカワサキの荷物を持ち、ベートとカワサキは並んで村へと歩いて行き、カワサキはそれから1ヶ月の間ベート達の村で過ごすのだった……。
オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは
-
間違っている
-
間違っていない