ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか?   作:混沌の魔法使い

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メニュー27 薬膳料理

 

メニュー27 薬膳料理

 

私もディアンケヒトもカワサキには簡単には返せない借りがある。だからカワサキの頼みを無償で引き受けるくらいの心構えはしていた……していたのだが……。

 

「これだけ大人数を連れてくるなら事前に連絡してくれ」

 

「それは悪いと思ってるぜ? だけど、こいつら予防接種したことないんだとよ。冬場は感染症が流行りやすいだろ? だから早めに手を打っておこうと思ったんだよ。ミアハ」

 

「それは分かるが……いや、良い。文句は言うまい。皆悪いが急いで予防接種の準備をしてくれ、子供を助けてくれというのを無碍には出来ない」

 

私がそう言うと眷属の何人かは怪訝そうな顔をしながらも頷き予防接種の準備を始めてくれる。

 

「今度は事前に連絡してくれ」

 

「おう、ディアンケヒトにも言われたからそこは徹底する。というか普段なら俺もこんな無茶はしねえよ」

 

無茶はしないと言うカワサキにどうだかなと言うとカワサキはサッと目を逸らした。私とディアンケヒトの所に何十人も邪神と悪神、そしてその眷属を送り込んで無茶をしないとはどの口が言うのかと思わずジト目で見るとカワサキはこほんっと咳払いをした。

 

「それで礼と言ったらアレなんだが……俺にお前のファミリアを今の倍以上の規模にするアイデアがあると言ったら乗るか? ちなみにあの爺には断られた」

 

「草案だけは聞こう」

 

あの守銭奴で、ヴァリスを得る事に妥協しないディアンケヒトが断ったと聞けば、ファミリアを大きくする以上の問題があるのはすぐに分かったが、一応どうするのは話だけを聞こうと言ってカワサキを私の執務室へと案内した。

 

「俺なりにオラリオを見て思ったんだが栄養とか食生活が偏りすぎだと思うんだよ」

 

「ふむ……確かに糖尿や腎臓病を患う冒険者は少なくないな」

 

ダンジョンでの戦いを生き延びた喜びか、オラリオに帰って来たら暴飲暴食を行い糖尿病や腎臓を悪くする冒険者は決して少なくない。

 

「そこでだ。前にも話したが医食同源。つまり健康の増進のためには医療も食事も本質的に同じという考えなんだが、ポーションの販売に

医療に加えて食堂をやってみないか?」

 

「食堂……か。悪くは無いと思うが……」

 

「まぁ話は最後まで聞け、その食堂の料理に使う食材を工夫してだな。モンスターからの毒などに強くなるっていうのを謳い文句にするのはどうだ?」

 

「何? そんな事まで出来るのか?」

 

「出来る。俺が持ってる野菜を使わないといかんが、これを栽培出来ないかデメテルにも相談しているし、栽培さえ出来れば安定して供給も出来る。勿論普通の料理でもある程度の病気の予防や体質改善も期待出来る。味も勿論普通に食べるに問題の無い味だ」

 

聞けば聞くほど魅力的な話に思える。だがそうなると何故ディアンケヒトがカワサキの話を断ったのかが気になる。

 

「何故ディアンケヒトとの話し合いが失敗したんだ?」

 

「料理の値段を原材料の合計の4倍から6倍にすると言い出してなぁ……どんな高級料理だってならないか?」

 

余りも納得の理由に笑ってしまう。いくら闇派閥の台頭で物価の値段が高いとしてもやりすぎだ。

 

「その話乗らせて貰おう。私のファミリアは女性も多い、厨房仕事は案外向いているかも知れん」

 

「助かる。んじゃあ、まずはレシピな。これが暑い時期、これが寒い時期、花が芽吹いてくる時期の薬膳レシピな」

 

私の握り拳よりもずっと大きい分厚い三冊のレシピ本に絶句したが、食堂として営業するにはこれくらいのレシピが必要なのかもしれないと思い、カワサキが提供してくれたレシピ本を受け取った。

 

「それでさっそく寒い時期だからミアハが良いっていうなら簡単なのを実演しながら教えても良いけどどうする? ただそうしたらガキ共の飯に回したいんだが……」

 

「構わない、レシピだけ見ても分からないかもしれないからな。食材は好きに使ってくれて構わない」

 

「悪いな。時間があったら顔は出すよ」

 

「無理はしなくて良いからな」

 

ダイダロス通りの炊き出しに、オッタルとの鍛錬や、子供に勉強を教えているカワサキに無理はしなくて良いと言ったのだが、この日から毎日1時間ほど私のファミリアに顔を出し、料理の指導をしに来てくれたカワサキのお蔭で私のファミリアはポーションの販売と薬膳料理を提供する食堂で中堅クラスから上位クラスの生産系ファミリアにまで成長を遂げることになるのだった……。

 

 

 

 

「ミアハから話を聞いたと思うけど、薬膳料理。食事で身体を健康にしてしまおうという考えの元で作られる料理をこれから覚えてもらう、何か質問は」

 

「はい、貴方は極東の人ですか?」

 

「んーまぁ何十年も帰ってないけど生まれは極東になるかな」

 

最初の質問がそれか? と首を傾げていると俺に質問してきた男の冒険者は手帳を取り出した。

 

「極東では出汁という文化があるそうですが、それも医食同源に関係が?」

 

「無いとは言い切れないな。出汁文化は味が少々薄いからオラリオでは最初は馴染みが無いかも知れんけど」

 

「なるほどなるほど、えっとそれは初心者でも作れますか?」

 

「最初は簡単だから大丈夫だと思うぞ」

 

「難しい工程はありますか?」

 

「最初は簡単だから安心して欲しい」

 

「なるほどなるほど、良し、では早速お願いします。皆さんも嫁入り修行をしたほうが良いですよ、嫁き遅れ「「「だ・ま・れッ!!!」」」ふぐうッ!」

 

なるほど、あの男は余計な事をいって自爆するタイプか、とりあえず巻き込まれないように作業を始めるとしよう。

 

「まずは米を使う。米の洗い方は知ってるか?」

 

「あーオラリオではあんまり使わないから知りません」

 

「良し、じゃあ米の洗い方からだ。まず米をザルに入れて、井戸水を注いで軽く洗う4回くらいかき回したら水を捨てて、また水を入れる。2~3回くらい繰り返す」

 

「水が濁ってますけど大丈夫ですか?」

 

「ああ。透明になってしまうよりも、これくらい濁っているのを目安にしてくれれば良い。そしたら米の1.2倍くらいの水を入れて1時間くらいおいておけば後は炊くだけだ」

 

1時間も置くと聞いて驚いたような表情を浮かべるミアハファミリアの団員に何故置くのかを説明する。

 

「米っていうのは甘いものなんだが、ここで水の染み込みが甘いとあんまり美味しくならない、美味しく食べる為の一手間って所だ。じゃあ米を置いてる間に次を作るぞ。使うのはまずこれ、鶏肉だ。できれば骨付きの肥えた鶏肉が良い。これをまずはぶつ切りにする。生姜は皮を剥いて薄切りに、唐辛子はそのまま、ネギは5cm幅で斜め切りにする」

 

力を入れて骨ごと鶏肉をぶつ切りにし、具材も素早く切り分けたら鍋の中にごま油を引いて、皮の面から焼き始める。

 

「皮の面から焼くのは何故ですか?」

 

「皮から脂が出るのと、身が縮む対策だな。これも軽く焼き目が付くまで焼いてくれれば良い。そしたらネギを加えて、これも軽く焼き目が付いたらOKだ」

 

「そんなに短い調理で良いんですか?」

 

「ここからまた加熱するから大丈夫だ。ここに水、唐辛子、生姜を加えて、少量の極東酒を加えて灰汁を取りながら煮込む。味付けにはこれを使ってくれ」

 

自家製の鶏がら出汁のボトルを手帳に細かくメモをしている女性に渡す。

 

「これは?」

 

「鳥の骨を加工して作る出汁の元だな。これに大さじ加えれば味付けは殆ど問題ない。灰汁を綺麗に取り除いて、大体20分くらい煮たら、塩胡椒で味付けして完成だ」

 

「それだけですか?」

 

「そ、それだけ。まぁ完成したら味見をさせるからそれで美味いって分かるさ。次だ、次に行こう。食べ盛りの子供がいるから、次も肉、今度は豚肉を使う、と言ってもこれもそう難しい物じゃない。すぐに作れて美味いメニューだ」

 

まずは小松菜。小松菜を食べやすい大きさに適当に切り分け、玉葱は薄切りにする。

 

「これを豚肉と一緒に鍋に入れて、ごま油、醤油、少量の極東酒を加えて炒める。そして全体に火が通ったら卵を加えて素早く炒める」

片手で卵を鍋の中に割り入れ、豚肉から出た脂と絡めるイメージで炒めたら、鍋から取り出して大皿に盛り付ける。

 

「早いですね」

 

「腹が減ってる奴にはこれくらい早いほうが良いんだ。今回は初日だし、無理に連れてきた子供達の事もあるからこれで終わり。後は水を良く吸った米に包み、じゃこ、極東酒、醤油、生姜を加えて全体を混ぜて炊けば完成だ」

 

素早く作れるが十分に満足出来る仕上がりになったと思うし、寒い時期なので生姜。それと子供には少し辛いかもしれないが、唐辛子で身体も温めれる料理を作れた筈だ。

 

「むぐむぐ……小さいお魚美味しい!」

 

「僕は木の実が美味しいよー」

 

「……ちょっと辛いけどこのスープも美味しい……」

 

「たまねぎはちょっと嫌ですけど、この豚肉のも美味しいです!」

 

炊き出しで俺の味に慣れているガキ共はパクパクと元気良く食べ、笑みを浮かべているがそれに対してミアハファミリアの団員はと言うと……。

 

「んん……味が薄い」

 

「……美味しいんですけどね……うーん」

 

男連中は味が薄いと食があんまり進んでいない様子だったが、逆にミアハファミリアの団員の殆どを占める女性は全然気にしたそぶりを見せていなかった。

 

「凄い鳥の味がしますね、味があんまり濃くないんですけど……」

 

「逆にちょっと食べやすいですね」

 

「身体にも良いっていうなら文句はないね」

 

美容や健康に気を使っているからこそ薬膳メニューを受け入れ、ガキ共達ほどでは無いが、美味しい美味しいと笑顔で薬膳料理を口へ運んでいるのだった……。

 

 

 

 

最初は女性冒険者やサポーター、ギルドの職員とほそぼそとした客入りだったが、7年も経てば健康志向の冒険者が足繁く通う店となっていた。

 

「こんにちわー!」

 

「ベル・クラネルか、悪いな手伝いに来てもらって」

 

「全然大丈夫ですよ、お給金も貰えますし、ね、神様」

 

「うん! いやあ、僕のファミリアは財政難だからねぇ……ミアハがアルバイトさせてくれるなら助かるよ」

 

「いやベルは普通に料理が上手だからな、ヘスティアは給仕を頼む」

 

ベルは厨房で調理スタッフ、そしてヘスティアは給仕に分かれ、ミアハファミリアに隣接する食堂でアルバイトをしているのだが……。

 

「薬膳餃子の仕込み終わりましたー! 次はどうします?」

 

「えっと次は鶏腿肉のスープなんだけど」

 

「はーい、そっちの下拵えもやっちゃいますね」

 

ミアハファミリアの下っ端よりも、いや下手をすればカワサキに直接指導を受けた団員よりも薬膳料理に詳しかった。

 

「もしかしてベルの言ってる先生ってカワサキなんじゃ?」

 

「え、でもベルの言ってる先生って熊や犬の鼻を殴れって言う人じゃなかった?」

 

ベルに冒険者の心得、そして料理を教えた先生という人物がいるのはオラリオでも知られていたが、その先生の色んな意味でぶっ飛んだ逸話をベルが偶に話すのだがその内容が余りにもあれだった。

 

猛獣に襲われたら鼻を殴れ。

 

男でも良いという変態に襲われたら股間を蹴れ。

 

何か厄介事に巻き込まれたら周りの人間を味方にしろ

 

等など、オラリオの暗黒期にダイダロス通りを改善し、孤児達の働き場を整え、引退せざるを得なかった冒険者に新しい働き口を与えた善良としか言いようのないカワサキが、まさかそんな事を教えていないだろうとナァーザ達は思った。

 

「ベル、餃子焼ける?」

 

「焼けますよ、焼きますか?」

 

「ん、お願い」

 

「はーい!」

 

素直で頑張り屋で気の優しいベルに危険な技と考え方を教えた先生と暗黒期のオラリオを平和的に改善したカワサキが繋がらないナァーザ達は無い無いと笑い合う中、ベルに依存心を与えてはならないとヘスティアファミリアに顔を出さず、ダイダロス通りで過ごしていたカワサキはめちゃくちゃ大きなくしゃみをしていたりする……。

 

 

下拵え 正義の定義 へ続く

 

 

 




ミアハファミリアは薬膳料理の食べれる食堂と併設し、ちょっとランクアップしました。なので原作の零細ファミリアではない感じになりますね。次回は正義の定義というわけで激怒カワサキさん大暴れとなります。闇派閥がどんな目に合ってしまうのか、ご期待ください。

それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは

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