ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか?   作:混沌の魔法使い

38 / 99
下拵え 正義の定義

 

下拵え 正義の定義

 

誰も動けなかった。アーディも私も、オッタルも、そしてギルドナイトも……誰1人動く事が出来なかった。モンスターとは比べ物にならない強烈な殺気、そして怒気に足が地面に縫い止められたように誰も動けなかった。

 

「や、やめ……もうやめ……「うるせえよ」ぎやあッ!?」

 

タナトスファミリアのレベル5殺帝ヴァレッタ・グレーデが泣きながら許しを請うが、カワサキさんの振るった右拳が顔面を打ち抜き崩れ落ち、そこにポーションが掛けられまた元通りになったヴァレッタの顔が潰される。

 

「殺しはしねぇ、殺しは俺の趣味じゃねえからな。だが知ってるか?」

 

「あ、ああああッ」

 

完全に腰が抜けて這って逃げようとするヴァレッタの背中を容赦なくカワサキさんが踏みつけた。

 

「死ねねぇっていうのは、殺されるよりも酷いモンなんだぜ? だって死ねないんだからずっと苦しみ続けるんだからなッ!!」

 

容赦も慈悲もない一息で放たれた数十発の拳打の嵐にヴァレッタは悲鳴らしい悲鳴すら上げる事が出来ず吹っ飛ばされ、前髪を掴まれて無理矢理立ち上がらせる。

 

「ころ……し」

 

「言っただろ? 殺しはしないってよ。まぁ死んだほうが楽かもしれないけどなッ!!」

 

助走も何もない、拳を振りきれる距離でもない、それでも腹部に拳を押し付けられたヴァレッタは血反吐を吐き、のたうち回り再びポーションを掛けられ五体満足に戻るが、その心は完全に折れていた。だがそれでもカワサキさんは拳を振るうのをやめず、どこまでも無表情に、淡々に人を壊すという作業を繰り返す姿に止めなければならないと分かっていたのに、私達の誰も動く事が出来ないのだった……。

 

 

 

 

ギルドに顔を出したカワサキの提案を私とフェルズは思わず尋ね返した。

 

「オシリス達を呼び戻すなんてどう考えればその答えになる」

 

追放されたオシリス達を呼び戻せば早いというカワサキの提案に何故だっと尋ねる。

 

「俺は旅をしている間にオシリス達と行動をしていたが、あいつらやりすぎてはいたが、根本は復讐だろ。オシリス達の過剰な復讐がオラリオの抑制力になっていたんじゃないのか?」

 

カワサキの指摘は確かにその通りだった。オシリスファミリアの構成員の8割は闇派閥によって家族などを失った者達だ。夥しい人数を殺しているが、それは自分の家族を殺した者だけで、無関係の者を確かにオシリスファミリアは殺していない、殺していないが……。

 

「処刑の方法が残虐すぎた。仮に復讐だったとしてもやりすぎだ」

 

フェルズのいう通りだ。オシリスファミリアが抑止力であったのは紛れもない事実だ。だがやりすぎたのだ、殺したいように殺し、見せしめのように死体を晒した。例え自分達に関係ないとしても、それを恐れない民はいなかった。

 

「一理あるがオシリス達は呼び戻さない」

 

「後悔するぜ? アストレアとガネーシャ達じゃ無理だ」

 

「何故無理だと断言出来る」

 

「怖さが無い、恐怖は1つの抑止力だ。アリーゼ達もアーディ達も頑張ってるが、それだけじゃ止まらない、何でか分かるか?」

 

分かるかと尋ねられたが、私もフェルズも返事を返せなかった。

 

「殺されないって分かってるからさ。仲間が脱走させてくれるって思ってる者が反省する訳無いだろ? 俺が言えることじゃないが、綺麗ごとだけじゃ闇派閥の台頭は抑えられねえよ」

 

言うだけ言って帰って行ったカワサキの姿に私もフェルズも頭を抱えた。

 

「分かっていた。分かっていた事だが……」

 

「恐怖による支配か」

 

必要悪という言葉があるが、それが今のオラリオには欠けているというカワサキの指摘はもっともである。だがそれを実行する決断を下すのは中々に難しい問題でもあった。

 

「ギルドを何とかここまで立て直したんだ。そこで恐怖による支配を望めば」

 

「ギルドも闇派閥と同一視されかねない」

 

今のオラリオの情勢は不安定だ。下手に力で抑え込めば反発を呼ぶかもしれない、カワサキの提案は最もであったが、私もフェルズもそれを行動に移すことが出来なかった。この決断力の無さ、そしてためらいが裏目に出た。

 

「カワサキ氏を連行しました! 一時的に拘留と言う形になります」

 

「な、何故だ。何故カワサキを逮捕した!?」

 

「はっ、タナトスファミリアの冒険者12名への過剰防衛です」

 

「何があった。詳しく報告せよ」

 

カワサキがギルドを出て2時間ほど、その間に何があったのかカワサキを逮捕したと言うギルドナイトへ何故カワサキを逮捕する事になったのか詳しい報告を求めるのだった……。

 

 

 

 

ウラノスとフェルズが本気でオラリオを変えたいというのは分かっていた。だが今のままでは駄目だと言うのが俺の出した結論だった。

 

「怖さがないんだよな」

 

拘束された所で殺されるわけではない。ウラノスとフェルズにも言ったが拘束されるだけでは罰にはなり得ない。そもそも魔法とポーションという物があるから命さえあれば復帰出来る可能性があるというのが問題だった……。

 

「ミアハ達が悪いわけじゃないんだけどな……どうしたもんだか」

 

ダイダロス通りの引退した冒険者達は質の悪いポーションだったから回復し切れなかったが、闇派閥は惜しげもなく最高級の品を使っている。それも闇派閥を完全に封じることが出来ない理由だ。

 

「オシリス達を呼び戻したほうが良いと思うんだがなあ」

 

確かにやりすぎは良くないが、オシリス達のスタンスは徹底して報復である。それは今の調子に乗った闇派閥の鼻っ柱を折ることを考えれば最善であり、ウラノスとフェルズは渋っているがオラリオを正常化するにはやはりオシリスファミリア、あるいはそれに準ずるファミリアがやはり必要ではないかと考えていると前から走って来た誰かにぶつかった。

 

「おっと、すまない、考え事を……「あんたも早く逃げるんだよ! 死んじまうよ!」

 

逃げろと叫んで走り去る女性の背中を見ていると次々と走ってくる者達とすれ違った。

 

「ん? なんだ、この騒ぎは」

 

ギルドから出てダイダロス通りに向かっているとやけに表通りが騒がしいのに気付いた。

 

「逃げろ、逃げろぉ! 自爆テロだ!!」

 

「早く早くううっ!!」

 

自爆テロと聞いて俺は大通りから逃げてくる住民達の方へ向かって走り出した。

 

(ああ、くそったれッ! やりやがったッ!!)

 

考えられたことだ。闇派閥の多くを無力化し、団員も捕らえた。かなりの規模で闇派閥の力を削ぐことが出来た。だが力を削がれた者がどう動くかは2つに1つ。1つは地に潜り力を蓄える事、もう1つは作戦の強行だ。長い間オラリオで暗躍していたことを考えれば地に潜ると考えたが、闇派閥は俺の予想に反して強行に出た。

 

「くそがッ! 間に合えッ!!」

 

アーディにダイダロス通りの孤児が1人近づくのを見て、俺はアイテムボックスに手を突っ込みエレボスに話していた自爆テロを封殺するためのスクロールを引っこ抜いた。

 

「くそッ! 上手くいってくれよ!」

 

成功率は正直五分五分、上手く行く保障もないが今は上手く行く可能性にかけるしかないと俺は火炎属性禁止と書かれたスクロールの魔力を解き放つのだった……。

 

 

 

その子供には見覚えがあった。ダイダロス通りの孤児で、カワサキさんに特に懐いていた子供。彼女がナイフを持っているのを見てなんとかそれを取り上げようと思った時だった。今にも消えそうな小さな声で何かを呟いていた少女の声がはっきりと聞こえた。

 

「かみさま……かみさま……おとうさんとおかあさんにあわせてください……」

 

それはタナトスの常套手段。いう事を聞けば死んだ家族に会わせてやるという残酷な嘘……。

 

(駄目、間に合わないッ)

 

間違いなくこの子は爆弾として使われている。私は勿論、彼女を助ける事も出来ない……死を覚悟した。火炎石の爆発範囲と炎の勢いを考えればこの距離では私も巻き込まれる。

 

「かみさま……」

 

もう1度かみさまと彼女が呟き、ローブの下の赤い火炎石を突き出すのを見て目の前が真っ白になった。

 

「馬鹿野郎ッ! なんてことをしてるんだッ!」

 

爆発する筈だった火炎石は爆発しなかった。私と少女の間に割り込んだカワサキさんが火炎石を取り上げた。

 

「か、かわ……わた、わたし……おと……おとうさんと……」

 

涙を浮かべ、声を震わせる少女の頭に手をおいたカワサキさんは彼女が握っていたナイフも取り上げた。

 

「ごめんな。もっとお前らの事を考えてやればよかった……アーディ。この子を頼む」

 

有無を言わさない迫力があるカワサキさんに私は頷くことしか出来なかった。

 

「なんでだ。なんで爆発しねぇ!? なんでクソつまらねぇお涙頂戴の劇を見てなきゃ行けねえんだ!?」

 

ヴァレッタがそう叫ぶとカワサキさんは懐から1つの巻物を取り出した。

 

「火炎厳禁。炎を全て封じるスクロールだ。火炎石っつう物があると聞いて準備した」

 

「は? そんなもんで封じたって言うのかよ!? ありえねえッ!」

 

「んなことより答えろ。言ったのか、死んだ父親と母親に会わせてやるって」

 

カワサキさんの問いかけにヴァレッタを初めとしたタナトスファミリアの団員達は大声で笑い出した。

 

「ああ、言ったぜ! そう言えば俺達のいう事を聞くからな!」

 

「馬鹿な奴らだぜ! 下界に下りてるタナトス様にそんな力が無いってことすら理解出来ないんだからよ!!」

 

下卑た、僅かな可能性に縋って死んだ家族に会えるかもしれないと思ってヴァレッタの言葉に従っていたオラリオの住人達が泣き崩れる。

 

「その巻物を潰せば火炎石がまた使えるんだろ!? し「やかましい」げばっ!?」

 

カワサキさんの手にしている巻物を奪おうとした冒険者がカワサキさんの蹴りで血反吐を吐きながら吹っ飛んだ。

 

「久しぶりに……切れちまったよ。家族に会いたいって思うのはよ……当然の事だ。その思いを願いを踏み躙った。てめえらは許さねえ……」

 

「はっ! 冒険者でもない奴が何が出来る「てめえをぶちのめせるぜ」ぎゃあああああッ!!」

 

カワサキさんを笑った冒険者がカワサキさんに殴り飛ばされ絶叫しながら吹っ飛んだ。見えたのは拳の一発だけ、だが冒険者の身体は左右に弾かれ凄まじい拳打の嵐に晒されたのが一目で分かった。

 

「料理人の分際で調子に「うるせえな。べらべらと喋るな、耳障りだ」あ、あがっ!? ぎ、ぎやあああああッ!? 腕、俺の腕!!!?」

 

本当に軽い打撃だった。子供のような下からの掌による軽い一撃……そんな一撃でカワサキさんに掴みかかろうとした闇派閥の男の肘はあらぬ方向に曲がり、骨が腕から飛び出していた。

 

「そうか、ついでに肩も砕いてやる」

 

「は? あ、あぎゃああああッ!!?!?「少し黙れよ」

 

踵落としで骨が腕から飛び出ている男の肩を砕き、そのまま回し蹴りで男を樽の方に蹴り飛ばすカワサキの背後から2人の闇派閥が同時に襲いかかる。

 

「取った!」

 

「死ねッ!」

 

「悪いが三下にくれてやるほど俺の首は安くねぇ」

 

「「は?」」

 

カワサキさんが踏み込んだと思った瞬間にカワサキさんの姿は消え、闇派閥の背後に回ったカワサキさんは2人の後頭部をつかみ全力で2人の顔面をぶつけ、生々しい肉のぶつかり合う音と闇派閥の男達の絶叫が街中に響き渡る。

 

「そのまま押さえてろ! そいつをぶっ殺してやるッ!」

 

「や、やめ!?」

 

闇派閥の仲間ごとカワサキさんを貫こうと槍を突き出した闇派閥がいたが、その槍は仲間だけを貫きカワサキさんの服にすらかすらなかった。

 

「奇襲の程度が低いな、殺意も気配も消さずに俺を取れると思うなよ」

 

跳躍で槍の切っ先をかわしていたカワサキさんは空中で半回転し、勢いを乗せた踵落としを槍を手にした男の頭に叩き込み、兜ごと闇派閥の男の頭を蹴り砕いた。

 

「ひっ!?」

 

「逃げるなよ! これはてめえらが始めたことだろう……がっ!」

 

落ちていた剣を拾い上げたカワサキさんはその剣を全力で投げ付け、それは逃げようとしていた闇派閥の男を貫き、そのまま壁に磔にした。

 

「……つ、強い……」

 

「強すぎますわ……本当に恩恵が刻まれて無いんですの……」

 

圧倒的だった、まるで散歩でもするようにカワサキさんは何十人もの闇派閥の冒険者達を無力化させた。殺してはいない、殺してはいないが、冒険者としては再起不能レベルの怪我を負っている闇派閥は血反吐を吐き、呻き声を上げ、地面をのた打ち回っている。

 

「へえ、随分とやるじゃないか。どうだ? あたしらの仲間にならないか?」

 

「うるせえよ。人の心を踏み躙るやつは俺が1番嫌いな奴らだ。そんな奴らの誘いに乗るかよ」

 

「そうかいじゃあ死ねよッ!!」

 

「お前がなッ!!」

 

ヴァレッタがカワサキさんに襲い掛かり、私がカワサキさんの代わりに戦おうとしたが、それよりも早くカワサキさんの拳がヴァレッタの顔面を打ちぬいた。

 

「てめえ……女のか「うるせえつっだろうがッ!!」がっ!」

 

顔を押さえて蹲ったヴァレッタの顔面に容赦のないカワサキさんの蹴りが叩きこまれ、ヴァレッタの姿がボールのように吹っ飛んだ。

 

「殺しはしねぇ、俺の流儀に反するからな。だが……死にたくなるほどの苦痛をてめえに与えてやる。てめえは俺を怒らせた、生まれた事を後悔しな」

 

朗らかなカワサキさんの声からは想像出来ない、冷徹な何も感じさせない冷たい声にゾッとした。そしてそれほどヴァレッタ達がカワサキさんを怒らせていた。

 

「や、やめ……もうやめ……「うるせえよ」ぎやあッ!?」

 

ヴァレッタが泣きながら許しを請うが、カワサキさんの振るった右拳が顔面を打ち抜き崩れ落ち、そこにポーションが掛けられまた元通りになったヴァレッタの顔が潰される。

 

「殺しはしねぇ、殺しは俺の趣味じゃねえからな。だが知ってるか?」

 

「あ、ああああッ」

 

完全に腰が抜けて這って逃げようとするヴァレッタの背中を容赦なくカワサキさんが踏みつけた。

 

「死ねねぇっていうのは、殺されるよりも酷いモンなんだぜ? だって死ねないんだからずっと苦しみ続けるんだからなッ!!」

 

容赦も慈悲もない一息で放たれた数十発の拳打の嵐にヴァレッタは悲鳴らしい悲鳴すら上げる事が出来ず吹っ飛ばされ、前髪を掴まれて無理矢理立ち上がらせる。

 

「ころ……し」

 

「言っただろ? 殺しはしないってよ。まぁ死んだほうが楽かもしれないけどなッ!!」

 

肉が潰れる生々しい音と骨を圧し折られ、呻き声を上げてのた打ち回っているタナトスファミリアの構成員……その地獄のような光景を見たリューが声を上げた。

 

「そこまでやる必要があるのか! それは正義ではないッ!」

 

正義ではないと叫んだリューの声にカワサキさんは僅かに反応したが、それでも無表情でヴァレッタへ再び拳を振り下ろした。

 

「正義なんざ自分で名乗ってどうする。正義つうのは自分で名乗った段階で偽善だ。正義名乗って孤児を増やして、家族を失ったやつら増やして、腹を空かせた奴らを増やして、正義っつうのはよ。自己陶酔の言葉じゃねぇぜ。正義を名乗るならそれらしい事をやったのか? ええ、おい」

 

ドスの効いたカワサキさんの言葉にリューだけじゃなくて、アリーゼ達も顔を引き攣らせ、そんなアリーゼ達を見てカワサキさんは詰まらなそうに鼻を鳴らし再び拳を振り上げ……。

 

「そこまでにしていただきたい、カワサキさん」

 

「やりすぎです」

 

動けないでいたギルドナイトが正気に戻りカワサキさんの手首を掴んで止めた。

 

「ギルドナイトの権限で貴方を逮捕します」

 

「ちっ、しゃあねえな。アーディ、悪いけどダイダロス通りのガキ共を頼むぜ」

 

カワサキさんは自分の事では無く、ダイダロス通りの孤児達を頼むと口にし、ヴァレッタ達と共にギルドに連れて行かれるカワサキさんの背中を私は黙って見ていることしか出来ないのだった……。

 

 

下拵え 正義問答 へ続く

 

 




次回も続けて下拵え、次回はアストレアファミリアでの話を書いてみようと思います。ちょっとこう物足りない感じがあるかも知れないですが、ちょっと自分ではこれが限界だったのでもしもご指摘などありましたた加筆などして見たいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは

  • 間違っている
  • 間違っていない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。