ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか? 作:混沌の魔法使い
下拵え 正義問答
ヴァレッタを始めとしたタナトスファミリアの構成員を半殺しにした事に後悔は無いが、こうしてギルドナイトに逮捕されるのは想定していなかった訳だが……。
「まぁしゃあねえ」
冷静になればやりすぎたと思わなくもない。だが親に会いたい子供や子供に先立たれた親を唆すっていうタナトスファミリアのやり方はどうしても許容できなかった。牢屋のベッドに寝転がり拳を固く握り締める。
「とりあえず……タナトスはぶちのめす。あいつが何を考えているのかはわからねぇが……あいつはやりすぎだ」
死神は慈悲深い神ではあるが、それ故に冷酷で残酷だ。そんな奴がこれだけの事をしでかす事には何か理由があると思うが……タナトスもあいつの眷属もやりすぎた。性格を変える前にデュオニソス以上にぶちのめすことを心に決めていると牢が開く音がした。
「なんだもう釈「お前はもう少し物事を考えろ、この馬鹿がッ!」がぁッ!?」
フライングクロスチョップで飛び込んできたフェルズの一撃が俺の喉にめり込み、俺はつぶれた蛙のような呻き声を上げた。
「やりすぎたな、カワサキ。これ幸いとお前の悪評が立っているぞ?」
「だろうな。自分でも正直やりすぎたと反省している」
両頬に紅葉と顔に引っかき傷とボロボロの状態で俺はウラノスと対面していた。激怒しているフェルズにボコボコにされたわけだが、荒事になれていないフェルズは手首を傷めてしまったのか手首を押さえて呻いている。
「揉み消したがお前が闇派閥の一員だったなんて話も出てるぞ」
「そりゃ面白い、なら裏切ったタナトスファミリアをぶちのめすか?」
エレボスに迷惑を掛けるだろうし、フェルズとウラノスにも迷惑を掛けるが、ここで全力でタナトスを叩きのめすのも悪くないと思った。
「「止めろッ!」」
だが真剣な表情のフェルズとウラノスに同時に止めろと怒鳴られ、俺は肩を竦めた。
「俺の悪評を流してるのは商売人と料理人か?」
カインは持ち運びコンロが大当たりして一気に自分の店を倍以上に大きくしたし、それについてのやっかみ。それと値段を悪質に釣り上げている飲食店当りが俺の悪評を流していると当たりをつけて問いかける。
「後はお前が叩きのめした冒険者が所属しているファミリアだ」
「肝っ玉の小さい連中だな」
大体俺は自分から喧嘩を売ることはない。向こうがガキ共や引退した冒険者にやっかみをかけてきたから叩きのめしただけだ。
「それに関してはギルドが動いた。後はアストレアファミリアやガネーシャファミリアも動いているのですぐにお前の悪評は消えるだろう。確認しておくが今度から自制するつもりは」
「無いな。今度のような事があればまた俺は同じことをするぜ」
正義なんて掲げるつもりは無いが、俺には俺のやり方がある。
「死んだ家族にまた会いたいって思うのは誰だって当然だ。それを利用する下種に遠慮も手加減もするつもりはねえよ」
人の道を踏み外した奴にかける情けも遠慮もない、徹底的に叩きのめすまでだ。
「……どの道お前は無罪放免だ。ただ余りやりすぎてくれるなよ? お前を排除しろって話が出ると面倒だ」
「私達やギルドナイトはお前の善性を知っているが、オラリオの住人が全員が全員そうじゃないからな」
「分かった。少しは配慮するようにする、少しだけな」
ウラノスとフェルズもそうだが、ガキ共やペニアの婆さん、アーディ達に心配を掛けるのも悪いので気をつけると言ってギルドを出る。
「カワサキさん。少し良いですか?」
「アリーゼか……思ったより早かったな。別にかまやしねえよ」
ギルドの外で待っていたであろうアリーゼに呼び止められ、俺はそのままアストレアファミリアへと向かう。
(まぁ、分かってた事だな)
アストレアが正義の女神であることは俺も知っている。そしてアリーゼ達もまた正義をよしとするという事も分かっている。だがこれは俺の持論だが正義を良しとするのは良い、だが正義を掲げて振りかざしてはならない。それが俺の持論である。人によって正義は変わるし、正しいことであっても後に間違うことだってある。正義の形は1つではないのだが、それを理解するにはアリーゼ達は若すぎる。それに俺だってウルベルトとたっちさんの事が無ければ正義について考えることも無かった事を考えれば、今回の俺の振る舞いがアリーゼ達が正義について考え直す切っ掛けになれば良いかと思い無言で先を歩くアリーゼの後をついて俺は歩みを進めるのだった……。
カワサキはすぐに解放されるという確信があったからアリーゼにギルドで待っていて貰い、カワサキが解放されると同時にファミリアに連れてきてもらったが、リューだけではなく、団員の殆どがカワサキに敵意を向けている。
「もっと穏便な形で貴方と話をしたかったわね。カワサキ」
「ん? 俺は気にしない。悪意とか敵意とかには嫌って程なれてるし……なによりもガキの癇癪には慣れてる」
殆どの団員に敵意を向けられてもカワサキは飄々としていて、本当にこの程度の敵意や殺意には慣れているのだろう。
「貴方は正義は嫌い?」
「あんた馬鹿じゃないのか?」
「貴様ッ! アストレア様になんて口をッ!」
「リュー落ち着きなさい。カワサキどういう意味かしら?」
私の問いかけに馬鹿なのかという質問を返してきたカワサキにリューが激昂するが、それを手で制しどういう意味だとカワサキに言葉の意味を問いただす。
「例えばだ。あるところに子供がいたとしよう。その子供は危険な伝染病に感染していて、その子供を生かしておけばオラリオが全滅するかもしれないとする。親は子供を助けてくれと懇願するだろうが、この場合の1番の正解は子供を殺す事。正義を掲げるって事はそういうことだ」
「何を言ってるんだ貴様はッ!」
「何って「正義」だろ? 子供の1人の命と父親と母親の涙。それで何百人、何千人が救われる。流れた涙が流れた血よりも少ないのならばそれは正義だ。違うか?」
カワサキの言葉は確かに一理ある。流れた涙よりも流れた血が少ないのならばそれは正しいのだろう。
「なんで、貴方はダイダロス通りの孤児を」
「助けてるが、俺は1度でも正義を掲げた事はないぜアリーゼ。そもそも正義正義と馬鹿の一つ覚えみたいに繰り返してどうするよ、正義なんざ100通り、いや1000通り、いや生きてる人間の数だけあるんだぜ? アストレアファミリアが掲げてるのは正義の1つだろうが、それが全員に共通する正義なわけないだろ。あんた達のやり方が間違ってるとは言わないが、正しいとも言えないだけだ」
カワサキの言葉にアリーゼだけではなく、この場にいた全員が動きを止めた。カワサキの口振りでは正義を認めていないように思えたが、カワサキは私達の正義を認めた上で正しくないと断言した。
「正義を否定しないの?」
「否定はしない、肯定もしないがな。俺は俺自身で見てきた、正義について苦悩する者を。だから俺は正義は否定しない。だがそれを無条件で受け止めることも認めもしない、そういう考えがあるんだな程度の話だ」
その言葉には信じられないほどの重みがあった。リューやアリーゼ、輝夜ですら口を挟めない重みがあった。
(現実を見てきたのね)
正義の本質、あり方、それに迷う者を見てきたからこそ正義を掲げるだけの私達を否定するのだと分かった。
「もしも良かったら聞かせてくれないかしら? 貴方は何を見てきたのか」
正義とは、正義のあり方とは、正義の女神としてカワサキの知る正義を問わねばならなかった。
カワサキさんは正義を憎んでいると思っていた。だがそれは私の勘違いであり、思いすごし、もっと言えば1つの側面からの正義しか見て無かったとも言える。
「これは俺の友の話だ。守護聖騎士、正義の味方と称された俺達の仲間の中でも最強の男。だがその男は自身の掲げる正義に押し潰されそうになっていた。何故だと思う?」
「何故って名声が重く」
「そんなもんで潰れるほど柔な男じゃなかった。あいつは自分の正義に悩んじまった。確かに類稀なる強さと正義の象徴だった。だがな、あいつも宮仕えの身だ。上からの命令には逆らえなかった、そう……ただ子供が自分の目の前を横切ったのが不快だから親と共に処刑せよという命令にだって従わなければならなかった」
「「「なっ!?」」」
それの何処が正義だと叫びそうになったが、カワサキさんの凄まじい眼力に何も言えず、浮かしかけた腰を椅子の上に降ろした。
「国に召抱えられた最強の騎士、高潔で正義の具現化とまで謡われた騎士であるあいつが見たのはドロドロとした権力争い、そして自分達だけが人間であり民は人間ではないと断言する王族の姿だ。正義を貫く為に宮廷に召抱えられたのにあいつが出来たのは命じられるままに虐殺をするだけだった。王に仕えれば正義をなせる、餓えに苦しむ者が少なくなる。誰もが平等に笑い会える世界が来るとあいつは信じ、その理想と願いに裏切られた。だがそれでもあいつは王に仕える事をやめなかった。何でだと思う?」
「それは……いつかは王が変わってくれると信じて」
「王に仕える事で与えられる富に目が眩んだからでは?」
「登り詰めた地位を捨てたく無かったとか……?」
リューだけは何もいえなかったが、私達が自分の考えを口にするとカワサキさんは首を左右に振った。
「正道で正しいルールに基づいて勝ち取らなければそれは正義ではないとしたからだ。自分が定めた掟をルールをあいつは覆せなかった。間違ったやり方で得た結果は間違っているってな。王宮騎士になり、副騎士団長になり騎士団長になり、王に意見を出せるようになって国を変えようとしたわけだ」
「それは……正しいかもしれないけれど」
「余りにも気が長いんじゃないかな」
騎士団長になるまでどれだけの時間が掛かるかを考えればカワサキさんの友達が選んだ道は余りにも時間が掛かりすぎる。
「ここでもう1人の友の話をしよう。類稀なる魔道師、1人で世界を壊すことも出来るとまで言われた大魔道師。だがあいつは国から追われていた反逆者、テロリストとしてな。何百人という餓えた民の前で一口だけ料理を食べて、それをゴミと捨てる貴族。貴族だから何をしても許されるとして平民狩りをしていた貴族を殺した罪人としてな。国に逆らい貴族を殺した罪人、だがあいつの行動は誰が見ても正義だった。さて、お前達はどう思う?」
テロリスト、反逆者、大量殺人鬼と聞けばヴァレッタのような男を想像したが、その行いは正しい行いにしか思えなかった。
「世界を変えるにはこの腐った国を壊さなければならない。時間を掛ければ泣く者が増える。世界を変えるためには、世を正しくするには俺自身が悪になるしかないとあいつは立ち上がった。それが間違った方法であったとしても得た結果が正しければそれは正しいのだとあいつは言っていた訳だが、この2人は子供の時からの親友同士であり、どちらも自分の方へ来いと何度も話していた。2人なら出来ると両方とも思っていたわけだが、掲げている正義が違っていたからこそ2人は何度も殺し合いをして終いには両方とも行方不明だ。どちらも正しかったが故に分かり合えなかったわけだ」
軽くカワサキさんは言ったが、その言葉は余りにも重かった。どちらも正しいのだ、そしてどちらも正義を掲げていた。だがその正義の末に2人は死んだ。正義とは何か、何が正しいのか何が間違っているのか……あたしには、いや、きっと輝夜やライラ、元から正義とは何かと迷っていたリューに至っては完全に黙り込んでしまっていた。
「という訳で俺は正義ってもんを掲げるのはどうかと思う。そういうのはさ、自分の行動の末についてくるもんで、正義だからとかじゃなくて、自分で正しいと思ったことをやるのが良いと俺は思うのさ。正義って言葉は免罪符でも、掲げるもんでも、縋るもんでもなく己の行動についてくるもんさ」
「随分と家の子を悩ませてくれるわね」
「悩めるのは生きてる内しか出来ないんだぜ? あ、そうそう。ほれ、これやるよ」
軽い感じでカワサキさんは巻物を投げ渡してきた。それはヴァレッタ達が使っていた火炎石による自爆を阻止した魔法が封じられた巻物だった。
「それに魔力を通せば炎、爆発を封印できる。闇派閥と戦うなら持っとけよ。じゃあな」
ダイダロスの通りの子供が心配だからと手を振り帰っていくカワサキさん。私達に正義は掲げる物でも縋る物でも無く、自らの行動について来る物だと言って帰っていくカワサキさんの背中を私達は無言でジッと見つめているのだった……。
メニュー28 カレーライスへ続く
アリーゼ達に迷いを今回は書いてみました。違和感や、そうはならないだろうと思われるかもしれないですが、私なりの形にしてみました。あと今作というか、飯を食えシリーズのたっちみーとウルベルトはコードギアスのスザクとルルーシュみたいになっておりますので、原作のたっち・みーとウルベルトとは違うという事でご了承ください。次回は孤児達との触れ合いを書いてみようと思いますので、次回の更新もどうかよろしくお願いします。
オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは
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間違っている
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