ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか?   作:混沌の魔法使い

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メニュー4 カワサキのゼウスファミリアでの日々

 

メニュー4 カワサキのゼウスファミリアでの日々

 

料理人が辞めてから火が消えていた食堂にカワサキが来た事でゼウスファミリアの食堂は再び団員の憩いの場となっていた。

 

「カワサキさん! ご馳走様でした!」

 

「おう! そこに置いておいてくれ! はい、しょうが焼き定食お待ちどうさまッ!」

 

「来た来た! いただきますッ!!」

 

冒険者は健啖家揃いで、どんなファミリアの料理人も複数人で当たるのが定石だが、カワサキは1人で食堂を回していた。

 

「お弁当できてますか?」

 

「そこにおいてある! 気をつけてなッ!」

 

「はいっ! 行って来ます!」

 

「行ってくるぜッ!!」

 

それに加えてダンジョンに出かける団員の弁当まで準備をしているのは俺の目から見ても良くやると感心する物だった。

 

「豚ステーキ定食を頼む」

 

「おう、ザルド。特盛りで良いよな?」

 

「よろしく頼む」

 

俺の注文と言う事で特盛りにしてくれるカワサキに頷き、カウンターに座りながら厨房を覗き込む。

 

(早い、それだけじゃなくて無駄が無いな)

 

早いだけではなく、1つの動作で2つ3つと作業を進めている。この回転の早さが1人で食堂を回せる理由なのだろうか? 俺も食堂で腕を振るった事はあるが、1つの料理を大量に作り、団員に提供するのがやっとだったが、カワサキは注文に応じて料理を作り分けている。

 

(本職と趣味の差か)

 

本職の料理人と趣味の料理人の腕の違い、それにくわえてカワサキ自身が料理人として最上位の技量をもっているというのもあるのかもしれない。少なくとも今までの料理人とは段違いに腕が良いのはその動きを見るだけで分かる。

 

「はい、おまちどうさま」

 

「悪いな」

 

「ははは、忙しいっつうのは料理人にとっては良い事さ、おかわりだったら声を掛けてくれよ。「おかわり頼むぜ!」あいよッ!」

 

俺と話をしている間でもおかわりの対応をするカワサキは楽しそうで疲れが一切見えない事に驚きながらフォークを手にし、厚切りの豚ステーキにフォークを突き刺そうとすると……。

 

「ザルド?」

 

「ん、ああ、すまない。いただきます」

 

「おう、良く噛んで食えよ」

 

いただきますとご馳走様を忘れるとカワサキはとんでもなく怒る、団員の1人がカワサキの注意を無視して食べようとすると片手で頭を鷲づかみにされて持ち上げ泣き叫んでいた姿を見た者は誰もがカワサキを怒らせてはいけないと理解した。俺もその1人だが、考え事をしていてボーっとしていたことにいかんいかんと首を左右に振り、改めて豚ステーキにフォークを突き刺して頬張る。

 

「美味い」

 

ステーキと言えば牛肉と思うかもしれないが、程よい赤身と脂のバランスも良い豚ステーキも悪くない、にんにくと塩胡椒で味を付けられた豚ステーキのガツンとした味わいはカワサキが来るようになってから主食になっている米との相性も抜群だ。

 

「この米、癖になるな」

 

「美味いおかずには炊き立てご飯、それが基本だ」

 

余り馴染みのないものだったが、カワサキの言う通り美味いおかずには炊きたてご飯はカワサキが来てから急速にゼウスファミリアに広がっている。

 

「おかわり」

 

「あいよ、特盛りで良いよな?」

 

「頼む」

 

べヒーモスの呪いから解き放たれ、食欲も戻り、身体も軽い。今は落ちた体力を戻す為にとにかく食って食って体力を戻し、そこから再び身体を鍛えなおす事が優先だ。

 

「また時間があったら頼めるか?」

 

「おう、全然いいぞ。まぁ一段落着いてからだけどな」

 

カワサキは料理だけではなく、意外な事に身体を鍛えることにも精通していた。流石にマキシム団長クラスにはカワサキの指導は無意味だが、レベル3・4の冒険者には勉強になるし、リハビリが必要な俺にはカワサキの指導はとてもありがたいものだった。

 

「あのなんだったけか? 零距離打撃」

 

「寸勁か、あれ崩しとかだけど、役に立つのか?」

 

触れているだけで相手を弾くあの体術は接近された時や距離を取りたいときに役立つので覚えておきたい技だ。

 

「ああ、役に立つ。またよろしく頼むぞ」

 

「一区切り付いたらな。夕飯の仕込みもあるし、ま、気長に待っててくれ」

 

カワサキが来てまだ数日というのに完全にゼウスファミリアに馴染んでいるのはその人柄の影響が大きい。見た目はモンスターでも、誰よりも人らしいカワサキには何時の間にか気を許してしまう。そしてカワサキがいるからもしかしたらと言う考えも脳裏を過ぎる、ダンジョンの奥深くに暮す人語を理解するモンスター「異端児」達との橋渡しをもしかしたらカワサキがやってくれるのではと思わずにはいられないのだった……。

 

 

 

 

 

ザルドの治療の為に作った料理で大破した修練場……自分で言うのもなんだが、料理で大破するってどういうことなんだと言いたくなるが実際に大破した修練場はゴブニュファミリアの手によって修復され、今ではもう完全に元通りになっている。

 

「こうですかね?」

 

「いや違うな、こうだ」

 

カワサキがとんっと身体をぶつけるとレベル3の団員が悲鳴を上げてその場に尻餅をついた。

 

「あいたたた、本当にそれどうやったら出来るんです?」

 

「相手の重心を見切る事、後は相手の出だしに合わせると良いな。崩しっていうのは便利なもんだぞ」

 

白兵戦の中で相手の力を利用したり、体術で無理矢理相手の動きを崩してしまうという謎の格闘技をカワサキは修めていた。それを食堂の仕事が無いときは団員や俺達サポーターに伝授してくれている。

 

「俺は自分からつうのは苦手だな」

 

「お前は逃げ足が早いだけじゃなくて眼がいいからな、自分が仕掛けるよりも相手の力を利用する方が向いてるだろ? アルト」

 

そう言いながら突き出された拳の側面に手を当て、自ら回転しながらその勢いを殺す。

 

「よっと、急に殴ってくんなよ」

 

「お前はサボりがちだからな、もう少し顔を出したらどうだ?」

 

からからとカワサキは笑いながらそう言うが、カワサキに教わっている団員達からの俺に向けられる視線はなんで来たと物語っている。

 

「カワサキさん、こいつ。覗きで捕まりかけた時に崩しを使って逃げてるんですよ」

 

「あっ! 馬鹿ッ!!「ほう? まだ説教が足りないのか?」……逃げるんだよぉッ!!」

 

自分が教えた技術を覗きに使ってると聞いて鬼の形相で追いかけてくるカワサキはぽきゅぽきゅっと言う足音からは信じられないほどに恐ろしかった。

 

「はぁー……くそ、あいついい奴なんだけどなあ」

 

人当たりがよく、面倒見も良くて、気も合うんだがどうも男のロマンについての理解度は俺とカワサキでは天と地ほどの差がある。

 

「そこも気が合えばなあ……」

 

「そこも気が合えばなんだって?」

 

後ろから聞こえてきたカワサキの声に振り返るが、カワサキの特徴的な姿は何処にもと思った所で、頭に激痛が走った。

 

「あいだだだああああッ!!」

 

「漸く掴まえたぞ、この野郎」

 

カワサキの声がするが姿が見えない。まさかこれは……カワサキは姿を消せると言うのか……なんてこった、どうして俺は気付かなかったんだ。。

 

「姿を消して覗きをして「誰が覗きをするか」ぎゃああああッ!!」

 

カワサキの手の力が強くなり、頭が砕けそうな激痛に絶叫する。

 

「おら、マキシムの所で説教だ」

 

「いやだあ! 団長の説教って物理なんだよッ! 俺サポーターだから死んじゃうッ!!」

 

「それなら最初から覗きなんてするなよ、まぁ安心しろ」

 

え、もしかして見逃して……。

 

「執務が終わったらゼウスの爺さんも連れてくるから」

 

「それ駄目なやつうッ!?」

 

ゼウスのじーさんまで加わったら団長の説教が止まらなくなるからと叫んでもカワサキは聞き入れてはくれず、俺はカワサキから逃げる事が出来ず団長の所まで連行されてしまい……。

 

「アストレアファミリアからまた苦情が来てるんだ、お前はどうしてこうも自分の本能に忠実なんだ?」

 

「折れるぅ! 折れるぅッ!!」

 

説教という名の関節技地獄に俺は悲鳴をあげる事になった。カワサキが来て美味い飯が食えるし、偶に高級な店でも飲めないような美味い酒も飲める、それに話し相手も出来たのだが……覗きや下着泥棒を咎められ、ファミリアから脱出出来れば逃げ切れるが脱出できなかった場合はほぼ100%の確率で俺とゼウスのじーさんはカワサキに捕まっているのだった……。

 

 

 

 

執務室の机の上に山積みの書類を見ながらワシは顎鬚を摩った。その書類の多くはここ数日の団員のステータスを写した羊皮紙の山なのだが、それをそのままギルドに提出する訳にはいかんので少し手を加えるのがここ数日のワシの仕事だった。

 

「予想以上に劇物だったな……」

 

滅んだ別世界の神の1人……事故でオラリオに落ちてきた亜人種、オラリオでは手に入らない天上の道具を数多持つ者――正直に言えばアルトが連れてきて、共に酒盛りをし、気の合う相手だったからゼウスファミリアで匿う事を決めた。丁度料理人が辞めたので渡りに舟程度に思っていたが……。

 

「見つけたのがアルトで良かったの」

 

これがロキ・フレイヤファミリアならばカワサキをモンスターとして討伐しようとしただろうし、闇派閥はカワサキが持っているミアハファミリアやディアンケヒトファミリアのポーションを遥かに上回るポーションを欲するだろうし、何よりもカワサキが持っている魔道具はオラリオには余りにも過ぎたものじゃった。

 

「魔剣に装備するだけで常に体力が回復する指輪……例を挙げたら切りが無いわッ」

 

クロッゾの魔剣よりも遥かに高性能な魔剣に、装備するだけでステータスが上がる装飾品に、巨大なアダマンタイト鉱石等など、それ1つでもオラリオに流出すれば大騒動になる代物ばかり。

 

「ザルドの件もあるしの……」

 

べヒーモスの呪いを解き、ザルドを健康体にしてくれた借りを返すのは容易な事ではないし、ワシの眷属達もカワサキの事を気に入っているのでここから追い出すわけにはいかん。それに何よりも……。

 

「尋常じゃないステイタスの伸びじゃな」

 

レベルアップしたものはいないが、レベルアップに匹敵するステイタスの伸びには驚かされる。しかもカワサキは格闘術に秀でているからそれを伝授された団員の近接格闘の技能までメキメキ上昇しておる。

 

「……とんでもない拾い物じゃったな」

 

本人が温厚だから良い物の、これが闇派閥に近い考えをしていたらと考えるだけで頭が痛くなってくる。カワサキの持っている魔道具の事、そしてカワサキ自身の卓越した対人戦闘技術を考えれば取り押さえるのはかなり難しい、下手をすればうちの団員の誰かが死んでもおかしくないほどの戦闘力があるのはワシも正直言って想定外だった。

 

「……ヘラに紹介……いや、しかしなあ」

 

ワシの妻のヘラのファミリアには神でさえも治せぬ病を抱えた者が2人いる。ヘラが手を尽くしているが、それでも病状を僅かに軽減するのがやっとであり、姉のアルフィアはまだ動けるが、妹のメーテリアにはもう時間が殆どないと言っても良い。そんな2人ももしかしたらカワサキならば救えるかもしれないが……。

 

「ううーむ」

 

だがワシとアルトが覗きをやっていた事は間違いなくヘラに知られている。その中でヘラに会いに行くのは恐ろしいが……治せるかもしれない相手がいるのにそれを隠していたとなれば間違いなくヘラは激怒するし、カワサキを許さないだろう。

 

「行くしかないか……」

 

黒龍討伐を控えている今、ワシのファミリアがカワサキによって強くなった。ならばヘラにもカワサキを紹介するのが道理だ。

 

「ゼウスの爺さん、昼飯持って来たぞー」

 

「おおすまんの、お、今日は又なんじゃ?」

 

「餡かけ野菜炒め、中に海鮮も入ってるから美味いぞ」

 

ほほう……海鮮? おかしいの、カワサキは市場とかに出かけられんし、海鮮なんてうちのファミリアには無かったと思うが……。

 

「誰か買ってきてくれたのか?」

 

「いや、俺のアイテムボックスから出した」

 

またか……カワサキの固有能力のアイテムボックスにはどれだけのアイテムが、いや、それはもうどうでもいいか。

 

「のう、カワサキよ」

 

「ん? 夜の晩酌のつまみか? ジャーキーを用意してるが?」

 

「それは良いの、じゃなくてッ!?」

 

「なんだ違うのか? じゃあ晩飯か? まだ仕込みの途中なんだが」

 

「それでもないッ!」

 

こいつ頭良いのか悪いのか分からん……いや、ちょっと天然が入ってるだけかもしれんがどっか抜けてる。

 

「なんだ? 酒か?」

 

「それも違う、ええい! 人の話を聞けッ! ワシの妻のファミリアに……なんじゃ、その目は」

 

ワシの妻と言うとカワサキが凄まじいジト目をワシに向けてきた。

 

「なんで妻がいるのに覗きをするんだ? 最低か?」

 

「うぐっ……いや、お主も男なら……「分からんな、というか覗きは犯罪だろうが」……ぐう……この堅物め」

 

どっか抜けてると思ったらこれか、男のロマンの分からんやつだと思いながらも話が逸れるのでその言葉をグッと飲み込む。

 

「ワシの妻のファミリアの団員が難病に罹っていての、余命幾ばくもないんじゃが……見てくれんかの?」

 

「なんでそう言う大事な事を言わないんだ? すぐ行こう、こういうのは急がないと不味い」

 

「待て待て! ワシの妻のファミリアは女限定でな、いまから出かけて行ってもどうせ門前払いされる。ワシが妻に連絡を取るから、それから一緒に来て欲しいんじゃ」

 

「分かった。アイテムだけは確認しておく、出来るだけ早くしてくれ」

 

そう言って出て行くカワサキを見送るが、やはりカワサキは底抜けの善人のようだ。詳しく事情も聞かずすぐに行こうという姿にワシのファミリアで匿う事は間違っていなかったと確信する。

 

「後はワシ次第じゃな」

 

ヘラに連絡を取るのは恐ろしいが、それでも黒龍討伐の成功率を上げる為にも連絡をしないわけには行かない。

 

『なんですか……貴方』

 

「ヘラ、ワシの所にな、ザルドの呪いを解いた奴がいるんじゃ、お主のところのアルフィアとメーテリアをその男に見てもらおうと思っておるんじゃ」

 

『……流石に嘘ではそんな事は言いませんね、分かりました。明日時間を取ります』

 

「すまんの」

 

『それとそれとは別で貴方には大事なお話がありますので、逃げないように』

 

「……はい」

 

アルフィアとメーテリアの話でうやむやに出来るかもしれないと思ったが、そこまで甘くないか……しっかりとワシに釘を刺すヘラに苦笑しながらカワサキが用意してくれた海鮮餡かけの野菜炒めを口にする。海鮮とは別の塩味がかなり強い気がしたが……ワシはそれを無理矢理気のせいだと思う事にし、やたらしょっぱい野菜炒めを口に運ぶのだった……。

 

メニュー5 薬膳スープ へ続く

 

 




今回はカワサキさんがいるゼウスファミリアの光景その1でした。胃袋を掴んだのでゼウスファミリアに馴染んでおります。後は鬼滅版であったようにトレーナーみたいな事をしつつ、日々を過ごしております。次回はヘラファミリア編ですが、こちらは独自解釈をたた含む事になりますが、こういう考えもあるんだな位に思っていただけると幸いです。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは

  • 間違っている
  • 間違っていない

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