ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか?   作:混沌の魔法使い

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メニュー28 カレーライス

 

メニュー28 カレーライス

 

アーディから笑顔に満ちていると聞いていたダイダロス通りの広場は不気味なほどに静まり返って……いや、すすり泣く子供の泣き声があちこちから聞こえて来ている。そんな中で子どもが集まっているであろう一角の前で立ち竦んでいるアーディを見つけ、私は早足で駆け寄った。

 

「アーディ。大丈夫か?」

 

「お、お姉ちゃん……な、なんで……」

 

「ガネーシャに言われて来た」

 

アーディがホームに戻っていないと聞かされ、しかも自爆テロに巻き込まれかけたと聞き私はダンジョンから戻ってすぐにダイダロス通りに来たのだ。

 

「……止めれた。止めようと思ったら止めれたんだ。手段を選ばなければ……」

 

アーディのいう手段を選ばなければとは言うまでも無く、自爆しようとした子供を殺せばという事を意味しているのはすぐに分かった。

 

「でもね、無理だった。お父さんとお母さんに会いたいって、カワサキさんにごめんなさいっていうあの子を見て手が止まった」

 

「……私でも手が止まる」

 

両親を失った子供が両親に会いたいと思って何が悪い、家族に会いたいと願って何が悪い。

 

「悪いのはタナトスファミリアだ。恐らくカワサキもすぐに釈放されるだろう」

 

「……そう……かな、悪い話を聞いたけど……」

 

カワサキは短い時間でオラリオに大きな影響を与えた。それを面白くないと思っているファミリアや冒険者は少なくない。だからこそタナトスファミリアの大半を叩き潰したカワサキの悪評が流れてしまう。本当ならば賞賛されるべきなのにだ……ッ。

 

(これが今のオラリオか……)

 

ゼウスとヘラを失い。ギルドが頑張っているが余りにも民度が低い、タナトスファミリアによる被害を少なくした相手が貶められる状況に溜息を吐いた。

 

「お、悪いな。アーディ、ガキ共は大丈夫か?」

 

「へ、へ? カワサキさん!? もう釈放され……ボコボコじゃないですか!?」

 

「はっはっは! フェルズにもう少し考えて動けと殴られて説教されただけだ、大した傷じゃない」

 

カワサキはそう言うとポーションの瓶を取り出して、それを飲み干してから私に視線を向けてきた。

 

「どちらさんで?」

 

「あ、ああ。シャクティ・ヴァルマだ。ガネーシャファミリアの団長で、アーディの姉だ」

 

「俺はカワサキとでも呼んでくれれば良い、よろしく。まあ積る話はあるが、ちょいと後にしてくれ」

 

カワサキはそう言うと子供達の泣き声がしている家の扉を開けた。

 

「「「「おじさん!」」」」

 

「おう。ただいま」

 

おじさんと叫んだ子供達が駆け寄ろうとするが、全員が足を止めた。家族に会わせてやると言われ、タナトスファミリアに騙された事を気にしているのはすぐに分かった。

 

「俺はお前らの親にはなれん! 俺に出来るのはお前らに生きる術を教えることだけだ。それにいつまでも面倒を見てやれる訳でもない!」

 

「か、カワサキさん? 何を」

 

アーディがカワサキをとめようとするが、カワサキはそれを手で止めて子供達に視線を向けた。声は大きいが、その目はとても優しい光を携えていた。

 

「だから親に会いたい、家族に、死んだ友達に会いたいと思ったお前達を俺は悪いとは言わない。子供が親に会いたいのは当然だ。だがな死んで会おうとしたら駄目だ。俺の国では親よりも先に死んだ子供は賽の河原という所に連れて行かれて親には会えない。それ所か本来生きるはずだった時間が過ぎるまでずっと罰を受けることになる」

 

生きる筈の時間ずっと罰を受けると聞いて子供達の顔が引き攣った。

 

「だから精一杯生きるんだ。辛い事、悲しいこと、苦しい事、生きてる間はずっとそれは続く。だけどな、それと同じ位楽しい事、嬉しい事もある。だから一杯思い出を作るんだ。そして精一杯生きた後に天寿を全うして親に再会すれば良い、その時にする楽しい話を沢山作るんだ。だからまずは美味しい飯を食うか! よっし、何時ものように手伝ってくれるよな、行くぞ」

 

「「「「はーい!」」」

 

小鴨のようにカワサキについていく子供達の顔は先ほどまでの泣きそうな顔ではなく、少しだけ笑みが浮かんでいた。

 

「カワサキは親になれんっと言っていたが、良い親になれそうだな」

 

「うん、私もそう思うよ。お姉ちゃん」

 

怒る時は怒り、褒める時は褒め、教え導いている姿は私から見ても紛れも無く、親の背中だと思うのだった……。

 

 

 

 

 

やらなければならないこと、考えなければならない事は沢山あるが、まずは飯を食わせる事を優先した。腹が空いていれば悪い事ばかり考えてしまうので、先ずは腹一杯飯を食わせて寝かせてやろうと思ったのだ。

 

「牛肉と鶏肉どっちが良い?」

 

「牛肉!」

 

「鶏肉!」

 

「牛肉!」

 

「鶏肉」

 

牛肉と鶏肉の数が同じだったので俺は悪戯っぽく笑いながら牛肉と鶏肉を手にした。

 

「じゃあスペシャルで両方使おう。きっと美味いぞ。んでお前達は野菜を切ってくれな、いつも通り。出来るかな?」

 

「「「出来るー!」」」

 

「良し、じゃあ野菜は頼むぞ」

 

パチパチと拍手する子供達を見ながら俺は牛バラ肉を食べやすい大きさに切り、鶏肉は皮ごとぶつ切りにする。

 

「よいしょ、よいしょ」

 

「猫の手猫の手」

 

「にゃーにゃー」

 

決して手際が良い訳ではなく、そして形も綺麗では無いが全員で作る事に意味があるのだ。

 

「出来たー!」

 

「よおーし! こっちに持って来てくれ」

 

切られた野菜を受け取り、オリーブオイルを入れた大鍋の中に入れて野菜を大きなヘラで混ぜ合わせる。

 

「りんごを摩り下ろしてくれるか? 摩り下ろしのやり方は教えたよな?」

 

「うん! 出来るよ!」

 

「手を切らないように気をつけてやるね!」

 

カットしておいたりんごを摩り下ろすように頼み、牛肉と鶏肉を加えてそれらの脂が野菜に絡まり、野菜がしんなりして来た所で無限の水差しから大量の水を大鍋の中に注ぎいれる。

 

(たまねぎ、にんじん、じゃがいも、そして……)

 

チョコレートとトマト、そして林檎と蜂蜜、そしてヨーグルトを加え、子供達が見ていないのを確認してからアイテムボックスから取り出したカレー粉を準備する。

 

(時間が無いからな)

 

本当ならスパイスから作りたいが、そこまでしている時間が無いのでガチャの外れアイテムのカレー粉を使う事にした。外れアイテムと言ってもちゃんとカレー粉なので使っても何の問題もない、具材にある程度火が通った所で甘口と書かれたカレー粉を鍋に入れるとカレーの良い匂いがダイダロス通りに広がり始める。

 

「カレーって大丈夫なんですか? カレーは辛いですよ?」

 

「あん? あーそっか、ガネーシャか」

 

ガネーシャは確かインドの神様だからカレーは知ってて当然。アーディ達も知ってて当然という訳だ

 

「これはめちゃくちゃ甘口だから大丈夫だ。甘すぎて大人にはちと厳しいかも知れんけどな。よっし、後は煮込めば完成だ。机の上を片付けて飯を食う準備をするぞー」

 

「「「「はーい!」」」

 

煮込んでいる間に使った包丁などを片付けたり、皿を準備をしたりと、全員で協力して作業をしたので作り始めて1時間と少し位で夕食の準備は終わった。

 

「良し、全員に渡ったな。手を合わせて、いただきます」

 

「「「「いただきまーす!」」」」

 

全員でいただきますを言い、今日は俺も珍しく席について子供達とアーディ達と共に夕食を口にする事になったのだった……。

 

 

 

 

歪な形に切り分けられたゴロゴロ野菜、そして綺麗に切り分けられた牛肉と鶏肉の入ったカレー。食欲を誘うスパイシーな香りは死に触れかけた私でも食欲が沸いて来た。

 

「良し、全員に渡ったな。手を合わせて、いただきます」

 

「「「「いただきまーす!」」」」

 

ダイダロス通りの子供達が元気よくいただきますと口にし、木のスプーンを手に取る。

 

「おいひい!」

 

「むぐむぐッ!」

 

「美味しいです!」

 

「おう、そうかそうか、おかわりは沢山あるから一杯食えよ。あ、そうそう婆さんもし甘すぎたらそこのソースを使えば大分ましになるぜ」

 

「そうかい、なら使わせてもらおうかね」

 

「あ、俺も貸してくれ」

 

「私も」

 

ペニアに続いて大人の冒険者もソースを貸してくれと言っているのを見て、そんなに甘いのだろうかと首を傾げながらカレーを掬って口へ運んだ。

 

「あまっ!?」

 

想像以上に甘くて思わず声に出してしまった。するとカワサキさんが私に視線を向けながらソースのボトルを差し出してきた。

 

「甘いの駄目か? これソース使うか?」

 

「あ、いえ。私甘いの好きなんですよ。ただガネーシャの作るカレーはもうめちゃくちゃに辛くて」

 

「ああ。このカレーは少し甘いが食べやすくて良い。子供向けの味だ」

 

ガネーシャが偶に労いの意味を兼ねてカレーを作ってくれる。だがそれはめちゃくちゃに美味しいのだが、それと同時にめちゃくちゃ辛いのだ。

 

「色も真っ赤ですし、骨付きの鶏腿肉が入ってて美味しいんですけど……本当に辛いんですよ」

 

汗をかき、水をガブ飲みしながら食べるカレーは美味しいがどこか苦手な味だ。だけどこのカレーは違う、野菜の甘さだけではなく、複雑な甘さもあって、でも香辛料の美味しさもあって……。

 

「甘いが美味い!!! おかわりだ!」

 

「「ガネーシャ!? なんでいるの!?」」

 

何時の間にか普通にカレーを一緒に食べていて、しかも平然とお代わりをカワサキさんに要求していて、思わずお姉ちゃんと一緒に叫んでしまった。

 

「いやな、2人が中々帰って来ないものだから様子を見に来たらカレーの匂いがしたからな!」

 

「ほいよ。ガネーシャ」

 

「すまない! 美味いッ!!」

 

カレーの匂いがしたからという理由でやってきた……そんな訳が無いと思った。ガネーシャは確かに騒がしく、お調子者ではあるが、決して愚かではないからだ。

 

「カワサキよ、ガネーシャのファミリアで料理をしないか? 群衆の主である俺はオラリオにも顔が利く、お前の悪評を打ち消す手伝いが出来ると思うのだが」

 

タナトスファミリアを半壊させたカワサキさんが悪者、あるいは闇派閥の裏切り者にされる前にガネーシャは動いてくれたようだ。

 

「んーそうだな。折角呼んでくれるのならお呼ばれするかね」

 

「うむ! 明日の正午などどうだ。周囲は団員で守るからテロもないぞ、出来れば警備をしている団員に料理を残して欲しいと思うが」

 

「そんなの当たり前だろ? まぁよろしく頼む」

 

「出来ればオラリオではあんまり食べれない料理を頼むぞ! そしておかわりだ!」

 

「あいよ」

 

話をしながらもう三杯目のカレーを食べているガネーシャに真面目なのか、ふざけているのかどっちなんだろうかと思いながらカレーを口へ運ぶ。

 

「うん、やっぱり美味しい」

 

炊き立てのお米に甘めのカレー。米の甘さとカレーの甘さが口の中で1つになって実に美味しい。ゴロゴロ野菜の歯応えも良いし、鶏肉と牛肉と2つのお肉を使っているのでカレーにも深い旨みがある。

 

「おかわり」

 

「わたしも」

 

「おうおう、沢山喰えよ。お代わりは沢山あるからな」

 

カワサキさんは自分は親になれないと言っていたが、おかわりを求められれば自分の食事を中断してまでお代わりを準備するその姿はどこからどう見てもお父さんにしか見えない。

 

(なんで親になれないなんて言うのかなあ……何か理由があるのかな?)

 

本名か、偽名なのかも定かではないカワサキという名乗りと何か関係しているのだろうかと思いながらカレーを口に運ぶ。蕩けるように甘くて、思わず笑みが零れるが、どこか胸に引っかかる物がある物の、明日カワサキさんがガネーシャファミリアに来てくれるのは嬉しいなと思いながらカレーを頬張るのだった……。

 

(シャクティ、あれは完全にホの字ではないだろうか?)

 

(そう思う。確かにカワサキは善良な人間だが……どうもな)

 

(ううむ……そこが俺も気になっている)

 

(とりあえず本人が自覚していないのならば刺激することもあるまい)

 

完全にカワサキにホの字のアーディだが、本人が自覚していないのならば自覚させないままが良いだろうとガネーシャとシャクティは考え、完全に浮かれているアーディを微笑ましい物を見る目で見ているのだった。

 

 

メニュー29 海鮮焼き へ続く

 

 




というわけで子供達に甘口カレーとなりました。蜂蜜、林檎、チョコレート、ヨーグルトのカレーは暴力的に甘いので、食べる時は注意ですよ? 次回はオラリオでは多分食べれない、または希少と思う海鮮焼きをガネーシャファミリアで書いて行こうと思いますので、次回の更新もどうかよろしくお願いします。

オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは

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