ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか? 作:混沌の魔法使い
下拵え 謀略
ソーマとエレボスと宴会をし、酔い潰れた事で軋む身体と二日酔いの頭痛に顔を歪めながら、俺はソーマからザニスについて聞いていた。
「あーなるほど、権力と金に拘るタイプって事か、めちゃくちゃやりやすいじゃねえか、これでお前の所のファミリアも改善出来るな」
実力はそれほどでもなく、あくまでステイタス頼り、頭が切れるわけでもなく自分の欲望に忠実。正に分かりやすい人間の屑だが、そんな人間を腐るほど見てきたので対処法は割とすぐに思いついた。
「保身には秀でているぞ? どこにいるのか予想もつかない」
「ソーマがやる気を失っていたとは言え、ファミリアを奪うような男だぞ?」
まぁ確かにやっていたことを考えればそれなりに大物に思えるが……俺からすれば小物にしか思えない。
「1人で支配してた訳じゃないだろうよ。じゃなきゃ複数の団員と闇派閥に加わったりしない」
適材適所という言葉があるが、ザニスは目に見えた頭目であり、温厚で理知人を装う事で団長らしい人間だと思わせるだけの様は案山子だ。俺の予想では1人か、2人補佐役がいてそれがザニスをコントロールしていると考えている。もっと言えば、そのコントロールをしている相手が闇派閥と見て間違いないだろう。
「弱い奴ほど良く群れる。ザニスとやらはその典型だ。なら何処に入り込むかもすぐに分かる」
小物だからこそ強い権力に魅かれる。そして自分が何もしなくても地位と名誉を得れる場所を求める。
「ヴァレッタがいなくともタナトスファミリアは闇派閥の最有力だろ、ザニスはそこにいる。間違いない」
「ヴァレッタを失って戦力が低下しているタナトスファミリアを態々選ぶか? ほかにも候補は沢山はあると思うが」
「いや、間違いない。100%タナトスファミリアにいる」
これは俺の経験上だがあのクソアマを失ったとてタナトスファミリアには大きな痛手はない、精々現場の指揮官が1人減ったくらいで、その構成員は今だ健在だ。とは言え、俺が次々と闇討ちしたのでタナトスファミリアの士気は落ちている。だからこそタナトスはザニスを引きこむ。
「ソーマの失敗作はどうなった?」
「保管して」
「その鍵は?」
俺の問いかけにソーマは黙り込み、エレボスは額に手を当てた。
「ソーマで正気を失わせて兵力にする気か」
「それが1番早いし、有力なファミリアの団員も自分の手駒として使える。後は適当な指揮官がいれば失った戦力は補える」
強い意志が無ければ正気を失う神酒ソーマ。恐らくタナトスがザニスを召抱える条件としてそれを出し、ザニスはソーマを手土産にタナトスファミリアに加わったと見て間違いなく、そしてその上で攻勢に出てくる。
「ならばフェルズに言って防衛線でもはるか?」
「張るだけ無駄だ。俺ならソーマで正気を失ったやつを兵士にしてる裏で暗躍する。なぁエレボス、お前もお前で動いてただろ? 大最悪だったか?」
「……あれは俺にしか制御できないぞ?」
エレボスがゼウスの爺さんとヘラに得れなかった場合にダンジョンで準備していたモンスター「大最悪」と言われる強力無比なモンスターは確かにエレボスにしかコントロール出来ないだろう。
「コントロールなんかしなくても良いんだ。闇派閥の目的は現在のオラリオの壊滅かそれに近い何か。ただ闇雲に暴れてくれればいい、そしてそれを後押しするのはソーマによって狂わされた民衆、冒険者が死兵と化した存在だ。普通に戦うよりもずっと恐ろしい相手だ」
痛みも感じずただ闇雲に暴れまわる暴徒、そしてそれらごとオラリオを破壊する巨大なモンスター。
「闇派閥は強引に勝負を決めるつもりか」
「多分な。出来れば行動に出る前に阻止したいんだが……」
「どこにいるのか分からない……」
「そう、あいつらが姿を見せなくなればそれが予兆だとは思うんだがな……」
闇派閥の動きは僅かにゆるくなっているが、まだ闇派閥は暴れ回っている。捨て駒なのか、囮なのか、それすら判断がつかない。
「まだ闇派閥の動きが確認できている今のうちが好機ということか」
「そうなるな。エレボス、お前の方で動きは確認出来ないのか?」
「やれるだけはやってみる。だがソーマとカワサキも動いてくれ、情報は多い方が良い」
攻勢に出るのは間違いない。あとどれほどの時間的猶予があるのかは分からないが、少しでも被害を抑えるために、今出来る最善をする。後手に回るのは業腹だが、それしか出来ない歯がゆい状況に俺は拳を強く握り締めながら、自分に出来る事を全力でやる事を決めるのだった……。
「あの黄色い亜人のせいで俺達のファミリアは壊滅状態だ」
「タナトスの所も壊滅状態だってな?」
「ああ。神々にとっての汚点。反逆者の亜人による強襲によってな」
かつて亜人はオラリオとなる前の都市で人間と共に暮らしていた。それをモンスターと決め付け、神々は討伐することを決めた。恩恵を刻まれ、亜人の財を求めた人間によって本来協力関係であった亜人と人間は殺し合い。人間を殺す事を拒んだ亜人は全滅した……筈だった。
「それなら向こうが飲む条件を出せばこちらに引きこめるんじゃないの?」
「復讐者ならば我等に協力するはずだ」
確かにそう考えるのが普通だ。だがそれは俺達の考え方だ。
「神によって滅ぼされた者が神に協力すると思うか?」
神がいなければ今も亜人は人間と暮らしていた。殺しあい、戦いの理由を作った神を憎みこそすれど協力する理由はない。
「じゃあ何で人間に協力するのさ」
「協力してるわけじゃないんだろう。自分の考え、自分の正義に基づいてあやつは行動している。自分が定めたルールを持つ相手を仲間に引き込むのは不可能だ」
ただ暴れたいだけ、破壊したいだけ、愉快犯の神達のくだらない問答を聞きながら、俺は背もたれに深く背中を預けた。
(くだらない、何もかもくだらないねえ……本当に)
闇派閥で同志を名乗る神々も、ダンジョンの本質を隠す神も、何もかもがくだらない。俺は確かに良い神ではない、だが死を司る神としての矜持は持ち合わせている。だからこそ、今の死が極端に少なくなったオラリオも、今の地上世界も気に入らない。
(こんな世界ぶっ壊してやりてぇなぁ……あの亜人……こっちに引き込めたらなあ……)
なんにせよあの亜人は俺達には協力しないだろうし、エニュオも姿を見せない、それにヴァレッタがやられたことで俺のファミリアも壊滅状態に等しい。
(手駒も戦力もいるけどなぁ……んーやっぱりもう望んだ形での滅びは無理だなあ)
本当は緻密に作戦を立てていたし、計画も考えていた。かつての世界のように死が蔓延る世界を目指していたが……それも恐らく全て無駄になる……それなら……。
(もう全部ぶっ潰せば良いよなあ)
他の神がどう考えているかは俺には関係ない、俺が作りたいのはかつてのような世界であり、俺達悪神と呼ばれる者達がオラリオを支配する世界ではない、だから俺はザニスのような小物を引きこんだのだから……。
(もう全部壊せば良い、そう少し計画が前後しただけさ)
今もどうすれば自分達がオラリオを支配出来るのか、アストレアファミリアをどう潰すか、潰した後はどう辱めるかを話し合っている悪神達を無視し俺はその場を密かに立ち去った。
「負け戦だとしても簡単には負けてやんねえよ」
勝てるわけが無いというのは分かっている、だが、だからこそ……盤面を全てひっくり返すことに躊躇いが無くなった。
「全部ぶっ壊してやる」
「全部壊しに来る」
タナトスとカワサキの言葉が遠くはなれていても完全に合致した。闇派閥の中で最大規模であるタナトスファミリアを警戒するのは当然だが、カワサキはタナトスファミリアではなく、タナトス本人だけを警戒していた。
「そこまでするか? 自分も死ぬのだぞ?」
「奴はやるよ。絶対にやる。俺の勘がそう言ってる。同じ悪神も善神も街の住人も眷属も何もかもお構いなしにあいつは全部ぶっ壊す。仮に俺がタナトスなら間違いなくそうする」
「そこまで言って勘なのか?」
根拠も無く、理由も無く、自分の勘だけでタナトスが全て破壊すると断言するカワサキにソーマとエレボスはなんとも言えない表情を浮かべる。神は死んでも送還されるだけ、だが娯楽を求めて地上に来ている神が自ら死を選ぶとは同じ神として信じられなかったのだ。
「慈悲深い奴が最終手段に出たら盤面を全てひっくり返そうとするはずだ」
「慈悲深い? タナトスがか?」
「ああ、俺の国では魂は輪廻転生、死んでもまた回り回って生まれ変わるという考えがある。そしてその中で人の命をコントロールする死神は慈悲深い神とされる。死は時に救いになるからな、だからこそ俺は思うのさ。悪神だの善神などくだらないってな。見る角度によって善も悪も簡単に変わる、なぜそうも悪神、善神に拘るのかってな」
それはリアルを見てきたカワサキだからこその価値観。善、悪はあくまで1つの側面。それに拘ってどうすると問いかけるカワサキにソーマとエレボスは返事を返せなかった。余りにも自分たちとは違う価値観、そして見ている視点があまりにも違いすぎたからだ。
「昼飯にするか、二日酔いにはラーメンが良い。まぁちゃんとしたラーメンを作ってる時間が無いから即席だけどな」
さっきまでと雰囲気も言葉遣いも何かもが変わったカワサキは厨房へと姿を消した。
「良く分からないな、カワサキの事は」
「そうだな、俺もそう思う」
神であるソーマとエレボスでさえも看破出来ないカワサキの二面性――人間を真似ているからか、それとも亜人だからなのか、普段の義理人情に厚いカワサキと悪神以上に冷酷な考えをぽろっと口にする時もあるカワサキの一面を目の当たりにしたエレボスとソーマは鼻歌交じりに料理をしているカワサキの背中をジッと見つめるが、嘘を見抜ける神の目をもってしてもカワサキの内面を見通す事は出来ないのだった……。
「美味い」
「んで、お前は何故普通に混ざっている猛者」
「カワサキに用が合って来た。カワサキの都合が良ければ1度俺達のファミリアに顔を出してくれまいか?」
「ん? 別に良いが何のようだ?」
ラーメンが出来上がった頃にやってきたオッタルも食卓を囲み、ラーメンを啜っていたのだが、オッタルは思い出したようにカワサキにそう声を掛け、カワサキはなんでもないように了承の返事を返した。
「良いのか?」
「まぁ暇と言えば暇だし、何かの気分転換になるかも知れないしな」
青空教室はカワサキが作ったときよりも大きくなっているし、冒険者を引退することを考えている者がダイダロス通りに住み着き生活環境も大きく改善されつつあり、カワサキも若干手隙の時間が出来始めているからこそカワサキは2つ返事で了承し、フレイヤファミリアへと向かう事をオッタルと約束するのだった……。
メニュー32 ダイダロス通りのモーニング へ続く
タナトスを1番理解しているのはカワサキさんかもしれないという話にして見ました。本性は軽薄なタナトスを上手く書けたかは不安ですが、計画通りに行かないなら全部壊せば死に満ちた世界になるくらいはやるかなと思ったのでやって見ました。空白期は後10話くらいで区切りくらいで本編にそろそろ入りたいなと思っているので少しずつ話を終わりに向けていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは
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間違っている
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間違っていない