ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか? 作:混沌の魔法使い
下拵え カワサキさん、戦いの野へ行く その1
オッタルとの約束でフレイヤファミリアのホームである戦いの野へとやって来たのだが……入ってすぐに響いて来た喧騒におや? と思い、少し進んで見えてきた光景を見て俺は頭が痛くなったのを感じた。
「なぁ、お前らの所は馬鹿しかいないのか? なんで毎日毎日朝から昼過ぎまで殺し合いに近い模擬戦してるんだ?」
非戦闘員かつLV1~4の冒険者がひたすら戦い続けるというのは正直に言って正気を疑うレベルだった。
「ずっとこの方法だったのだが……何が駄目だ?」
「まずはな。適度な休息も挟む必要があるし、戦いだけに特化した身体作りは愚の骨頂だ。鎧や武器をずっと持ってるから筋肉の付き方が悪くなる。それに筋肉痛になった後に休息を挟んで超回復を狙って身体を痛めつけるのは分るが、ひたすら身体を痛め続けるだけだとまるで意味がないな、それに全員我流だろ? まずは体力つくりとかのトレーニングはしないのか?」
「……したことがないな」
「ちなみに再起不能は?」
実力のある相手に全力を出しつつも殺さないように手加減できるほど技量のある奴は俺の見た所では、オッタルと白いエルフの優男くらいだった。やりすぎた事はないのか? と尋ねるとオッタルは気まずそうに目を逸らした。
「……今は無いが昔は良くあった。それに昔は日が暮れるまで戦い続けだったな」
「良く分かった、お前ら蛮族だわ」
そのやり方で失敗しつつも成功者が多いからそのやり方だったらしいが、本当にめちゃくちゃだ。確かに実戦に勝る戦闘経験はないが、それはある程度地力がついてからで、初心者にやる事ではない。
「お前ならまずどうする?」
「先ずは体力作りでマラソン、そこから身体を鍛える為の自重トレーニング、後は段階を踏んで重りとかを使って加重トレーニングと目的に応じた部位を鍛えるかな」
ただ闇雲に鍛えるだけでは意味がないので目的に応じて鍛えるだろうなと話をしていると、背後に視線を感じて振り返ると、黒いドレス姿で銀髪の女が俺を見てにこやかに微笑んでいた。
「初めまして今日は良く来てくれたわね。私はフレイヤ、このファミリアの主神をしているわ」
「こりゃご丁寧にどうも、だけど初めましてではないな」
確かにフレイヤは絶世の美女だったが、俺が気にしているのはそこではなかった。この視線と気配を俺は覚えている。
「シルってお前の変装か?」
「シル? それって誰の事かしら?」
すげえな、顔がピクリとも動かねぇ。だが俺も何の確証も無く問いかけたわけではない。
「いや、誤魔化されても俺、気配で分かるし、見た目は大分違っていても気配さえ覚えていれば間違えようもねえから、後、顔の感じとかも良く似ているし、少し観察すればシル=フレイヤに辿り着くと思うぞ」
確かに見た目は大分違っているがその気配さえ覚えていれば間違える訳がない。それに雰囲気こそ違えど、顔の感じとかも良く似ているので少し観察すればシル=フレイヤに辿り着くのはそう難しい事ではなかった。
「……カワサキ。この事は他言無用で頼む」
「別にかまやしねえよ、言うつもりもないし、ロキと違って真面目に頑張ってる奴を陥れる趣味はないからな」
オッタルもそうだが、フレイヤもかつての事を悔いて行動している。そんな前向きに頑張ってる奴を陥れる気はないし、まぁぶっちゃければこの世界に来る前のリアルでも良く富裕層の上位の人間が変装して俺の店を尋ねて来た事もあったので、それと似たようなものだと思う事にする。
「それなら良いのだけど……所でオッタル。カワサキを連れてきた理由を聞いてないのだけど、カワサキを連れてきた理由はなにかしら?」
「短い時間だが、カワサキに鍛えられ俺は強くなりました。なのでカワサキに1度ファミリアの団員を見てもらおうかと、後は効率的なトレーニングを聞いてみようと思って呼びました」
俺も知らなかったが、自分が強くなったので俺に他の団員も見て欲しかったと……。
「オッタル、それはちゃんと事情を説明するべきだと思うわ」
「ちゃんと事情を説明してくれよ」
俺とフレイヤも流石にそれはちゃんと説明してから連れて来るべきだとオッタルに苦言を呈したのだが……。
「まぁ折角来たし、引き受けるは引き受けるけど今度は気をつけるように」
折角来たし、これからの事を考えて少し錆落としのつもりでオッタルの頼みを引き受けた。勿論理由は色々とあったのだが、自分の実力に自信のある奴ほど反発する、つまりオッタルが俺を教官として連れてきた訳だが、それに反発する連中は当然いるわけで……。
「んで、とりあえず俺の実力は分ってもらえたって事で良いのかな?」
俺が指導するという事に反発し、実力を見せろと言ったフレイヤファミリアの団員の5割ほどを叩きのめした所でそう問いかけた俺にもう反発する人間はいないのだった……。
オッタルがダイダロス通りの料理人に教えを乞い、強くなっているという話は俺も聞いていた。だが所詮料理人だと俺は甘く見ていたし、ヘディン達もカワサキを甘く見ていたのだが……。
「ほい」
「がぁあああああああッ!?」
「暴れると折れるぞー」
まずはへグニが関節を極められて沈んだ。
「まずはリバー」
「がぼっ!?」
「んで次は顎」
次はヴァンが流れるような連続攻撃で沈められた。
「がっはぁ!?」
「我ら」
「4人の」
「連携」
「ならば」
「じゃあこうする」
「「「「目がああ!?!?」」」」
4馬鹿は香辛料をぶちまけられ、それを目に受けてもんどりうってる所を頭に拳骨を落とされ沈黙した。
「お前面白いなあ、魔法と槍を組み合わせるとか才能あるぜ」
「ただの嫌味にしか聞こえんな!」
「はは! 槍と拳じゃ拳の方が早いのさ!」
拳に魔法を宿したカワサキがヘディンの懐に潜りこみ、杖を使わせずに殴り倒し……。
「そい」
「がぁああああああッ!?」
そして俺はカワサキに肩に担がれて、身体を揺らされ今まで味わった事のない信じられない苦痛に絶叫し、意識を失うのだった。
「ほれほれ、走れ走れ」
全員叩きのめされればカワサキの実力を認めざるを得ず、そしてフレイヤ様もカワサキの指導を受けるように仰られたのでカワサキの指導を受けることになったのだが、最初はただひたすらに走らされた。
「アレン。違う、ちゃんと関節の方向を意識して」
「ちいっ」
「舌打ちするな」
その次はストレッチとかいう身体を最大限に動かす為とかいう踊りみたいなことをやらされて……。
「そこの4兄弟。勢いでやらない、ゆっくり息を吐いて筋肉が動いている感覚を理解してやるんだ」
「ぬぐぐ……」
「な、なぜゆっくり」
「やる必要が……」
「あるのだ……?」
「発揮張力を維持することで余り身体に負担を掛けなくても筋肉が肥大化する。勿論本当は早くやったほうがいいけど、フォームが悪いと身体を痛めるだけになるからだ」
文句を言えば何故、どうして、どういう意味があるのかを懇切丁寧に説明され反論の余地を奪われ、従うしかない状況に追い込まれる。
「はい、じゃあとりあえず1回終わり、ほい、バナナでエネルギーを補給しろよー」
「「「……」」」
ダンジョンでの戦い、そして眷属同士での模擬戦よりも軽い運動の筈なのに、全身が痛くて動けない俺達の上にバナナを置いて回ったカワサキはそのまま変わった手袋を両手に嵌めた。
「はい、1・2」
「シッ! シッシ!!」
「脇が開いてる。頭が動いてる、もっと小さくコンパクトに、1・2・3・4」
「シッ! シッ!」
「よーしよし、大分良くなってるぞ」
俺達が息も絶え絶えなのにオッタルの奴はバナナをすぐに食べ、カワサキとすぐに次の訓練をしているのを見て、俺は吐きそうになりながらもバナナを飲みこみ震える足で立ち上がった。
「俺もだ、俺にも教えろ」
「おう、根性があって良いな。良し来い、アレン」
もう動くのも億劫だったが、オッタルがカワサキの指導で強くなっているのを目の当たりにした俺はジッとなんかしてられずカワサキの指導を受けたのだが……。
「お前は足が早いのが売りなんだろ? なんでそう蹴り出すのが下手なんだ?」
「どういうことだ?」
「爪先のほうで着地して地面を蹴ることを意識すると良い、踵から着地すると駄目だな」
「ん? まぁ良い試してみるか」
料理人だというのにカワサキは俺達に最初に教えてくれた以上に様々な事に知識が深く、僅かな指導を受けただけだったのだが……。
「速くなった!?」
「な? 効率的な走り方を知れば足は速くなるもんなのさ」
自分で実感出来るほどに足が速くなっていて驚きを隠せない以上に、カワサキの指導の有用性を認めざるを得なかった。
最初の反発は俺も予想していた。だがフレイヤ様の地位を回復させる為に努力を惜しまない団員達はカワサキの指導が有益と分れば、積極的にカワサキとの交流を始めていた。
「魔力を拳に宿すのは魔法なのか?」
「いや、魔法じゃないな。ただ魔法を唱えて、それを放出せずに拳に留める感じだ」
「どういう感じだ?」
「そういう感じとしかいえないな」
ただ魔法への理解と武器の扱いはいまいちなので教えを聞いてもあやふやだったが、そのあやふやな物でもインスピレーションは得れたのか短い時間で何かを悟るヘディンはさっそく魔法の構築を始めていた。
「こうですか?」
「いや違うな、体重移動をしながらこう」
「こうですか?」
「ん、悪くないな。ほれ打って見ろ」
「はいっ!」
俺もそうだが特に素手での格闘技術の知識は凄まじく、拳や蹴りを主体にする団員達は短い時間で見違えるほどに動きが良くなった者もいる。
(やはりカワサキを連れてきて正解だった)
ダンジョンへの遠征、団員同士での模擬戦……それらも紛れも無く強くなる為に役立っているが、それだけでは足りない。カワサキとの稽古で実感したが、効率的な体の動かし方に戦闘技術を学べばレベルアップしなくとも強くなれる。フレイヤ様がまた大手を振って外を歩けるようになるにはやはりファミリアの地位の向上が必要不可欠だ。
「うっし、そろそろ昼飯にするかーッ」
「もうそんな時間か?」
「おう。飯作っても良いよな、オッタル」
「構わないが良いのか、この大世帯だぞ?」
非戦闘員も含めれば食事の準備はかなりの重労働になる。事実俺達のファミリアの調理係は10名からなっているが、1人で大丈夫かと尋ねる。
「問題なし、まぁそこまで凝ったもんは作れないけどな。クールダウン前に教えたよな? それを教えてやりながら待ってくれれよ」
座り込んで息を整えている者が大半なのに、俺達以上に動いていてもピンピンしているカワサキに俺の中の料理人は……。
(いや、ミアもあんな感じだな。うん、きっと料理人は限界を超えると強くなるんだな)
ミアもカワサキと同じでめちゃくちゃにパワフルだった。だからきっとカワサキもミアの同類なんだなと思う事にする。
「良し、皆立て。身体に疲労を残さないストレッチをするぞ」
ダイダロス通りに通ってる間に教わったストレッチをアレン達に教えながら、カワサキが今日は何を作ってくれるのかと期待しながらゆっくりとストレッチを始めるのだった……。
メニュー33 スタミナランチへ続く
ロキファミリアと異なりフレイヤファミリアは全体的にやる気に満ちているのでカワサキも指導に熱心でした。やる気があって打てば響く反応があれば誰だって熱心に指導しますからね、口調がちょっとおかしい所があったかもしれませんが、それは私の理解度不足なのでおかしな所があったらご指摘してもらえると嬉しいです。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
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