ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか?   作:混沌の魔法使い

51 / 99
下拵え 破滅の引き金/始まる破滅

 

下拵え 破滅の引き金/始まる破滅

 

ギルドへと向かうというカワサキさんに付いて行くか、否かで私は一瞬悩んだ。ゼウスファミリアのエンブレムを持つカワサキさんがゼウス、ヘラファミリアの関係者であり、ゼウスとヘラの指示でオラリオにやってきたのも分かった。カワサキさんに正義について問われ私も、輝夜もライラも、リューも、いやアストレアファミリアの全員が正義について悩み、葛藤していた。何が正しくて、何が間違っているのか私は自分なりに考え、答えを出しそれをカワサキさんに聞いてもらおうと思った。その道中で何かを調べているカワサキさんを見かけて近づいた。そして何か大きな災厄がオラリオに迫っているのを知った……ならば私の答えは1つだ。

 

(……付いて行く、知らないといけない)

 

これからに備えて動いているカワサキさんから目を逸らすわけには行かない、自分が何をするべきなのか、それを知る為に私はカワサキさんの後を追って走り出した。

 

「タナトスが全ての盤面をひっくり返すと……お前はそう考えているのか」

 

「考えているんじゃない、確信だ。町のあちこちに火炎石が仕込まれてる。それを崩して進路を狭める事で攻撃先はある程度固定できる。正気を失った冒険者達のスタンピードは止めても止めなくてもオラリオにとっては致命傷になるぞ」

 

ギルドの地下で話されている会話は私にとって衝撃的だった。

 

「正気を失うってどういう事ですか」

 

「元ソーマファミリアのザニスがソーマの作った神酒を持ち出して闇派閥に合流してる可能性がある。神酒は麻薬だ。それを飲んだ冒険者や市民が正気を保ってられると思うか?」

 

カワサキさんの問いかけに私は言葉に詰まった。神が作った酒を人間が飲んで耐えれるとは思えない、発狂に近い状態になるのではないかという予感があった。

 

「冒険者や市民については出来れば無傷で取り押さえたいが……出来ると思うか?」

 

「流石に全ては難しいぞフェルズ。俺に出来るのは俺の視界に入ってる連中を無力化するだけだ。同時に起きたら手が足りない、他に眠らせる魔法や麻痺させる魔法があれば良いが……生憎俺には無理だ、そっちは?」

 

「……エルフに声を掛けてみるがかなり難しいだろうな」

 

催眠や麻痺させる魔法というのは冒険者の中でも習得してる者が少ない。基本的に冒険者が覚える魔法は戦闘に関係する物が多いからだ。

 

「刃を潰した武器を使うという手もあるが……どちらにせよ冒険者と市民は無事ではすまない……全てをひっくり返すとはこの事か」

 

冒険者と市民の正気を奪い暴れさせ、それを無力化すればオラリオの機能が停止すると聞き咄嗟に走り出そうとするがカワサキさんに止められた。

 

「止めとけ」

 

「なんで止めるんですか!? まだ間に合う「間に合わない。火炎石を仕込んでるんだぞ? あいつらが動くのは時間の問題だ。被害を少なくする方法はないわけでは無いが、完全にゼロには出来ない。全てが手遅れだ」

 

「でもまだ何とか」

 

「それでパニックを起させるのか? それをタナトスは見逃さない、一気に盤面を崩しに来る」

 

出来る事、何か無いかと考えるがなにも思い付かなかった。いや、パトロールをしていたのにそれにすら気付けなかった……。

 

「どうして」

 

「相手が上手かっただけだ。守るより壊すほうが楽とはいうが……タナトスはもう自分の命もどうでも良いと思ってるな、そうでなければこんな手は打たないな」

 

「だろうよ、今頃他の闇派閥の主神も神酒漬け、その構成員も神酒で正気を失ってる。痛みも感じず、ただ暴れ回る擬似的な不死身の軍勢の完成だ」

 

酔っているので痛みで止まる事は無く、殺す事に躊躇いもない。

 

「カワサキさん……被害を抑える方法って……何があるんですか?」

 

「地下に隠れてもらうか、街を破壊して誘導先を変える。後はバベルかダンジョンに隠れて貰うだが、攻撃目標がバベルとギルドであることを考えれば得策ではないな」

 

結局何をしても被害は出る。そしてオラリオに致命的な影響が出る現実を変えることは出来ないと知り、私はその場にへたり込んでしまうのだった……。

 

 

 

確かにアリーゼ達やアーディは自分達に出来る事を全力でして来た。それは確かに間違いではない、だが正解でもない。いや、もっと言えば相手の見ている視点とアリーゼ達の視点が違いすぎたというのがある。

 

「全てをぶっ壊す……か、まさかそこまで暴挙に出るとは思ってなかったな」

 

闇派閥がオラリオを支配すると考えていたからこそ、タナトスのこの暴挙は予想出来なかった。

 

「とりあえずギルドナイトには連絡を入れてアリーゼはアストレアファミリアの面子にも伝えておいてくれ、俺もゼウスとかに連絡を取って応援は呼ぶ。今は絶望するんじゃなくて、少しでも被害を少なくする為に頑張る時だ。だが暴走はするなよ、それが引き金になる」

 

「は、はい! 分りました。すいません、失礼します!」

 

そう叫んで出て行くアリーゼを呼び止めようとするがアリーゼはそのまま駆け出して行こうとするのをウラノスが呼び止めた。

 

「これを持って行け、ギルドナイトが使っている特注の装備を提供するように文を書いた。何かの役に立つだろう」

 

「ありがとうございます! あ、でもアストレアファミリアだけじゃ」

 

「案ずるな。信頼出来るファミリアには全て提供するつもりだ」

 

それならと呟いたアリーゼはウラノスが手にしていた文を手に、今度こそ部屋を飛び出していった。

 

「わざとだな、カワサキ」

 

アリーゼの姿が見なくなってからカワサキに私はそう問いかけた。わざと落ち込ませ、そして前向きになれる希望を見せることで思考を私達の話し合いからこれからに備えるに変えさせたのだ。そしてウラノスもそれに乗った……2人の行動はアリーゼを利用するように見えて正直少しだけ不快だった。

 

「あいつがいると話せない話もあるからな、フェルズとウラノスにこれを預けておく」

 

カワサキはそういうと虚空から赤い液体が満たされた瓶をいくつも取り出して机の上においていく、その数約10本。そしてそのどれもが凄まじい魔力を放つ素晴しい品だと一目で分かった。

 

「これはポーションか?」

 

「ああ、手足の欠損くらいならこのポーションの4分の1でも飲ませるか、掛ければ治る筈だ」

 

なんでもないようにカワサキは説明してくれたが、掛けるだけでも手足の欠損すら治すポーションはこれから起きるであろう未曾有の危機からオラリオの住民を救う切札となりえる代物だった。

 

「とんでもない性能のポーションだな……だがありがたい、預かっておく」

 

ミアハ達にもポーションの準備をしてもらわなければこれから起きる被害を抑えることは出来ないだろう。

 

「カワサキ。本当にお前はゼウスとヘラにだけ声を掛けるつもりか?」

 

「さぁ? 俺は必要だと思うことをやるだけだ」

 

その言葉にまさかと思ったが、カワサキの顔を見ればそれをすると分かってしまった。

 

「オシリスファミリアを呼ぶつもりか」

 

元々カワサキはオシリスファミリアをオラリオに呼び寄せることを考えていた。ギルドナイト、そしてファミリアで防衛出来ないのならば外から戦力を呼んでくるしかないということは分かっている。分かっているのだが、オシリスファミリアを呼び寄せる事には一抹の不安があった。

 

(闇派閥と呼ばれるがオシリスファミリアの性質は善だ。だがあいつらは……余りにも容赦がなさ過ぎる)

 

復讐者達の集まり。それがオシリスファミリアだ。殺したのだから殺されるべき、傷つけたのだから傷付けられるべき、目には目を歯に歯を……徹底した組織としての復讐者それがオシリスファミリアであり、彼らの中には今の闇派閥の主力となっているタナトスに恨みを持つ者もいる。そんな状況でオシリスファミリアを呼び寄せれば制御不能となる結末しか見えなかった。

 

「呼びはしない、呼びはしないさ。来るか来ないかはあいつら次第だ。分ってるだろ? 最悪を避けるためには形振り構ってられないだろ? それとも自分達の見栄を優先するのか? 違うだろ? 大事なのは守るべき物を守る事にあると俺は思うぜ」

 

そう言って備えが必要だからと言って歩いて行くカワサキを呼び止める術は私達には無かった。代案が無かったからだ……自分達に出来ることはしてきたし、オラリオを変える為に様々な努力もしてきた。だがそれでも私達のやってきた事よりも、カワサキがやったことが多くの影響をオラリオに与えていて、自分達を卑下するつもりはないし、カワサキに嫉妬するつもりも無かったが……。

 

「私達のしてきたことはなんだったんだろうとたまに思うことがある」

 

ゼウスとヘラがオラリオを去った後に私とウラノスのやってきたことはなんだったんだと思わずにはいられなかった……。

 

 

 

 

 

「な、何をするのだタナトスッ!? 何ゆえ……がぼっ!?」」

 

「何ゆえ? 何ゆえかぁ……ひゃはっ! もう全部終わらせようとしてるんだよ、まぁ……聞こえてないと思うけどなぁ」

 

足元に転がっている同じ悪神が悶えているのを見ておかしくておかしくて笑いを堪えられなかった。

 

「あひゃッ! ひゃはッ! あひゃははははははははははッ!!!!!!!!!!!!」

 

ああ。楽しい、楽しい、楽しい、何もかも壊れて狂って崩れていく……ああ、それが楽しくて嬉しくて、面白くて……。

 

「最高……最ッ高だぁ……そうだよ、これだよ。これでこそだ……」

 

平穏も秩序も変化のない日々もうんざりだった。他の悪神はどうかは判らないが、俺は壊したかった、今のオラリオを、そして死が無くなった世界を壊したかったのだ。

 

「あ……あはは……ひゃははははははッ!! 死のない世界なんておかしいんだよ……ッ! なんでそれが誰も分からないんだよ……」

 

生きてるからこそ死がある、死があるからこそ生がある。生だけがある世界なんて……おかしくて、歪で、不快で……。

 

「あああ……気持ち悪い……吐きそうだ」

 

ずっと我慢していたが、それもおしまいだ。もう我慢するのも疲れた、なんで俺だけが我慢しなければならないんだとずっと思っていた。

 

「だがそれももう終わりだ……世界を正そう、元の正しい死と生の世界へ……」

 

闇派閥なんて本当は俺はどうでも良かったんだ。眷属が、ヴァレッタ達が頑張っているから様子を見ようと、不変の神だからこそ待とうと持っていたがヴァレッタ達が捕まり、そして他の悪神が保身に走った段階でもう俺が我慢する理由は無くなった。

 

「狂えば良い、死にたくない、生きていたいなんて狂ってるんだ。なら……ひひ……ひゃはははは……ッ! もう皆最初から狂ってる……そうだろ?」

 

俺が狂ってるんじゃない、世界が、そしてその世界に住む人間が狂っているんだ。なら皆等しく狂えば良いのだ。

 

「皆もそう思うだろ? 狂ってしまうっていうのは楽しい物だろ? なぁ皆?」

 

神酒に酔い狂っている皆も笑っている、だから皆も楽しいものだと思い俺も笑う。ザニスがソーマファミリアから神酒を持って来た時は天命だと思った。神が何を言っていると思うかもしれないが俺はそれを運命だと思った。世界も壊れることを今の秩序が壊されることを願っているのだと俺は感じたのだ。

 

「もうすぐだ、もうすぐ始まるぜ。新しい秩序が始まる時がなぁ……」

 

世界は壊れて新しい世界が始まる。亜人の抹殺という破壊から今のオラリオと世界が始まった、なら再び世界を壊しかつてのように死と生の調和が取れていた世界を再び作りだすのだ。

 

「ああ……楽しみだなぁ……」

 

まだ準備に少し時間が必要だがそれももうすぐ終わる。考えなしに神酒を飲まして回ったせいで俺1人で準備をし無ければならなくなったが……まぁそれも良いだろう。全ての終わりはもう避けられない確定した未来なのだから後はただ少しずつ準備を完了させれば良い。後数日の内に世界はあるべき姿に戻る、俺の手であるべき姿へと戻るその時がもうすぐそこまで迫っているのだった……。

 

 

メニュー34 ナポリタンへ続く

 

 




今作のタナトスは悪神仲間も眷属も無力化されたので種の仮面の人みたいに俺が世界を壊すみたいになっておりますのでこんなのタナトスじゃないと思われるかもしれませんが今作では追詰められすぎて迷走していると思っていただけたら幸いです。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。  

オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは

  • 間違っている
  • 間違っていない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。