ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか?   作:混沌の魔法使い

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メニュー35 ちゃんちゃん焼き

 

メニュー35 ちゃんちゃん焼き

 

フィンが動くとしたらこのタイミングだと俺は思っていた。闇派閥が身を潜め、それが大きな動きの前……言うならば嵐の前の静けさだとしたら……? ここで何かが起きればそれを闇派閥の所為に出来るこのタイミングでフィンは俺を殺す為に動いてくると思っていた。

 

「ボデイががら空きだぜッ!!」

 

「がっ!?」

 

槍を避けると同時に踏み込み左フックをフィンのがら空きの胴体に叩き込む。動きを阻害しない皮鎧の隙間を狙った一撃にフィンの身体がくの字に曲がる。

 

「もう1発ッ!!」

 

腕を完全に引かず、下半身を使った切り返しでフィンの顎を全力でアッパーを打ち込む。

 

「ぐっぶっ!?」

 

フィンの小柄な身体が宙に浮かぶのを見て追撃ではなく、俺はガードを固めてバックステップで距離を取った。

 

(やりにくい、小さすぎる)

 

俺の身長が180後半に対してフィンの身長は見たところ110~120くらい、的が小さいからか中々クリーンヒットが出ない。フィンの技術もあるだろうが、速攻で意識を刈り取るつもりが思ったよりも時間を食ってしまっていた。

 

「何もかも思い通りに行ってさぞ気分が良いだろう」

 

「はぁ? 何を寝ぼけた事言ってんだ? ガキ」

 

「行き成りやって来て地位も、名誉も得た。全部計算通りだろう?」

 

「馬鹿だな、お前。俺は俺に出来る事をしているだけで名声も地位も名誉なんかも欲しくねぇ。俺はただ腹が空いたと泣いてる子供を減らしてぇだけだ」

 

「建前が上手だなッ!」

 

弾丸のような勢いで突っ込んでくるフィンの槍の側面を叩き切っ先を逸らしながら足を振り上げる。

 

「てめえみたいな馬鹿と一緒にするな気分が悪い」

 

そのままの勢いで踵をフィンの頭に叩き込み、そのまま地面に叩きつける。

 

「ぐっく……ッ!?」

 

子供を痛めつけているようで気分が悪いが、地面に伏せているフィンの目の憎悪の炎は強くなる一方だ。

 

「完全な逆恨みだな、なんだ? そんなに地位と名誉が欲しいのか?」

 

「僕は……ッ! 小人族を復興するんだッ! 僕よりも地位も名声もある奴は邪魔なんだッ!」

 

なんだこいつ……そんな事の為に俺を襲ってきたと呆れて物も言えなくなった。

 

「馬鹿だな、お前、いや、馬鹿を通り越して間抜けだ」

 

「何を! 小人族の復興を「それ、お前以外の誰かが望んでるのか?」……は?」

 

「だーかーら。小人族が復興しないといけないほど落ちぶれているのか? そして小人族がお前にそれを託したのか?」

 

小人族の復興というが、それを誰かがフィンに頼んだ訳でもない、望んだわけでもない。もしもそうなら誰かが近くにいてフィンを立ち直らせていただろうからだ。

 

「お前が嫌なだけだろ? 小人族なのを、てめえが嫌だからって全員が全員そうだと思うんじゃねえよ」

 

「ああああああッ!!」

 

ぐちゃぐちゃになった心境のまま、俺の言葉を遮るように吼えながら突っ込んで来たフィンの顔面に拳を叩き込み、そのまま地面に向かって振り下ろす。フィンの小柄な身体が地面に叩きつけられ跳ね上がってくるが、その目はまだ爛々と輝いていて……。

 

「し「てめえがな」ッ!?」

 

槍ではなくナイフを出してきたのは驚き、僅かに反応が遅れて頬を切り裂かれたが、致命傷は避けることが出来、避けられた事で唖然としているフィンの顔面に頭突きを叩き込んでその意識を刈り取る。

 

「馬鹿すぎるだろ、こいつ。なんで誰も止めなかったんだ?」

 

小人族の復興というが別に小人族が落ちぶれている訳でもない、地位や名声を欲しがるのはより高い地位を目指しているとしても、それを小人族として全ての小人族がそう思っていると思わせることの方がよっぽど不都合だと分からないのかと思いながら気絶しているフィンの襟首を掴み、地面に落ちている槍を拾い上げてロキファミリアに向かって歩き出す。

 

「おい、お前らのところの団長が俺を殺しに来たんだが、お前らのところの駄女神とリヴェリアを出せ、じゃなきゃ俺は今すぐにでもギルドに行くぞ」

 

気絶しているフィンをその武器、そして切り裂かれた頬を見せながら、門番にそう脅しをかけ、それから1分にも満たない時間でロキとリヴェリア、そしてガレスの3人が血相を変えてホームから飛び出してきたのだった……。

 

 

 

 

 

カワサキがフィンに襲われたといってフィンを連れてきたと門番に聞いたときは何を馬鹿なと思った。だがボロボロのフィンとフィンの攻撃を受けたであろうカワサキの姿を見ればそれが事実だと認めざるを得なかった。

 

「こいつ馬鹿だろ? なんで誰もこいつを否定してやらなかったんだ?」

 

「な、なにを……?」

 

カワサキの言葉の意味が分からず……いや何を考えているのか分らずどういうことだと問いかける。

 

「だからなんでこいつの間違いを誰も指摘してやらなかったんだ?」

 

「……ウチを責めに来たんじゃ?」

 

「はぁ? 馬鹿か? いや馬鹿だな。お前らを責めるつもりならギルドに駆け込んでるぞ馬鹿。フェルズもウラノスも顔見知りだからすぐに話せる」

 

「内密に処理するつもりなのか? なんで、どうして」

 

「アイズもべートもいるし、ティオナ達もいる。ロキファミリアを完全に崩壊させるにはちと馴染みが多すぎる」

 

ベートがそう尋ねるとカワサキはもう少し知り合いが少なければ潰すのもよかったんだけどなと怖い笑みを浮かべた。

 

「フィンの間違いとはなんじゃ?」

 

「小人族の復興って言ってたけどよ? そんなに小人族の立ち位置は悪いか? なんで自分が活躍して小人族を復興させるなんて馬鹿げた事を止めなかったんだ? ガレス」

 

「馬鹿なことか……? 私は「黙れ行き遅れの馬鹿」ぬっぐ!?」

 

シンプルな罵倒に言葉に詰まるとカワサキはやれやれと言いながら肩を竦めた。

 

「小人族の復興なんてこいつにはどうでも良いんだろ? 自分が馬鹿にされるのが嫌だ、地位も名誉も名声も欲しい、だがそれだけだと誰も付いてこない、だから自分の願いを小人族全体の願いにしてる奴が馬鹿じゃないのか?」

 

「いや、それは極論やろ、小人族からは「じゃあなんで小人族がフィンを立ち直らせない? 本当に小人族全体の願いなら誰かフィンに発破をかけるだろ? それもないっていうのがこの馬鹿だけの願いって分るもんだろうよ」

 

ぐうの音も出ない正論だった。確かにロキファミリアで見れば小人族はフィンだけだ。もしも本当にフィンの理想に共感している小人族がいるならもっと小人族とフィンの交流はあったはずだ。

 

「もっと見ておけよ、今度殺しに来たら……俺はこいつを殺すぜ」

 

じゃあなと言って帰っていくカワサキだが、殺すと口にした瞬間に叩き付けられた殺気に誰も動けなかった。

 

「またカワサキさんを怒らせたじゃねぇか、なにやってんだよ」

 

「うーむう、まさかフィンがカワサキを襲撃するとは思っても見なかったからのう……」

 

「とりあえずフィンは治療だけして部屋に寝かして監視しておこう、フィンが起きてから話し合いの場を設けよう」

 

「そうやな、それが良いな」

 

夜も遅いし、叩きのめされているフィンも起きる事はないだろうと治療だけしてフィンの部屋に寝かせておいたのだが、早朝フィンの姿はロキファミリアから消えていたのだった……。

 

「よう、馬鹿野郎。またファミリアから抜け出してきたのか? ん? 今度こそ死ぬか?」

 

「昨日は申し訳なかった。今日は君と話をしたくて来た」

 

「ふーん、飯は食ったか? まだなら何か食うか?」

 

「昨日からなにも食べてないんだ。申し訳ないが頼めるだろうか?」

 

「分った。中に入って座ってろ」

 

子供達を青空教室に送り出した頃合で尋ねて来たフィンにカワサキはなんでもないようにそう告げ、昨日自身を殺しに来たフィンを自分の小屋の中へと招き入れるのだった……。

 

 

 

 

本来ならフィンだけなら料理を振舞うつもりは無かった。適当に話をして追い返すつもりだったが、俺が呼んだ客に振舞うついでにフィンにも料理を食べさせる事にしただけだ。

 

「あいつだろうお前を殺そうとした馬鹿な小人族は、殺してやろうか?」

 

「カワサキ。貴方が望むならあの馬鹿を殺して差し上げましょうか?」

 

暗がりに身を潜めている男女――俺がオシリスに頼んで派遣して貰ったオシリスファミリアの団員だ。

 

「それで暴れられると俺の能力でも偽装しきれないので止めてくれ」

 

オラリオに入れないオシリスファミリアの団員を引っ張り込むのは俺とて大分苦労した。大人しくしていれば問題ないが戦闘行為に出られると流石に偽装しきれない。

 

「ふむ、ならば今は押さえるか」

 

「ええ、それが良いでしょう」

 

全身黒尽くめで顔も仮面で隠しているので顔見知りかどうかも分らないが、まぁそれはしょうがない。偽装の黒衣はスキルや名前、正体を偽装するアイテムだからこの距離でも良く分からないというのは正常に機能していると見て良いだろう。

 

「ちなみに俺はどんな風に見えてる?」

 

「私は?」

 

「お前は10歳くらいの子供で、お前は腰の曲がった婆」

 

「「……マジで?」」

 

声を揃えて信じられないという様子の2人に料理を作ってくると声を掛けてキッチンへと向かった。

 

「良い鮭だな、良く肥えている」

 

土産として持って来てくれた鮭は先ほど3枚おろしにしたが、その鮮やかなオレンジ色をみるだけで良質な鮭というのが良く分かる。刺身というのもありだが、流石に寄生虫が心配なので、今回はしっかりと火を通し、野菜も食べれる料理に仕上げてみようと思う。

 

「まずは味噌と砂糖をみりんと酒で溶かして、摩り下ろしたにんにくっと」

 

まずはタレから作る。作っている最中に作っても良いが、それだと焦ってしまってちゃんと溶けてなかったりするのでこういうのは先に作っておくのが1番良い。

 

「じゃがいも、キャベツ、ピーマン、玉葱」

 

じゃがいもは剥いて、半月切り、ピーマンはヘタと種を取り除いて1cm幅に切り、たまねぎは皮を剥いてくし切り、キャベツはざく切りにする。

 

「準備完了っと」

 

フライパンにサラダ油を入れて中火で加熱し、鮭を皮の面を下にしてフライパンの中にいれ、開いている所にじゃがいもを入れて焼き色が付くまで焼いたら野菜を全部入れてタレを回し入れたら蓋をして蒸し焼きにする。

 

「うん、良い香りだ」

 

味噌の焼ける香りは食欲を誘う、それに新鮮な野菜と鮭で不味い訳がない。

 

「良い仕上がりだな、最後にバターを落としてっと」

 

タレの水分だけで蒸し焼きにしたら最後にバターを落として風味と味に深みを与えてやれば、特製ちゃんちゃん焼きの完成だ

 

「さてと持って行くか」

 

フィンには酒をつけるつもりは無いが、態々来てくれたオシリスファミリアの2人には日本酒……オラリオ風に言えば極東酒の瓶をつけて俺はちゃんちゃん焼きを運んで行くのだった……。

 

 

 

自分を殺しに来た相手を家の中に招き入れるとか正気かと思いはしたが、カワサキは僕よりも強いので僕を無力化する自信があるから招き入れたのだとすぐに分かった。

 

「鮭のちゃんちゃん焼きだ、食ったら帰れよ」

 

ぶっきらぼうに差し出された料理は馴染みのない香りをしていたが、それは不思議と食欲を誘う香りだった。

 

「いただくよ」

 

「ん」

 

作ってもらったのでしっかりと頭を下げてから皿の真ん中に盛り付けられている鮭にフォークを向けて、1口分切り分けて頬張った。出来立てで熱々、鮭の脂が溶け出しているのと甘辛いタレが食欲を強く刺激する。

 

「美味しい」

 

物を食べて美味しいと思ったのは何時振りだろうか? 派手ではないし、味が濃いわけでもない、それなのに料理へと伸ばす手は止まらない。そんな不思議な料理だった……。

 

(これは野菜の甘みか、調味料だけの味じゃないし……凄く味に深みがある)

 

調味料と食材の味が全て溶け出し、野菜と鮭にもしっかりと絡んでいて、とても美味しい。

 

「カワサキ。僕は間違っていたのだろうか?」

 

「全部何もかも間違ってるんじゃねえのかお前」

 

「具体的には?」

 

「小人族小人族いってお前が舐められるのがイヤ、結局お前自身が小人族を見下してるところ」

 

ぐうの音も出ない正論に料理を食べていた手が止まった。

 

「本当に小人族がお前の思想に共感しているならお前がつぶれている間に立ち上がらせにくるだろ? 少なくともリヴェリアはそうだった」

 

エルフの王族であるリヴェリアを立ち上がらせる為に何人ものエルフが尋ねてきていたが、僕の元には誰も来なかった。

 

「確かに立ち位置が良くなるのは小人族もうれしいかもしれんが、そこにそこまで拘ってないっていうのが小人族の総意じゃないか?」

 

確かにそう言われてみると他の小人と僕の間には温度差があったような……カワサキからあれやこれやと指摘されればされるほどに自分に足りなかった物、やらなければなら無かった事が次々と思い浮かんでくる……だからこそ僕はカワサキにあることを尋ねていた。

 

「僕はどうすればよかったんだ?」

 

「んなもんは知らん。だがな打算や計算で助けられても相手には伝わっちまうんだよ。だからお前自分が思うほど人徳ないんじゃないのか?」

 

人徳がないと言われて何を馬鹿なと思ったが、確かにそういわれると僕は自分の事ばかりを考えて相手の事を考えていなかったな。カワサキの言葉は不思議とストンと胸の中に落ちた感じがした。

 

「ありがとう、上手くは言えないけど……何か分かった気がする」

 

「まぁそんなら良いけどな、食ったら帰れ、お前がいると子供達が怖がる」

 

シッシっと手を振られまだ食べてないと言おうとしたが料理の盛り付けられていた皿は空っぽになっていた。何時の間にと思ったが、食べたのは僕しかいないのでそれだけ夢中になって食べていたのかと思わず苦笑した。

 

「ご馳走様、また来るよ」

 

「もう来るな、お前はめんどくさい」

 

酷い言われようだとは思ったが僕のやってきたことを考えれば当然かと苦笑し、少しだけ清清しい気持ちでロキファミリアに帰った僕を待っていたのは……。

 

「正座ぁ! 正座しろフィンッ!!」

 

「お主は何をやっておるかッ!」

 

「ホンマに勘弁してや! なにをやってくれたんや!!」

 

リヴェリア達の怒号に出迎えれた。前までの僕ならばきっとリヴェリア達の言葉を無視していたか、怒鳴り返していただろう……。

 

「すまない、僕が全部悪い、許して「許すかアホォッ!!」

 

素直に謝罪したのだが、ロキの勢いの乗った膝蹴りが僕の顔面を捉え、僕の意識は闇の中へと沈んでいったのだが、僕は自分でも嘘だと思うほどに清清しい気分のまま意識を失った……。

 

「なんでこんなに清清しい顔をしてるんだ……」

 

「もしかしてカワサキの所へ? 迷惑を掛けていたかもしれん、謝りに行ってくる」

 

「俺も行くぞ」

 

フィンが僅かに立ち直り、ロキファミリアが本当の意味で再始動を始めようとしたが、それは余りにも遅くオラリオを滅ぼそうとする悪意は動き出そうとしているのだった……。

 

 

下拵え 始まる滅び へ続く

 

 




フィンは他の小人族との温度差があったと思います。小人族の復興、復興といいますけど他にその目的に賛同している小人族が多いとは思えないですし、そしてそれを指摘してくれるひとがいなかったのがある意味フィンの不幸だったのではないかと思っております。アニメを見ても、漫画を見て、これはちょっとおかしいよなあと思ったのです。これは私の独自解釈と判断なのでこれは違うんじゃないかと思うかもしれませんが、もしその場合はご指摘してもらえると嬉しいです。

オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは

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