ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか? 作:混沌の魔法使い
下拵え 滅びに怯える者
ダイダロス通りに住む連中はギルドが定めた避難所にいけない連中が多かった。脛に傷を持つ者が多いし、冒険者としての資格を剥奪された者もいる。闇派閥のような悪人はいなくとも善人もいない。それがダイダロス通りにいる大人連中だ。闇派閥がこれだけ大規模進撃を始めても避難する場所のない連中はダイダロス通りに残らざるをえなかった。それは逃れることの出来ない死と隣り合わせであるという事を意味している……筈だった。
「あんた本当にとんでもない道具を持ってるね」
「備えておいたのさ、それにフェルズもウラノスもどうもダイダロス通りの連中を避難させるのは少し難しいと言っていたからな。むかつく事ではあるが理解は出来る……」
広げられたスクロールの近くで何時ものように鍋をかき回しているカワサキはギルドの対応には思うことがあるのか、少し言葉に棘があった。
「ギルドナイトを派遣することで対応はしてますよ」
「ギルド長も本当は避難させたがっていたのです」
「あいつの考えは分かるさ、分かっても納得できるかは別問題だ」
ギルド長であるフェルズとカワサキはかなり仲が良いみたいだから、ギルドの対応には不満しかないのだろう。
「それでカワサキさんが使ってる、このえーっと……」
「生命拒否の繭の巻物か?」
「そう、それです。その生命拒否の繭の持続時間はどれほどで?」
「とりあえず今日1日は大丈夫だな。一応避難所にも預けては来てるが数がそんなにないからな、出来れば早めにケリをつけて欲しいもんだ。うっし、出来た。飯が出来たぞー、集まれー」
カワサキの呼びかけで子供達と隠れている大人達が姿を見せるが、全員顔色は当然良くない。
(確かにカワサキのいう通りかもね)
今のオラリオの冒険者の格は余りにも低い、問題児は多かったが最強のゼウス、そして最狂のヘラファミリア、悪辣だが、闇の正義を貫くオシリスファミリア。有事の際に大丈夫だという安心感があったが、今のオラリオにはそれがなく、誰もが不安と恐怖を抱えている。なにか劇的な一手が無ければ闇派閥とは関係のないところで瓦解しそうだ。誰もが口にしないが、自分の喉元に剣が突きつけられているのを全員が感じていた。
「そう不安そうにするな、俺の知り合いで腕の立つ奴を呼んでる」
「カワサキさんの知り合い……ですか?」
「あんたがここに来る前の知り合いかい?」
「おう、俺の知ってる中であいつほど腕がいい奴はいないからな」
スープで米を煮込んだ料理を配りながらカワサキがそんな事を話していると1人の男の声が割り込んで来た。
「腕が立つっていうのは俺の事か?」
「お前以外に誰がいるよ。ザルド」
目元に傷のある赤髪の男の姿に引退した冒険者とギルドナイトの間に緊張が走った。
「暴喰ッ!? ゼウスファミリアの……ッ!?」
「どういう人脈をしてるんですか貴方は!?」
どこにいるのか分からないゼウスファミリアのザルドを助っ人で呼び寄せた。いつも驚かされているが、今回ほど驚いた事はない。
「必要な力だろ? ザルド、飯食うか?」
「雑炊か、貰う。食ったらすぐに出る」
ザルドは雑炊をかっ込むとすぐにダイダロス通りを出て行き、カワサキも良しっというと膝をたたいて立ち上がった。
「んじゃあ後は頼むわ」
「は? 待て待てまさかあんたッ!?」
止める間もなくカワサキはダイダロス通りを出て行ってしまった。カワサキを追ってもらいたいがギルドナイトは勿論、引退した冒険者もダイダロス通りを守るのに必要な戦力であり、カワサキを追わせるわけには行かず、あたし達に出来るのはカワサキが無事に戻って来る事を祈ることだけだった……。
下種、外道はこういう騒動に便乗して動く者である。日が落ち、オッタル達に疲れも出てきた頃合である今がグレーゾーンのファミリアが動く時だと予想していたのだが……。
「思ったよりも下種が多くて困るな」
火事場泥棒、負傷している女の冒険者を狙う屑と思った以上に屑が多かった。
「やっぱりオシリスファミリアは必要だよな」
やりすぎていたかもしれないが、やはりオシリスファミリアは必要悪、そして抑止力として必要不可欠だったと俺は思っている。
「さてと……そろそろ行くか」
ある程度は叩きのめして縛り上げているが、これでは焼け石に水だ。俺の予想では闇派閥……いや、タナトスによって狂わされた連中を利用してあくどい事をしてる連中がいると俺は踏んでいる。だからあえて何人かを見逃した……ある程度痛めつければ慌てふためいて自分の拠点に戻るだろうから追いかけて一網打尽にしたほうが早いからだ。
(マーキングアイテムは作動してるな、良し)
幸いユグドラシルで逃げるモンスターを追いかける時に使用したマーキングアイテムは今までも何度も使っていたので心配はしていない。強いて言えばオラリオの外に逃げられることを危惧していたが、オラリオの外には出ていないようで安心した。
「考えられるのはザニスか」
ソーマファミリアの元団長、定期的にソーマを飲んでいたのでソーマに対する耐性はあることを考えれば暗躍してるのは間違いなくザニス達だろう。
「後はつまらない小悪党という所ですかね」
「……アーディか。どうしたんだ?」
「どうしたんだ? はこっちの台詞ですよ。何やってるんですか、カワサキさん」
ジト目で見つめてくるアーディにやれやれと肩を竦め、俺の顔の前に指を突き出してきた。
「強いのはわかりますが、冒険者じゃないのに無理をしないでください。早くダイダロス通りに……「ガネーシャファミリアで動けるの何人いる?」
アーディの言葉を遮り、アーディの権限で動かせる人員が何人いるのか尋ねる。
「4人くらいなら何とか、何をするんです?」
「この騒動に乗じて悪巧みしてる連中をぶっ潰すってのはどうよ? 場所は特定してるから突っ込んであとはぶちのめして縛り上げるだけだ」
「何をやってるんですかって言いたいですけど、逃げられても面倒ですね。ガネーシャからも便乗してる連中を捕捉するように言われてますし、行きましょう。でもカワサキさんは無理はしないでくださいね」
ガネーシャも俺と同じ読みってことか、1人でも何とかなるが人数が多いほうが出来ることも多いからアーディ達の力をありがたく借りることにしよう。
「うわ、装備がこんなに」
「ヴァリスもある……」
「でもおかしくないか? 誰もいない、これ1人や2人で運べる量じゃないぞ?」
「カワサキさん、言ってたこととちがくないですか?」
「おかしい……どうなってる?」
逃がした奴につけて置いたマーキングアイテムは間違いなく機能している。だからアイテムやヴァリス、装備、怪我をしている女性冒険者達を発見することが出来た。だがアーディ達の言う通り、ここに運び込んだであろう犯罪者達の姿はどこにもないのであった……。
「どうなってる……んー……」
壁を叩いたりしてみるが反応はない、おかしいマーキングアイテムはちゃんと機能しているんだが……。
「追われてるのに気づいて逃げたんじゃないですか?」
「その可能性もあるが……うーむ」
ここでザニスを捕まえるつもりが逃げられたか、隠れられた。
(隠密のスキルか? アイテムか……それともフェルズ達が把握していないなにかが……)
もう少し調べたい気持ちもあるが、再び表通りが騒がしくなって来たことを考えると第二進攻が始まった可能性もある。俺だけならユグドラシルのアイテムを連発してどうとでもあるが、アーディ達に負傷者が多数いる状況で派手に立ち回るのは避けるべきであると言うのは誰の目から見ても明らかだった。
「カワサキさん! もう良いですよね? 孤立する前に拠点に戻りましょう」
「怪我人も連れて行かないと行けねぇ。見つからない犯人を捜すのはここまでにしようぜ」
「分ってる。急ごう、怪我人を抱えて孤立する訳には行かないからな」
敵はさほど強いわけでは無いが数で押し込まれると瓦解しかねない、折角避難させて保護した人達に死なれても困る。後ろ髪を引かれるが、アーディ達のいう通り撤退することを決め、俺達は拉致されていた人達を連れて防衛線まで引き返した。
「おかしい、どうなってる……」
タナトスの進攻を退けた後にもう1度この場所を訪れたのだが、マーキングの反応は完全に途絶えており、再びマーキングに反応が訪れたのは7年後の事なのだった……。
「いないだと……ちっ……やはり最悪の状況になりつつあるな」
ゼウスとヘラに協力を得られなかった際のエレボスの最終兵器――神獣の触手は37階層から姿を消しており、その事を確認に来ていたエレボスは自分の想定よりも自体が悪化している事を実感し、逃げるように37階層を後にするのだった……。
メニュー36 親子丼へ続く
中々流れが難しく苦戦中です。とは言え、一気に終わりというのもあれなので、なんとかカワサキさんを交えながらタナトスとの戦いを上手く書いて行こうと思います。次回は1回料理を入れて話と文を整理したいと思います。ちょっと稚拙な部分もあると自覚しているのでご指摘などもらえると嬉しいです、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは
-
間違っている
-
間違っていない