ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか? 作:混沌の魔法使い
メニュー37 豚汁
狂った闇派閥の冒険者との戦いは結局一晩中続いた。手足を失おうが、贓物が零れ落ちようが襲ってくる闇派閥は正直恐怖を覚えたが、カワサキに教わった意識を刈り取る打撃は非常に効果的で頭、顎先を狙う事で意識を刈り取りその間に縛り上げて拘束するという手段に出ることが出来た事で体力やアイテムを温存する事が出来た。直接戦っていればアレンやヘディンのように力尽きていた可能性もあった。
「それでオッタル。闇派閥に関してだけど何か分かった?」
「は、ソーマのファミリアを脱退したザニス達が持ち逃げした神酒に酔って狂っていたそうです」
ソーマに対しての責任追及は勿論あったが、脱退した眷属に神酒を持ち逃げされる事は想定出来なかったとまでは言わないが、神酒を元に闇派閥の神々が毒性を高めて正気を失わせる事に特化した物を作り出すのは想定出来なかったということでギルドからは無罪放免の沙汰が下されている。
「狂った冒険者達はダンジョンに逃げ込んだそうね?」
「はい。確実に罠だと思われますがギルドは掃討作戦に出るそうです」
闇派閥との総力戦はダンジョンでの戦いになるが、オラリオの防衛勢も残す必要があるので厳しい戦いとなるだろう。
「そう、戦ってみた感想はどうかしら?」
「下層のモンスターに匹敵する脅威かと」
ダメージをダメージと感じ取らない感覚の麻痺は思ったよりも厄介であり、膂力なども強化されているので非常に脅威であった。闇派閥の多くは策謀、暗殺、毒殺といったまともに戦う者は少ないがレベル4・5がざらにいる。その高レベルによって齎される恩恵を全て自分の身体を度外視にし、攻撃するだけで自分の手足が砕けるほどの力で攻撃を続けてくるのはある意味モンスターよりも厄介な相手といえた。
「フレイヤ様は決着がつくまでホームから出ないように、では失礼します」
「ええ、オッタル。貴方が勝利して帰ってくるのを待っているわ」
フレイヤ様に見送られ厳重な警備体制を敷いている戦いの野を後にしてダンジョンの前の最終防衛線であるバリケードの元へ向かうとザルドがカワサキの前に陣取っているのが見えた。
「よう、クソガキ。元気そうだな?」
「……あんたもな、ザルド」
歳はとっているだが俺の記憶よりもずっと力を増しているザルドの姿に思わず腕に力がはいる。
「この襲撃のケリがついたら相手をしてやる。どれくらい強くなったか見てやるよ」
「……それは良い。俺がどこまであんた達に追いつけたのか、それとも追い越せたのか確かめさせて貰う」
闇派閥の進攻を食い止めるのは勿論そうだが、それ以上にザルドと手合わせ出来るという事に俺は興奮を隠しきれなかった。
「まぁほどほどにな」
「分ってる、少し揉んでやるだけさ」
「ザルド。油断するなよ? オッタルは短い間だが俺が鍛えた。大分強くなってるぞ、なぁ? オッタル」
「あ、ああ。前のように簡単には負けない」
「そうだと良いがな」
ザルド……いや、ゼウスファミリアがいる時は悔しいと思った事が多かったが、今こうしてザルドと再会すると言葉に出来ない歓喜があった。俺の目標は目標のまま強くいてくれているのか、俺は何処までその強さに追いつけたのか、闇派閥の討伐は今の俺にとっては最早おまけでしか無く、この後で待ち受けるザルドとの戦いが全てになりつつあるのだった……。
ソーマ、ギルドへの責任追及の声は少なくは無かった。だがそれ以上に責任を追及しようとしているファミリアの多くは闇派閥はもう動かないと高を括っていた連中が多く、どの口で文句を言うかとフェルズとウラノスが黙らせた。ギルドは警戒するように、力をつけるようにと連絡を入れていたのにそれに従わなかった事による被害の増加なので自業自得だろう。
「こんなかんじ?」
「上手に出来てるぞ」
「ん、がんばる」
「ぼくもがんばるー」
ダイダロス通りの子供達は渡した子供用の包丁で野菜を切っている。形は歪だが逆にそれが良いと俺は思う。
(ん、これも良い調子だな)
本当はおにぎりとかの方が良いが、かなりの人数が来ることが予想されるのでおにぎりを作っている時間はないので釜にあさりの剥き身と生姜、そして醤油、酒、みりんと水を加えてあさりご飯を作っておくことにする。
「いちょうのはの形に切る……切る……」
「そんなに緊張しなくても良いのに」
身体に力が入りまくりのアイズとその隣で軽やかに人参を切っているのを見ながら俺は玉葱をくし切りにする。
(玉葱は涙が出るから嫌がるし、ごぼうの笹がきは危ないからな)
玉葱をくし切りにしてから、そのままごぼうも笹がきにする。
「じゃがいもは8等分で良いですか?」
「おう、食べやすい大きさで頼む」
「はーい」
手伝ってくれているアーディは結構慣れた手付きでじゃがいもの皮を剥いて8等分にしてくれているので任せて大丈夫だと判断し、大鍋の中に大量の豚こまと豚ばらをたっぷりと入れてくし切りにした玉葱も加えて炒める。豚こまと豚ばらから脂が出てきたらリリ達が切ってくれた野菜も全部大鍋の中に入れて豚肉の脂を絡めるように炒める。
「カワサキ。このボトルは?」
「出汁の元」
「……大丈夫なのか?」
「良く使ってるから大丈夫」
「……本当に?」
シャクテイが心配そうに本当に大丈夫か? と尋ねてくるが大丈夫だと言いながら無限の水差しから水を鍋の中に注ぎいれ、出汁の元も途中まで計算していたが面倒になって来たので自分の勘で鍋の中に入れて煮込む。
(煮立ってきたらアクを取り除いてっと)
アクを何度も取り除きアクが出て来なくなったら蓋をして10分ほど煮てから味噌を出汁で溶かし、醤油とみりんで味を調える。
「……これでよしっと……飯が出来たぞーッ!」
しっかりと味が馴染んだのを確認してから豚汁の鍋とあさりご飯を炊いていた釜の蓋を開け、飯が出来たと広場に向かって叫ぶのだった……。
茶色く炊かれた米と具材がたっぷりのスープは冷えた身体にはとてもありがたい一品だった。
「この米美味いな、カワサキさん」
「あさりの出汁が出てるからな、美味いか?」
「めちゃくちゃ美味い」
米にしみこんでいる出汁の旨味と醤油の香り。オラリオでは……いや、極東を除けばどこの国だって食べられない味だ。
「肉が入ってるほうが嬉しいけど、これはこれで美味しい」
「次は肉を使った料理が欲しい」
ティオナとティオネの言葉にカワサキさんは分かってると言って笑った。
「この戦いが終わったら美味い肉を山ほど用意してやる。だからちゃんと戻ってこい、良いな?」
「当たり前だ。美味い肉楽しみにしてるぜ」
このスープに入っているたっぷりの豚肉も美味いが、カワサキさんが態々美味い肉を用意してくれるというのは実に楽しみだった。
「BBQか?」
「おう、ザルドも喰うだろ?」
「そのためにお前の助っ人の頼みを引き受けたんだ。前に出してくれたでかい肉を頼むぞ」
「はいはいっと、あと美味い酒も出すぜ」
「それは楽しみだな、おう。ガキ共、しっかり飯を食って力をつけておけよ」
言われなくても判っていると返事を返しあさりご飯を頬張り、豚汁を啜る。今回の襲撃は切り抜けたが、ダンジョン内部の闇派閥掃討作戦は今まで以上に厳しい戦いになる。しっかり飯を食って、身体を休めて最後の戦いに備える。闇派閥との因縁は今日断ち切るのだと決意を新たに、どんなに厳しく辛い戦いでも戦い抜いてみせる……そう思っていたのだが、ダンジョンで待ち受けていたのは、俺の想像を遥かに越えるおぞましい悪意その物なのだった……。
カワサキさんの後を付いていったことで、ギルド長であるフェルズとウラノスから早く話を聞いていた私達アストレアファミリアは、装備やアイテムを数多く取り揃える事が出来たので、昨日の夜からの激闘をなんとか凌ぐ事が出来ていた。
「かなり疲れましたね」
「ええ。まさか一晩戦い続けることになるとは、思ってもみませんでしたね」
休憩と装備の点検、僅かに休む時間はあったものの、ダンジョンに潜るよりもずっと疲れた。
「豚汁とあさりご飯だ。凝った料理を作ってる時間が無かったからこれで勘弁な」
「いえ、大丈夫です。いただきます」
疲労と冷えた身体に温かい料理ほどありがたい物はない。ありがとうございますと頭を下げて豚汁とご飯を受け取る。
「温かい……」
「味噌汁ですか……これはありがたいですね」
御椀から伝わってくる熱に思わず笑みを浮かべながら、豚汁を1口口に含む。オラリオにはない、極東の調味料を使っているからか、塩辛い独特の味付けだ。
「この塩辛い味……なにか癖になりますね」
「そうね、温かくて美味しいわ」
豚肉がたっぷりと入っているので、脂が溶け出していてその濃厚な味に笑みが零れる。
「野菜もたっぷりで嬉しいですね」
「野菜の甘さが溶け出してて美味しいね」
子供達が手伝っていたのは見ていたので、形が歪な野菜もご愛嬌だ。
「あふっ! あふっ……ふー……あー熱い!」
「あちっ……ふふ、でも美味しいですね」
野菜にもしっかりとスープが染みこんでいて、噛み締めると口の中にスープが溢れる。野菜の甘さと味噌の塩辛さが口の中に溢れ、冷えた身体を温める。
「ふー……ふー……豚肉も美味しい。これ2つ使ってるみたいね」
脂の少ない肉と脂がたっぷりの肉の2種類が使われているので、味と食感に変化があって美味しくて面白い。
「このご飯も美味しいですね。小さな貝が良いです」
「本当ね。普通のご飯よりずっと旨みがある」
あさりとカワサキさんは言っていたが、このあさりが凄く良い。プリプリとした独特の食感があって、それでいて味も良い。
「あさりは海の食材ですからね。味噌汁とかすまし汁にしても美味しいですわよ」
海の食材と輝夜に聞かされて驚いたが、確かにこの旨味なら海の食材と言うのも納得だ。
「豚汁にも良く合うし、お腹が空いてるのを別にしても本当に美味しいわね」
「ん。これで次の作戦にも参加できる」
「そうですね。こんなことはこれで終わりにしなければ……」
闇派閥の構成員はその殆どが神酒によって発狂しており、拘束されている今も暴れ続けている。そして拘束出来なかった闇派閥……いや狂っていないと思われる構成員達がダンジョンに逃げ込むのが確認されており、掃討作戦の準備が行なわれている。休息、装備の点検など早くても昼過ぎからの作戦決行になるだろうが、これで闇派閥を一掃すればオラリオに平和が戻ってくる。
「なんとしてもやり遂げましょう。皆で」
「勿論です」
「当たり前ってね」
「ここまで追詰めて取り逃がす訳には行きませんからね」
闇派閥との戦いは何年も続いていた。だがやっとその終わりが見えたのだ。なんとしても終わらせると決意を燃やしているのは私達だけではない。ダンジョンに潜る者全員がこれで終わりにして見せると決意を固めていた。これだけの面子がいれば闇派閥との戦いは終わらせられる……この時の私は心からそう思っていた……。
下拵え 終結へ続く
と言う訳で今回はここまで、闇派閥との決戦は暗黒の終わりまでの後5話の間に回想という形で少しだけ書いてみようと思います。その理由としては……何度か書きましたが納得の行く仕上がりに出来なかったからですね。無念ではありますが、上手く纏められない以上きっぱりと回想だけにしてみようと思います。どんな感じになっていたのか少しだけですが書いてみますので、それで雰囲気を掴んでもらえたら幸いです。
オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは
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間違っている
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間違っていない