ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか?   作:混沌の魔法使い

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メニュー38 ビーフシチュー

メニュー38 ビーフシチュー

 

闇派閥の戦力の8割を削ぎ、闇派閥を実質壊滅させた後の最初の神会に参加していた目立つ赤髪と眼帯をした1人の女神はその議題に眉を細めた。いや、まともな考えが出来る神達は何を馬鹿な事を言っていると憤りを露にしていた。

 

「カワサキには闇派閥と繋がっていた疑いがある。即刻追放するべきだ」

 

「オシリスファミリアの団員と話をしていたのも目撃されている。そんな人間をオラリオにおいておくのは危険だ」

 

闇派閥との戦いの中で目撃されたオシリスファミリアの構成員。彼らは確かに闇派閥であったが、彼らのお蔭で被害を抑えることが出来た。恐らくだが世界を旅していたカワサキはオシリスファミリアと繋がりがあったのだ。闇派閥が攻勢に出る可能性を考えて呼び寄せていた可能性はあった。

 

「オシリスファミリアに関しては私とフェルズが許可を出した。現在のオラリオの戦力では闇派閥は止められないからな」

 

「だとしても闇派閥とつながりのある者を「良い加減にして、カワサキを責めるけど貴方達のファミリアは闇派閥との戦いの中で何か出来たの!?」……そ、それは……」

 

カワサキを責めている神はこの戦いの中で役に立てなかったファミリアの主神ばかりだ。自分達の権限が弱くなるのを恐れてカワサキの追放を叫んでいる。

 

「カワサキは今はどこのファミリアにも所属していない。彼には何処かのファミリアに所属して貰うべきではないでしょうか?」

 

「ダイダロス通りを復興して、オラリオに平和を齎す一助となった彼にはオラリオに留まって貰うべきですよ」

 

続く声はカワサキを追放するのではなく、カワサキをファミリアに所属させその名声を得ようと考える神々の声。

 

(聞くに堪えないね)

 

確かにあたしもこの戦いで役に立ったかと言われるとそうでは無いが、それでも自分達の為にカワサキを利用とする神々には正直むかっ腹が立っていた。

 

「ギルドとしてはカワサキに関しては彼自身の考えを最大限考慮する。ギルドにも、ファミリアにも所属していないカワサキには命令するつもりはない、そしてカワサキに勧誘および害を成す為に接触した場合はそれ相応のペナルティを負って貰う。これは決定事項だ」

 

ウラノスの決定にブーイングを飛ばす神々にうんざりし、ホームへと帰ったのだが……。

 

「主神様。客が来られております」

 

「客? オーダーメイドの依頼ならあんたが……って」

 

「あんたがヘファイストスか、ちっと商売道具について話があるんだがな。今時間良いか?」

 

ファミリアの団長の椿・コルブランドが言いにくそうにする中。応接間から顔を出したカワサキの姿にあたしは直感的に厄介ごとが向こうから飛び込んできたと頭を抱えたのだが……

 

「アルミホイル……鉄を紙状に……へえ、調理に使えるのかい……作り方はこの本にあるのか」

 

「俺は料理人だから作れたりしないんだが、どうだろうか? あんたは凄腕の鍛治師と聞いた。なんとか作れないだろうか? 発生する利益は4割をダイダロス通りに、残りの6割はあんたが好きにして良い」

 

オラリオにはない知識、そして道具を持ち込み作れないかと言い出し、しかも利益の配分はこちらが上だと言い出す。

 

「あんた知識の安売りはどうかと思うよ」

 

「いや、俺は近いうちにオラリオを離れる。ダイダロス通りのガキ共が暮らしていけるだけの準備をしたい」

 

「なんでオラリオ……いや、権力争いに巻き込まれるのが嫌なのか」

 

「まぁそんな所だ。他にも協力してくれそうな連中にも声を掛けてる。俺を助けると思って協力してくれないか?」

 

オラリオの恩人が追われる様にオラリオを出て行こうとしている。だがそれでも自分に懐いている子供達を無碍にも出来ず、そして自分がいなくとも子供達が暮らしていける環境を整えようとしているカワサキの頼みを断れる訳が無かった。

 

「分ったよ。引き受ける」

 

「助かるよ。じゃあ、あとはこれとこれと……これも作って欲しい」

 

ただ引き受けるといった瞬間に次々とあれを作れ、これを作れと言い出し安請け合いをしたかと後悔したのだが……。

 

「金はないからこれで引き受けてくれ」

 

「……あんた、これどこで」

 

「俺の地元での拾い物だ。鍛治師にはやっぱりこれだろ」

 

そう言われ後悔したのは一瞬で山積みされたミスリル等の貴重な鉱物に、引き受けてよかったと心からそう思うのだった……。

 

 

 

ヘファイストスファミリアのヘファイストスに鉱物を渡し、これから必要になるであろう道具の製作依頼をしてからダイダロス通りに戻って来た俺は昨晩から漬け込んでいた牛肉を冷蔵庫から取り出して思わず笑っていた。

 

「良い具合だな」

 

牛脛肉をブライン液というと洒落た風に思えるが、簡単に言えば塩水だ。水に砂糖と塩を混ぜた溶液だ。水に対して5%ずつの塩と砂糖を加えて混ぜた物に肉を漬け込むのだ。塩が肉の蛋白質を分解し、中に水が入って行き肉を柔らかくする。更に塩は肉の中に水を閉じ込めるのでジューシーさが保たれ、砂糖を加える事で甘みと保水性もあがり、加熱しても肉がパサパサになりにくくなるのだ。

 

「じゃあ始めるか」

 

ブライン液から取り出した牛肉を豪快に切り分け、塩胡椒を振ってしっかりと下味をつけてからフライパンで焼き色をつける。この時の焼くイメージは焼き固めるつもりで全面をしっかりと焼く、こうすることで長時間煮込んでも煮崩れしないようになるのだ。

 

「良し、これでOKっと」

 

焼き色がついたらフライパンから取り出し、赤ワインを加えて肉の脂を溶かすようにかき混ぜ、それを1度ボウルの中に移す。

 

「美味いものを食わしてやるって約束したからな」

 

生きて帰って来たら美味いものを食わしてやると約束したのに、俺は負傷し飯を作ってやれなかった。だから今回は腕によりを掛けてご馳走を作るつもりだ。

 

「3cmに切った玉葱と半分に切って芽を取り除いたにんにく」

 

サラダ油を敷いた大鍋の中に3cm幅に切った玉葱をたっぷりと入れ、半分に切って芽を取り除いたにんにくを加えて塩を振ってから強火で炒める。玉葱が透き通って来たら火を中火にしていちょう切りにした人参と玉葱と同じく3cm幅に切ったセロリを加えて焦げ付かないようにかき混ぜながら更に炒める。

 

「良し、ここでトマトだな」

 

野菜にツヤが出てきたら角切りにしたトマトを加えて火を通し、全体が良く馴染んだら先ほど肉を炒めたフライパンに入れた赤ワインを加え、水分が半分くらいになるまで煮詰める。

 

「作っておいてよかったな」

 

ハンバーグなどに使うデミグラスソースとチキンブイヨンを加えて一煮立ちさせたら、先ほど焼いた牛肉を全部鍋の中に加え、タイム、ローリエ、セロリの茎を加えて弱火で煮詰める。

 

「ここからだな」

 

弱火でじっくりと煮詰め、灰汁が出てきたら灰汁を取り除き、煮詰めた事で肉が見えてきたらチキンブイヨンを加えてまた煮詰める。これを2時間ほど続け、ソースの全体的なカサが減り、肉がソースにひたひたに浸って来たら肉と香草を1度鍋から取り出し、野菜とソースをこし器に上げレードルで潰しながらソースを漉す。煮込んだ野菜は具材ではなくソースの材料に過ぎない。ここでしっかりと潰して野菜の旨味とソースを鍋へと移しお玉で持ち上げる。

 

「良し、完璧」

 

ツヤがありさらさらとしたビーフシチューのソースを味見する。少し味が物足りなかったので塩胡椒で味を調えて取り出しておいた牛肉を鍋の中へと戻して蓋をして休ませる。

 

「さてとおやつでも準備するか」

 

ベート達が来るのは夜なので、それまでビーフシチューを休ませて、ベート達が着てから野菜を蒸すのでここで1度調理を止めて、学校に行っているリリ達の為のおやつでも作るかと思い薄力粉とベーキングパウダーを振るいにかけてホットケーキの粉を作り始めるのだった……。

 

 

 

闇派閥との戦いは辛うじて俺達の勝利だった。だがそこに俺の活躍があったかというとそうではない。

 

(俺はまだまだ弱い、分ってた事だ。分ってたけど……みっともねえ)

 

心身共に鍛えてきたつもりだった。だが俺はまだまだ弱い、弱くて弱くてみっともない。寝ても覚めてもあの悪夢が脳裏を離れない……。

 

【ヒャハッ! ヒャハハハハッ! どうした、怖いのか! 怯えているのかッ!! ヒャハハハハハハッ!!! これが全てを壊す力だッ!!!】

 

モンスターと融合したタナトスの狂笑とあのおぞましい姿、そしてモンスターの細胞を植え付けられ化物となった闇派閥の団員達の姿に俺は恥ずかしい事に完全に足が竦んでしまっていた。

 

『筋は良いが、まだまだだな。獣人なら獣人らしい戦い方の1つや2つ使え』

 

『うふふふ、その通りね。正道に拘ってるだけじゃ格上には勝てないわよ。ぼ・う・や♪』

 

おぞましい光景に恐怖し、動けなくなった俺は化物達にとって格好の獲物だった。防御も回避も出来ず凄まじい一撃を喰らって死に掛けていた俺を救ったのはオシリスファミリアの黒皇子と鮮血姫だった。あの2人がいなければ俺は間違いなく死んでいた。だがそれでも、殺しと殺戮を楽しむあの2人のような強さは俺は欲しくなかった。

 

(強い……か、言葉にするのは簡単なんだけどな)

 

強さ、強いという意味を俺はカワサキさんに聞いた筈なのに、目指す高みはまだ見えていない。俺はこれからどうすれば良いのか、どう進んで行けば良いのか分らなかった。カワサキさんから約束していた美味い飯が出来たと連絡が入り、食べている間に聞いて見ようと思い。俺はダイダロス通りを訪れていた。

 

「うまぁぁあああいッ! なにこれ!? めちゃくちゃ美味しいッ!」

 

「本当凄く美味しいです」

 

「……美味しいです」

 

「これをライスに掛けても良いか!? 俺はそれが美味いと思う」

 

「このパンのおかわりをください!」

 

招待状が送られたのは俺だけではない、ティオネやティオナ達。他にもアストレアファミリアやガネーシャファミリアの連中もカワサキさんの所を訪ねていたようだ。

 

「ようベート。遅かったな」

 

「ミアハファミリアに顔を出してたからな」

 

「そうか、まぁ良い。腹減っただろ? 今準備するからな」

 

豊潤な香りが鼻を擽るが、それでも頭の中がごちゃごちゃしてるから腹が減ったという感覚は余り感じなかった。

 

「はいはい! カワサキさん! あたしもおかわりください!」

 

「分かった分かった。騒ぐな、すぐ準備してやる」

 

明るく、賑やかだ。カワサキさんがいるからか、その人柄か、カワサキさんの回りはいつも明るく活気に満ちている。

 

「ほれ、ビーフシチューだ。パンも米も用意してるから米が欲しくなったら声を掛けてくれ」

 

そう言って目の前に置かれた料理は食欲がなくても美味いと一目で分かる代物だった。茶色ソースの海の中には大きな肉の塊が2つ、それに蒸し野菜のじゃがいもと人参が添えられたビーフシチューは見ているだけで口の中に唾が沸いてきた。

 

「いただきます」

 

手を合わせてそう言ってからスプーンを手にしてシチューだけを掬って口元に近づける。

 

(凄い香りだ。とんでもない量の野菜が溶けているのか)

 

最初は牛肉の香りで気付けなかったが、狼人の俺の鼻はこのシチューの中にどれだけの野菜が溶かし込まれているのか嗅ぐだけで理解した。

 

「……美味い」

 

「だろ、俺のとっておきだ」

 

牛肉の旨みと野菜が溶けるまで煮込まれたシチューの旨味はまさに暴力的だった。

 

(美味いッ! 野菜の甘さと美味さ、牛の脂が全部溶け出しているッ)

 

シチューをただ作るだけではこうは美味くならない、野菜が溶けるまで煮込み、そして野菜が溶けたスープで牛肉を煮込んでいるからこんなにも美味いのだろう。

 

「……添えてある野菜も美味いな」

 

蒸した野菜だが、塩で最低限の下味がついているので少しビーフシチューにつけて食べるだけでも美味い。シチューと野菜を楽しんだ次はやはりメインの牛肉だろうとスプーンの腹で軽く触るだけで牛肉の塊は簡単に崩れた。

 

「……美味いッ」

 

肉の旨味が全てビーフシチューに溶け出してしまっていると思ったのだが、牛肉にもしっかりと旨味が残っていた。口の中にいれるとほろりと解け、肉汁とビーフシチューの旨味が口の中一杯に広がる。

 

「だろ? 俺の得意料理なんだよ。それでどうしたよベート。浮かない顔をして」

 

俺の前に座ってどうした? と尋ねてくるカワサキさんに俺は手にしていたスプーンを机の上においた。

 

「強いってなんなのかまた分らなくなってな、どうすればもっと強くなれるのか、俺はどうすればもっと強くなれるのかが知り……いてッ!?」

 

鍛えてきたし、努力もした。だがそれでもまだまだ俺は弱いと思い知った。だがどうすれば強くなれるのか俺には分からなかったというとカワサキさんにデコピンで額を弾かれた。

 

「小難しいことを考えてないでまず飯を食え、んで、夜にまた来い。オッタルとザルドが模擬戦をするから見に来い」

 

「それで分るか?」

 

「それはお前次第だ。ほれ、パンも食え」

 

そう言って目の前に置かれたパンを手に取り、ビーフシチューに浸して食べる。美味い、確かに美味いのだが……カワサキさんには悪いが迷いのある俺にはこの美味さはどこか上滑りをしてしまって、その味を心から楽しむ事が出来ないのだった……。

 

 

下拵え 強さ へ続く

 

 




次回はベート、ザルド、オッタルの3人をメインにした話を書いてみようと思います。そこにもしかするとカワサキさんもINするかもしれませんけどね、ザルドとオッタルの勝負は闇派閥の終わりに入れたい話だったのでここはかなり気合を入れて、ベートも迷いをここで断ち切ってもらおうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは

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