ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか?   作:混沌の魔法使い

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メニュー6 カワサキさん ヘラファミリアへ行く

メニュー6 カワサキさん ヘラファミリアへ行く

 

アルフィアとメーテリアの経過観察は順調で少しずつ体力も回復し、顔色も良くなっているとミアハ達からも聞かされる度に思わず笑みが浮かんでしまうほどだ。

 

「良く来てくれましたね、カワサキ」

 

「おう、今日はちょっと差し入れでも作ろうかなって思ってな。キッチンを貸してくれて感謝するよ。ヘラ」

 

「その程度なら幾らでも使ってくれて構わない、アルフィアとメーテリアの礼だ。いや、その程度では礼とは言えないな、忘れてください」

 

アルフィアとメーテリアを救った対価がキッチンを貸すでは余りにも割に合わない。

 

「しかし本当に良いのですか? 望むなら望むだけの財宝とヴァリスを用意しますよ?」

 

「いらんいらん、料理人が財宝で着飾ってどうするよ? それに金も食材を買うだけあればいい、過ぎたる財は身を滅ぼすってな」

 

からからと笑いながらカワサキは私が用意した紅茶を口にする。

 

「堅実な男ですね、貴方は」

 

「人間真面目が一番だろ? まぁ俺は見た目は人間じゃないけどな」

 

はっはっはと快活に笑ったカワサキはそうだそうだと言って首から下げていた鞄を開いて羊皮紙の束を取り出した。

 

「これゼウスの爺さんから、黒龍だっけか? その討伐の為の案と、それを実行してるゼウスファミリアの団員のステイタスのコピーな」

 

「拝見しよう」

 

差し出された羊皮紙の束にさっと目を通し、2枚目からは食い入るように目を通す。

 

(ステイタスが……こんなに、レベルアップも無しに……)

 

ゼウスファミリアの団員全体、特にマキシムとザルドの伸びが凄まじい、それこそレベル9に到達しそうなほどだ。

 

「貴方の料理はこんな事も出来るのですか」

 

「むしろそっちが本来の使い方。治療とかは副産物だな、んで、どうする? 俺に滞在許可くれるか? 女所帯にいるのはまぁ俺もあれだと思うが……必要なことなんだろ?」

 

3大クエストの最後の1つ黒龍討伐には不安があった、アルフィアが健康体になったとは言え衰弱した身体を元に戻すには時間が掛かる。あの人のファミリアと協力するとしても打点が足りないかもしれないという不安がある。だがカワサキの料理でステイタスが上昇しやすくなる効果を付与できるならば、黒龍討伐までの時間で少しでも団員の能力の底上げが望める。

 

「離れを用意する。そこで過ごして貰えるだろうか?」

 

「まぁ妥当な所だろうな。じゃ、これ土産」

 

カワサキが虚空に手を突っ込み、そこから何かを取り出して机の上に並べる。

 

「こ、これは……アダマンタイトにオリハルコン……? これをどこで」

 

「仲間と集めたもんだ、とは言え俺に使い道はないし、これで武器でもこさえてくれ」

 

「……人が良すぎるとか言われませんか?」

 

「……実はよく言われる」

 

何の対価も求めずに気前よく自分の所持品を提供するカワサキが少し心配になるのだった……。

 

 

 

女所帯のヘラファミリアに滞在しながら料理を作り、ヘラファミリアの団員のステイタスの底上げを頼むとゼウスの爺さんに頼まれ、ヘラの許可を得てヘラファミリアの厨房に立ったが……。

 

(設備が断然充実してるな)

 

男の割合が多いゼウスファミリアと比べるのは間違っていると分かっているが、パスタマシンやオーブンに、圧力鍋のような物もあり、キッチンも非常に綺麗だ。

 

「えっとカワサキでしたよね? 使い方は分かりますか?」

 

「ああ、大丈夫使えるよ。それより悪いな、厨房をのっとるみたいになって」

 

「い、いえ、ヘラ様の指示ですから、それに」

 

「それに?」

 

「良い手をしているので」

 

「それをいうならあんたも良い手をしてるよ。料理に命を賭けた人間の手をしてる」

 

料理人の手を見ればどれだけ己を磨いてきたか良く分かる。ヘラファミリアの料理長の手は紛れもなく1流の料理人の手をしていた。

 

「それで何を作るんですか?」

 

「いや、俺はお洒落な料理とかは知らんからまぁ時間的にすぐ作れるので行こうと思う」

 

俺がそう言うと明らかに日系にしか思えない雫は一瞬考える素振りを見せる。

 

「牛乳と生クリームの在庫たっぷりありますよ?」

 

「そいつは良いな、チーズは?」

 

「勿論、小麦粉もありますよ」

 

「OKOK、ソースはこっちでやるからパスタを頼めるか?」

 

「任されました」

 

訂正しよう、雫は超一流の料理人だ。互いに初見でここまで息を合せられるのはそれだけ膨大な料理の知識があるからだ、1を聞いて10を知る……良い料理人だ。

 

(まずはほうれん草としめじ)

 

ほうれん草を沸騰した鍋の中にいれ茹でている間にしめじの石突を取り手で解す。

 

「氷水用意しておきました、サーモンは1口大で準備しますね」

 

「助かる」

 

雫が用意してくれた氷水の桶の中に茹で上がったほうれん草を入れて熱を取り除いてすぐに取り出し3cm幅に切る。

 

「オリーブオイルは上から2つ、右から3つ目、塩・胡椒類はその下です」

 

「ん、OK」

 

自分で料理をしながらも俺が何を探しているのかを理解し、教えてくれる雫に礼を言ってフライパンを取りオリーブオイル、バターを入れて加熱し、バターが溶けたらサーモンを加える。

 

(隠し味っと)

 

アイテムボックスから取り出したスライスしたスモークサーモンをフライパンの中に入れる。スモークサーモンの塩味はかなり濃いので、サーモンの脂とあわせてグッと味に深みが出る。

 

(良し、良い具合っと)

 

サーモンに焼き色がついたらほうれん草としめじを加え、オリーブオイル、バター、サーモンの脂とよく絡め全体が馴染んだら薄力粉を加える。

 

「コンソメの顆粒ってあるのか?」

 

「ありますよ、そこの赤い壷です」

 

言われた壷を開けると確かに顆粒のコンソメがあった。街並みは中世なのに、コンソメの顆粒があるのはありがたいなと思いながら具材に薄力粉が良く絡んだところで牛乳、生クリーム、パスタの茹で水、コンソメ顆粒、味を調えるため塩を加えて全体を馴染ませる。

 

「もうすぐパスタあがりますよ」

 

「分かった。この後は軽くサンドイッチで良いか?」

 

「そうですね、そこにサラダなども付けましょうか?」

 

「OK、それで行こう」

 

ほうれん草としめじとサーモンのクリームパスタとサンドイッチとサラダ。結構バランスのいい組み合わせになったんじゃないのか? と思いながら雫が茹でてくれたパスタを受け取り、完成したクリームソースを絡め、トングでパスタの盛り付け作業を始めるのだった。

 

 

 

 

身体に寄生していたモンスターを排除するのに相当苦しみはしたが、私もメーテリアも経過は順調だ。

 

「気分はどうだ、メーテリア」

 

「凄くいいですよ、お姉様」

 

「そうか、そうか、それは良かった」

 

まだ倦怠感などは残っているが発作は無くなり、少しずつだが身体が健康になっているのを感じていた。特にメーテリアはそれが顕著で、前までは殆ど寝たきりだったのが、今では体調次第ではあるが散歩も出来るまで回復している。

 

「カワサキに感謝しないとな」

 

「そうですね、あの可愛い人に感謝しないと駄目ですね」

 

「……何度も聞くがメーテリアよ。カワサキは可愛いのか?」

 

「可愛いじゃないですか、黄色くてふわふわしてそうで」

 

我が妹ながらその独特な感性にそうかと返事を返すのがやっとの私は昼食の為にメーテリアと共に食堂へ足を踏み入れたのだがそこでは信じられない光景が私を待っていた。

 

「昼はこれしかないけど、夜はちゃんと作るからな」

 

「は、はい。ありがとうございます?」

 

カワサキがなぜか厨房にいて、雫と共に料理をしていた。一瞬目の前の光景が理解出来ず思わず目を擦るが、カワサキの姿は厨房の中にあるままだった。

 

「美味い、ワインが欲しいな」

 

「了解。白、赤?」

 

「白だ」

 

女帝が普通にカワサキにオーダーをしているのを見て、軽い頭痛を覚える。

 

「こんにちわ。可愛い人」

 

「……その可愛い人って止めないか?」

 

「ふふ、そうですか? 私は愛くるしいと思うのですが……お姉様はどう思います?」

 

話を振られるが、到底可愛いとは返事を返せず無言でカワサキの前に立った。

 

「なんかお前の妹感性が独特だな」

 

「お前もそう思うか? それよりも何故お前がいる?」

 

「ゼウスの爺さんからの指示でな、まあなんかいるなくらいで流してくれればいい」

 

これだけ存在感のあるカワサキを流せるかと思うが、ヘラが決めたのならば何か考えがあるのだろうと思い分かったと返事を返す。

 

「ほうれん草としめじとサーモンのクリームパスタとサンドイッチ、それとサラダ。パスタは粉チーズと黒胡椒を好みで振って食べてくれ」

 

トレーに乗せられた料理をメーテリアの分も受け取り、空いている机の上へ乗せる。

 

「食べようか、メーテリア」

 

「そうですね、前はゆっくり味わえませんでしたし、今度はしっかり食べたいですね」

 

にこにこと笑うメーテリアにそうだなと返事を返し、机の上のフォークを手に取りパスタ皿に向ける。

 

「いただきますは?」

 

「は?」

 

「いただきますはどうした?」

 

「い、いただきます」

 

何時の間にか厨房を出ていただきますはどうした? というカワサキの異様な圧力に負けていただきますと言うとカワサキは現れた時と同じ様に何時の間にか厨房の中へ消えていた。

 

(よく判らんやつだ)

 

善人(?)ではあるだろうがどうにも掴み所のない奴だ。それに底が知れないというのも中々面倒な所だ。

 

「お姉様は粉チーズと黒胡椒ですか?」

 

「ん、ああ。貰おう」

 

メーテリアから粉チーズと黒胡椒の入れ物を受け取り、パスタに振りかけてから改めてパスタをフォークで巻き取り口へと運んだ。

 

「ほう……うん、これは」

 

「美味しいですね」

 

メーテリアが素直に美味しいと言いながら微笑む。確かにこのパスタ……いや、クリームソースはかなり美味い。

 

「味がかなり濃い……のだろうか?」

 

「多分そうだと思いますよ、それにサーモンも2つ入っていますよ?」

 

メーテリアに言われて皿を覗き込むと確かに1口大の物とスライスした物の2種類のサーモンが入っていた。

 

「スモークサーモンか……贅沢な事だな」

 

「本当ですねー」

 

スモークサーモンは割りと作るのが面倒だったと記憶しているが、それをソースの中に入れるとは贅沢な事だ。それに味の濃いしめじも入っていてソースの旨みは信じられないほどに濃厚だ。

 

(……だがそれだけではないような)

 

スモークサーモンだけじゃない、濃厚な旨みがあるのは分かるのだが……それがなにかはまるで分からない。

 

「ん、サンドイッチも悪くない」

 

「ふふ、素直に美味しいと仰られたらいいのに」

 

メーテリアはそうは言うが、食堂の中には私と同じ様に複雑な表情を浮かべてるものが大勢いる。人間とは思えない姿をしているが、一応カワサキは男である。冒険者ではあるが、それ以前に女である。料理の腕前で男に負けるのは些か複雑な気分であった。

 

(ヘラに言われた言葉の意味が分かったな)

 

料理を覚えろ、裁縫を、掃除を、子守を覚えろとあれやこれやと口うるさくヘラに言われて来たが、正直無視していた。私は冒険者なのだからと強さを求めて来たのが間違いだとは思ってない……だが。

 

(あれに負けたのか?)

 

雫はまだいい、料理番であり同性だから料理の腕前で負けても何とも思わないのだが……あの短い手足で到底料理など出来ると思えない奇妙な生物に負けたのは少し、いや大分ショックだった。

 

(男に負けてるのか……いや、美味いんだが……腑に落ちん)

 

ザルドの奴も料理の腕前は良いが、多分いや、確実にカワサキはザルドより上だろう。あいつは悪食のスキルで色々と物を食い、美味いものを喰おうとして料理を覚えたと聞いているのでスキルの制御の為と思っていたから全然悔しいとは思わないが、カワサキに負けるのは少し思うところがあった。

 

(美味い、美味いんだがなあ)

 

濃厚なクリームソースに良く絡むモチモチのパスタ。シャキシャキとしたレタスとハムとチーズのサンドイッチも単純ながら美味い、それにサラダは上に掛けられている白いソースがまた絶品だ。

 

「美味しいですね、お姉様」

 

「あ、ああ、そうだな。美味いな」

 

なんというか女としての自信を根こそぎ圧し折られた気分だが……メーテリアの幸せそうな笑みと美味い料理に罪はない。パスタを巻きつけたフォークを口へ運び、私は小さく美味いと呟くのだった……。

 

 

メニュー7 カワサキさんのヘラファミリアの日々 へ続く

 

 




メーテリアさんは多分天然と思うので今作では天然系でお送りします。ヘラファミリアは女所帯なので、男か良く分からないのに料理で負けたらメンタル的なダメージはあるんじゃないかなと流石のアルフィアさんも少しはダメージを受けるだろうと思い、こういう話構成にしたのでご了承願います。次回はヘラファミリアな日々と言う事で女帝とかと絡めてみたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは

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