ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか?   作:混沌の魔法使い

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下拵え 強さ

下拵え 強さ

 

フレイヤ様に頼み込み、闘技場に誰も立ち入らぬようにして貰った。殺し合いではなく、ただ純粋にどちらがより強いのかを競う力比べだ。

 

(……俺は何処まで近づけた。俺は何処まで強くなれた)

 

俺が知りたいのはただそれだけだ。目標であり続けたザルドとマキシム……その1人と戦う事が出来る事に俺の心は熱く激しく燃えていた。

 

「殺し合いじゃないからな。これ以上は駄目だと思ったら止めるぞ」

 

闘技場にいるのは俺とザルドとカワサキとそしてカワサキが連れてきたベートの4人だけだ。誰も邪魔はせず、心行くまで戦う事が出来る環境だ。

 

「それで構わないぜ、この小僧にはそれくらいしてやったほうが良い」

 

ニヤニヤと笑うザルドは背中に背負っていた剣を抜き放ち、闘技場に突き立てた。

 

「俺にこれを使わせて見せろよ、小僧」

 

「……すぐに使わせてやる。俺を前までの俺だと思うなよ」

 

俺も愛用の2振りの剣を闘技場に突き立て、両手を固く握り締めた。

 

「剣を使わなくて良いのか?」

 

「条件は同じで良い。武器を持ってないから負けたなんて言われたくない」

 

「そうかいそうかい、なら全力で行くぞッ!」

 

一瞬だった。一瞬で俺の懐に飛び込んできたザルドの一撃を、咄嗟に両手をクロスさせて防ぐ。

 

「ぐうっあっ!?」

 

しっかり防いだはずなのに、俺の足は地面から引っこ抜かれ大きく後方に向かって弾かれていた。

 

(ガードしてこれか。手が痺れて力が入らない)

 

完全に防いだのにこれだ。ザルドの凄まじい強さを身を持って体験した俺は笑みを浮かべた。

 

「今度は俺の番だッ!!」

 

地面を蹴ってザルドへと突撃し、そのまま勢いでザルドの腹に拳を突き立てる。

 

「なんかしたか? 小僧」

 

渾身の一撃だったが、俺の拳はザルドの腹筋を貫けず、頭を鷲掴みにされて地面に叩きつけられる。

 

「がっ!?「痛がってる場合じゃねえだろ」……ごぼおッ!?」

 

顔を思いっきり蹴られて俺は呻き声を上げて、闘技場の床を激しく転がる。

 

「どうしたどうした? 弱すぎるぞ小僧ッ!!」

 

立ち上がると同時に、ザルドのジャブが俺の顔面を右へ左へ跳ね上げる。カワサキの拳よりも早く威力もあるが、カワサキの物よりも繊細さに欠いている。

 

(……確実に、少しずつ、捌いて、受け流す)

 

勢いの乗っているザルドの攻撃は全てを防げない。顔を守り、守りを固めて頭を左右に振ってすり足で少しずつ前へ前へ出る。

 

(カワサキの守りを抜いてくる拳ほどではない。歯を食いしばって腹に力を入れて耐える)

 

確かにザルドの拳は強烈だが、カワサキの技が加わった拳よりは軽い。少しずつ前に出て右拳を振りぬける距離まで入った次の瞬間……。

 

「甘いぞ、小僧」

 

「がっ!?」

 

俺の右拳を頭を下げて回避し、前に踏み込みながら繰り出されたザルドの右拳が俺の顔面を打ち抜き、俺はそのままザルドにもたれ掛かる様に崩れ落ち、ザルドは1歩後退り、支えを失った俺は顔から闘技場に倒れ込んだ。

 

(何が起きた……痛い、俺は何を貰った……? いや、俺はなにが出来た? 違う……俺は何も出来てない。まだ何も出していないッ!)

 

意識が混濁するほどまでに強烈な一撃だったが、それは俺にとって強烈な気付けとなった。

 

「ふんっ!!」

 

左腕一本で無理矢理身体を跳ね上げ、立ち上がりながら右拳を突き上げる。カワサキに教わったアッパーはザルドの鼻先を掠めただけだったが、確かに俺の拳はザルドを捉えた。

 

「っ!」

 

「ふう……どうもあんたと戦えることに気負っていたようだ」

 

目標を前にして我を失っていたとは情け無い。だが、1度倒れた事で良い具合に頭に上っていた血が抜けた。

 

(ダメージはあんまりない。いける、まだいける)

 

「ちっとは見れる顔になったじゃねえか、来いよ! 小僧ッ!!」

 

「その余裕を消してやるザルドォッ!!」

 

まだ始まったばかりだ。こんな所で終わってたまるかと俺は両拳を固く握り締め、カワサキの教え、そして深層までのソロアタックで培った戦闘技術、その全てを出し切ればザルドにだって負けるわけがない。いや、勝てる筈だと気合を入れ直し、越えたいと思い続けていたザルドへと向かって行くのだった……。

 

 

 

 

 

 

オッタルとザルドの戦いを見ながら、俺は2人の表情に共通点があることに気付いた。

 

「どうした? この程度か?」

 

「まだだ、まだ俺の力の底を見せていないぞザルドッ!」

 

オッタルもザルドも楽しそうなのだ。命掛けの戦いでは無いが、それでも2人が楽しんでいるように見えた。

 

(強さで言えばあの2人の方が上だ。あの2人の戦いを見ても怖くない……)

 

それ所か俺ももっと強くなろうと思える。闇派閥との戦いと何が違うのか、俺にはそれが今一分からなかった。

 

「ベートよ、怖がる事は良くない事だと思うか?」

 

「……なんだよ、カワサキさん。急に……」

 

「良いから、ベート。恐怖する事は良くない事だと思うか?」

 

恐怖する事が良いか悪いかで言えば……俺の答えは1つだ。

 

「良い訳ないんじゃないか? 怖がってちゃ何も出来ない」

 

恐怖で実際に動けなくなったからこそ、恐怖することは良い訳がないと俺は思う。あの時俺はなにも出来なかった。モンスターと融合したタナトスを前にして、俺は動けなかったのだ。

 

「違うぞベート。恐怖せずに前に進むのは蛮勇だ。己が傷付く事を恐れ、大事な人を失う事を恐れるから人は強くなれるんだ」

 

「失う事を恐れるから強くなれる……」

 

「恐怖を忘れては無茶をして死に至る。正しく恐怖し、そして恐怖を克服するんだ。恐れることは間違いじゃない」

 

そんな事考えたことも無かったが、不思議とカワサキの言葉はストンと胸に嵌った気がした。

 

「それにベートは格上と戦った経験が殆どない、違うか?」

 

「ああ。確かに闇派閥とは戦ったが幹部級とは殆ど戦っていない」

 

「そこもあるだろうな。格下と戦いすぎて自分よりも強い相手、それも殺すつもりで来た相手との戦闘経験の薄さもお前が恐怖した理由だろうな」

 

俺の強さなんて大したことは無いが、これでも若手NO.1と呼ばれ、ロキファミリアからの改宗も勧められるほどだ。強くなりたい……その一心で鍛えてきてオラリオでも上位に食い込んでいる。だがカワサキさんやザルドには手も足も届かないのに強いなんて驕れる訳がない。

 

「そうして自分を見れるのは利点だ。戦いや訓練から学んで反省して、それも全部自分の物にしろ。そうすればお前はもっと強くなれる。

とりあえず今はあの2人の戦いを良く見ろ。見ることも訓練の1つだぞ」

 

「……うっす」

 

俺はまだまだ弱い、身体も心もだ。俺に足りない物は山ほどあるのだ。俺に足りない物が何なのかを知ってる人に教えを乞う事は恥ずかしいことではない筈だ。

 

「焦らず一歩ずつ前に進めば良い、焦ることはないんだ。大丈夫だ、お前は強くなれる」

 

強くなれる……何の根拠もなく、ただ子供に言い聞かせるようなその一言に俺は心底安堵し、カワサキさんの見ることも訓練という言葉を信じ、オッタルとザルドの戦いに視線を向ける。俺とカワサキさんが話している間に、2人の戦いは新たな局面を迎えているのだった……。

 

 

 

 

 

 

カワサキが鍛えただけあって、小僧は中々筋が良くなっていた。元々反骨精神に溢れていたし、強くなるのに貪欲だったからこそ俺達も気に掛けていたが……。

 

(妙な雰囲気だな)

 

今まで突進を繰り返していた小僧が急に静かになった。守りを固めていたのに、だらりと自然体になり一見隙だらけ……だがそれに騙されたら痛い目に会うのを俺は直感的に感じ取った。

 

「ザルドー。武器を使うなよ~? 今日は素手だぞ」

 

「ちっ、分ったよ」

 

カワサキが武器を使うなというので拳を固め、様子見で軽く踏み込んでジャブを繰り出す。

 

「シッ」

 

短い気合と共に小僧の手が俺の腕の横を叩いて軌道を逸らした。

 

「ほう……それならこれはどうだ」

 

今度は連続、さっきよりもスピードを乗せて放つ。カワサキに教わったジャブというのは白兵戦の組み立ての基本になるので、俺も重宝している基礎的な体術の1つだ。

 

「……くっ……まだ荒いか」

 

2発弾いたが1発被弾したと小僧は呟いて再び脱力し、緩やかに、しかし確実に俺の方に歩み寄って来ていた。

 

「お前あれやったのか? 目隠し」

 

「深層までそれで行った」

 

「馬鹿か、お前もカワサキも」

 

目隠ししての鍛錬は俺もやったが、全然駄目だった。だがこの馬鹿はそれで深層まで行ったというのだからとんでもない馬鹿だ。

 

「目に頼って視覚を潰されたら終わりじゃ困るだろ?」

 

「俺もそう思う」

 

馬鹿かと思いながらも、それで反応出来ているのだからあながち馬鹿とは言えねぇか。

 

「ギアを上げて行くぜ、無駄な事だったって落ち込むなよ」

 

「そうならないように全力で行くとしよう」

 

「全力って言っておいて動かないのはどうなんだろうなあッ!」

 

地面を蹴り跳躍しながら小僧に全力で殴り掛かる。当然小僧は両腕をクロスさせて俺の一撃を防いだ。

 

(かてえ……ッ!)

 

さっきはぶっ飛ばせたのに、小僧の身体は大木のようにその場からピクリとも動いていなかった。

 

「ふんっ!!」

 

そして反撃に繰り出された右拳が俺の鎧を砕き、今度は俺が吹っ飛ばされた。だが倒れる事はせず、空中で姿勢を立て直し足から着地する。

 

「良いパンチだ。だがまだまだだな」

 

本気の装備ではないとはいえ、鎧を砕かれたのは驚いたが、致命傷には程遠い。俺やヘラファミリアの連中にも恐らく通用しないが、それでも深層のモンスターにも通用する一撃だった。

 

「無駄に動くのを止めて力を蓄える。見切りは一瞬で十分ということか」

 

「俺にはそっちの方が向いていると考えたんだ」

 

「なるほど、分からないわけじゃないな」

 

俺もスピードは並みの冒険者よりあるという自負があるが、俺より早い奴なんてゴロゴロいる。体格からして、機動力を活かした戦いは向いてないのは分かっていたこともあり、戦闘スタイルを変えたが……。

 

(俺より若い分荒削りだが仕上がってるな)

 

カワサキの指導を受けた時期が早かったオッタルは、上手く自分のスタイルに混ぜる事が出来ていた。俺には正直、いや、俺以外殆どの連中も築き上げて来た戦闘方法が確立していたから、カワサキの教えを全て混ぜ込むという事は出来なかった。

 

「勝負は終わりだ。小僧……いや、オッタル」

 

「なに……どういうことだ?」

 

「今のお前はまだ仕上がってない。深層まで行っても手応えを感じていないのだろう」

 

ソロで深層まで行ってもオッタルは手応えを感じていないのは明らかだ。カワサキの指導を受け、強さに貪欲な己を鍛えてきたオッタルには、深層の敵ですら物足りないのだろう。

 

「オラリオにいる間に組手の相手をしてやる。もっと強くなれ、そして俺を倒してみせろよ。オッタル」

 

自分を倒す可能性のある者を自分の手で育ててみるのも良いかもしれない……そう思えるほどに小僧、いやオッタルは強くなっていたのだ。

 

(それにまだオラリオを離れる予定はないしな。少しの間位面倒を見てやるか)

 

俺がカワサキに呼ばれたのは、何も闇派閥との戦いの為の助っ人だけではない。闇派閥との戦いが終わった後で迫害、もしくは追放される可能性のあるカワサキの手助けをする為に、俺はゼウスから派遣されてオラリオに来ているのだから……。

 

 

メニュー39 激辛カレー その1へ続く

 

 




今回はベートとオッタルの強化フラグとなりました。少し短いですが、今後の展開のフラグとなります。次回はガネーシャとの激辛カレーと書いてみようと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは

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