ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか? 作:混沌の魔法使い
メニュー42 クリームパイ
ミアハ達との話し合いを終えた俺はそのままの足で1度ダイダロス通りへと帰ってきた。フェルズ達にはとんでもない苦労を掛けているので何か手土産を持って行こうと思ったからだ。
「まずはっと……」
パイ皿にアイテムボックスから取り出したパイシートを被せて、パイ皿に沿ってぺテイナイフで余った生地を切り落とし、パイ生地にフォークで穴を開ける。
「……まぁこんなもんか」
パイ生地にクッキングシートを被せて、その上に重石を乗せて石窯の中に入れて焼き始める。
「牛乳と砂糖にバニラビーンズっと」
バニラビーンズの種と房を牛乳の中に入れて中火に掛け、沸騰寸前になったら火を止め、別の鍋で牛乳を温める。
「そろそろだな」
石窯の中のパイ生地を1度取り出し、形を整える為の重りを取り外しても形が崩れないのを確認したらもう1度石窯の中にパイ生地を入れて生地を焼く。
「卵黄と砂糖」
ボウルの中に卵黄と砂糖を加えて、薄力粉をふるいながら加えながら混ぜ合わせ、温めた牛乳を加えながら更に良く混ぜ合わせているとタイマーが鳴ったので石窯からパイ生地を取り出して金網の上に乗せて冷ます。
「カスタードクリームの仕上げだな」
カスタードクリームをこしながら鍋の中に戻し、木ヘラで焦げ付かないように混ぜながら中火にかける。
「これでよしっと」
カスタードクリームに粘り気ととろみがついてきたら火から降ろしてバターを加えて良く混ぜ合わせ、冷ましておいたパイ生地の中にカスタードクリームを流し入れ再び石窯の中に入れて30分ほど焼き、その間に仕上げに使うホイップクリームの準備をする。
「……冷ましてる時間はないか。まぁ良いか」
スキルで焼き上げたクリームパイを冷やし、仕上げに8分くらいに泡立てたホイップクリームでデコレーションを施し、俺は冒険者ギルドへと足を向けた。
「ギルド長がお待ちですよ、カワサキさん」
「手土産の準備で手間取ったんだよ」
ギルドに来るようになり顔馴染みになった受付嬢に手を振りながらギルドの奥へと歩き出す。
「ずいぶんと遅かったな、なにをしていた?」
「ミアハとディアンケヒトの所に顔を出してたんだよ。闇派閥の主神の件でな」
「その件か……本当に大丈夫なのか?」
「よっぽどの悪行を行なわない限りは大丈夫だ。殺人とかな、いまのあいつらなら大丈夫だろう。一応監視のアイテムは身に付けさせているから俺が責任を持つ」
カルマ値は善に間違いなく傾いている。だからこそ俺は大丈夫だとフェルズとウラノスに念を押すのだが……。
「もうじきオラリオを離れるのにか?」
「……それはしょうがない、俺がいる方がオラリオに悪影響を及ぼすだろう」
俺としては最悪に備えてもう少し残っていたい気持ちはある。だが余りにも今のオラリオの情勢は良くない、オラリオが良くなっていく中で俺がいるのは余りにもリスクがあり過ぎる。
「それに関しては私も同意見だ。カワサキを追い出すようで気分は良くないがな」
「気にするなよ、ウラノス。俺は闇派閥を締める為にゼウスとヘラに派遣されてオラリオに来た。その役目が終わったからオラリオを離れる……それだけだ。で……タナトスの公開処刑をするそうだな?」
モンスターと一体化し暴れまわったとザルドやオッタルからは聞いているが、タナトスは瀕死だが死んではいないらしい。俺がフェルズ達の所を尋ねたのは今後の話もそうだが、何よりもギルドの地下に隔離されているタナトス。奴の公開処刑を行なうというのをここに来るまでに小耳に挟んだので、その真意についてフェルズとウラノスへ問いかける事だった……。
公開処刑に関しては隠していたがやはりカワサキの耳には入っていたようだ。
「お前が言ったのだろう? 恐怖による抑止力は必要だと」
「確かに言った。だがオシリスファミリアを何人かオラリオに潜ませるだけでそれは事足りる。違うか?」
腹の探り合いなのは分っていた。ここでカワサキから信を失えば2度とカワサキは協力してくれないだろう。口を開こうとする愚者を片手で制する。
「カワサキは……オラリオを……いや、この世界をどう見ている?」
「歪だなと思っている。それに俺はタナトスの暴走にはある程度理解も納得も出来ている」
だからと言って共感も受け入れれる訳じゃないけどなと付け加えたカワサキは机の上のカップに手を伸ばした。
「何が間違っていると思う?」
「世界」
「何故だ?」
「……言っても良いのか? ウラノス。俺は俺なりに考え、応えに辿り着いているぞ。俺はこの7年間で世界を見て、危険だとされる遺跡を見て来た。それでもこの問答を続けるか?」
カワサキの目を見ればそれが真実であると分った。
「分った。これ以上はこの話は止めよう」
「懸命だな」
「待て、待てッ! 何の話だ。ウラノス、カワサキ……お前達は何の話をしている?」
黙っていられなかったのか愚者が声を上げる。
「真実だ。だがそれはまだ明らかにするべきではない」
「まだ確証は得れてない。真実に触っているとは思うが……神の罪は亜人の抹殺だけじゃない、もっと根深い、原初の罪がある」
カワサキを睨むがカワサキは飄々とした様子で手土産と言って持ってきた菓子を切り分けて愚者に差し出した。
「自分で辿り着けば良い。お前は頭が良い、自分で辿り着けばウラノスも答えるだろうよ。なぁ?」
「……そうだな、自分で辿り着けば答えなくもない」
「……分った。必ずお前達の言う真実に辿り着いてやる」
愚者がやる気を出してしまったが、いずれは誰かが、オラリオの住民が辿り着かなければならない答えだ。その答えに愚者が押し潰されたとしても……だ。
「タナトスがそれを望んでいる。己の死をオラリオの住民に見せ付けるのだとな」
「奴らしいな。だがそれは混乱を呼ぶぞ」
「だとしてもだ。それを拒めばタナトスは神威を解放する。そうなれば全てが終わる」
タナトスは既に天界に送還される事を受け入れている。だからこそ死神としての神威を解放し、すべてを滅ぼす事を算段に入れている。だから私達はタナトスの要求を受け入れるしかなかった。
「そうなるか、とりあえず納得はした。俺の聞きたいことは終わりだ、菓子を食ってくれ美味いぞ」
「食べる気分ではないがな」
カワサキは恐らく辿り着いているダンジョン、そして黒龍の正体を……いや完全には理解していないにしてもその輪郭をおぼろげながら掴んでいる。カワサキが多才なのは知っていたが、7年で真実の輪郭に辿り着いていたカワサキはオラリオで、いやこの世界で1番敵にまわしてはいけない相手だと改めて実感するのだった……。
カワサキとウラノスの話に興味が無いと言えば嘘になる。真実とやらを知っているのならばそれを共有しろと、祭壇に祈りを捧げている理由も詳しくは知らないが、カワサキのいう真実はその理由にも関係している筈だ。自らで辿り着けというのならばご希望通りにそうしてやろうと思いながらカワサキが用意してくれたクリームパイを口へ運ぶ。パイの上の白いクリームは甘すぎずだがまろやかでパイ生地はサクサクとしていて、その下のカスタードクリームは濃厚な甘さと上品な香りがしている。
「これで菓子作りが得意ではないというのは謙遜が過ぎるだろう?」
「いや、あんまり作った経験がなくてな。俺自身はあんまり甘いものは食わないし、作ってくれと言わなければ作ることも無いしな」
あまり作った経験がないから自信がない、得意ではないと言っていたのかと納得した。
「しかし、これは美味い。中の黄色のクリームが良い」
「カスタードクリームだな、濃厚な味が特徴なんだが良いものだろう?」
「ああ。これは良いぞ。甘いが甘すぎなくてパイ生地と上のクリームと良く合う」
サクサクのパイ生地と濃厚なクリームのパイを味わっているとカワサキとウラノスに仲間外れにされて感じていた嫌な感じも少しずつ薄れてきた。
「他のパイも作れるのか?」
「すぐには無理だな。1回レシピを確認しないと、なんだクリームパイだけじゃ足りなかったか?」
「いや、甘い物はオラリオでは中々貴重だからな。それに外で食べるよりもずっとカワサキが作ってくれるほうが美味い」
食い意地が張ってると思われるのは嫌だが、実際にカワサキの作ってくれた菓子を食べると外に行き、高い金を払ってまで食べたいとは思えないというのもある。
「私はこれ1つで構わない。残りは職務の間に愚者が食べると良いだろう」
「……私を食い意地が張ってる女だと言いたいのか?」
「いや、さっきも言ったがそこまで甘いものが好きなわけではない。たまに食べるくらいで丁度良いのだ、それにお前には色々と負担を掛けている。気分転換や休息に時に食べると良いだろう」
思いっきり馬鹿にされているような気がするが、食べて良いというのならばありがたく貰う事にしよう。
「それならばもう1つ貰っておこうか」
これを食べてもまだ4切れある。仕事で疲れた時や心労が祟った時に食べようと思っていたのだが……。僅か2日後に全て食べる事になったその理由はタナトスの公開処刑が原因だった。
「俺は天界へと還り、2度と地上には戻れん! そして天界でも俺は他の神々に粛清されるであろう! だからこそ俺は迷宮都市に遺恨を残す! 死神として! 人間の生死に関わる神としての矜持! そしてこれは慈悲だッ!! 恩恵で生き永らえるのは良かろう! 本来来る筈である死を先延ばしにするのも良かろう! だが限りある人間の死を捻じ曲げ、乱し! 訪れるべき死を遠ざけ! 末期を迎えた時健やかに死を迎えれるとは思わぬことだッ! オラリオに呪いあれ! 生と死、そして人間という存在を捻じ曲げる恩恵という呪縛に縛られるが良い人間よッ!! ははッ!! はーははははははははははははッ!!!!!」
タナトスは確かに首を落とされ、身体は粒子となって天界へと送還された。だが落とされた首は送還される事無く血涙を流しながら呪いの言葉を吐き、狂った笑い声を数日の間オラリオに響かせ続けるのだった……。
下拵え 悪神の残した呪い へ続く
タナトス死後の呪いという名の恩恵の呪いという感じで書いてみました。首もすぐ送還されるだろうと普通はなりますが、ちょっとオラリオに波乱を残したかったのでこういう風にしてみました、少し違和感はあるかも知れませんが本作ではこういう設定として受け取ってもらえるとありがたいです。
オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは
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間違っている
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間違っていない