ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか?   作:混沌の魔法使い

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下拵え 悪神の残した呪い

下拵え 悪神の残した呪い 

 

 

タナトスの生首が言い残した恩恵の呪いという言葉はオラリオに大きな波紋を残した。主神と友好的な関係を築いてない冒険者はファミリアの脱退を望んだり、主神にどういうことなのかと説明を求めていたりとそれなりの騒動になっているようだ。

 

「で、婆さん。実際恩恵って呪いあんのかい?」

 

茶菓子と煎茶を出しながらペニアの婆さんに恩恵に本当に呪いはあるのか? と尋ねる。

 

「知らん」

 

婆さんは知らんと即答し、饅頭を頬張っている。

 

「知らないのか?」

 

「あたしは恩恵なんて刻んでないしね。嫌われ者の神の眷属になりたいなんていう変わり者はいないよ」

 

からからと笑う婆さんの真向かいに座り俺も饅頭を頬張る。

 

「じゃあタナトスの嫌がらせか?」

 

「それは分からないねぇ……ただレベルアップに付いては思うことはあるよ」

 

婆さんの言葉に眉を上げると婆さんは湯呑みを机の上においた。

 

「偉業って言えば聞こえは良いけど、強力なモンスターを殺したり、他の冒険者を退けたり、モンスターを殺したりってことだろ? 恨まれたり、憎まれたりするのは当然じゃないか? それが蓄積していけば碌な事にはならないと思うね」

 

モンスターを殺したり、冒険者同士で争ったりして手に入る経験値は決してクリーンなものでは無いだろう。

 

「なるほどね……まぁ分からないでも無いか」

 

ゲームなら良いだろう、だが現実で考えれば禄でもない物というのは分からないわけではない。

 

「だからそんな物が蓄積すれば人間のままではいられないっていうのも、タナトスの奴が言う人間として死ねるなと思うのも分からないわけじゃないね」

 

死の運命を恩恵によって乗り越え、そして恩恵によって人の道から外れる……か。

 

「結局の所、恩恵って何なんだ?」

 

「下界の人間の可能性を引き出す物であるはずだけどね。あたしゃあ元々恩恵は好きじゃない。人間は人間らしく、地道に働いて日々の糧を得て慎ましく暮らすべきじゃないかい?」

 

「違いない」

 

一生遊んで暮らせるほどの家で生まれ、贅沢が常だった生活に嫌々して富裕層を飛び出したから婆さんのいう事には心底同意出来た。

 

「結局この騒動はどうなると思う?」

 

「どうもなにもないだろ? ギルドの発表で終わりだ。人は得た物を捨てたくない、誰だってそう考える」

 

恩恵で得た力、恩恵で得た地位と名誉。それは人を狂わせるには十分すぎる……喉元過ぎれば熱さを忘れるというが、オラリオの人間はもっと早く忘れそうだ。

 

「一過性の物って考えてるんだね」

 

「ああ。まぁ仮に脱退して恩恵を消す者もいれば、まだレベル1の冒険者くらいじゃないか?」

 

まだ駆け出しの冒険者はタナトスの死の間際の言葉を恐れ冒険者を辞めるだろう。だがオッタルやベートのように目的を持って冒険者になったものは止めない筈だ。

 

「さてと、ちょっと出て来る」

 

「どこにだい?」

 

「ギルド。ちょっとフェルズとウラノスと話してくる。昼飯は用意してあるから頼むわ」

 

分ったと返事をするペニアの婆さんに手を振りながらギルドへと向かう。

 

(ちいっと刺激が強すぎたかね? まぁタナトスの思い通りだろうが……)

 

活気の無いギルド前、ダンジョンの入り口は調査と言う名目で封鎖中。そして脱退したいという駆け出しの冒険者とそれを止める先輩冒険者の説得の声……。

 

(これがお前さんのやりたかったことなのか? タナトスよぉ?)

 

人間は人間らしく生きて死ね、そして先に逝った家族と共に輪廻に戻れ。それがタナトスの主張であり、死の神としての矜持であったが、この混乱に満ちたオラリオが本当にタナトスの思ったありかたなのかねと心の中で呟き、普段は吸わない煙草を加え火をつける。

 

「ままならんもんだな」

 

その苦味と香りを味わいながら俺は紫煙を吐き出しながらギルドへと歩き出すのだった……。

 

 

 

フェルズがギルドからの正式発表としてバベルに赴いた頃を見計らったように煙草をくわえたカワサキが尋ねて来た。

 

「煙草を吸うのだな」

 

「禁煙か? それなら消すが……」

 

「いや、構わん。ただそうだな……口うるさいのがいないから私にもくれ」

 

あいよっと言いながらカワサキが差し出した煙草を受け取って咥えて火をつける。

 

「ふー……美味いな」

 

苦味と香りを味わいながら美味いというとカワサキは煙草の入ったケースを投げ渡してきた。

 

「良いのか?」

 

「ああ。別に良いぜ、迷惑料ってことで受け取ってくれ」

 

迷惑料と言い出したカワサキにああ、なるほどと得心がいった。

 

「もう出るのか?」

 

「数日の内にはな」

 

「……すまないな」

 

オラリオの功労者であるカワサキが数日の内に出て行くと聞き、私は自然と謝罪の言葉を口にしていた。カワサキはオラリオを良い方向に傾けてくれていたが、そんなカワサキが自ら出て行くという選択をした。いやさせたオラリオの民の代わり謝罪をした。

 

「別に気にする事はねえよ。俺の道は俺が決める。オラリオを出るっていう選択をしたのは俺自身の意思だ。謝罪が欲しいわけじゃねえし、後悔して欲しいわけでもない」

 

カワサキの強さは肉体だけではなく精神までも強い。その強さには正直脱帽する。

 

「俺がいれば恩恵がなくても大丈夫とか言い出す馬鹿がいるかもしれないからな。俺の強さは何十年も苦労して手に入れたもんだ。簡単に手に入る物じゃねぇ。それに俺がいてダイダロス通りの連中に迷惑掛けるわけには行かないし……まぁ俺が出て行くのが1番丸く収まるのさ」

 

からからと笑ったカワサキだったが、突如その目をスッと細めた。

 

「ウラノス。あんたが俺を功労者と思っているならいくつか質問に答えて欲しいんだが良いか?」

 

「……愚者もいない。今ならば答えよう」

 

愚者にはまだ真実は早い、今人間の身体を得た愚者が暴走する可能性もある以上先日の話し合いの場で話を切り上げるしかなかったが、今ならばその質問に答えても良いと思っていたのだが……カワサキはオラリオ、しいては冒険者についての核心に迫る問いかけをしてきた。

 

「経験値……あれは殺したモンスターの怨念や冒険者の恨みなのか?」

 

「……当たらずとも遠からずだな」

 

モンスターを倒し得れる経験値は我々も理解している訳では無いが、良いものか悪いものかと言えば悪い物に近いと言わざるを得ないだろう。

 

「じゃあ次だ。レベルアップを重ねれば人は人では無くなるのか?」

 

「理論上はな。恩恵は神や仙人に近づく物とも言える。だが人の枠組みから外れるほどのレベルは一体どれ程の物かは想像もつかん。あり得るとだけ言っておこう」

 

誤魔化しているわけではない。だが私自身も人の枠組から外れ、神の座……いやタナトスのいう輪廻から外れるほどの存在になるかは想像も付かないのだと説明するとカワサキは何か思案顔を見せた、納得はしていない様子だがとりあえずは私の返事を受け入れてくれたようだ。

 

「じゃあ最後だ。これに答えてくれれば良い、無理なら無理でそれでも構わない」

 

これが最後の質問だというカワサキは一呼吸置いてから信じられない言葉を口にした。

 

「ダンジョンを構成している女神……ガイア、テュポーン、ティアマトー……誰だ?」

 

「……」

 

行き成り核心を突かれて思わず絶句する。独自の調査の結果と言っていたがカワサキは本当に真実に辿り着いていた。

 

「それはお前の世界での知識か?」

 

質問を質問で返すのは非礼だと分っていたが、それでも問わずにはいられなかった。

 

「まぁな、俺の昔の仲間にそういうのが好きな奴がいてな。その時の知識だ。で……どうなんだ? 俺の予想ではダンジョンは神、それも

さっき上げた3柱の誰かの肉体だと考えているんだが……どうだ? 答えられないなら無理だといってくれれば良いが……」

 

「ダンジョンは神々の罪なのだ。私にはそれしか答えられぬ」

 

カワサキはそうかと呟き、吸っていた煙草を灰皿に押し付けて立ち上がった。

 

「ゼウスのじーさん達にも聞く事が出来たな。ありがとうよ、答えづらい事に答えてくれてよ」

 

ひらひらと手を振りながら歩いていくカワサキを呼び止め、もう少し話すべきかと悩んだが結局私はカワサキを呼び止めず、吸っていた煙草を同じ様に消して祭壇へ、いや祭壇を通じてダンジョンへと祈りを捧げた。そしてカワサキは私に話したとおり8日後にオラリオを去っていくのだった……。

 

下拵え 大きな壁へ続く

 

 




ダンジョン女神説は多分皆さんも知ってると思いましたが、名言されていないのでウラノスも答えられないという形にして見ました。
8日後と書いたとおり、後最大8話の間に前日譚はラストにしたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは

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