ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか?   作:混沌の魔法使い

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メニュー43 ステーキ

 

メニュー43 ステーキ

 

カワサキさんとの戦いは完敗だった。俺は俺に持てる全てを使ったし、教わった技術も使ったし……カワサキさんとの戦いの中で限界を超えた手応えは感じていた。ボコボコに、何にも出来ずに一方的に叩きのめされたがここまでやられると清々しさまで覚える。

 

「……全然届いてねぇ」

 

「だねえ……強さの底が全然見えないよね」

 

ティオナも口調は普段通りだが、目は細く鋭い。それだけカワサキさんは強かったのだ。極限まで身体を鍛え、どんな状況にも対応出来るほどに体術を鍛えた……恩恵やレベルなんか関係の無い強さの頂点を見た。

 

(俺とオッタルでは戦い方が全然違ってた……それに最後の技……もしもあれを俺も使えれば……)

 

魔法を放つのではなく、己の身に纏い攻撃に転用する。無論魔法は個々の素質に左右されるのでカワサキさんのように炎を扱うのは無理だが……同じ様な何かを作り出せるかもしれない。

 

「お疲れ。どうだった? ベート」

 

そんな事を考えているとカワサキさんが何時ものように声を掛けてくる。俺は右手に持っていたポーションの瓶に口をつけて、瓶に残ったポーションを飲み干した。

 

「良い勉強になった。同じ事が出来ると思っていないが……俺は俺なりに目指して見る」

 

俺の言葉にカワサキさんは満足そうに頷き、俺の頭をわしゃわしゃと撫で回した。

 

「頑張れ、頑張って、努力して強くなれ。さーって飯だッ! 飯! 肉を焼いてやるから来いよ」

 

肉を焼いてくれるというカワサキさんの言葉に頷き、痛む身体に顔を歪めながら俺はカワサキさんの後を追ってフレイヤファミリアの食堂にへと足を向けた。

 

「どうだった。ベート」

 

「そういうあんたはどうだった? オッタル」

 

食堂でカワサキさんが食事の準備をしている間に俺とオッタルは本気のカワサキさんとの戦いについて意見を交換していた。

 

「あの炎はどうだった? やはり熱かったか?」

 

「めちゃくちゃな。どうすれば良いのか分らんが、あれはもしも習得出来れば大きい技術になると思う」

 

外に放出しなければ魔力は己の内に留まるのだからマインドアウトが無くなる。攻撃力を高める術としてカワサキさんの最後に見せてくれた燃える拳は俺にとっては大きな物となりそうだ。

 

「あのパンチで動きが止まっていたが……なにをされたんだ?」

 

「カワサキ曰く時を止めるパンチらしい、心臓を決められた角度と威力、速度で殴る事で心臓を一瞬止めてしまうそうだ」

 

「……そんな事出来るのか?」

 

「恐らく俺達には習得出来ない物らしいな。相当頑張ればできるらしいが……」

 

「技術が足りないし、習得するのもモンスター相手と考えると無意味ってわけか……」

 

心臓を止める打撃……それは口にするのは簡単だが、実行できるのは恐らく世界広しと言えどカワサキさんくらいな物だろう。

 

「だが良い勉強になった」

 

「ああ。もっと強くなれる」

 

恩恵など無くとも限界まで鍛えれば良い。今まではなんて馬鹿なと思ったが、カワサキさんという到達点を見ればそれは不可能ではないと分る。

 

「待たせたな。今から肉を焼くが……どれくらい食う?」

 

ドカンと音を立てて置かれた肉、好きな分だけ切り出してくれるというカワサキさんに俺もオッタルも目を輝かせ、カワサキさんに苦笑されてしまうのだった……。

 

 

 

ザルドやマキシムの好きな塊のリブロース肉を好きな厚さに切り分けて焼いてやる。簡単な料理ではあるが、男にはたまにこういうでかい肉をただ何も考えずに貪りたい時があるのだ。極厚の鉄板を加熱している間に岩塩とブラックペッパーをミルで引いて粉状にする。

 

「で、どれくらい食うか決まったか?」

 

俺がそう尋ねるとベートから目の前に置いている肉に手を伸ばした。

 

「これくらいでも大丈夫か?」

 

5cmほどを指差すベートを見て俺は笑った。それを見てベートは少し恥ずかしそうに頬をかいた。

 

「だよな。分厚すぎる……「薄いだろ。遠慮するなよ、もっとこうガツンと行こうとか思わないのか?」……もっと大丈夫なのか?」

 

普通なら5cmの肉を焼くのは大変だが、俺のスキルも駆使すれば5cmのステーキなんて楽勝だ。

 

「じゃあこれくらい……」

 

「よし、分った。で、オッタルお前は?」

 

「俺も同じ位で良い」

 

「ん。了解」

 

ベートが指差したのは8cmほどの超極厚だ。普通なら食べるのも大変だが、獣人のベートなら問題なく食べれるであろうと思い包丁を入れて肉の塊から8cmほどの肉を2枚切り出し、包丁の先で筋切りをしてから塩胡椒を振るう。

 

「にんにく大量に使うが良いか?」

 

「構わない、美味いものを食うのに匂いは気にしない」

 

「俺もだ。カワサキさんの好きにしてくれ」

 

オッタルの質問に返事を返し鉄板の上に手を翳す。極厚の鉄板なので火が通るまで時間が掛かるので、ここでオリーブオイルを薄く敷いて、にんにくを軽く炒めて香りが出てきたらその上に肉を置いてそのままじっくりと焼き始める。肉の塊には手を触れず、弱火でじっくりと焼いて、焼き加減を観察しながらも肉には決して触れずに丁寧に焼き、ある程度焼けてきたらトングを手にして肉を持ち上げて焼き色が付いていない面を下にして焼き始める。

 

「どれくらい焼くのに時間が掛かるんだ?」

 

「大体30分くらいだな、まぁ楽しみに待ってろよベート」

 

また良い具合の焼き色になったらひっくり返す。極厚肉なので普通の方法では火が通らないが、こうやってひっくり返しながら両面を焼く事でじっくりと火が通ってくる。

 

(……ちょっと火力を上げるか)

 

……でも少し足りないのでスキルで熱伝導効率UPを使い、ステーキへの火の通りを良くし、ローズマリーを乗せて香り付けをし、全面が白くなってきたら鉄板の熱が弱い部分に肉の塊を移動させて蓋をして蒸し焼きにする。

 

「よし、待たせたな。焼けたぞ」

 

表面はカリッと香ばしく、中は均一に焼かれて食欲を誘う赤色にローズマリーのスパイシーな香りにベートとオッタルが頬を緩めている顔を見て、2人の前にステーキを置いて後ろで見ていたティオナ達に視線を向ける。

 

「それでティオナはどれくらい食べる? それともいらないか?」

 

「食べる食べる! 食べますよ! えっーっとこれくらい!」

 

「ん、了解」

 

肉の焼けた匂いに駆け寄ってくるティオナとその後から近づいてくるフレイヤファミリアの面子を見ながら俺は再び肉の塊の前に立ち、食べたい厚さをいうティオナ達のリクエストを聞きながら次々と肉を切り、肉を焼く準備を続けるのだった……。

 

 

 

巨大な肉塊……自分で食べたいといった厚さの肉だが、正直にいえばこの厚さならば火が通らず、生肉になる筈だ。

 

(これもやはりカワサキの腕の良さか……)

 

これだけの厚さの肉でもしっかりと火が通っている。これはやはりカワサキの料理人としての腕の良さ、そして見識の深さに関係しているのだろう。

 

(……柔らかい……)

 

ナイフで簡単に切り分ける事が出来たことに驚き、その凄まじい厚さの肉に顔を近づける。カワサキが置いた香草の香りだろうか、スパイシーな香りとがつんと鼻をくすぐるにんにくの香りに笑みが零れる。

 

「……ッ! 美味い……ッ」

 

「うめえッ!」

 

分厚い肉だけあって噛み締めると歯を跳ね返す弾力があるが、少し力を込めれば簡単に噛み切れる。塩胡椒だけのシンプルな味付けだが、それ故に肉の美味さを存分に楽しむ事が出来る。

 

「ソースではなく、塩胡椒だから肉の味を存分に楽しめるな」

 

「だろ? 確かにソースを使うのも良いんだが、肉の美味さを楽しむならやっぱり塩胡椒に勝るものはない」

 

確かにその通りだ。にんにくのパンチの効いた香りにローズマリーのスパイシーな香り……しっかりと焼かれているが、中にはほんのりと赤さを残しており、カワサキの言う通り肉本来の美味さを存分に楽しめる。分厚く切り分け、マナーに欠けているがその固まりを大口を開けて喰らいつく、噛み締める度に口一杯に広がる肉汁と肉を噛み締める弾力に当たり前だが、今俺は肉を食っているという満足感を得ることが出来る。

 

「おかわり! もう1枚くれ!」

 

「おう、良いぞベート」

 

俺よりも先に食べ終えたベートにやはり若さと苦笑しながらも、肉を切るスピードを速めていると俺の前にグラスが置かれ、赤ワインが注がれる。

 

「ステーキには赤ワインだろ?」

 

「確かにな、いただこう」

 

豊潤な香りの赤ワインは口の中の肉汁を流してくれ、程よいアルコールが食欲を再び刺激する。

 

「カワサキさん、俺も欲しい」

 

「未成年だろうが、お前にはまだ早い。こっちで我慢しろ」

 

「ちぇ~」

 

カワサキのいう未成年というのは良く判らないが、カワサキの判断基準ではベートはまだ酒を飲むには早いらしい。

 

「葡萄ジュースじゃねえか」

 

葡萄ジュースには不満そうな顔をしているベートに思わず笑ってしまうと睨まれたが、俺はその視線を無視してワインを口にする。

 

「カワサキさん、もう焼けたー?」

 

「おう、出来たぞ。ほれ」

 

「やったー!」

 

次々と肉を焼き配っていくカワサキは楽しそうだ。そしてカワサキが焼いた肉を食べている者も笑顔だ。

 

(……惜しいな)

 

カワサキがいればオラリオは少しずつだが良い方向に進むだろう。だがそれと同じ位に争乱を巻き起こす……それが分かっているからカワサキはオラリオを離れる。やはり惜しいと思ったが、カワサキがいる事で起きる争乱とカワサキがいる事で作り出される平和……その2つを天秤にかければカワサキが離れるのが一番良いという今のオラリオの現状に俺は溜息を吐き……。

 

「焼けたぞ、おかわりだ」

 

なんでもないように置かれた2枚目のステーキに考え事を中断し、切り分けたステーキを頬張った。

 

「やはり美味いな」

 

色々と思うことはあっても、やはり美味いものは美味いなと苦笑しながら俺はステーキに舌鼓を打つのだった……。

 

 

オッタル達にステーキを振る舞い、夜にダイダロス通りに帰っているカワサキだったが、その途中でとんでもない者を見つけた。

 

「なんだありゃあ」

 

「むがむがあ……」

 

猿轡と目隠しをされて柱に縛りつけられたおかっぱ頭の巨大な女。その女の前には看板が用意されており俺はなに事かと思いその巨漢の女に近づいた。

 

【黄色い亜人へ この馬鹿に性格を変える食べ物を与えてください イシュタルファミリア】

 

と書かれた看板が立てられており、カワサキは少し考えた後に裏路地へと消えていった……カワサキがおかっぱ頭のアマゾネス……フリュネに性格を変える食べ物を与えたかはどうかは定かでは無いが……男殺しと呼ばれた冒険者はこの夜を境にオラリオから姿を消した。それだけが1つの事実であり、そして……。

 

「おはよーございまーす」

 

「はい、おはようございます。気をつけていって来てくださいね」

 

「は、はい! 頑張りまーす!」

 

歓楽街の近くに住まう若い青年の冒険者の心を奪う、褐色黒髪長身美人のアマゾネスが目撃されるようになったのである。

 

 

 

 

メニュー44 唐揚げ に続く

 

 

 

 




フリュネはひっそりと性格チェンジしておきました。そして巨大な肉ににこにこのオッタルとベートでした。次回は前日譚最後のアストレアファミリアとの話を書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは

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