ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか?   作:混沌の魔法使い

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メニュー44 唐揚げ

メニュー44 唐揚げ

 

フレイヤの失脚によって美の女神としての地位を確立し、そして歓楽街の経営権を正当に得たうえにギルドとも協力関係を結ぶことが出来た。あたしが欲している物を全て手に入れた事であたしは協力関係を持ちかけてきた闇派閥の申し出を蹴り、正統な方法で自分のファミリアを成長させてきた。探索系ファミリアとしての地位、歓楽街のオーナーとしての地位、欲しかった名声――それらを捨ててまで自ら泥舟に乗る理由はないからだ。欲しい物を手に入れれば気持ちを落ち着いてきて眷属とも友好的な関係を築き、さらに男女問わずに深い関係になったりと充実した日々を送っていたわけだが……今日はまさかの人物が訪ねて来ていた。

 

「まさかお前が訪ねてくるとは思わなかったよ。カワサキ」

 

「フェルズにあんたを紹介されたんでな。イシュタル」

 

ダイダロス通りの孤児や冒険者を引退した者達に金の稼ぎ方を教え、オッタルやベートを鍛えていたりと話題に事欠かないカワサキが訪ねて来るというのは正直に言ってかなり驚いた。

 

「娼婦でも買いに来たのかい? ただあんたを相手にするなら5人は買わないと駄目そうだねぇ?」

 

「セクハラだぞ」

 

「セクハラ……?」

 

あたしの言葉にカワサキは知らないなら良いと言ったが、その眉は顰められ不機嫌そうだ。

 

「ちょっとしたジョークじゃないか? まぁあんたは相当な絶倫そうだけど」

 

「やかましい」

 

カーリーが熱を上げるのも納得だ。絶倫はともかく、滲み出る父性や優しさにコロって行くやつは少なくないだろう……それに本人の気質が温厚なのもある。

 

「新しい商売を始めてみないか? イシュタル」

 

新しい商売と言われて脳裏を過ぎるのはダイダロス通りの孤児。善人で通っていると思ったが……。

 

「そう怪訝そうな顔をするな。歓楽街じゃなくてな飲食店の通りに出店という形だ」

 

「……ああ、なるほど。真っ当な商売ということか」

 

娼館ではなく、真っ当な飲食店を経営してみないか? というカワサキの提案に少し考える。うちの眷属達は見目は良いが、料理とかは決して上手い訳ではない。

 

「簡単に作れる料理のレシピ本とかも提供するぞ」

 

「うーん……まぁそれなら……行けるか?」

 

身体の付き合いをしたくないという眷族も少なくない、冒険者として活躍出来なくなった眷族に新しい道というのは悪くないかもしれない。

 

(……1人ポンコツもいるし……)

 

極東から売られて来た狐人のスキルは役立つが、命を削ることも考えれば折角善神と呼ばれ始めたのに、あの子の能力の所為で闇派閥とか言われてその名声と地位を失うのは惜しいと思ったから使わせてない。

 

「良し、乗った。立地は?」

 

「ここから詰めようと思う。ダイダロス通りのガキに手を出してきた連中が経営してた店をいくつか潰して来たから、そこだったら選び放題だぞ」

 

「一等地はあるかい?」

 

「あるぞ、条件はかなり良い。ただ一等地だと2店舗くらいだな、フェルズが徴収したいって言ったからな」

 

カワサキが潰して来て、ギルドから経営許可が下りている店が書かれている地図に軽く目を通す。

 

「ギルド通りに1つ、それと市場の前とダイダロス通りの前に1つで3つだ」

 

一等地であるギルド前は絶対に欠かせない。後は客が少し減るが市場前とダイダロス通りの前を要求する。

 

「案外強かだな」

 

「これでも歓楽街のオーナーなんでね」

 

一等地は店の維持費やギルドに納める家賃も高くなるのでそこは1つ。後はぼちぼちと初期投資の金を回収できるくらいの立地で丁度良い。

 

「すぐに契約出来るのかい?」

 

「1度フェルズに話を通してからギルドナイトとフェルズと一緒に来る」

 

「楽しみに待ってるよ、それで……あたしと一晩どうだい?」

 

「明日には来る」

 

流し目で誘うが反応ひとつせずに帰っていくカワサキを見送り、また1つあたしの地位と名声を上げることが出来たと笑みを浮かべながらその姿を見送ったが、あたしがカワサキと顔を見合わせたのはこれが最後なのだった……。

 

 

 

 

イシュタルとの話を終えてダイダロス通りに帰って来たのだが、そのまま厨房に入るのは子供達に阻止された。

 

「くさい」

 

「おじさん変な匂いがする」

 

「……くちゃい」

 

臭いと全員に言われ、俺はシャワーを浴びてから厨房に立った。

 

「臭いと言われると言っただろう?」

 

エレボスには確かに言われたが、まさかあんなに臭いと連呼されるとは思って無かった訳だが……確かに娼婦の香水の匂いが案外気になるかもしれないと思いながら鶏腿肉を食べやすい大きさに切り、塩胡椒で下味を付ける。

 

「それでイシュタルは?」

 

「こっちの申し出は聞いてくれたよ。流石に商売人って所だな」

 

あれだけの規模の娼館を経営しているのだ。見る目は勿論、大局を見据える眼力もある。フレイヤとの確執が無くなったことも大きいだろうが……少なくとも信用出来る神なのは間違いないなと思いながらボウルに入れた鶏腿肉に醤油、酒、摩り下ろしたにんにくとしょうが……そして……。

 

「マヨネーズ? そんな物も入れるのか?」

 

「これが隠し味だよ。エレボス」

 

マヨネーズでコーティングすることでパサパサ、カチカチになるのを防ぎ、臭みを消す事も出来る。

 

(まぁ自作のマヨネーズでどれだけ効果があるかは知らんが)

 

市販のマヨネーズではなく、当然自作なのでどれほど効果があるかは分らないがまるで効果がないって事はない筈だ。そんな事を考えながら調味料をしっかりと鶏腿肉に揉みこんだら味を馴染ませる為に少し休ませる。

 

「子供達にはいつ説明するんだ?」

 

「近いうちには説明する」

 

「泣くぞ?」

 

「言われなくても分かってる」

 

ただ俺がいる方が危険に晒す可能性が高いから俺はオラリオを出るのだ。

 

「仮にオラリオを出たとしてもすぐに戻れるしな」

 

「お前のマジックアイテムか」

 

「そういうこと」

 

少し水を混ぜ、そぼろ状にした片栗粉に小麦粉を加えて軽く混ぜ合わせたら鶏腿肉に塗して170度の油で揚げる。

 

「何を作ってるんだ?」

 

「唐揚げ、子供と言えばこれだろ?」

 

唐揚げ、ハンバーグは子供にも大人気だし、後でアストレアファミリアにも顔を出す予定なので差し入れの分も兼ねている。

 

(なんか雑草に塩で味付けしたスープを飲んでるとか言ってたしな……)

 

せめて山菜と山菜の灰汁抜きくらい誰か出来ないのだろうか? と思いながら鶏腿肉をひっくり返し裏面もしっかりと揚げ、狐色になったら1度鍋から取り出す。

 

「つまみ食いするな」

 

「いたっ!? 出来たんなら良いだろう?」

 

「まだ出来てないんだよ」

 

つまみ食いをしようとしたエレボスの手を叩いて止め、火を強くして油の温度を上げてからもう1度揚げる。

 

「なんで2度揚げするんだ?」

 

「高温で揚げる事で衣がカリカリに仕上がるんだよ」

 

高温でしっかりと2度揚げしたらバットの上に出して油をしっかりと切る。

 

「ほれ、1個食え」

 

揚げ立ての唐揚げを熱い、美味いと騒ぎながら食べているエレボスに苦笑しながら俺はリリ達の昼食の盛り付けを始めた。

 

「カリカリで美味しいです!」

 

「ごはんおかわりください!」

 

「むぐむぐむぐッ!!」

 

「この芋のサラダも美味しいッ!」

 

「シチューのおかわりください!」

 

「すぐに次の準備をするからちょっと待ってろよ~」

 

「「「はーいっ」」」

 

さっきまで臭いと俺を責めていたリリ達だが、まぁ子供ならこんな物だろうなと苦笑し、俺は再び油の中に鶏腿肉を落としていくのだった。

 

 

 

 

闇派閥の大攻勢の後から会っていなかったカワサキさんがふらりと私達を訪ねて来た。

 

「差し入れ、肉だけど食うか?」

 

会うのには少し気まずさがあったが、山菜を塩で煮ただけのスープ生活をしていたこともあり、差し入れの言葉に私はカワサキさんを招きいれていた。

 

「美味し~♪ 本当ありがとうございます! カワサキさん!」

 

カワサキさんが持って来てくれたのは鶏肉を揚げた物だったが、少し時間が経っているらしいが衣はカリカリで肉汁はジューシーでとても作ってから時間が経っているようには思えなかった。

 

「カワサキの所も忙しいみたいだったから顔を出すのもなんだと思ってたんだが……かえって手間取らせたか?」

 

「別にガキ共の飯を作るついでだからな。大した手間じゃない。それに俺も忙しくて炊き出しをやってる時間は無かったからな」

 

ダイダロス通りの子供達が作ってくれたパンも差し入れして貰ったパンを机の上に並べながらカワサキさんはなんでもないように笑う。

 

「……腕は大丈夫なのですか?」

 

リューが気まずい様子で尋ね、輝夜が小さく馬鹿とリューを叱りながら肘打ちを入れる。カワサキさんがディース姉妹の襲撃を受けて怪我を負っているのは知っていた。だから気まずさを感じていたのにリューが尋ねてしまった。

 

「別に大したことはない、もう握力も戻っているしな。しかし飯を食ってる時に飯が不味くなる話をするなよ」

 

本当にその通りだと思うが、私を含めて全員がカワサキさんの負傷の事は気にしていたので、カワサキさんのいるダイダロス通りに行きにくくなっていたのだ。

 

「これは天ぷらとはまた違いますね」

 

「輝夜は天ぷらの方が良かったか?」

 

「いえ、作って持って来て貰った物に文句を言うほどぶしつけではありませんわ。それにこのカリカリとした食感も良いですし」

 

「そうそう、このカリカリした食感は揚げ物じゃ珍しいと思うけど、どうやってるんですか?」

 

普通衣は少し固く、ザクザクしているが、カワサキさんのは小気味良いサクサクとした食感だ。これはどうやって作っているのか少し気になった。

 

「片栗粉と小麦粉を混ぜて衣を作ってるんだ。それと下味にマヨネーズを使ってるのもあるし、調味料の組み合わせとかもある」

 

「つまりプロの技と……?」

 

「普通に料理が出来る程度の技量があれば誰でも出来るぞ」

 

その普通の料理が出来ない私達にはプロの技としか言いようがないだろう。

 

(でも本当に美味しいのよね)

 

カリカリとした衣から溢れてくる肉汁と柔らかくジューシーで、にんにくの香りが食欲を強く刺激する。

 

「これパンに挟んでも美味しいですよね!?」

 

「そりゃ美味いに決まってるだろ? アリーゼ」

 

「ですよね!」

 

「この卵のソースを塗って食べるともっと美味いぞ」

 

「ありがとうございます!」

 

(これどうやって作ってるんだろ……)

 

卵を潰して作ったソースはカワサキさんが良く使っているこのソース、サンドイッチや揚げ物に良く使っているが、これが本当に美味しいのだ。卵の黄身の味と白身の食感がある独特のソースはふわふわのパンに良くあっていて、カリカリの唐揚げとふわふわのパン、そして卵のソースのサンドイッチはとんでもない絶品のサンドイッチだった。唐揚げを挟んで齧ると肉汁がパンに染みこんでいて、普通のサンドイッチよりもずっと美味しく感じた。

 

(子供達の手作りなのもあるけど……本当に優しい味)

 

山菜を塩で煮ただけのスープでお腹を膨らませていただけに、カワサキさんの作ってきてくれた唐揚げと卵のソース。ダイダロス通りの子供達の作ってくれたパンの組み合わせは空きっ腹を抱えていた私達にはとんでもないご馳走だった。

 

「はー……久しぶりに美味しいご飯ですよ」

 

「ですね。本当にありがとうございます」

 

差し入れをしてくれたカワサキさんに皆で感謝しているとカワサキさんは笑いながら信じられない事を口にした。

 

「俺は近い内にオラリオを出るから自分達で飯くらい作れるようになれよ」

 

「はい……はい?」

 

自分で作れるようになれよという言葉に返事をしたが、オラリオを出るという言葉に私達は揃って間抜けな声を出してしまった。。

 

 

 

 

カワサキがオラリオを出るという言葉にアリーゼ達は驚いていましたが、私からすればその判断は遅すぎるというものでした。

 

「随分と決断が遅かったですね」

 

「色々と手回しをしてる最中でな、まぁこっちに顔を出したのもその手回しの一環なのさ」

 

カワサキは出来る事をしてきた。だが余りにもできすぎたのだ、私と同じで極東から逃げてきたかもしれないカワサキは本来目立ってはいけない筈だ。

 

「何を無責任なことを!「馬鹿エルフは黙ってなさい」……輝夜……?」

 

無責任とリューは言うが、カワサキは十分に責任を取って来たと私は考える。だって旅人であり、本来なんの関係もないのにここまでオラリオの改善に尽力したカワサキが無責任な訳が無いのだ。

 

「……他の神々ですか?」

 

「まぁ当たらずとも遠からず。これ以上俺がオラリオにいるとガキ共が危ないんでな」

 

自分のためではなく、子供達の安全の為にオラリオを離れると笑ったカワサキはアリーゼに何かを投げた。

 

「餞別だ。持っとけ」

 

「とっと……これ……ペンダントですか?」

 

「俺の地元のお守りだ。アーディやベートにもやったからお前達にもやるよ。誰か1人でも持ってれば効果があるもんだからな」

 

そう笑ってダイダロス通りの事も気に掛けてくれよと言ってカワサキはホームを出て行った。

 

「かなり高価な物っぽいわね」

 

「確かに……でもカワサキがくれたのだからきっと何か特別なアイテムの筈。売ったりしないでちゃんと持っていたほうが良い」

 

カワサキがくれた金のフレームに紅い宝石が填められたペンダント。なんでもないようにくれたペンダントだが、これは大事に持っておいたほうが良いと思えるそんな不思議な輝きを放っていた。

 

「とりあえず折角の差し入れがまだありますし、食事を再開しましょうか? これが最後のまともな食事になるかもしれないんですから」

 

「「「うっ……」」」

 

カワサキの炊き出しが無くなれば食生活がとんでもなく劣悪になる事を思い出し、思わず呻くがそれでもホームから笑いが途絶えることはないのだった……そして6年後、この時貰ったペンダントが神でも起せない死者を現世に呼び戻す奇跡を起す事になることを私達は知るよしもなく……そして。

 

「……あ………あ?」

 

「よう、アリーゼ。生き返った気分はどうだ? 多分悪いと思うが……ちゃんと意識はあるか?」

 

「ああ……あああああ――ッ!!!」

 

自分の身体とは思えないほどに重い身体と回らない呂律、そしてひらひらと手を振るカワサキさんと泣き崩れるアストレア様が死んだはずの私が見た最初の光景だった……。

 

 

メニュー45 バースデーケーキ へ続く

 

 




アストレアファミリアのメンバーにこっそり生存フラグですが、1度死んで蘇生ルートにしたいと思います。後2回で暗黒期編は終了です、色々と考えていたこともありますが多分それを書いていたらベル君が出るのが何時になるのか分からないのでちょっと切り上げて、残りの煮詰めは今後番外などで書いてみようと思います。


あと蘇生組はユグドラシルの蘇生の法則でレベルダウンをしております。

オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは

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