ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか?   作:混沌の魔法使い

7 / 46
メニュー7 カワサキさんのヘラファミリアの日々

メニュー7 カワサキさんのヘラファミリアの日々

 

アルフィアとメーテリアの病、いや2人の身体に寄生していたモンスターを取り除いたもう絶滅したと思われていた亜人種の男……カワサキがヘラファミリアにいるようになってから様々な変化があった。まず大きいのはレベルアップをしなくともレベルアップと同様のステイタスの上昇だ。料理でステイタスを伸びやすくすると聞いたときは何の冗談か? と思った物の事実ステータスは確実に伸びている。

 

(しかも必要なステイタスだけをピンポイントでな)

 

力・耐久・敏速・魔力・器用さ……剣を扱う者ならば力と器用さを、魔法を扱う者ならば魔力と敏速をと言った風にそのものに必要なステイタスが上がりやすいような料理を作るというのは些か驚かされた。

 

(鬼札そのものよな)

 

カワサキがいればオラリオの冒険者の常識は全て覆される。反則スレスレの文字通りのジョーカー、それがカワサキという男だった。だが私には1つ不満があったので、食事の時間では無いが食堂へ足を運んでいた。

 

「カワサキよ。少々お前に物申したい事があって来た」

 

「あん? あー……セラスだったけか?」

 

オラリオではその冒険者の2つ名で呼ぶのが一般的だが、カワサキはそんな事は知らんと言わんばかりに名で呼ぶ。オラリオで長い月日を過ごしたが、団員とヘラ以外に女帝という2つ名ではなく、名を呼ばれたのは久しぶりだなと思う。

 

「そうだ。カワサキよ、お前の食事は確かに美味い。それは間違いない、だが私はそこに不満がある」

 

料理長の雫より腕が良いのは認める。野菜や適度な甘味のバランスもよく、彩りも考えられた食事と言うのは確かに女性向けで考えられたものだ。最初は面白いと思ったが、段々これじゃないというのを感じ始めていた。

 

「不満……それは良くないな、何が良くない? 今日はまだ仕込みの前だ。何が良くないのか教えてくれ」

 

「うむ、では言わせて貰おう。見目も野菜の組み合わせも実にいい、だが物足りん。もっとこう……あれだ。でかいものはないのか?」

 

小皿に盛り付けられ、様々な料理があるのはいい。色々と食べれるし、味が変わって面白い。だが……正直に言って物足りないのだ。

 

「あー……それはつまりあれか? ボリュームのある物が良いと?」

 

「端的に言えばそうだ。確かに色々とあるのは良い、だがこうもっとこうあれだ、分かるだろう?」

 

上手く言えないが物足りないのだ。確かに美味い、腹も膨れる。だがこれじゃないというのがどうしても付き纏うのだと言うとカワサキは頷いてくれた。

 

「分かった。今日の昼は普段と違うものを準備しよう。お気に召すかは分からんが」

 

「楽しみにしている。ちなみに赤と白、どっちに合う?」

 

「間違いなく赤。それも上質な赤に合うと約束しよう」

 

「期待している」

 

赤に合うと言う事は肉料理か……一体どんな物がでるのか楽しみにしながら私は食堂を後にし、少しばかりの自主鍛錬と解れた服などを縫い直していると昼食の時間を知らせる鐘が鳴る。

 

「さて、どんな物が出来たかな?」

 

部屋に備え付けてあるワインセラーから2本のワインを抜き取り食堂に向かった私を待っていたのは想像もしていない料理だった。

 

「これ……は?」

 

「牛ロースの塊に豚ロースの薄切りを巻いた物、それとアスパラガスを牛ロース肉で巻いた物と、シーザーサラダとコーンスープだ」

 

肉に肉を巻くとか馬鹿なのか? と言う言葉が喉元まで込み上げてくるが私が余計な事を言ったからかもしれないと思い、その言葉をグッと飲み込んだ。

 

「肉が美味いんだから肉を巻いたらもっと美味いだろ?」

 

「馬鹿なのか?」

 

「失礼だな、ちゃんとある料理だよ。まぁまずは食べてみてくれ、味は保障する。ああ、後その緑のは刺激が強いから少量付けるだけにしないと地獄を見るからな」

 

確かに食べもせずにあれやこれやと言うのは失礼だなと思い、差し出された皿を手に空いてる席に腰掛ける。

 

「いただきます」

 

乗せられていた2つの小皿の1つ、黒いソースが入ってるほうを持ち上げて香りを嗅いで見る。

 

「馴染みのない香りね?」

 

香ばしいとでも言うのだろうか? 独特の香りがするそのソースを切り分けられている肉を巻いた肉の上に掛け、さらに小さく切り分けて口へと運ぶ。

 

「……美味しい」

 

肉を肉で巻いた一見馬鹿な料理なのだが、驚くほどに丁寧に作られているのがその一口で分かった。巻かれている肉はカリっとするまで焼かれていて食感と香りを、中の肉は程よいレアで肉本来の味と血の味で舌を楽しませてくれる。

 

「……うん、確かに良く合う」

 

上質な肉には上質なワインが良く合う。それにこの肉を調理する段階で赤ワインを使っているのか赤ワイン自体との相性が抜群にいい。それでいて肉の塊を丸まる1つ使っているのでボリュームもバッチリだ。

 

「やはりこうじゃないと駄目ね」

 

洒落た料理も悪くは無いが、私達はやはり冒険者なのだ。身体が資本なのは言うまでも無く質もそうだが、やはりまずは量を食べて身体を作る事が必要不可欠だ。私の考えだが、洒落た料理は偶の休みくらいで丁度良いと思っている。

 

「面白い料理だ」

 

肉を肉で巻くことで脂を中に閉じ込め旨みを凝縮させている。だが外に巻いてる肉がバラ肉などではきっと脂でくどくなってしまうだろう……脂が少なく、食感と旨みがいいロース肉が最適、そしてソースを付けて食べる事が前提であるのは言うまでもないが……塩、恐らく少量の岩塩と黒胡椒で下味を付けているのでソースを付けなくても深みのある肉の味を楽しむ事が出来る。

 

「この緑か……なにかのペーストのようですが……」

 

刺激が強いといっていたので少量をソースに溶かして肉に付けて頬張り……。

 

「ッ! な、なるほど確かに刺激が強いですね」

 

ツンッとした刺激が鼻に抜け、少し涙が出た。だがその刺激は悪くない、それに……。

 

「肉の味わいがぐっと深くなりましたね」

 

ソースの段階でも十分に肉の味を楽しむ事が出来ていたのだが、この緑のをつけると脂が抑えられて肉の味を存分に楽しむ事が出来る。それに口の中もさっぱりとする。

 

「……言ってみるものですね」

 

赤ワインを楽しみながらカワサキに直接物申して正解だったと思いながら緑のソースを付けて頬張り。少し付けすぎたのか、鼻に抜ける刺激に悶えそうになるのを気合で押さえ、誤魔化すように赤ワインを口にするのだった……。

 

 

 

 

私とお姉様を蝕んでいた病を治してくれた可愛い人の所に私はこっそりと1人でやって来ていた。

 

「こんにちわ、可愛い人」

 

「……何回も言うが、その可愛い人って止めないか?」

 

「ふふ、嫌です」

 

こんなにふわふわしてそうで黄色い身体をしているのだから可愛い以外なんと言えば良いのですか? と言うと可愛い人は疲れた様子で溜息を吐いた。

 

「なんか用かい?」

 

「はい、用がありますので参りました。可愛い人はお菓子などは作れますか?」

 

お菓子を作れるか? と尋ねると可愛い人はうーんっと首をかしげた。

 

「作れないのですか?」

 

あれだけ料理を作れるのだからお菓子も作れると思っていたのに……。

 

「いや作れるは作れるぞ? うん、一応作れる」

 

「一応……ですか?」

 

はきはきと物を言う可愛い人にしては歯切れが悪いと思いながら尋ね返すと雫が顔を出した。

 

「カワサキさんはお菓子は作れるそうですが専門ではないので、余り自信が無いそうなんですよ。まかないで作ってくれましたが普通に美味しかったですけどね」

 

「雫は食べたんですか? その時は何を?」

 

「ああ、古くなったパンがあったからそれを揚げパンみたいにして中にカスタードと生クリームを詰めた簡単なもんだよ」

 

「まぁ、それは美味しそうですね。今度私とお姉様にも作っていただけますか?」

 

専門ではないと言いながらもそれだけ作れれば十分だと思うのです。

 

「専門じゃねえんだけどなあ……まぁ作ってくれと言われれば作るさ、一応一通りは作れるし」

 

「一通り……ケーキなども?」

 

「まぁ作れる。ただ飾りつけとかは雑いぜ? そういう美的センスはあんまりねぇもんでね」

 

「全然構いませんわ。今度是非作ってくださいね」

 

やっぱり可愛い人は可愛いと思う。お姉様や団員の皆はうーんと首を傾げますが、私はとても可愛い人だと思うのです。

 

「メーテリア、こんな所にいたのか」

 

「お姉様、はい、可愛い人と雫と少し話をしていたのです」

 

「カワサキと雫と?」

 

「ええ、とても楽しいお話でしたよ。可愛い人はケーキまで作れるそうなんです」

 

私がそう言うとお姉様は少し驚いた様子で可愛い人に視線を向けた。

 

「器用なんだな」

 

「作れるだけだ。本職には劣る。あとメーテリア、あんまり言いふらすなよ? ハードルが上がって敵わん」

 

「ふふ、分かりました。楽しみにしていますね」

 

ケーキが作れると知られるのを恥ずかしがっているのを見て、やっぱり可愛い人だと私は思った。

 

 

「ねえ、お姉様。なんで……先に食べちゃったんですか?」

 

「……すまない」

 

「すまないんじゃないんですよ、すまないじゃ……ッ」

 

後日可愛い人がお姉様にケーキを預けたと聞いてルンルン気分でお姉様の所に行けば、机の上には空のお皿としまったと言う顔をしているお姉様を見て私は激怒する事になるのだが……その時の話はまた今度語ろうと思います。

 

 

 

 

 

机の上に並べられた料理の1つを頬張り、私は配膳してきたカワサキに視線を向けた。

 

「自信が無いと言っていたが、素晴しい腕前だな。カワサキよ」

 

「いや、本当に自信はないって、大慌てでレシピを調べたんだぜ?」

 

「ふふふ、それは悪かったな」

 

カワサキに故郷であるギリシャ料理を作ってくれと頼んだのは朝食のすぐ後だったから、カワサキも相当焦って作ったのか、その顔には疲れの色が見える。

 

「久しぶりに食べたかったのだ。なんせ私が行くと店は閉まるからな」

 

「……そりゃまたなんとも言えんな」

 

私は自分で言うのはなんだが気性が激しい方だ。だからこそ私が訪れると怖がる者が多いのは悲しいが仕方のないことだ。とは言えあの人が私という妻がいるのに他の女に粉を掛けたりするほうが悪いと言わせて貰いたい物だ。

 

「良い羊の肉だ、これは私のファミリアの物か?」

 

「いや、違う。ゼウスの爺さんに俺の持ってる食材を出したんだ。あんたにも出すのが道理だろ?」

 

「ふっふ、そうかそうか……この黄金の蜂蜜酒にしても、そうだが……お前の持ってる道具はどれも面白いな」

 

トマトソースで煮込んだラム肉をオリーブオイルで揚げたじゃがいもと茄子で交互に挟み、ベシャメルソースとチーズを掛けて焼いたギリシャの伝統的家庭料理ムサカだが、使われている食材はどれもオラリオでは流通していないものばかりだ。

 

「アテナの小娘の作っているオリーブか、そんな物まであるのか?」

 

「稀少品だけどな。毎回酷い奪い合いだったもんさ」

 

「それはそうだろうな」

 

あの戦乙女と言われるアテナが大事に育てているオリーブだ。魔法の触媒や魔法薬の材料にすればどれだけの効能がでるか、ざっと考えただけでも桁違いの効果を持つ魔法薬が作れるのは間違いない。

 

「落とすなよ? オラリオで争乱が起きる」

 

「分かってる。ゼウスの爺さんとあんたには世話になってる。だから出したんだ、普通じゃださねえよ」

 

「それが良かろう。これは人には余りにも強すぎる」

 

ドルマを口に運び、身体に満ちる活力の凄まじさに笑みを浮かべながらカワサキにそう警告する。ドルマは葡萄の葉っぱに炒めた挽肉と野菜、そして米を包んで作る料理だ。決して派手ではない、そして美食という訳でもない。だがそれだからこそ美味いと思う、愛郷を感じさせる味だ。

 

「だろうなあ、でも必要なら使うぜ?」

 

「その判断はお前に任せる。ところでこのドルマに使ってる肉は何だ?」

 

「レイジングブルって言う牛の肉だ、俺達の所では最高級の肉だ」

 

「なるほど道理で」

 

脂もそうだが、恐ろしいほどに肉の味が濃い、そしてその肉を包んでいる葡萄の葉っぱも恐らくはカワサキの世界の代物だろう。

 

(あの馬鹿が感極まりそうだ)

 

私が唯一尊敬すると言っても良いヘスティアが自らの神席を譲ってやったと言うのに、馬鹿な事をしているディオニュソスの奴を思い出す。狂乱を司るが故に狂っているあいつを見てられないと言ったヘスティアの善性は認めるが、それは今でも私は間違いだと思っている。

 

「何か気になることでも?」

 

「いや、今は良い。今はやらねばならぬ事が多すぎるからな」

 

あいつは何れ牙を剥く、その前に処理してしまいたいが……それも思うようには恐らくは行かない。あいつは自分自身に暗示を掛けているからだ。

 

(疑わしきは罰せよとはいかんな)

 

あいつの本質は悪神、だが暗示によって善神になってる今は処分は出来ないのだ。だが私には確信がある、あいつは何れオラリオに大きな被害を加えるという確信があった。そんな事を考えながら大皿に盛られている揚げられた烏賊を頬張り、私は少し驚いて目を開いた。

 

「ん、これはギリシャヨーグルトを使っているのか?」

 

「下味が大事だからなカラマラキア・ティガニタはな」

 

「その通り、しかしこれほどの味はそうはないだろう」

 

小さな烏賊の唐揚げ――カラマラキア・ティガニタは下味がすべてだ。小麦粉を塗した烏賊を揚げる、作り方としてはそれだけだが食材の良し悪し、下味、オリーブオイルの鮮度が全てを分ける料理と言っても過言ではない。

 

「蜂蜜酒の追加は?」

 

「貰おう。しかし給仕の心得もあるのだな?」

 

料理だけではなく、給仕としての心得もあるのか完璧な立ち回りをするカワサキにそう問いかける。

 

「修行時代の事ですよ。女神ヘラ」

 

「……それは止めろ、お前には似合わん」

 

「だろうよ、給仕は出来ても俺には向いてないさ」

 

敬語で一礼するカワサキの姿には思わず鳥肌が立った、似合ってないにも程がある。

 

「しかし本当に良い腕だ。お前が女なら我がファミリアに入れと言っていた」

 

作るのが難しいエッグレモンスープも完璧に、しかも本職以上に仕上げているカワサキが女なら間違いなく私のファミリアに入れと言っていたと思う。

 

「それはごめんだな、ここにアインズ・ウール・ゴウンがなくても、俺はアインズ・ウール・ゴウンの一員なんでな。別の組織に入ることは出来ねえよ」

 

「義理堅い男だ。だが悪くない」

 

「お褒めに預かり光栄だ」

 

不敵とも言えるその態度は絶対とも言える己の料理の腕への自信。鍛えられた技術に基づいたその不敵な態度は悪くない。

 

「ファミリアに転移の魔法陣だったか? それを配置するのを許可しよう」

 

「悪いな、無理を言って」

 

「構いませんよ。あの人も戻して欲しいと言ってますし。でも1日置きですよ?」

 

転移の魔法陣があればあの人のファミリアと私のファミリアを行き来出来る。先にあの人が保護したのだからあの人の所にいるのが道理と分かってはいるんですが……どこかもったいない事をした気持ちになり、それを誤魔化すように黄金の蜂蜜酒を煽るのだった。

 

「え。ゼウスファミリアに帰ったんですか……」

 

「そんな、お弁当……」

 

ただカワサキがゼウスファミリアに帰ったと知り、眷属達が元気を失ってしまい、私は慌てて1日置きに来ると説明するのだった……。

 

 

メニュー8 鉄板焼き へ続く

 

 




と言う訳でガッチリヘラファミリアの胃袋も掴んでゼウスファミリアへと一時戻ったカワサキさんでした。そしてヘラファミリアにいるときはゼウスファミリアが、ゼウスファミリアにいる時はヘラファミリアが元気を失う事になりますが、胃袋を掴んだカワサキさんの勝ちと言う事で(笑)次回はゼウスファミリア再び、この後は一旦幕話で黒龍討伐を見送るという感じで話を進めて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは

  • 間違っている
  • 間違っていない

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。