ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか?   作:混沌の魔法使い

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メニュー45 バースデーケーキ

メニュー45 バースデーケーキ

 

カワサキがオラリオを出ると言ってからフェルズは何とかしてカワサキをオラリオに留めることは出来ないかと考えていた。

 

「フェルズよ。あの男は頭が固い。何を言っても納得はすまい」

 

「神ウラノスよ。今カワサキを失うのはオラリオにとっては痛手だ。それを回避しようとするのは当然だろう」

 

確かにカワサキの存在は大きいのは事実。他の世界の神であり、その知識は豊富で、更に言えばオラリオよりも発展した世界で暮らしていた事が容易に想像出来るほどにカワサキの打つ手は迅速で効果のある物だった。カワサキがいれば都市は更に安定するのは容易に想像出来た。

 

(少し気になるところではあるが……まぁ良いだろう)

 

フェルズがカワサキを留めようとするのはオラリオのためか、それとも自覚していない己の恋心ゆえか……どちらにせよ、止まる事はないと思いながら書類に目を通していると私の部屋の扉が外側から吹き飛んで私の顔を掠めて背後の壁に突き刺さり、闇派閥の生き残りの襲撃かと身構えかけたが、地獄から響いて来るような怒号に私もフェルズも動けなかった。

 

「ウラノス……フェルズ……ちょっと座れ、お前らが関係してねぇとは分かってるが……お前らの後手の対応には俺もいい加減に堪忍袋の緒が切れそうだ……俺が冷静に対応出来る間にそこ座れ……ッ」

 

完全に目が据わり額に血管を浮かばせながら座れというカワサキに私もフェルズも反射的に床の上に正座した。

 

「……ザルドが止めてくれたが……うちのガキ共を誘拐しようとした冒険者がいたそうだ……後なオシリスの所から呼んだ連中も何人も返り討ちにしたと教えてくれたぞ……ッ! 俺に手を出すのは良い、俺で対処出来るからな……だけどなガキに手を出すのは道理が通らないだろうが……ッ」

 

「どこのファミリアだッ!? そんな馬鹿な真似をしたのは!?」

 

ダイダロス通りの子供達を攫い、カワサキを思い通りに動かそうと考えた神がいた……それは考えられる事態だったが、まさか実行に移すとは思わなかった。

 

(そこまで堕ちたか……)

 

神としての権威も、そして威厳も失った。いや、仮に全てを失っても天上に帰れば良いと考えた上の暴論だろうが仮にも神を名乗るのならばそこまで誇りを捨てなくても良かっただろうに……。

 

「ギルドナイトをダイダロス通りに派遣する。それと……「ペニアの婆さんがファミリア結成を申請する。それをすぐ通してくれ……話はそれだけだ」……分った。今日中に申請を通し、ペニアファミリアを生産系ファミリアとして認める」

 

一報的に怒りの原因と要求を告げたカワサキは踵を返す。フェルズは何とか会話を試みるが、カワサキは明確な拒絶をその態度で示していた。

 

「待て……待ってくれ……話を「……悪いが俺は今話したくない。あんまり俺を失望させてくれるな……いや、俺にお前らを嫌いにさせないでくれよ」……っ……すまない」

 

カワサキはフェルズの謝罪に返事を返さず歩き出した。ダイダロス通りの子供達はカワサキにとって明確なウィークポイントではあるが、それは文字通り龍の逆鱗に触れるの同意義だ。恐らくそのファミリアは壊滅的な打撃を受けているだろうが、カワサキはオラリオの人間性に見切りをつけたのは明らかだった。

 

「どうしてこんな事に……」

 

「対応が遅れたとしか言いようがないな」

 

出来る事をしてきた。だが緩やかに、そして衝突などを起さずにオラリオを変えようとした。変革を求めて、素早い変化を求めているカワサキとは違う方法でオラリオを変えようとした。それが今回の事件の切っ掛けであり、私とフェルズは深く溜め息を吐いた。

 

「……もう穏便な方法では無理ということだな」

 

「そうなるだろうな」

 

「ならば強行だ。主神や冒険者がここまでの暴挙に出るのならばこっちだけが大人しくする必要はない」

 

フェルズも決意を固めたようだが、それは余りにも遅すぎた。カワサキは何度も警告し、早く決断を下すべきだといっていたのにそれを長引かせたのはわれわれであり、その決断力の無さがカワサキとの決別へと繋がってしまったのだから……。

 

 

 

スカウトや、面談を求めるファミリアは多くあったが、俺はその全てを蹴って来ていた。そもそも俺は長期オラリオに滞在するつもりは無かったし、神の地位や名声を高めるために利用されるつもりは無かったからだ。袖にしていれば諦めると思っていたが、まさかダイダロス通りの子供達を攫い、人質を取って俺を抱きこもうとするとまでは考えていなかった。

 

(仮にも神を名乗っておいてそこまでするか……ッ)

 

形振り構わないにもほどがある。そこまで地位や名声が欲しいのかと心底俺はオラリオの神に失望した。これ以上オラリオにいるのはリリ達を危険に晒すだけなのでペニアのばあさんが主神となりファミリアを結成する決断をしてくれたので俺も予定を繰り上げてオラリオを出ることにした。

 

「……ったく、こんな沈鬱な雰囲気の誕生日なんてねえだろうよ」

 

誕生日を祝おうかと話をしていたのに、その矢先にこれだ。オラリオの民度は俺がいた貧民層と同じ位と思っていたが、それよりも酷い。貧民層の人間よりも豊かなのに、良くもまあ自分の欲望に身を任せ、あと先考えずに行動できるなと心底呆れる。

 

「……はぁ……本当によ、良い加減にしてくれよな」

 

卵を泡たて器で良く解き解し、グラニュー糖を加えてハンドミキサーに持ち替えて泡立てる。

 

「こんなもんか」

 

ハンドミキサーを持ち上げた時に零れ落ちた生地がゆっくと消えるくらい泡立てたら、薄力粉を振るってボウルの中にいれヘラでだまにならないように丁寧にかき混ぜる。

 

「……これで大丈夫だよな?」

 

俺はケーキは専門ではないので不安はあるが、誕生日にケーキがないなんてありえないのでやはりケーキは作ってやろうと思う。

 

「チーズケーキとかなら大丈夫なんだがなぁ」

 

チーズケーキなら割と作るが、ショートケーキは余り得意な部類ではないので少し不安だが、ここまで来たら作業を続けるしかない。

 

「えーっと確か型に敷紙を入れて……そこに生地を流し入れて……」

 

思い出しながらケーキを作る作業を続け、型の中に生地を流し入れたら竃の中に入れて焼き始める。焼くまでの間少し休憩を兼ねてどんな料理を作ってやるかと考えながらコーヒーを飲み、焼き上がるまで休憩する。

 

「良い具合だな」

 

窯からケーキを取り出してケーキクーラーの上に乗せて粗熱を取る。

 

「生クリームとグラニュー糖をいれてっと」

 

ケーキの一番大事な生クリームを作る作業だ。アイテムボックスから取り出した生クリームをボウルの中に入れ、グラニュー糖を加えたら別のボウルに氷を入れて、氷で冷やしながら生クリームを泡立てる。

 

「良し、こんなもんだな」

 

七分立ての生クリームが出来た頃合でケーキの粗熱も取れたので、ナイフでスライスし回転台の上に乗せる。

 

「うっし、やるか」

 

パレットナイフを使ってスライスしたスポンジに生クリームを薄く塗る。

 

「……まぁこんなもんだろう、不恰好ではないはず」

 

クリームを塗ったスポンジの上にスライスした苺を並べて更にスポンジを乗せて生クリームを塗り、回転台を回しながら全体を生クリームでコーティングして、生クリームの残りを絞り袋の中に入れ、絞りながらケーキをデコレーションする。

 

「良し、これで完成っと、冷やしている間に他の料理を作るか……やっぱ子供が喜ぶって言ったらこれだよな」

 

仕上げたケーキを冷蔵庫に入れて冷やしている間に他の料理を作る事にし、俺は骨付きの鶏腿肉を冷蔵庫から取り出すのだった。

 

 

 

 

 

本当なら楽しい食事の時間……だけど今日は皆暗かった。

 

(でも無理もない……)

 

私は夕ご飯に来てしったが、カワサキが明日の朝にでもオラリオを発つらしい。それも理由でカワサキを取り込もうとしたファミリアがリリ達を攫おうとしたからであり、これ以上自分がいると危ないという私達の心配が理由ともなれば暗くなるのも当然だ。

 

「おじさん、やっぱりオラリオを出るの?」

 

「ん? ああ、そうなるな」

 

軽い感じで出るというカワサキに涙目になる子もいるが、カワサキはそんな子達を見ると頭をわしゃわしゃと撫で回した。

 

「これが今生の別れっていう訳じゃない。それに他にも助けを求めてる奴もいる。お前達を助けたみたいにそういう奴らも助けてやらないとな。それに誰かの誕生日にはこっそり帰ってくるし、手紙も出す。だから泣くなよ」

 

「……はい」

 

「良し! それで良い。さぁさ! 温かいうちに飯だ飯ッ! いただきますッ」

 

「「「いただきます」」」

 

カワサキの明るい口調といただきますの言葉。そして手紙に、誕生日に帰ってくるという言葉で少しだけ場の雰囲気が明るくなり、私も机の上の料理に視線を向けた。

 

(……あった)

 

私の好きなコロッケにトマトソースが掛けられたパスタに燻製肉を挟んだサンドイッチにバターロールにサラダとコンソメスープと沢山の料理が並べられているのはいつも通りだが、今回はそれに加えて1人1つずつ骨付きの鶏腿肉のフライがついていた。少し悩んだが先に鶏腿肉に手を伸ばす。

 

(良い匂い)

 

オラリオでは馴染みのないカワサキが使う独特の調味料の香りとにんにくの風味に小さく微笑みながら鶏腿肉を齧る。

 

「ッ!」

 

カリっという小気味良い音と口いっぱいに溢れる肉汁と老いた鶏ではなく、若い鶏なのかジューシーな味わいに思わず笑みが零れる。

 

「美味しい……」

 

「美味しいです!」

 

「はむはむっ!」

 

カワサキの作ってくれる料理はいつも美味しいが、この骨付きの鶏腿肉は味は濃くてにんにくの香りが食欲を誘う。

 

「……むぐむぐ」

 

鶏腿肉で食欲が刺激され、サンドイッチに手を伸ばしサンドイッチを頬張り、鶏腿肉を齧り、机の上に置かれているナプキンで手を拭いてスプーンを手にコンソメスープを飲み、少し苦手だけどサラダも食べる。

 

「おじさん、美味しいよ!」

 

「でもちょっと足りないかな」

 

確かに料理の数は多いけど、少し量が足りないかなと私も思っていた。

 

「今日は特別なデザートがあるから少し少なめにしてる。お腹一杯じゃ食べれないからな」

 

特別なデザート……どんな物をカワサキは作ってくれたのだろうかと期待しながら机の上のパンを手に取り……。

 

「……そうだ」

 

バターロールを少し切り開いて、サラダの残りとコロッケを挟んで小さく齧る。

 

「……うん、美味しい」

 

バターの効いたふわふわのパンとコロッケのサクサクした食感と滑らかな食感のじゃがいも……コロッケはパンに挟んでも美味しく、これならサラダも普通に食べれると気付き、私は2個目のバターロールへ手を伸ばすのだった……。

 

 

 

カワサキさんがオラリオを出るのはとても悲しいですが、それが私達の身の安全につながり、私達の様に助けを求めている子供達を助けに行くと言う理由ならば嫌でも納得し無ければならない。

 

(ソーマ様は大丈夫と言ってましたけど……カワサキさんが大丈夫ってことなのでしょうか?)

 

オラリオにいて安全というわけではなく、外にいてもカワサキさんは大丈夫という意味の大丈夫というソーマ様の言葉だったのかもしれない。

 

「デザートはケーキだ。オラリオだとちょっと珍しいんじゃないか?」

 

「「「「わぁ~ッ!」」」」

 

生クリームと苺でデコレーションされたケーキが机の上に3つ並べられ、それを見た私達は思わず声を上げた。オラリオには様々な珍しい物が来るが、ケーキというのは珍しい上に高級品だった。作れる人が少ない上に材料や設備が必要で、現在のオラリオでは作れる人も少なく、そして作る設備も無いからだ。

 

「皆均等に切り分けるからな。少し待てよ」

 

「「「はいッ!」」」

 

少し待てというカワサキさんの言葉に私達は声を揃えて元気良く返事をしワクワクしながら待った。

 

「ほら、リリの分」

 

「ありがとうございます!」

 

見るからにふわふわの生地に雪のように白い生クリームに鮮やかな赤色の苺……どう見ても美味しいと分るケーキに思わず笑みが零れ、皆にケーキが配られたのを見てからフォークを手に取ってケーキを小さく切って口へ運ぶ。

 

「んんん~美味しいです~」

 

「甘くて美味しい……」

 

「……ふわふわしてる……」

 

生クリームは思ったよりも甘く無かったですが、スポンジの甘さと苺の甘酸っぱさを考えれば丁度良い甘さで、ふわふわのスポンジにはスライスされた甘みが強みの苺が挟まれていた。

 

「凄く食べやすいです!」

 

物凄く食べやすいのだ。甘すぎず、酸っぱすぎず、私達の事を考えてやや小さめのサイズというのも全部が食べやすい。

 

(……でもやっぱり少し寂しいです)

 

お父さん……いやお兄さんでしょうか? 優しくて頼れる人がいなくなるのは寂しいなと思いながら、小さく小さくケーキを切って味わって食べながらどうしてカワサキさんがオラリオを出なければならないのか、本当に追い出されるべき人は他にいるのではないかと思わずにはいられないのでした。

 

「折り紙で花ですか?」

 

「うん! おじさんもうすぐオラリオを出ちゃうから……」

 

「何か作ってプレゼントしようと思って」

 

「良いですね! リリもやります!」

 

「おじさんが出発する前に作らないとね!」

 

カワサキさんがオラリオを出る前に皆でプレゼントを作ろうという話になり、カワサキさんに教わった物でカワサキさんへのプレゼントを作ろうという話になるのは至極当然の話なのでした。

 

 

~7年後~

 

「ヘスティア様は不器用ですね」

 

「むきいッ! 馴れれば僕だって出来るようになるさ!」

 

カワサキの愛弟子のベルが団長であるヘスティアファミリアは、未だ結成したばかりの新参のファミリアであり、様々な問題を抱えていた。まずは資金難、次にベルに目を付けている他のファミリアからの引き抜き工作に、7年前と異なり神出鬼没のカワサキとの繋がりを求める者からの接触とファミリアの結成に必要な書類仕事に加えて自分の眷属を守り、資金を工面するのはヘスティアにはかなり厳しい事だった。

 

「まぁダイダロスの子供達は皆出来ますし、ヘスティア様も出来ると思いますよ。後2ヶ月くらいで」

 

「そんなに!?」

 

「そんなにですよ、出来たっと」

 

今リリとヘスティアが作っているのはダイダロス通りの子供達でも出来る資金稼ぎ――ブレスレットなどのアクセサリー作りだ。

 

「ペニアのお婆ちゃんが言ってますからね。適切な労働に適切な報酬、過ぎたるは及ばざるが如しと」

 

「いや、彼女の所トップレベルのファミリアでしょ?」

 

「カワサキさんが色々と土台を作ってくれましたからねぇ……」

 

ペニアファミリアは生産系ではトップレベルだが、その多くはカワサキが土台を作り、技術を教えた冒険者達が発展させた物だ。

 

「飲食店に、工芸品に、調味料関連……安定性が段違いだね」

 

「カワサキさんが色々と考えてくれましたからね」

 

無論やっかみはある。だがそれを捻じ伏せるだけの技術と過度に収入を得ようとしないスタンス、そしてギルドが後ろ盾にいる。

 

「野球も毎年優勝だろう? 本当半端ないね」

 

「それはリリも思いますね」

 

探索系のファミリアから戦争遊戯を仕掛けられ、ヴァリスを巻き上げられる生産系ファミリアが多い為フェルズが試験的に広げた野球だが、これが生産系ファミリアでも探索系に勝てる可能性がある戦争遊戯であり、そして神の鏡による中継でも人気を博している。

 

「カワサキ君って本当どこかおかしいよね? いや、善人なんだけどさ」

 

「それはリリも同意です。良い人なんですけどね……」

 

間違いなくカワサキは善人ではあるが、どこかおかしい人でもあるというのはオラリオの住民の共通認識になりつつあった。

 

「はい、1・2、1・2、123456」

 

「だぁッ!! 急に多いぞッ!? 「文句を言ってる暇があったら手を動かす」がっ!?」

 

そしてそれは当然のようにレベル6の冒険者であるベートに訓練をつけていたり……。

 

「あーくそ、流石に本職には勝てなくなって来たなあ……俺も歳かねぇ……」

 

「ぜぇ……ぜぇ……そ、それは……嫌味……か?」

 

「いや、身体能力的含めて総合力では俺はお前に劣ってるからなあ」

 

「ぜぇ……ぜぇ……うっぷ……い、嫌味にしか……聞こえん……」

 

決死でカワサキを下して息を荒げてるオッタルの隣で平然としている姿だったり……。

 

「23……1……23……2」

 

「231、232、233……」

 

息も絶え絶えで腕立てをしているベルの隣で平然と腕立てをしている姿だったりと……。

 

「料理人ってこんなにやばいのかな?」

 

「多分カワサキさんだけですよ、うん。いや、絶対カワサキさんだけですよ」

 

善人で、良い人だがどこかおかしい人……7年前とは良い意味で評価の変ったカワサキなのであった。

 

 

 

 

下拵え 旅立ち へ続く

 

 




というわけで7年前良い人、7年後良い人だけどどこかおかしい人にランクアップしてるカワサキさんでした。次回で原作前の話は1度区切り、ベル君にそろそろ焦点を当てたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは

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