ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか?   作:混沌の魔法使い

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下拵え 旅立ち

 

下拵え 旅立ち

 

カワサキがくれた植物が芽を出し始めた時にカワサキは旅装をして私を訪ねて来た。その姿を見るだけでカワサキが何をしに来たのか悟ってしまった。

 

「オラリオを出るのね?」

 

「おう。俺がいるとガキ共が危険に晒されそうなんでな」

 

カワサキは良いも悪いも目立ちすぎてしまった。取り込もうとする者、排除しようとする者――様々な者達が動いているのは知っていたが、ここまで恥知らず、恩知らずの神がいたのかと思わず天を仰いでしまう。

 

「迷惑を掛けるようで悪いがガキ共を頼むわ、デメテル」

 

「……ええ。ちゃんと見ておくし、うちの眷属もあの子達の所に向かわせるわ」

 

小さな、本当に小さな恩返し、それくらいしか私達がカワサキに出来る事はない。

 

「外に出るまでつけましょうか? いえ、安全な拠点を見つけるまで……」

 

カワサキが旅に出たとしても間違いなくそれを追う者はいる。それを危惧して子供達をつけようかというとカワサキは着ていたコートの一部を捲った。そこにあったのはゼウスとヘラのエンブレムだった……7年前にオラリオを見限って出て行ったゼウスとヘラの関係者である証のエンブレム――それはどんな抑止力よりもある意味強力だ。

 

「……驚いた。貴方ゼウスファミリアだったの?」

 

「いや? あいつらが作った村で暮らしてる一般人」

 

「貴方みたいな一般人はいないと思うけど?」

 

冒険者を一蹴し、知識もあり、思いやりもある。一般人というには少しばかり無理があると思う、私を見て苦笑したカワサキは振り返り左手をひらひらと振りながらよろしく頼むともう1度口にして執務室を出て行った。

 

「……彼、今度は何時来るのかしらね」

 

少なくともカワサキがオラリオに良い感情は抱いていないのは明白だ。オラリオを変えた功労者が出て行かなければならない……。

 

「いつまでもジッとはしてられないかもね……」

 

闇派閥の脅威は一時的だが去った。ならばこれからはより良いオラリオにする為に私も動かなければならないのかもしれない、バベルに向かって歩いて行くカワサキの後姿を見ながら私はそう思うのだった……。

 

 

 

デメテルの所を出た俺はそのままロキファミリアに足を向けていた。ロキファミリア自体に用は無いが、ロキファミリアにはベート以外にも旅立ち前に声を掛けておく必要がある少女がいるからだ。

 

「……カワサキさん。もう行ってしまうのですか?」

 

「ああ。まぁ俺は旅から旅の根無し草だからな」

 

アイズは俺の言葉に少し寂しそうな表情をしていた。その姿を見て、俺は少しだけ安堵していた。

 

(少しだけだが、いい傾向だな)

 

リリ達との触れ合いで年相応の少女らしくなっているのを見て、良い傾向だと思い。鞄から1冊のノートを取り出した。

 

「アイズ……お前が誰に復讐したいのか、何を憎んでいるのかは俺には分からない」

 

「……ッ! カワサキさんも止めろって言う……?」

 

「いや。俺は復讐は否定しない、復讐も憎悪は前に進む力になるからだ。だが……その後に何をするかだ」

 

復讐自体は俺は否定もしないし、肯定もしない。俺は復讐の後に何をするかが大事だと俺は思う。

 

「何を……するか」

 

「そう何をするかだ。復讐を終えてその後も人生は続くんだ。好きな人が出来るかもしれない、他にやりたいことも出来るかもしれない……楽しい事、幸せな事は沢山あるんだ。復讐は否定しないが、復讐だけで人生を終えたらいけない」

 

アイズは俯いて俺の言葉に耳を傾けてくれていた。アイズの目に黒い炎があるのは分かっていた、だがそれを消す事は俺には出来ない。本当の意味でアイズに寄り添って、傍にいてくれる相手がいればきっと消えるかもしれないが、今の俺には彼女の憎悪を消す事は出来ない。

 

「アイズ。これをやろう……これには強くなる為に必要な事が書いてある」

 

「ほんと!?」

 

「ああ。だがこれはな、今のお前に相応しいことしか書いてない。焦らず、ゆっくりと強くなればいい。後ちゃんとリリ達と遊んで、ダイダロスの学校にもしっかりと通う事。良いな?」

 

「……うん、リリも皆も友達……」

 

ぎこちないが笑みを浮かべるアイズの頭をぐりぐりと撫で回し、俺の武術事典のコピーを渡す。これは俺の百科事典から戦闘術や格闘術を抜き出して作った本だ。アイズの技量に応じて見れる範囲が増えるように設定してあるので、無理なことはしない筈だ。

 

(それにリリ達もいるしな)

 

情緒の幼いアイズは子供達の中でも妹扱いで皆に構ってもらっているので、無理なことや危険なことをしていればきっと皆がとめてくれるだろう。

 

「じゃあな、後俺は皆の誕生日には帰って来る。お祝いしにな」

 

「……私の誕生日も?」

 

「勿論来る。じゃあな、アイズ。元気で」

 

「……カワサキさんも元気で」

 

ひらひらと手を振るアイズに見送られ、俺はヘファイストスファミリアへと足を向けるのだった……。

 

 

 

旅姿をしているカワサキを見て私は溜息を吐いた。分っていた、分っていた事だ。この男の性格とあり方を考えればこうなることは容易に想像がついていた。

 

「悪いけど、まだあなたの依頼の品は出来てないのだけど」

 

「ん、まぁそうだろうよ。今日訪ねて来たのは納品先の変更をな?」

 

「律儀ね。届け先はダイダロス通りの……「ペニアファミリアで頼む」……あの婆さんファミリアを立ち上げたの?」

 

貧窮を司る女神であるペニアがファミリアを結成というのは正直信じられない事だった。

 

「まぁガキ共を守る手段としてな。ああ、それと追加でこれとこれも頼む」

 

なんでもないように追加の依頼書を机の上に乗せるカワサキに苦笑する。

 

「まぁ良いわ、引き受けるわ。それと気をつけて、貴方は目立ちすぎた。今まで以上にちょっかいがあると思うわよ」

 

「分ってる、まぁそういうのにはなれてるよ」

 

どこか煤けた表情をするカワサキにほんの少しだけ興味が沸いた。

 

「色恋沙汰?」

 

「全然嬉しくないがな、まぁそんな所だ。達磨にされる前に逃げれて良かったと思ってる」

 

「……マジで言ってる?」

 

「大マジだ。あれはキチガイだった」

 

……意中の男の手足を切り落とそう何て考える正気じゃない女がいるとは……そりゃカワサキも煤けた表情になるワケだ。

 

「ま、そういうわけで逃げるのは馴れてるから問題ないし、一応こういうお守りもある」

 

そう言ってカワサキが見せてきたのは男神と女神のエンブレム。自分に手を出せばあの2人が黙っていないという証だった。

 

「……とんでもない切札を持ってるみたいじゃない」

 

「手札は多い方が良い、特に俺みたいな根無し草はな。じゃあ、後はよろしく頼む」

 

踵を返して歩き出したカワサキは思い出したように足を止めて振り返った。

 

「報酬は先払いだ。ゼウスのじーさんの好きな酒だ、飲んでくれ」

 

そう言って投げ渡されたのは黄金で満たされた小さな酒瓶――紛れも無く、黄金の蜂蜜酒だった。

 

「ちょっ!?」

 

「迷惑料と思って受け取ってくれ、あと手の空いてる時で良いからガキ共を頼むぜ」

 

とんでもない物を渡して去っていくカワサキに私は浮かしかけた腰を椅子に戻し、少し迷った後に封を開けて小さなコップに入れて黄金の蜂蜜酒を口にした。

 

「……本物ね……これじゃあ貰いすぎになるわ」

 

まだ頼まれた物も出来ていないのに報酬を上乗せされてしまった以上、こっちも今まで以上に気合を入れないといけない。とりあえずまずは……。

 

「LV1の冒険者を何人かダイダロス通りに回しましょうか……」

 

戦力としては期待出来ないが、目が増えれば、そして多くの主神が関わっていれば手を出しにくくなるだろうと考え、とりあえずはペニアと話を付けるために立ち上がり……。

 

「これはじっくり味わいましょう」

 

金庫の中に黄金の蜂蜜酒をしっかりと隠してから私はダイダロス通りに向かい……。

 

「よう、悪いな! マキシム、セラス!」

 

「全く俺を足代わりに使うか? 暇だから構わんが」

 

「この私を呼び寄せたのだからな、ご馳走を作ってもらうぞ」

 

「分ってる分ってる」

 

ゼウスとヘラのエンブレムが掲げられた馬車にマキシムとセラスと共に乗り込んで行く姿を見て、これでペニア達に手を出す馬鹿はいないだろうなと笑い、引き攣った表情を浮かべているオラリオの住民とカワサキを追っていた馬鹿な主神のところの団員の横を通り、私はダイダロス通りに向かって歩き出すのだった……。

 

 

 

 

ゴトゴトと揺れる馬車から離れていくオラリオに視線を向ける。本音を言えばもう少しオラリオにいても良かったが、余りにも神や住民が駄目すぎた。

 

「オラリオって酷い街だな」

 

自然も食う物もあるのに、どうしてああも人の心が荒んでいるのか、これならばまだリアルで俺がいた貧民街の方が人間性に優れていたと思う。

 

「抑止力や、前に立つものがいないからな」

 

「神に影響を受けて刹那的に生きる者もいるしな」

 

まぁそれは1つの要因だろうが、問題は自分の意志だ。結局の所オラリオの民度が低い、そこに集結すると思う。

 

「オラリオはマトモになるかね」

 

「外見上はマトモになるだろうが、所詮は表だけだろうな」

 

「やっぱりそう思うか?」

 

「カワサキはどう思ってるんだ?」

 

「無理だと思ってるよ。オラリオのシステムじゃ無理だ」

 

全知零能だとしても超越存在の神がいて、自分を肯定し、老いにくく強い身体を得れる。そしてその力を使って地位や名声、更には金も得れる。正しく夢のような話だ、そしてその夢に囚われている限り誰も現実を見ないだろう。

 

「人間は誰しも自分が特別になりたい。だから恩恵に魅了されるのかもな」

 

「英雄に憧れると?」

 

「お前は違うのか?」

 

マキシムは黙り込み、セラスも小さく苦笑いを浮かべていた。

 

「ま、少しは泣く子供が減って良かったと思う事にするさ。オラリオを本格的に変えるにはまだ時代が悪い」

 

少しだけでも涙が減った、腹を空かせている子供がいなくなった。今はそれで良しとしよう、物事を変えるというのは時間が掛かるので今回はその第1歩という事にしよう。

 

「ところで私達が迎えに行くと聞いたら朝飯と昼飯を食っていない馬鹿がいるのだが戻ったらすぐ料理は出来るか?」

 

「……出来るけどよ、飯は食えって言っておいてくれるか?」

 

「言って聞く馬鹿共か?」

 

「……悪かった、無理難題が過ぎたな」

 

全くだと頷くマキシムに苦笑し、村に帰ったら休む間もなく料理をする事になりそうだと思いながら遠く離れていくオラリオを見つめながら、腹ペコ共に何を作るかとのんびりと考えるのだった……。

 

 

 

下拵え ベル君とカワサキさん へ続く

 

 




と言う訳で暗黒期はこれで一旦終了です。書きたいものが色々ありすぎたので大分長引きましたが、今回で暗黒期は1度終了です。
今後は下拵え、幕話という形で暗黒期の捕捉をやりたいと思いますので、今回はこういう形で終わりにします。次回は少し時間が飛んで7年後のオラリオへ向かう半年前のベル君からスタートしたいと思います。

オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは

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