ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか?   作:混沌の魔法使い

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下拵え ベル君とカワサキさん その1

下拵え ベル君とカワサキさん その1

 

オラリオから離れた山中にある小さな集落。木で作られた質素な小屋の数々と畑はどこからどう見ても集落としか呼べない物だが、その集落に住む住人達はオラリオの1級ファミリアが束になっても敵わない者ばかりだ。それもそのはず、この集落はオラリオを見限り旅立ったゼウスとヘラがカワサキが持っていた拠点製作用のアイテムで作り出した、外敵から認識されず、そしてこの集落の存在を知らぬ者は基本的に見つけることが出来ない絶対安全な拠点でもあった。

 

「ふっふふーん♪」

 

そしてそんな集落の小屋の1つから楽しそうな鼻歌が聞こえて来る。美しい白髪に兎のアップリケ付きのエプロンをした少年――「ベル・クラネル」は鍋をかき混ぜる手を止めて小皿に鍋の中のスープを入れて味見をする。

 

「んー少し塩が足りないかな、それと胡椒と……」

 

味に物足りなさを感じ、慣れた手付きで調味料を足して再度鍋をかき混ぜて味見をしたベルは満足そうに頷いて、スープを皿に盛り付ける。

 

「お爺ちゃーん、お婆ちゃーん? ご飯だよー」

 

家の裏手の窯で焼いたロールパンに、ゼウスファミリアの男連中が捕まえてきた猪の肉で作った燻製肉と産み立て卵で作った目玉焼きに、畑で手塩を掛けて育てた野菜で作ったサラダに、畑の野菜をたっぷりと使った野菜スープとご機嫌な朝食を作ったベルだが、祖父母の反応がない。

 

「お爺ちゃーん? お婆ちゃーん? ご飯冷めるよー?」

 

そう声を掛けながらベルは祖父母の部屋の扉を開け……。目の前の光景に目から光が消え失せた……。

 

「ベルすぐ行くから少し待っていて?」

 

「むがーッ!」

 

猿轡を噛まされ逆さ吊りにされてる祖父――「ゼウス」とそんな祖父の下で薪を組んでいる祖母「ヘラ」を見たベルは動揺するでも、叫ぶでもなく……。

 

「スープが冷める前に来てね?」

 

「分ってる。この人への折檻が終わったらすぐに向かう」

 

「むがああああああ――(助けてーッ)」

 

助けを求めているゼウスを無視し、着火しようとしているヘラに背を向けてベルはゆっくりと扉を閉めた。

 

 

「うむ、美味い。上達したなベルよ」

 

「カワサキさんが教えてくれたからだよ、お爺ちゃん」

 

「いや、ベルが頑張ってるから上手に出来るのだ。私の子供達などいつまで経っても上達しない」

 

「あははー……お姉さん達はたぶん性格的に向いてないんじゃないかなー?」

 

ちょっと焦げているゼウスとヘラの言葉に苦笑いを浮かべながらも、褒められていることは満更でもないのか嬉しそうな笑みを浮かべるベル。そして……。

 

「ベルくーん! お姉さんに朝ごはんちょーだいッ!!」

 

「ベルー、わりいけど朝飯分けてくれー」

 

「はーい」

 

当然のように朝食を求めて転がり込んでくる村の住人達と少し騒々しくも、笑顔が満ちる日々……それがベル・クラネルの日常であった……。

 

 

 

7年前のベルは甘えん坊で、年の割りには舌足らずの面もあったが、オラリオから村に帰ってくると口調がしっかりとしていた。

 

(……もしかして俺のせいだった?)

 

それなりに厳しくしていたつもりだったが、俺が甘やかしすぎたのがベルの精神が幼い原因だったかもしれないと俺は大分反省した。それからは少し距離を取った訳だが……そのおかげもあったのかベルは歳の割りに大分しっかりしてきていた。

 

「いや、駄目な連中が多いのが原因か?」

 

ゼウスファミリアの面子は当然生活力皆無、ヘラファミリアは基本的に女子力低い、メーテリアは病弱だったので女子力は高いが体力が低い、アルフィアは論外、アルトは生活力どころか人格面にも問題あり。ゼウスは助平爺、ヘラは女子力高いが、性格に難がある。俺、基本思考回路が料理よりで、この世界の常識よりもリアルよりの考え方をするので俺自身も問題がないわけがない。

 

「……ベルがしっかりするのは必然だった?」

 

俺含めて問題児ばかりだったのでベルがしっかりするのは当然だったのかもしれない。

 

「僕が何ですか? カワサキさん」

 

「ん? おう、ベル。お前が最近頑張ってるなあって話だ、俺も歳だから独り言が出るんだよ」

 

「カワサキさん……歳って言いますけど何歳なんですか? お父さんより年上ですよね? ザルドさんやマキシムさんよりも年上です?」

 

おっとやぶ蛇だった……まぁ俺はクックマンの姿が正体なので、歳を取るという概念はないので歳に関しては触れさせないようにしていたのに自分で話題にしてしまった。

 

「まぁ、それなりに年上だ」

 

「それなりって……いやまぁ良いんですけど、カワサキさんについてはあんまり気にしないようにってお爺ちゃんに言われてますし」

 

納得はしてない様子だが、とりあえずはこの話題は終わったようだ。

 

「それじゃあ今日もよろしくお願いします」

 

「おう。んじゃまあ、先ずは走りこみからな」

 

「はいッ!」

 

ベルは冒険者になりたいらしく、オラリオに向かう事を目標としている。その為に5年近く鍛錬しているのだからか本気で冒険者になりたいようだ。

 

「ペースが遅れてるぞ」

 

「は、はい……ッ!」

 

年齢が年齢なので過度な筋トレはしていないが、走りこみや、軽い筋トレで身体能力はかなり高めになっている。

 

「ほれほれ、もう少しだぞー」

 

「は、はいいッ」

 

一緒に走っているのでベルは根性を出して追いついてきたので上げていたペースを落とす。

 

「クールダウンだ。息を整えて」

 

「はいッ!!」

 

ゆっくりとスピードを落とし、呼吸を整えながらゆっくりとスピードを落として俺の小屋の前で足を止める。

 

「ほい、水分補給、それと汗をしっかり拭けよ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

レモンと蜂蜜と砂糖で作ったなんちゃってスポーツドリンクのボトルを渡して、汗を拭くためのタオルも頭の上に乗せる。

 

「ふーやっぱりまだカワサキさんには追いつけないですね」

 

「走り方にコツがある。山道だからな、無理に走ってもスピードは出ないぞ」

 

「分かってはいるんですけどね……」

 

村の回りの山の中を走る、獣道で、岩や倒れた樹木で道が塞がれているので走るのは中々困難だが、だからこそベルのトレーニングに最適だ。

 

(パルクールもどきでも役立つもんだ)

 

街中を逃げるのに役立つパルクール。俺のはそのモドキだが、ベルは動体視力が良く、思い切りが良いので俺のパルクールを元に自分なりのパルクールを身につけ山道も普通の道と同じ位に走れる。

 

「この後は軽い筋トレとストレッチな」

 

軽めのバーベルもどきと軽い腹筋やスクワットに、ストレッチで締めというのが基本的なトレーニング内容だ。

 

(ザルド達はベルは才能がないタイプと言っていたが、努力を続けられるのも才能だな)

 

ベルはメーテリアが病弱だったのでやや小柄だ。それに筋肉も付きにくい体質だが、同じ事を何度も何度も繰り返し、効果が出るのに時間がかかるトレーニングも文句も言わず続けている。確かに戦闘者としての才能は無いが、ベルには十分に努力をする才能がある。

 

「カワサキさんは僕がオラリオに行くのは反対ですか?」

 

「反対ならお前にトレーニングを付けたりしないだろ」

 

ベルがオラリオに行くのは反対する者が多いが、俺は別にベルを止めようとは思っていないし、最初は反対していたザルドとマキシムも今はたまにベルに鍛錬をつけてやっているくらいだ。

 

「男がやるって決めたら迷うなよ、これだって決めた目標に走れ。ただまぁ……死ぬような真似はしてくれるなよ?」

 

「は、はい! 分かってます! お母さん達を心配させるのは嫌ですし、僕も死にたくないですしね」

 

結局の所誰が止めても、自分がこうすると決めたら男はそれに向かって突っ走ってしまうもんだ。だから俺は止めるつもりはないし、ベルに訓練もつけている。それに何よりもベルがオラリオに向かう時には俺も同行するつもりだし、ゼウスのじーさん達にはベルの近況をしっかりと伝え、冒険者としての芽がないとベルが納得するまでは付き合ってやろうと思っている。

 

(料理人なら大成しそうなんだけどなあ)

 

ゼウスのじーさん達に美味しいご飯を作ってあげたいということで料理を教えたらベルはかなり覚えが良く、料理人としても大成しそうなんだけどなあと思いながらストレッチをしているベルを見つめ、ストレッチが終わった所でミットを填める。

 

「ほい。素手の格闘の練習な」

 

「はい!」

 

俺に武器の使い方は教えれないので白兵戦の練習と駆け引き、そして俺流の護身術と料理が俺が冒険者になりたいというベルに教えてやれることなのだった……。

 

 

 

 

僕――ベル・クラネルには沢山の父と母がいる。お爺ちゃんとお婆ちゃんを慕っている沢山の人達が僕にとっての家族であり、親だ。色んな事を教えてくれる人たちばかりだし、冒険者になりたいって言う僕に諦めろっていう人もいれば、応援してくれる人もいる。ただちょっと変な人もいるけど……。

 

【わ、私は普通だったのにベル君の所為で変になっちゃった】

 

なんか鼻血を出してはぁはぁしてるお姉さんが何人かいたけど、それでも、うん、それでも僕は……。

 

(僕は恵まれている)

 

カワサキさんにも、お父さんにもザルドさんにも僕は冒険者に向いていないと言われた。僕はお母さん似で年齢よりも幼く見られるし、身体も中々大きくならない。足の早さだけなら冒険者に通用するが、それ以外は落第点といわれている。特にお母さんのお姉さんのアルフィア母さんには冒険者など止めろ、料理人を目指せと何度も言われている。だがそれでも僕は冒険者になりたいと思っている。

 

(……自分の夢は自分で叶える物、目標を決めたら止まるな)

 

カワサキさんの教えだ。与えられた物は自分の物にならない、自分の願いが、夢があるなら自分で掴め、そして目標を、ゴールを決めたら走り続けろ、立ち止まるなとカワサキさんは教えてくれた。だから僕は僕の夢を自分で叶える。

 

(まずはダンジョンでヴァリスを稼いで、お爺ちゃん達にプレゼントとか……それに料理人になるなら自分の店は自分で考えたいし……そ、それに彼女も……見つけられたら良いなあ……)

 

お爺ちゃんとお婆ちゃんの昔話で英雄に憧れたこともあった。だがカワサキさんの何気ない一言が僕の考えを変えた。

 

『ベルはそんなに何かを壊して、殺したいのか? 人を1人殺せば殺人者だが、人を100万人殺せば英雄だ』

 

英雄は破壊と殺戮の上で成立する物だとカワサキさんは言った。そしてその上で何を目指すべきか教えてくれた。

 

「僕は僕の手の届く範囲の者を守って助けられる力があれば良い」

 

僕は僕の手の届く範囲で、守って助けられる力があれば良い。あとは……皆に美味しいご飯を作って上げる事が出来ればそれで良い。

 

「良し、頑張るぞ」

 

オラリオに行くための試験はまだ合格してないし、料理もまだまだ色々と頑張りたいし……。やりたい事が沢山あるのは本当に楽しいなと思いながらお爺ちゃん達の家へ帰ると……。

 

「……ベルよ。お爺ちゃんを助けてくれないか?」

 

「駄目だよお爺ちゃん。そんな事をしたら僕も怒られるよ。僕はお婆ちゃんやアルフィア母さんには怒られたくないんだ」

 

また何かしたのか首まで畑に埋められているお爺ちゃんの助けを求める声を無視して小屋の中に入る。

 

「おかえりベル。私と一緒に夕飯を作るか?」

 

「うん! お婆ちゃん!」

 

「良し良し、おいで」

 

「はーい」

 

お爺ちゃんが馬鹿をやって、お婆ちゃんに怒られて、カワサキさん達に色んな事を教わる。それが僕ベル・クラネルの日常なのです。

 

 

 

下拵え ベル君とカワサキさん その2へ続く

 

 




英才教育を施され、英雄にはあんまり憧れず、でも自分の夢に向かって走るベル君です。ただ適度に図太く、目の前で処刑が行われていても平然としているメンタルを手に入れています。後適度に変態に狙われているのでいなしのレベルも上達してますね。次回もベル君をメインで書いて行こうと思いますので、次回の更新もどうかよろしくお願いします。

オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは

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