ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか?   作:混沌の魔法使い

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下拵え ベル君とカワサキさん その2

下拵え ベル君とカワサキさん その2

 

珍しく俺はヘラと向き合って午後のお茶を楽しんでいた。この村で育てられた果物で作ったジャムとスコーンもどきのパンとヘラ手製のケーキだ。

 

「本当にいらんのか?」

 

「気持ちはありがたいが、甘い物はジャムで十分だ」

 

自然な甘さのジャムくらいなら良いが、ケーキまではそこまで食べたいと思わないので遠慮し、温かい紅茶を口にする。

 

「カワサキよ、最近のベルはとても良く頑張っているな。私としては複雑ではあるが……」

 

「まぁなぁ……オラリオの人間は民度が酷すぎるからなあ」

 

善人と悪人だと悪人のほうが圧倒的に多いのが問題だ。悪人とまで呼ばずとも倫理観の欠如してる奴が多すぎる。

 

「それなら何故ベルを鍛えたのだ?」

 

「だってベルだぞ? 純真無垢で警戒心が薄いあいつが何の心構えもせずにオラリオに行ったらどうするよ? あいつ無駄に行動力あるんだぞ?」

 

ベルはメーテリア似で一見すれば美少女にしか見えない、そして素直で良い子だ。そんなベルが無策でオラリオに行ったらお登さん確定だ。

 

「……」

 

ヘラも沈黙しており、その沈黙が雄弁にベルの騙されやすさを物語っていた。

 

「そうだな、うん。ある程度は心構えが出来ていたほうが良いな」

 

「だろ? 自衛の術とか、処世術は必要だろ」

 

如何せんゼウス・ヘラファミリアの連中は悪童ばかりだし、俺含めて常識人っぽいがどこかズレてる連中が多いのでそれを基準にされると不味いはずだ。

 

「まぁそれはおいておいて、本題は別だ」

 

「別なのか? 俺はてっきりそれが本題だと思っていたんだが……」

 

ベルを鍛えていることに対する文句で呼ばれたと思っていたので、それはおいておいて良いと言われて少し考える。

 

「また性格を変える麻婆豆腐を作るか?」

 

「それも頼みたい所ではあるが、それでもない」

 

「これも違うのか……じゃあなんで俺を呼んだんだ?」

 

覗きと下着泥棒をして吊るされているゼウスのじーさんと、その近くで何も言わずいつもの事と言わんばかりに筋トレを兼ねた薪割りをしているベルを見ながら思い当たる節がなく、何の用で呼んだのかとヘラに尋ねる。

 

「最近ベルの主夫化が止まらないんだが……?」

 

「悪いがそれは俺のせいじゃないな」

 

確かにベルの主夫化は最近進んでいるなと思っていた。7年前は超が付く甘えん坊だったが、今はしっかりとしてきていて炊事洗濯まで出来るようになってきているし、俺がリリ達に教えたのと同じ内職系の縫い物なども出来るようになっている。

 

「……私の眷属がベルを狙っている」

 

「……マジで?」

 

「ああ」

 

「歳の差2回りくらいあるぞ?」

 

「それでもだな」

 

……確かにこれは深刻だな、40過ぎた奴が9歳に目をつけるのは相当にやばい。偏愛を拗らせた変態が誕生してしまった。

 

「アルフィアが叩きのめしたが、ベルに父性を感じたらしくてな。ベルに甘えたいとか世迷い事を言っていた」

 

「そいつはもう多分手遅れだな」

 

「お前でも無理か?」

 

「いや、俺にも出来る事と出来ないことあるからな?」

 

「大概の事はやるではないか」

 

「性癖を拗らせた相手の対処法はないなあ」

 

行き遅れた結果性癖まで拗らせた喪女をどうすれば良いかなんて分からない。というか性癖というか、拗らせた奴に監禁されかけた上に達磨にされかけたので俺としては拗らせた相手は天敵レベルで相性が悪い。

 

「福音……」

 

【サタナス・ヴェーリオン】

 

「もぎゃああああああッ!!」

 

「あ、アルフィア母さんなにをッ!?」

 

「……変態に気を許すな、ベルよ」

 

外から響いて来るアルフィアの呟きと馬鹿の悲鳴、それに悲鳴を上げるベルに変態を許すなというアルフィアの声。

 

「もう1回アルフィアに〆てもらえよ。多分それが一番確実だ」

 

「……私のファミリアの6割ほどなんだが……?」

 

「完全に手遅れじゃねぇか」

 

家庭能力が死んでるのは知っているが、それでも過半数がベルに危ない感情を向けているのは手遅れなんて言うレベルじゃない。いくらアルフィアでもその数の変態を〆るのは無理が過ぎる。

 

「どうしてこうなったと思う?」

 

「……メーテリアが病弱だったのとアルトの家事能力が壊滅してたから」

 

寝たきりだったメーテリアと遊び人のアルト、しかも新婚旅行としょっちゅう出かける馬鹿夫婦を見ていたらベルがしっかりしてくるのは自明の理であった……。

 

 

 

 

アルフィア母さんの魔法で吹っ飛ばされた人という光景は実は最近良く見る光景である。アルフィア母さんは僕が危ないと言っているが、僕の何が危ないのだろうかと思いながら鍋の中に千切りにした人参と食べやすい大きさに切った白菜を入れる。カワサキさんがくれた鶏がら出汁、酒、醤油、摩り下ろしたにんにくとしょうが

 

「世の中には変態がいる。良いかベル……自分の身は自分で守らなければならない」

 

「じゃあアルフィア母さんが教えてくれる?」

 

塩水につけていた鶏胸肉を手で裂きながら言うとアルフィア母さんは言葉に詰まる。

 

「冒険者にならないというのならば鍛えるのはやぶさかではない」

 

「でも僕は冒険者になりたいよ」

 

「……止めておけ、お前には向いていない。カワサキも言っていた」

 

「それでも僕はやっぱり冒険者になりたいよ」

 

裂いた鶏胸肉を鍋の中に入れニラと一緒に煮る

 

「何故そこまで冒険者に拘る? エロ爺のせいか?」

 

「あはは……確かにお爺ちゃんのお話が面白かったのもあるかな。アルゴノゥトとか、アルフィア母さん達の話も好きだよ」

 

お爺ちゃんとお婆ちゃんが昔オラリオにいた神様で、アルフィア母さんやザルドさんが眷属だったという話も知ってる。ダンジョンに挑む冒険者に憧れたというのもあるけれど……。

 

「手に職と、自分のお店とか欲しいなあって、あと働かざる者食うべからずっていうでしょ?」

 

自分で生計を立てる術と、小さな料理屋さんをやるだけの資金を稼ぎたいっていうのもある。

 

「……カワサキの影響を受けすぎだ」

 

「そうかなあ……そうかも」

 

少なくとも僕が料理が好きになったのはカワサキさんの影響だと思う。

 

「アルフィア母さん、辛いのか、ピリ辛かどっち?」

 

「辛くても平気だ」

 

「ん、了解」

 

追加でコチジャンとカワサキさんがキムチの素と言っていた液体を鍋の中に入れて火を強くする。

 

「机の上片付けておいてね、もうすぐご飯だから。机の上の物を床の上とか、クローゼットに入れるのは片付けじゃないからね?」

 

「分ってる」

 

クローゼットに荷物を詰め込もうとしていたアルフィア母さんに駄目だからと釘を刺し、スープが沸騰してきたら溶き卵を回し入れ、ごま油で風味をつける。

 

「あ、ご飯を入れて雑炊にしたほうが良かった?」

 

「それはスープを食べ終わってからで良いだろう」

 

「そう? それなら良いけど、じゃあ持っていくねー」

 

2人分の辛いスープを御椀に入れて机の方へと持って行ってアルフィア母さんと向かい合って座る。

 

「「いただきます」」

 

2人で手を合わせていただきますと言ってからスプーンを手にする。

 

「辛くて美味いな、丁度良い感じだ」

 

「本当? 良かった」

 

普段作るよりも少し辛めで、白菜にもしっかりとスープが染みこんでいて我ながら上手に出来たと思う。

 

「この鶏胸肉柔らかいな」

 

「カワサキさんに柔らかくする方法を教えてもらったんだ、やっぱりまだまだ覚えないといけないこともあるね」

 

「そうだな。カワサキの料理は工程が多いからな」

 

「美味しくする為の手間ってカワサキさんは言ってたよ」

 

和やかに食事をするアルフィアとベル。だがベルの世話をしていると思っているアルフィアだが、ヘラ達にはベルがアルフィアの世話をしていると思われている。

 

「あ、後で洗濯物出しておいてね。ドレスとか、し、下着は自分で洗ってね」

 

「もう纏めてある」

 

家事能力が壊滅しているアルフィアは事実1週間に2~3度ベルが掃除に来なければゴミ屋敷、もしくは汚部屋にしてしまうほど生活能力がないのだった……。

 

 

 

~数年後へスティアファミリア~

 

ヘスティアとベルは2人で並んで座り、洗濯物を畳んでいた。

 

「ベル君は炊事洗濯めちゃくちゃ上手だね。先生に教えてもらったのかい?」

 

「そうですよ、神様」

 

「なるほどなぁ。ところでその先生はオラリオにいるのかい?」

 

「いますよ。今度紹介しましょうか?」

 

「う、うーん……ベル君の先生ってあれだろ? 危険な動物に鉢合わせたら殴れとかの……」

 

「まぁ……はい、教えられたことの1つですね」

 

ベルが尊敬している先生に興味はあるヘスティアだが、ちょっと危険人物の疑いがある先生に会うのは怖いと若干顔を引き攣らせる。

 

「良い人なんですけどね。良し、洗濯物終わり。次は夕食の買出しですね。神様夕ご飯何が良いですか?」

 

「え、うーんそうだなあ……特に何でも良いかな!」

 

何を作ってくれても良いよというヘスティアにベルは困ったような表情をする。

 

「何でも良いんだぜ? ベル君」

 

「んーそれが実は1番難しいんですよね」

 

「え!? そうなのかい」

 

ベルを気遣っていたつもりが逆にベルを困らせていたと知り、へスティアは声を上げた。

 

「色々と逆に考えてしまいますしね……んーそれなら市場に2人で買いに行ってそこで考えましょうか」

 

「ふ、2人で!? い、良いねそれ! すぐ準備するよ!」

 

ドタバタと自室に駆け込んでいくへスティアを見送り、ベルは買い物用の鞄を手にする。

 

「お待たせ! 行こうベル君!」

 

「はい、行きましょうか」

 

まだ2人だけのファミリアではあるが、ベルはカワサキやヘラに仕込まれた炊事洗濯の技能を活かし順調にヘスティアを適度に甘やかし駄目女神をもっと駄目女神へと変え、そしてヘスティアはヘスティアでベルと2人きりの時間を心底楽しんでいた。なお団員が増えれば増えるほどにベルに駄目にされる者が続出し……。

 

「神様、駄目人間製造機って2つ名が候補だってどういう事ですかね?」

 

「あ、あはは……なんでだろうねえ」

 

駄目人間にされてる自覚があるヘスティアは乾いた笑みを浮かべるのだった……。

 

 

 

下拵え ギルメンズ・リポートへ続く

 

 




次回はアンケートの結果によるギルメン追加の準備の1つを短い話でやってみようと思います、最初に出てくるギルメンが誰なのか楽しみにしていてください

オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは

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