ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか?   作:混沌の魔法使い

76 / 99
下拵え ペニアファミリアの日々

 

下拵え ペニアファミリアの日々

 

ペニアファミリア――いや、ダイダロス通りの子供達の朝は早い。太陽が昇る前に起き出し、顔を洗い身嗜みを整えてから厨房に向かう。

 

「昨日はパンだったから今日はおにぎりにする?」

 

カワサキが残したレシピ本を見ながら今日販売するお弁当の打ち合わせを始める子供達。

 

「そうだねー、じゃあ卵を焼こうか」

 

「じゃあ私は腸詰を焼くね」

 

「今日も頑張るぞ」

 

「「「おーッ!」」」

 

市場で販売するお弁当を作り、それで生計を立てる。それがダイダロス通りの孤児達の日常であり、そしてこの場にいなくともカワサキが教えてくれた生きる術だった。

 

「……お前らこんな朝早くから起きてるのか?」

 

「あーザルドおじさん起きるのおそーい!」

 

「働かざるものくうべからずー」

 

「そうだーそうだー!」

 

「寝坊したならおてつだいしろー」

 

カワサキの代わりにダイダロス通りの子供達を守り、ついでにオッタルとベートを鍛える為にオラリオに残っていたザルドは悪い悪いと謝りながら、着替えて自分も厨房へ足を踏み入れた。

 

「ほれ、どんどん詰めてくれ」

 

「おじさん料理できたんだね」

 

「でもカワサキさんよりへたー」

 

「「「へたーへたー♪」」」

 

「……お前ら良い性格してる」

 

幼い子供に怒るような性格ではないザルドだが、カワサキの側にいたからか色んな意味で図太い性格になっている子供達に若干引いていた。

 

「おはよーございまーす!」

 

「お、おはよう」

 

「リリ、アイズ。遅いよー」

 

「早く手伝って~」

 

「「はーい」」

 

そしてそこにソーマファミリアのリリとロキファミリアのアイズも加わり、和気藹々と弁当を作り始める。

 

「……なんで子供達が出来て大人が出来ないのかね」

 

ファミリアの垣根を越えて協力し合う。大人には様々なしがらみがあるが、それでも互いに妥協する事が出来るだろうにとザルドは肩を竦め、エプロンを脱いで厨房を出る。

 

「ここは頼む」

 

引退した冒険者達にそう声を掛け、ザルドは壁に立てかけてあったナマクラの大剣を手に取る。

 

「な、ぼ、暴喰!?」

 

「な、なんで」

 

「うるせえよ。ガキに手を出すなんて性根の腐りきったことをしやがって……あの世に行く覚悟は出来てるんだろうなあッ!!!」

 

ダイダロス通りの子供達が弁当売りで生計を立てているのはカワサキのレシピがあっての事であり、それを奪いに来たであろう禄でもない冒険者達に向かってザルドは怒りの咆哮を上げ、5分も経たないうちに20人近くの冒険者を半殺しにする。

 

「おい、ギルドナイトとか名乗ってるならもっとちゃんとしやがれ、良い加減にしねえと本当にヘラの所の連中が来るぞ」

 

「は、はい。申し訳ありません」

 

「ご協力感謝します」

 

カワサキがいなくとも、カワサキがゼウスとヘラの関係者だとしてもなお、ダイダロス通りの孤児達を狙う主神とその眷属による襲撃はギルドナイトの目を掻い潜り、早朝・深夜問わず行なわれていた。

 

「よう、クソガキ共。そっちはどうだ?」

 

「こっちは8人だな。俺がいたからそっちに回ったみたいだ」

 

「恥知らずばかりで頭が痛い」

 

「本当ですね……」

 

ベート、オッタル、そしてアーディ。この場にはいないが、ミアハファミリアとディアンケヒトファミリアの戦闘要員達によるダイダロス通りの警護は深夜問わず、そしてカワサキと繋がりのあったファミリアによって持ちまわりで行なわれているのだった……。

 

 

 

ギルドナイトからの報告書の束に目を通していた私だが、鏡を見なくとも自分の額に青筋が浮かんでいるのを自覚していた。

 

「どこまで恥知らずなのだ……」

 

カワサキがオラリオを出て1週間。その間ほぼ毎日捕縛されて連れて来られている冒険者には怒りしか沸いてこない。

 

「ここは徹底するしかあるまい」

 

罰金を始めとした数多くのペナルティを課し、これで少しは襲撃の頻度が下がればと祈る。

 

「これだと元悪神連中の方がもっとマシに思えてくるな」

 

カワサキによって性格を変えられた悪神・邪神にその眷属は当然逆風だが、それでも善性を保っている。それを見ていると善神を名乗っている今のオラリオの神の方がよっぽど悪神に見えてくる。

 

「はぁ……頭が痛い」

 

闇派閥はほぼ瓦解しているが、ソーマファミリアの元団長のザニスを始め、ディース姉妹などは消息不明。闇派閥と関わっていたであろうイケロスファミリアにルドラファミリアはだんまりを決め込み、疑いを晴らすかのようにオラリオの貢献しているがそれがかえって怪しいと思わせる。

 

「……次は正攻法できかねないからな……ここまで考えていたか……」

 

戦争遊戯――ファミリア同士の戦いで、本来は探索系同士で行われるのが一般的だが、生産系のファミリアで有力な団員を無理矢理引き抜くために探索系が生産系に仕掛けることもある。襲撃が駄目になれば戦争遊戯に目を付けるのは分りきっている。

 

「……野球にサッカーにバスケット……か。これなら生産系もなんとかなるか?」

 

カワサキがスポーツも戦争遊戯に加えることを考え、置いて行ってくれた資料に目を通しながらこれを実現するのに必要なコストや、神々にとっての娯楽の側面をどう前面に出すことに考えをめぐらせていると……。

 

「またダイダロス通りに襲撃を仕掛けた冒険者を連行しましたか」

 

「またかッ! 良い加減にしろよッ!?」

 

どれだけ警告を出しても、どれだけペナルティを課しても、ダイダロス通りの子供達が持つカワサキのレシピを奪おうと画策するファミリア。本当なら活動を停止しおよび団員全員のファミリア内での謹慎の処罰を下したいフェルズだったが、闇派閥との戦いでオラリオを復興する必要があるため警告に留まっていたのだが、それが余計に娯楽好きの主神を暴走させていた。しかし重い処罰を下すことが出来ない私は1枚の書類を取り出した。

 

「ギルド権限で戦争遊戯させて叩き潰してやる。そうすれば懲りるだろう……」

 

「ギルド長! ギルド長落ち着いてください!」

 

「うるさい止めるなッ!」

 

「誰か! 誰かーッ!! ギルド長乱心! 止めてッ!!」

 

「乱心などしてない! ああいう馬鹿共は一度叩き潰して分らせるしかないッ!! なんだったらオシリスファミリアに依頼しても良い」

 

「止めて! 止めて下さい! 本当に大変な事になりますからッ!!」

 

「ああいう馬鹿共は一度痛い目をあわないと理解しないんだッ!!」

 

確実に味方であるファミリアのガネーシャかアストレアファミリアに戦争遊戯を仕掛けるように依頼しようとしたフェルズは、ギルド職員に取り押さえられても尚、その指示書を決して手放すことはないのだった……。

 

 

 

ダイダロス通りのカワサキの住んでいた家はペニアファミリアのホームになった。本来を言えばこのダイダロス通り全てがペニアに協力的で、この迷宮のような裏路地自身が強固な砦だった。

 

「……やれやれ、頭が痛い」

 

とは言えダイダロス通りも一筋縄ではない、顔役のペニアに反抗的なものもいれば、闇派閥に繋がりのある者もいる。そういう連中が多くなる奥は危険区域であり、当然距離は取っているが……それでも孤児や引退した冒険者の事を考えて出入りがしやすい区画を拠点とした為、それがダイダロス通りの孤児を狙う冒険者の標的になってしまった理由だ。

 

「おい、婆さん。ぶっ殺して来てやろうか?」

 

「あんたがそういうなら罪人なんだろうねえ。死皇子」

 

「ああ。禄でもない犯罪者だ。オシリスの裁きを下すべき罪人だ」

 

カワサキが呼んだオシリスファミリアの死皇子の言葉にペニアは少し考える素振りを見せた。

 

「9割殺しで頼めるかい? オシリスファミリアの仕業って分るようにね」

 

「了解、任された」

 

足音も無く消える死皇子を見送り、ペニアは机の上の羊皮紙の山に視線を向ける。

 

「全く忙しいんだから余計な事はしないで欲しい物だね」

 

ダイダロス通りの孤児達には名前を持たない者もいる。彼らの名前を考えるのは主神であるペニアの役目だった。

 

「本当だよな、なんでこうも馬鹿しかないんだろうな」

 

「全くだよ、カワサキ……はぁ!?」

 

「よ、元気そうだな。婆さん」

 

なんでもないように向かい合う位置に座っていたカワサキにペニアは間抜けな表情を浮かべる。

 

「あんた1週間でなにを」

 

「何ってあれだ。ガキ共の1人が誕生日だから来た」

 

「それだけで?」

 

「それだけって大事だろうよ。誕生日はよ。それにしてもガキ共全員共通でレアスキル持ちなのか」

 

「ああ。だから余計に面倒でね。あんたが面倒事を押し付けてくれたせいさ」

 

「そりゃすまんね。ご馳走を作るから勘弁してくれ」

 

なんでもない、本当になんでもないようにやってきたカワサキ。子供の誕生日だから、ただそれだけの理由でカワサキは何らかの方法でやってきた。

 

「1つだけ聞かせておくれ、どうやって来たんだい?」

 

「魔法でワープして来た」

 

「……もうあんたについて深く考えるの止めるよ。それで何を作るんだい?」

 

「肉料理とケーキ、それとサラダとスープ」

 

「そりゃ喜ぶね。いや、あんたがいることを喜ぶかもね」

 

そうだと良いなぁと笑いながら料理を始めるカワサキを横目にペニアは羊皮紙の1枚に視線を向ける。

 

【心繋家族(ダイダロス・ファミリーズ)】

 

このスキルを持つ人数の数だけすべてのステータスに補正が掛かる。効果としてはそれだけ、だがダイダロス通りの孤児達の結束と繋がり、仲間を思う心によって発生したこのレアスキルはペニアが恩恵を刻んだ子供達全員に発現していた。心で繋がった家族……強い孤児達の結束、そして自分をお婆ちゃんと慕う子供達の為にもペニアは負けてやるものかと気合を入れ1ヵ月後、度重なる嫌がらせに耐えかねたペニアは爆発した――。

 

「戦争遊戯だ! お前らが売ってきた喧嘩を買ってやろうじゃないかッ!」

 

野球を戦争遊戯に用いて、ギルドナイトと数多くのファミリアの監視のもと行なわれた初の戦争遊戯の野球で勝利を無事収め、迷惑料としてとんでもない額のヴァリスと魔石、そしてモンスターの素材を巻き上げると共に生産系でも探索系に勝てる可能性がある戦争遊戯として「野球」「サッカー」「バスケット」は通常のルールと戦争遊戯用の2つのルールが作られ、オラリオに広がって行くのだった……。

 

 

 

下拵え カワサキさんとベル君 その4へ続く

 

 




と言う訳でペニアファミリアな日々でした。カワサキさんがいなくてカオスですが、いてもいなくてもカオスでしたね。あとスキルの表記に関しては不安のある部分なのでおかしい所がありましたらご指摘していただけると嬉しいです。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは

  • 間違っている
  • 間違っていない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。