ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか?   作:混沌の魔法使い

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下拵え カワサキさんとベル君 その4

 

下拵え カワサキさんとベル君 その4

 

カワサキさんと並んで包丁を握り、畑で取れた野菜を小さく、細かく切り分ける。

 

「良いかベル。生きているなら飯を食わないと人間は生きていけない。勿論そりゃぁ怪我や病気をすれば人は死ぬ。だがな空腹でも、いや、もっと言えば喉が渇いても人は死ぬ」

 

「喉が渇いてもですか?」

 

「ああ。脱水症状や熱中症という。オラリオの人間はそういうのを軽視しがちだが、生きるために水と食うものは必要不可欠だ。だがダンジョンの中で物資を得るのは難しい、そういう場合。お前ならどうする?」

 

カワサキさんの問いかけに僕は少し考え、今作ってるものを前にして気付いた。

 

「保存食を持ち込むですか?」

 

「それも1つの手だ。あとはそうだな、今後教えてやるが泥水を綺麗にする方法もある」

 

「そんな事が出来るんですか?」

 

「出来る。道具と知識があればな。良いかベル、頭っていうのは帽子を乗せるためだけにあるんじゃない。考える事と知識を蓄えるためにあるんだ」

 

生きるために考える事を止めない事、そして生き残る為の術を増やすための手札を増やすこと……。それはずっとカワサキさんが教えてくれていることだ。

 

(偶に斜め上に突き抜けるけど……カワサキさんの教えは何一つ無駄じゃない)

 

偶に変態の股間を蹴れとか、猛獣に襲われたら鼻を殴れとか、チンピラと喧嘩になったら周囲を味方につけろとか、そんな事ある? って思うこともあるが、本当にカワサキさんは色んなことを教えてくれている。それが全部僕が生き残る為の術と思えば、その1つ1つはどんなものにも勝る知識という宝になる。

 

「これくらいだな、これをザルに重ならないように並べる」

 

「はい」

 

用意してあったザルに重ならないように野菜を並べて埃やゴミがつかないように網を被せてから太陽の光が当たる場所で干す。

 

「これで夕方くらいまで置いておけば野菜は良い。干す事で嵩張らず、更に栄養価が高まる。それに水分が抜けているから味が染み込みやすいし火の通りも早くなる」

 

「良い事尽くしですね」

 

「ああ。それに少量の水で洗ってそのまま食べることも出来る。緊急時の備えだな」

 

冒険者になってダンジョンに潜ることを考える。そうなるとすぐに地上に出れないこともあるし、こういう備えは必要不可欠というのは間違いない。

 

「じゃあ次は果物だ。今回はオレンジとりんごで作る」

 

「え? ジャムにするんじゃないんですか?」

 

「ジャムにもするがドライフルーツにもする。糖分は脳を動かすのに必要不可欠だ、塩分と糖分。勿論取りすぎても良くないが取らないというのも良くないんだ」

 

カワサキさんの言ってることは偶に分からないこともあるけど、生きるのに必要と言われれば覚えるしかない。

 

「まず果物だが、良く洗うのは野菜と同じだ」

 

「埃やゴミを綺麗にするんですね」

 

「その通り。ここを手抜きするとろくなことにならないからしっかりな」

 

「はいっ!」

 

果樹園で採れたりんごとオレンジを井戸水を汲んだ桶の中で綺麗に洗う。

 

「今回は皮を剥くが、皮は剥いても剥かなくてもいい」

 

「皮は剥いたほうが食べやすいですけど、残す意味があるんですか?」

 

「ある、栄養価は基本的に皮に多く含まれる。だから皮ごとでもいいが、ベルのいう通り食感が悪くなるから長期保存するなら皮付き、すぐ食べる予定があるなら皮は剥いたほうが良いな」

 

「分りました! 覚えておきますッ!」

 

りんごの皮は包丁で剥いて、オレンジの皮は手で剥いて食べやすい大きさに切って野菜と同じ様にザルに等間隔に並べる。

 

「野菜と同じ位ですか?」

 

「いや、果物は水分が多いから少し長めに、あとは虫とかに気をつけてだな。じゃあ次は……」

 

カワサキさんはそこで言葉を切ると呆れたように溜息を吐いた。

 

「あそこで集まってる酒呑みの馬鹿共のつまみの干し肉を作るぞ」

 

「あ、あはは……で、ですね……」

 

おじいちゃんの眷属と少人数だけどお婆ちゃんの眷属が待ってましたと歓声を上げる姿に僕も思わず乾いた笑みを浮かべてしまうのだった……。

 

 

 

 

本当は干し肉も作りたかったが、馬鹿共が騒ぎ始めているので先に即席のビーフジャーキーを作る事にした。

 

「鍋に醤油と酒、それとローリエを加えて煮る。目安としては一度沸騰するまでで良い」

 

ベルにビーフジャーキーのタレの作り方を説明しながら目の前で実演する。ベルは手帳に作り方をメモしているのでゆっくりと調理を続ける。

 

「本当は粗熱が取れるまで自然に冷やすが、馬鹿が騒いでいるから濡れ布巾の上に乗せて冷やす」

 

小鍋を塗らした布巾に乗せて冷やしている間にタレに漬け込む肉の準備をする。

 

「今回は牛腿肉を使うが、豚腿肉でも良い。ただあんまり脂が多い肉はお薦めしない、腐りやすくなるからな。個人的に1番ベストなのは腿肉だな」

 

牛腿肉を2~3ミリほどの厚さに切り、タレの中に沈めて軽く混ぜる。

 

「どれくらい漬ければいいんですか?」

 

「出来れば1日漬け込んで氷室においておくのが1番良い。味が良く染みるからな」

 

味が中途半端になるのも勿論だが、保存にも問題がでてくるのでしっかりと漬け込むのが基本だ。

 

「まぁ酔っ払いだからそこまで気にしなくて良いがな。半分は焼いて、半分はしっかりと保存食にしよう」

 

「はい、分りました!」

 

「じゃあ、これもう食べれるから焼いてくれるか?」

 

「分りました! これは弱火ですか?」

 

「最初は中火、次は弱火で焼くと言うより乾かすイメージで焼いてくれ」

 

ある程度タレが馴染んだ腿肉を鍋から取り出してフライパンの上に乗せて焼き始める。

 

(しかしまあ。ベルは真面目だな)

 

確かに才能は無いが、地味な訓練を続けられる根性がある。これが自分の為になると続ける事が出来る、それに自分で自主的に反復し、己の物へと変える。

 

(その反面料理のセンスはピカイチっと)

 

俺が教えたのもあるが、ベルの料理のセンスはかなり高い。それに一度失敗すれば2度同じ失敗をしないので俺が余り得意ではないスイーツ系も問題なく作れる。まぁ本人が甘いものが余り好きではないので作る専門だがパティシエのセンスもありそうだ。

 

(あとはどこまで仕上げれるかかねえ……)

 

冒険者になりたいベルに色々と仕込んでいるが、付け焼き刃では当然ベルを追詰める事になる。まだ14歳まで時間はあるが……。

 

(アルフィア達が納得するまで鍛えられるかねぇ……)

 

才能は無いが、想いはある。だがその想いはダンジョンに向かうという情熱に向けられている。

 

(何時までも留めてはおけねえな)

 

火がついた心は止められない……若者の特権だが、それでベルが苦しむようなことにならなければいいと心から思う。

 

「どうしました?」

 

「いや。物覚えの良い弟子だなってな。ヘラの所の眷属は全然駄目だったからなあ……」

 

どれだけ教えても全然駄目だったヘラの眷属と違って、ベルは物覚えの良い弟子だよと誤魔化すように笑い。

 

(やっぱり俺もオラリオに行くかねぇ……となるとどうするか)

 

ベルが俺に頼りきりにならないように、だがベルが困った時に手助け出来るように俺もオラリオに同行するのは決めていたが、いざオラリオに行くとしてどこでと考え……。

 

(まぁどうとでもなるだろ、うん)

 

ダイダロス通りの子供達の店もあるし、処刑されたことにして地に潜んでるエレボスもいるし。リアルと比べれば民度は最低だが、オラリオは暮らす上で何の問題もない。だからどうとでもなるだろうと俺は楽観的に考え、思考をこれからのベルのトレーニングプランに切り替えたが、俺は後にもっと良く考えるべきだったと深く後悔する事になるのだった……。

 

 

「こら~ッ!! ヴェルフッ!! 保存食を食べたら駄目って言ったよねッ!?」

 

「んお? おお、悪いベル。この干し肉美味くてなぁ」

 

「美味くてじゃないッ! ああもう……こんなに……ん? ドライフルーツが……ねえ? リリ。なんで僕から目を逸らすのかな?」

 

「……ごめんなさいです」

 

「もーッ!! 保存食は食べちゃ駄目って言ってるよねッ!!! こういう備えが僕達の命を守るんだよッ!? 食べるならおやつにしてって言ってるよね!?」

 

「つまみ食いしたらベル君怒るのになんで食べるかなあ、僕はちゃんとおやつを食べてるのに……あ、ベル君。僕今日シチューが良いな」

 

「シチューですね、じゃあ買い物に行きましょうか。神様」

 

「うん、行こう行こう」

 

「ヴェルフとリリは掃除ちゃんとしててねッ!」

 

保存食をつまみ食いしたヴェルフとリリにベルは怒りながら掃除を言いつけ、ヘスティアと共に夕食の買出しに出掛けた。

 

「めちゃくちゃ怒ってたな」

 

「……でもこれ美味しいんですよね……」

 

「はぁ……リリ助。帰って来るまで掃除してようぜ。これ以上怒らせたら本当に飯が無くなりそうだ」

 

「分ってますよ。はぁ……」

 

ダンジョンに潜る際の備えとしてベルが定期的に作っている保存食をつまみ食いしたリリとヴェルフはホームである教会の掃除を始めた。

 

「でも保存食云々ってベルの先生の話ですよね? どっちの先生だと思いますか?」

 

「あーあれだろ? 料理を教えてくれた先生と護身術を教えてくれた先生……って聞くとなぁ」

 

「リリもそこが心配なんですよね……」

 

「分かる。破天荒が過ぎるからなあ」

 

「多分料理の先生は旅をしてるおじさんだと思うんですけどね……冒険者の先生は危険人物過ぎると思いますよ」

 

「だな……」

 

股間を蹴れとか、鼻を殴れとかいう先生と、料理などを教えてくれた先生を別人だと思ってるリリとヴェルフはそんな事をぼやきながら、教会の掃き掃除を始めるのだった……だが正直に言えばヴェルフもリリもベルの備えを若干甘く見ており、2人が本当の意味でベルのいう備えの大事さを理解したのは中層でタケミカヅチファミリアから怪物進呈を受けた時なのだった……。

 

 

下拵え ベル君 頑張る その1へ続く

 

 




ちょっと今後のフラグも立ててつつ、今回の下拵えも終わりと言う事で、今作のリリはあんまりベル様とは呼ばない感じで行こうと思います。窮地とか、ときめいた時にベル様って感じでやろうかなとベル君頑張るはその5までの予定で、それ以降は本編に入って行こうと思いますので、本編開始まで後少しですので、楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは

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