ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか?   作:混沌の魔法使い

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下拵え ベル君 頑張る その1

下拵え ベル君 頑張る その1

 

カワサキさんに色んなことを教わって4年――12歳になった僕は……生死の境目を駆けていました。

 

「ひいいっ!!!」

 

【福音】

 

【福音】

 

「まてベル! 冒険者になるのを止めると言えッ!!」

 

冒険者になるという夢を諦めさせようとしているアルフィア母さんと山中で追いかけっこをしていました……。

 

「ええいッ! 止まれベルッ!」

 

「止まったら拳骨ですよね!? 嫌ですッ!!」

 

倒木を踏んで跳んで、木の枝を掴んで上に登り、その上を飛び跳ねて移動しながら叫ぶ。

 

「カワサキにお前は何を教わった!」

 

「逃げる術と戦う術を教わりましたッ!! というかなんでアルフィア母さんはその格好で僕に追いついてこれるんですか!?」

 

ドレス姿で追いかけてくるアルフィア母さんの方がずっとおかしいと思いながら、鉤爪付きのロープを遠くの枝に投げ、振り子の要領で大きく山の中を移動したんだけど……。

 

【福音】

 

【福音】

 

【福音】

 

木々をなぎ倒し、岩を粉砕し最短距離で追いかけてくるアルフィア母さんに僕は心底恐怖した。

 

「あんまり山を壊すとお婆ちゃんに怒られるよッ!?」

 

「ヘラに叱られる事がなんだ! お前を冒険者にさせないために私は鬼になるぞッ!」

 

「アルフィア母さんはずっと鬼だと思いますッ!!」

 

「言ったなベルッ!!」

 

「ひいいいいいッ!!!」

 

【福音】

 

【福音】

 

【福音】

 

鬼の形相で短文詠唱の魔法を乱射してくるアルフィア母さんとの追いかけっこは、昼ご飯の時間を告げるカワサキさんのフライパンの叩く音が響いて来るまで続きました……。

 

「ベルもタフだなあ。遊びとはいえ、アルフィアからあそこまで逃げるとは……」

 

「逃げ足はアルト譲りか。冒険者よりサポーターの方が俺は向いていると思うがな」

 

2時間近く逃げ回っていたベルにザルド達は大したもんだと認めつつも、冒険者よりサポーターが向いているとしみじみと呟き。

 

「ベルは全然諦めないわね。ヘラ」

 

「あの子は才能は無いが、想いが強い。折れることはないだろうな」

 

「複雑だなあ……でもこれ以上反対すると嫌われそうだし」

 

「「「ベルに嫌われるのは嫌ぁああああッ!!」」」

 

ショタを拗らせた眷属にヘラとセラスの2人は頭を抱える。

 

「どうしてこうなった?」

 

「カワサキを参考にしたからじゃないか?」

 

優しい、料理が上手い、面倒見が良い、頼れる、包容力がある――基本的にいたずら小僧と碌なことを教えないゼウスよりも、そして年中新婚旅行と称して、太古のモンスターや遺跡の調査の旅に出ているアルトとメーテリアという駄目人間を極めた両親よりも、ベルがカワサキに影響を受けるのは火を見るより明らかなのだった……。

 

「ベル。何度も言うが、お前は冒険者に向いていない。いや、それ所かオラリオに行くのも危険だ」

 

「アルフィア母さん。説教するか、ご飯食べるかどっちかにしようよ……カワサキさんが怒るよ?」

 

「……それもそうだな。まずは昼食だ」

 

僕の言葉を聞いて食事に専念し始めてくれたアルフィア母さんに安堵し、僕も食事に集中することが出来た。今日のメニューは至ってシンプルで、炊き立てのご飯に甘辛いタレで焼いた鹿や猪、熊の肉をたっぷりと乗せた焼肉丼だった。アルフィア母さん達は丼ではなく別別にされていて、それにサラダもついている。

 

「うめえ! カワサキ! おかわり!」

 

「おひゃもー!」

 

「飲み込んでから言え、アホ共め。あと野菜も食え」

 

「「「だが断るッ!」」」

 

野菜を食えと言われて断ると叫ぶお爺ちゃんの眷族の人たちに苦笑する。

 

「人参サラダ美味しいのにね」

 

「そんな事を言うからお前は兎と言われるんだ、ベル」

 

「えー? 皆兎、兎って言うけどなんで?」

 

野菜は食べたほうがいいってカワサキさんに言われてるし、僕自身も野菜は好きというだけなのに兎と言われるのは少し納得出来ない。

 

「その容姿のせいだな。やはりベルは冒険者にならないほうが」

 

またぶつぶつと呟き始めるアルフィア母さんと……。

 

「ベルがオラリオに行けば雌猫が集まってくる……カワサキだけではなくセラスをつけるか……? いや擦り寄って来た雌を殺すか? 嫌々、そんな事をすればベルに嫌われる」

 

おばあちゃんまでぶつぶつと何か物騒な事を呟いている。止めるべきか、どうするべきかと悩む。

 

「大丈夫だ。その内元に戻る」

 

「身内馬鹿だからな。大丈夫、気にするな。駄目そうなら私が止めておく」

 

カワサキさんとセラスさんの言葉に本当に大丈夫なのかなーと心配に思いながらも、僕は焼肉を口へと運ぶのだった……。

 

 

 

短い気合と共に拳……ではなく、掌底を打ち込んで来るベルに少しだけ感心した。踏み込み、タイミング……どれを取ってもオラリオの小僧共よりも洗練されていた。

 

「だがそれじゃ駄目だな」

 

「わっと!?」

 

腹に力を入れるだけでベルの一撃は跳ね返すことが出来、逆に尻餅をついたベルは悔しそうに掌を見つめている。

 

「恩恵なしにしちゃあ大したもんだ。良く訓練したのが分るぜ」

 

数年にわたりカワサキに鍛えられたベルは正直に言えば屑石から磨けば光る原石にまで成長していた。

 

「爺とヘラは恩恵はくれないって?」

 

「うん……お婆ちゃんは冒険者じゃなくて花屋とか、飲食店で働いたほうがいいって言うし、お爺ちゃんは男ならハーレムを目指せって言

 

 

「とりあえず爺の言うことは聞くなよベル」

 

「分ってる。お婆ちゃん達もそう言ってるし」

 

なんで恩恵云々じゃなくて、ハーレムを目指せとか言って……言って……。

 

(いや、そんな事言わなくてもこいつならハーレムを作るんじゃないか?)

 

ヘラファミリアの連中の殆どを魅了しているベルならば……もしかするとハーレムを作ってしまうかもしれない。アルトの馬鹿からは身体の頑丈さを受け継ぎ、性格はほぼメーテリア……そしてカワサキから料理を教わって……特殊な性癖の連中の要求でなんか甘やかすのが上手くなってて……。

 

「まぁあれだ。俺は応援してる」

 

「はい! 頑張ります」

 

アルフィア達は猛反対するだろうが、ベルの冒険者になるという気持ちは折れないだろう。カワサキの教えを守り、様々な事を学んできた今のベルなら冒険者として十分にやっていけるだろう。

 

(あいつも本当は分かってるだろうしな)

 

今のベルなら十分に冒険者としてやっていけるポテンシャルがある。一流とまではいわないが、ある程度経験のある冒険者について、信用出来る主神がいるファミリアに入れればきっと頭角を現すだろう……本当なら爺かヘラがオラリオに復帰すれば一番良いんだろうが、多分甘やかしてしまうだろうし、ベルも甘えてしまうだろう。一度外の世界を見てみるのもきっとベルにとって良い経験になる筈だ。

 

「じゃあ、続きをやるか」

 

「はいッ! よろしくお願いします、ザルドおじさんッ!」

 

「思いっきり来いよ、ベルッ」

 

「はい!」

 

ベルが振るっているのはロングソードと同じ長さの木刀だ。12になり、体格も大きくなって来た事で木刀を振れるようになったがやはりその太刀筋には才能は感じられない。

 

「甘い」

 

「っと! やぁッ!」

 

「体重移動が全然駄目だ」

 

動体視力と俊敏さでなんとかしているが、それだけだ。形だけ振れていてもそれが通用するのは自分よりも弱い相手だけだ。

 

「うわっ!?」

 

下から木刀を弾き、宙を舞ったベルの木刀を片手でキャッチする。

 

「あいたた……やっぱり武器の扱いは難しいですね……」

 

「それでもだ。良いかベル? お前はカワサキに武術を教わってる。いざとなればそれらが咄嗟に出るだろう。だがな、素手での戦闘はリーチが余りにも短い上にお前自身が危険に晒されることもあるだろう」

 

そもそもカワサキが異常なだけで、素手で武器を持った相手を制圧するの方がありえないのだ。

 

「だからこそお前は自分が扱う以上に武器の特性を知らなければならない。ショートソード、ロングソード、バスターソードに槍に斧、それに弓……それらを用いられた攻撃の特徴を覚えておけば対処も出来るって訳だ」

 

「なるほど……頑張ります!」

 

「ああ、頑張れ。武器を扱うのと、武器を使うのは違う。だが使い方を覚えておくことは間違いなくお前にとって役に立つ」

 

恩恵を刻めば武器もある程度扱えるようになるだろう。その時に初めて武器を握るのではなく、十全に使いこなせないとしても武器を持った時の足捌きや体捌きを覚えておけばある程度の下地があるだけで習得までの時間が早くなる。

 

(保険や備えに近いもんだが……ないよりかは良いだろ、カワサキは武器の扱いを教えれるほど扱いに慣れてるわけじゃないしな)

 

カワサキにも教えられない事があるのは当然だ。ならカワサキに教えれない分は俺達が心構えや基本的な知識を教えてやればいい。多分それだけやってもベルは冒険者として大成することはないだろうし、レベルアップも出来るかどうか……それでも1度でもオラリオへ行き、冒険者としての現実に直面すればきっとベルは今よりも成長して帰ってくるだろう……そう思っていたのだが……。

 

「は? 1ヵ月半でレベル2?」

 

「最速レコード……? ベルが」

 

「嘘だろ?」

 

僅か1ヵ月半でレベル2になったという報せが届き、神の鏡による野球中継では美女・美少女に囲まれていて……。

 

「ちょっとオラリオにいってくる」

 

「待て待て待て! 送り出したんだから見守ってやろうぜ? な? なっ!?」

 

1ヶ月で何があったんだっと思うレベルだが、ベルが楽しくやっているならいい……そう思っていた。

 

「変態アポロンに狙われて……?」

 

「あっ?」

 

「……殺すか」

 

「あの変態をコロシテヤル」

 

「私達のベル君だぞ!」

 

「私達のダーリンなんだ。助けに行かないと……ッ」

 

【福音】

 

「「「もギャアああアッ!?!?」」」

 

「貴様らも同類だ。行くぞ、ヘラ」

 

「ああ、誰の孫に手を出したか思い知らせてくれる」

 

「待て! 待て待て! ほんと【福音】ぎゃーっ!?」

 

ベルがアポロンに狙われているという話を聞き、怒髪天のアルフィアとヘラを止める事は俺達は勿論、セラス達でも無理であり鬼の形相で馬車に乗りオラリオへ向かうアルフィアとヘラの2人を俺達は地面に伏して見送るのだった……。

 

 

下拵え ベル君 頑張る その2 へ続く

 

 




今後のフラグを少し乗せつつ、ベル君の成長過程を書いてみようと思います。次回も前半はベル君、後半は別の誰かの視点で話を書いてみようと思いますので、次回の更新もどうかよろしくお願いします。

オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは

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