ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか? 作:混沌の魔法使い
幕話 1つの終焉と崩れる自我
「そう言えばよ、ゼウスのじーさんにヘラ。ちょいと気になる事があるんだが教えてくれないか?」
ベルが走りこみをやっている間に俺は2人にそう切り出した。
「ふまおう?」
「飲み込んでから喋れ爺」
「んぐ、なんじゃ? ワシで分かることなら答えるが……」
「恩恵ってもしその刻まれた奴が死んだらどうなるんだ?」
恩恵は神と関係がある物ということは知っているが、詳しい事は知らないので恩恵について尋ねる。
「そうですね、刻んだ眷属が死ねば恩恵が切れたというのはすぐに分かりますよ」
「うむ、幼い眷属が死んだ時などはかなり来るものがあるな……」
「それは距離とかは関係ないのか?」
「ない、繋がりが途絶えたのはどこにいても分かる」
なるほど……恩恵は神とのつながりでもあるのか……なら……。
「例えば生き返ったとかだとどうなるんだ?」
俺の問いかけにはゼウスのじーさんもヘラも少し考え込む素振りを見せた。
「前例がないのでなんとも……死者蘇生は神の権能を使っても出来ない奇跡その物、確かウラノスの腹心のフェルズが蘇生魔法を習得しているという話は聞きましたが……確か成功例は1回もないそうですよ」
「魔法として存在していてもそれが効力を発揮するかどうかは別問題ということじゃ」
「なるほど……そうい……ッ! 悪い! ゼウスのじーさん! ヘラッ! ちょっと出て来る!!!」
2人に向かって謝罪の言葉を叫び、俺は走りながらアイテムボックスから取り出した木の枝を圧し折った。
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「…………」
俺が圧し折ったのは木の枝ではない、アリーゼ達に渡しておいたペンダントを目印に転移する為の物――ユグドラシルでギルドメンバーではなく、外部からの協力者を招いた際に合流する為のレイドイベントの時に使う為の使い切りのアイテムだ。それを用いてアリーゼの元へ転移した俺は目の前の光景を見て言葉を失った。
「……見慣れた地獄だな。はは……くそがッ」
思わず乾いた笑いが零れた。それはリアルでも散々見てきた地獄……富裕層に逆らい革命や反逆を行なった者達が等しく辿り着く末路……即ち死だ。血の海に沈む肉塊、首がない死体、高温に焼かれたのか炭化した死体、上半身を失い地面に倒れている下半身……地面に落ちている首……死体は皆見慣れた装備をしている……アストレアファミリアの面子が身につけていた装備だ。
「……ライラ……輝夜……」
バラバラに切り刻まれ、炎で焼かれたライラの遺体に、腕を失い、全身がぐちゃぐちゃになっている輝夜の遺体……ダンジョンの何処かの階層を歩きながら爆心地に歩みを向ける。そしてその中に見慣れた紅い髪が見えた、僅かに残っている頭部にこびり付いている紅い髪……アリーゼの遺体だとすぐに分かった。
「……リューがいない……そうか、お前らはやったのか……」
遺体の中にリューがいないのに気付き、アリーゼ達が自分達の死と引き換えにリューを逃がしたのだと分かった。
「……ああ、くそ……自分が嫌になる……」
見知った顔だ、見知った顔なのだ。なのに「欠片」も動揺していない。それは俺が本当の意味で「川崎雄二」ではないからか、それとも……異形種であるクックマンの「カワサキ」なのが原因なのかは分からない……だが俺は今こう思ってる。
「心まで異形になるな、そうだろう! 川崎雄二ッ!!! 友人が死んだんだぞッ! なんで、なんで……笑おうとしてるッ!!!!」
「良い材料が手に入った」……俺はそう思っている、そう思っている自分に心底嫌悪した。ここに来るまでは助けるために来たのに、手遅れだと分かると良い実験材料だと思ってる自分がいる、それが嫌で、嫌で自己嫌悪でおかしくなりそうだった。心が2つある……アリーゼ達が死んだ事に悲しんでいる俺と、材料が手に入ったと喜んでいる俺……意志と反して弧を描きそうになる顔を思わず覆い隠す。
「……俺は……俺は……ッ!!!」
分かっている。自覚はあった……消えていく、崩れていく、俺が、川崎雄二という存在があやふやになっているのは感じていた。ふとした時に分からなくなる、思い出せなくなる。塗りつぶされる、あるいは消えていく、壊れていく……俺がオラリオと村を行き来しているのは忘れないため、そして旅に出てすぐ戻ってこれないのは単に遠くに行ってるだけではなく……分からなくなっているからだ。何処に帰るべきか、何処に帰りたいのか分からず、放浪しているのだ。
「人間性を失うな……ッ! 俺が俺を見失ってどうする……ッ! 「俺」は「俺」だろうッ」
搾り出すように、己に言い聞かせるように自分は自分だと叫ぶ、だが分かっているのだ。時が経つほどに「俺」は「俺」で無くなっている……。それはクックマンの姿であればより如実になる、ベルが分からない、ゼウスのじーさんが判らない、ヘラが分からない、メーテリアが分からない、アルトが分からない、アルフィアが分からない、俺がなんでここにいるのか分からない、分からない分からない分からないワカラナイわからない……俺が消えているのか、クックマンが俺を演じているのかワカラナイ。
「……っ! ああああああああああああ―――――――ッ!!!!!!!!!!!!!」
血液の海に浮かぶ自分が黄色いクックマンに見えた。俺は俺がわからない……胸を張って俺だと言えない、俺は……俺は……自分への怒りと消えていく己への絶望と恐怖がない混ぜになった咆哮を俺は知らずの内に発していた。
「……はぁ……はぁ……」
荒い呼吸を何度も呼吸を繰り返して整えてからアイテムボックスを開いて、ある物を取り出す。真・安眠の屍衣(トゥルー・シュラウド・オブ・スリープ)。通常のプレイヤーキルやロストしたプレイヤーがアンデッドやモンスターに変化するのを防ぎ、あるいはプレイヤーに襲われペナルティによるレベルダウンの数値を下げるためのアイテムの安眠の屍衣の強化版であり、何かのイベントでのガチャ産アイテムだ。
「アリーゼ・ローヴェル、ライラ、ゴジョウノ・輝夜、ノイン・ユニック……ネーゼ・ランスロット……違う、そんな騎士みたいな名前じゃなくて……ランケット、そうだ。ランケットだ。あ、アスタ……アスタ・ノックス……思い出せ、思い出せ……後は……後は……リャーナ・リーツ……せ、せる……セルティ……スロア……い、イスカ……イスカ……イスカザラ……違う、違うな……そうだ、イスカ・ブラ……あとマリュー……マリュー……ら、ラミアス……嫌、違う。えーっと、えーっと……そうだ。マリュー・レアージュだ」
名前を口にすると肉片が集まって来て、ある程度集まると布は1人で動き出し死体を包み込む。
「クソ運営、今だけ感謝してやる」
そのイベントの開催中はHPが0になると死体になったその場に残り続ける。そしてこの真・安眠の屍衣で保護するか、真なる・蘇生で回復させないと強制的に種族チェンジとレベル変化というクソみたいなイベントだったが、その時の余りのアイテムが役立った。なんせ死体がその場に残るとかいうクソ仕様のせいで、回収にいっても手足が隠されているなんて事もざらにあり、ギルドかフレンドに協力しているプレイヤーの名前を入力する事で死体を回収するというガチャを回させるためだけに開催された本当にクソイベントだった。だがそれが役立ったのでなんともいえない複雑な気持ちになる。
「……駄目だ……俺だけじゃ無理だ」
だがいざ真・蘇生の杖をアイテムボックスから取り出した時に手が震えだした。蘇生はレベルを消費する、ユグドラシルのレベルの法則と違うこの世界で蘇生によるレベルダウンによる消失の可能性が頭を過ぎる。このまま遺体を五体満足のままアストレアに引き渡すべきではないか? この世界に葬式の概念は無いがちゃんと葬ってやるべきではないのかと言う考えと蘇生を試してみろという考えが繰り返し脳裏を過ぎり……。
「すまん。少しこのまま眠っていてくれ」
アリーゼ達の遺体を包んだ真・安眠の屍衣を食材とは別の装備やアイテムを格納しているアイテムボックスの中へと収納し、俺は逃げるように転移でダンジョンを後にした。もしもここで遺体をロストしたら、俺の中に残っていた感情的なブレーキが1つ消えてしまう、また人間から遠ざかるような気がしたからだ。
「おう、はや……どうした、カワサキ。酷い顔色じゃ」
「何があったのですか」
「……悪い、ちょっと気持ちの整理をさせてくれ、後で事情を話す。だから今は帰ってくれ、後今日は誰とも会いたくない、少し1人にしてくれ」
心配してくれたゼウスのじーさんとヘラにつっけんどんな態度で家から追い出し、そんな自分が嫌になりながらベッドに倒れ込み、眠くなどないのに頭まで布団を被るのだった……。
背後から響く怒号を聞きながら只管に裏路地を走る。禄に休めず、食事を取る時間もない、あの時……18階層でアリーゼ達が死んでから私はずっと動き続けていた。そうしないと気が狂ってしまいそうだったからだ。
(皆死んだ……アストレア様には破門された。もう私には復讐しかない)
ルドラファミリアのジュラの手によって現れたモンスターによって皆死んだ。私だけが生き残った……アストレア様には正義を捨てろと言われた……もう私には今尚暗躍している闇派閥と邪神を殺すことしか考えられなかった。
「あっ……」
だが私の意志に反して身体は限界で、足がもつれて受身も取れずに倒れる。追っ手から逃げなければと立ち上がろうとするが……。
「つっ……ッ」
倒れた時に足を挫いたのか立ち上がることが出来ず、追っ手がもうすぐ近くまで来た時に誰かに掴まれたと思った瞬間に私は建物の中に引きずり込まれた。
「……カワサキ……ッ」
「よう、リュー。元気……ではなさそうだな、大丈夫か?」
私を建物の中に引きずり込んだのはカワサキだった。大丈夫かと言われながら差し出された手を私は握り返し、カワサキの手によって椅子の上に座らせられていた。
「……貴方のお蔭で私は生きています。だが貴方がくれたアイテムがもっとあれば皆生きていたでしょう」
カワサキがくれたペンダントは結界を作り、何度も私達を守ってくれた。だがそれでも皆を皆殺しにしたあのモンスター相手には何の役にも立たなかった。皮肉だと分かっていても言わずにはいられなかった、カワサキは色んな道具をくれた……もっとあればと思わずにはいられなかった。
「……だろうな。アリーゼ達の事は残念だった……すまん」
「っ! すいません、違うのです。貴方を責めるつもりはなかった……」
ただの八つ当たりだと分かっていた。カワサキの謝罪の言葉に私も謝罪した。
「……それで貴方は何を……」
「お前を探してた。お前の話は俺の所にも来てたからな」
「復讐をやめろと?」
「いや、俺にはお前を止める事は出来ないだろうし、復讐を否定もしない。ちょいと手助けをな、それと聞きたいこともあった」
カワサキはそういうと虚空に手を入れてアイテムを次々と取り出した。
「隠者の仮面と外套。これがあれば認識されにくくなる。防具としても優秀だから持っとけ、それと魔法銀のレイピアだ。お前の戦闘スタイルに合うかは分からんが、突きと同時に火球や雷を発生させる。後死神の鎌、これで傷つけた傷は治らず、時間経過で悪化する。毒蛾のダガー。こいつは猛毒が塗られてる、直接使うんじゃなくて投げるように使え、手に持って使うと自分が死ぬぞ」
次々に出されるアイテムはアリーゼ達に貸し与えていたものとは違う、もっと殺意に溢れた物だった。
「止めないのですね」
「止める理由がないからな」
モンスターではなく、人を殺す目的の武器だと分った。モンスターには通用しないが、人には致命的な傷を与える武器だ。
「それとポーションの詰め合わせとこの家をやる。これが鍵だ。虚空に差し込んで回せば扉が出来る」
「どういうことですか……?」
「実演してやってもいいが、そんな時間はないだろ? とにかくだ、この鍵を回せば誰にも見つからない家がお前の前に現れる。扉を閉めれば誰も認識出来ない、これはそういうもんだ。身体を休めるのに使え、良いな? 元々は俺の知人の女が使ってたアイテムだ。まぁ変なもんはないと思うし、男が使ってたものを使うよりかは気が楽だろ」
「分かりました」
説明の意味は半分も分らないが安全な拠点というのはありがたい話だ。それにカワサキのいう通り男が使っていたものよりも同性が使っていた家というほうが気が楽だ。
「それで何を聞きたいんですか?」
「アストレアはどこにいる? オラリオを去ったと聞いたが……」
何故アストレア様の居場所と思ったが、カワサキが闇派閥に関係している筈がないので、その質問に答える事にした。
「剣製都市ゾーリンゲンに避難して貰いました」
「ゾーリンゲンか、分かった。ありがとうよ、それとスープだが用意しておいた。少しでも腹に入れておけ、あとペニアの婆さんは手助けしてくれるはずだ、困ったらダイダロス通りに逃げ込め。じゃあな」
手を振りながら出て行くカワサキを見送り、スープが作ってあると言われたが何も食べる気にならずベッドに倒れ込みそのまま眠りに落ちた。
「……良し」
安眠、そして味は殆ど分らないが温かいスープで活力を得た私はカワサキが残した装備を身につけ、オラリオの闇の中へと歩き出すのだった……。
「なんだこれは……おねショタ……?」
なおカワサキがリューに譲り渡したグリーンシークレットハウスはぶくぶく茶釜から譲り受けた物だった。流石に友人にBL本のデータで溢れたグリーンシークレットハウスは預けるのは怖く、BL本データだけは回収した茶釜だが、当然カワサキはそれを知らずにリューに譲り渡し、リューはおねショタという深淵を覗き込んでしまった。
「なにか申し開きあるか?」
「……BLは回収したんだよ?」
「モモンガさん。判決を」
「有罪。1週間カワサキさんの作ったデザートなし」
「殺生なッ!? 頑固なエルフが丸くなったのは良い功績だと思うよ!?」
「ベルにはぁはぁしてる変態を作ったのは有罪でしかないと思うんだよなあ……」
リューをオネショタに引きずり込んだ元凶の茶釜は一週間のスイーツ禁止が申し渡されたが、完全に手遅れで、リューはエルフの誇りを鼻から出すタイプのエルフに悲劇的クラスチェンジを果たしてしまっていたりする……。
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「アストレア。少し話があるんだが良いか?」
「カワサキ……? 貴方なんでゾーリンゲンに?」
「筋を通しに来た、少し時間をくれアストレア」
そしてカワサキはリューにアストレアの居場所を聞きはしたが、カワサキがゾーリンゲンに足を踏み入れたのはカワサキの気持ちの整理がつき、ゼウスとヘラの後押しがあり、旅行からアルトとメーテリアが帰宅し、暫くの間ベルの訓練が止まった頃、アストレアファミリアの壊滅から1年が経とうとしていたときの事なのだった……。
14年。飯を食えシリーズの中で2番目長く異世界にいて、鬼滅時空と違い、カワサキの内面の葛藤を知る者がいないのでどの世界よりもクックマンの影響が色濃く出ているカワサキさんです。記憶の欠落、突発性の痴呆症に加えて自分が分らなくなる状態の付与、人間性と本来の人の良さは確かにカワサキさんの物ですが、それも少しずつ自分が認識している自分とはずれてきていることを自覚しております。この状態でのカワサキさんとギルメンとの再会がどのようなものになるか、そしてギルメンと再会したらどうなるのかというのも1つの展開として良いなと思っているのでこういう話を書いてみました。
暫くはシリアス展開で行こうと思いますが、もしもアストレアファミリアでわたしが勘違いしている所などありましたらご指摘宜しくお願いします。
オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは
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間違っている
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間違っていない