ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか?   作:混沌の魔法使い

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メニュー8 鉄板焼き

 

メニュー8 鉄板焼き

 

ゼウスファミリアの修練場のど真ん中に石を積み上げて作った即席の竈とその上に鉄板を設置するカワサキ。ヘラファミリアから帰ってきてすぐカワサキは修練場の改造を始め、あっという間に机や椅子、座る用のシートを準備してしまった。

 

「しかし随分と家の野郎共の扱いが上手いな?」

 

「腹ペコ男子の扱いは慣れてるんだよ。ああいう連中は美味いものがあると分かれば素直にいう事を聞くもんさ」

 

にやりと笑うカワサキにそういうもんかねぇと思いながら運んできた薪をカワサキの近くに積み上げ、俺はさっきのやり取りを思いだしていた。

 

「久しぶりに戻って来た訳だが、さっそく今日の昼はガッツリと飯を作りたいと思う」

 

「「「「おおおーッ!!!」」」

 

カワサキの言葉に男共が歓声を上げ、僅かにいる女性団員やサポーターも楽しみと言わんばかりの笑みを浮かべる。

 

「だが俺は買出しに行けないのでお前達にお使いを頼みたい」

 

「「「え?」」」

 

買出しに行けと言われて団員は嫌そうな表情を浮かべ、俺はカワサキを止める為にカワサキへと手を伸ばした。団員に使いを頼めば高確率で頼んだ物は無く、あるのは酒とその団員が好きな食材のみ、それ以来俺は勿論、サポーターも、料理長も使いを頼む事は無かったのだが、それを知らないカワサキに不味いと思ったのだ。

 

「買ってくる物は肉。牛でも、豚でも、鶏でも、なんでもいい、とにかく肉だ。買ってきた肉で料理をするから肉を買ってこないと食うものが減るからな」

 

カワサキの言葉に団員達の動きが止まり、それぞれが自分の隣にいる奴を見つめている。その視線を見れば、余計な事をするなよと物語っているのがよく分かる。

 

「酒はこっちで用意する。ゼウスの爺さんもヘラも女帝のセラスだったっけか? それも美味いと言った酒を出すから余計な物は買わないように、分かったな。分かったら挙手して」

 

カワサキがそう言うと団員達の手が真っ直ぐに天へと伸びた。指先までピンッと真っ直ぐに伸びた手に思わず頭痛を覚える。

 

「頭が痛いな」

 

「そうだな。我が団員ながら単純馬鹿すぎて困る」

 

昨今の子供より単純すぎて頭が痛い……団長と共に思わず額に手を当ててしまうのも仕方ないだろう。

 

「よーし、じゃあしっかりお使いを頼んだぞー」

 

子供のように返事を返して出て行く団員達とそんな団員達に手を振るカワサキを俺は呆然とした表情で見ていたのを思い出し、思わず苦笑する。

 

「あれもだめ、これも駄目って言うと余計に反発するもんさ。先に欲しがるであろう物が準備してあれば余計な物も買わないだろうしな」

 

「扱いに慣れすぎだろう? 子供でもいたのか?」

 

デリケートな部分だとは分かっているが、余りにも手馴れてるように思えてそう尋ねるとカワサキは鉄板の準備をしながら俺の質問に答えてくれた。

 

「俺が仲間に会うまで住んでた場所はそれは酷い所でな。金持ちと権力者のみが人権を許されるようなそんな場所だった、そんな所だとな。飯も食えずにやさぐれて、人を殺して糧を得ようとするガキがいくらでもいるんだよ」

 

「それは……辛いな」

 

ダイダロス通りに孤児が多くいるのは知っているが、カワサキの語る話はダイダロス通りとは比べ物にならない地獄だったのが分かる。

 

「そんなガキ共を相手に飯を振舞ってやってたのさ、腹が空けば気が滅入る。ひもじければ眠れない。些細な事で腹が立つ、生きる為には飯を食え……だ」

 

「良い言葉だな」

 

「俺の信条さ、腹が減るのはどんな奴だって一緒だ。だから俺は腹が減ってる奴を区別しない、差別しない、腹が減ってるなら腹一杯食わしてやるのさ、それよりザルドこいつに下味を付けるの手伝ってくれよ」

 

カワサキはそう言うと虚空から肉の塊を引きずり出した。

 

「それがあるなら買いに行かせなくてもよかったんじゃないか?」

 

赤身と霜降りのバランスが美しい見るだけで極上と分かる牛肉を持ってるなら買い物に行かせなくて良かったんじゃないか? と尋ねるとカワサキは小さく笑った。

 

「腹減ったって騒がれると作業がしにくいからな、それにこれだけあっても全然物足りないって言いそうな気がしたんだ」

 

「ああ、納得。よし、下味はどうする?」

 

「にんにくをすり込んで、岩塩と黒胡椒」

 

「分かった。あいつらが戻ってくる前にやって隠しておくとしよう」

 

あいつらがこれを見ればすぐ焼けと騒ぐのは目に見えているので、手早く下味を付けて保管しておこうとカワサキと話をしながら巨大な牛肉の塊の下味をつける作業を始めるのだった……。

 

 

 

 

 

焚き火の燃える音と加熱された事で音を立てる鉄板の上に俺達が買ってきた様々な肉が並べられる。

 

「……ゴクリッ」

 

肉の脂が溶け出し周囲に広がる音と香ばしい香りが鼻を擽り、思わず唾を飲み込んでしまい、片手に持っている酒を口に含もうとしてそれを咄嗟に押さえた。

 

(ここまで我慢したんだ、先に飲んでどうするッ)

 

カワサキが用意してくれた極上の酒をそのまま飲んでどうすると、これは然るべき後……肉を頬張ってから飲むものだとぐっと我慢する。

 

「よっと」

 

カワサキが軽い口調で手にしていた桶のソースを肉と鉄板の上にぶちまける。その瞬間修練場に広がるのは先ほどとは比べ物にならない食欲を刺激する香り。

 

「んん……あ、ああ……飲んじまった」

 

「生殺し、生殺しだ……」

 

「飲みたい、飲みたい……この良く冷えた酒を飲みたいッ!」

 

肉と一緒に飲みたいから我慢しているのに肉はまだ焼けず、手にした酒を飲みたい衝動を抑え続けるのも限界が近くなってきた。

 

「よし、出来たぞ。腹ペコ共」

 

「「「「「おおおおお――ッ!!!」」」」

 

出来たと聞いて雄叫びを上げて鉄板へ駆け寄り焼きあがった肉を取り皿の上に乗せる。豚肉とか、牛肉とか、鶏肉とか考えずに目に付いた肉を皿の上に乗せ、奪われる前に鉄板から逃げる。

 

「へへ。大漁大漁ッ」

 

山盛り確保出来た肉を前に手をすり合わせ、いただきますと言ってからフォークを手にして肉を頬張る。

 

「んんーッ!! くはああッ! たまんねぇなッ!!」

 

馴染みのないソースの味は甘くて辛い、そんな奇妙な味なのだがそれがまた美味い。それに肉にも良く合う、豚でも鶏でも牛肉でも、どんな肉にも良く合う味だった。その肉の美味さを噛み締め我慢していた良く冷えた酒を飲み干す。

 

「くううううッ! 我慢した甲斐があったッ!」

 

「酒、酒のおかわりはどこですか!?」

 

「うめえッ!!」

 

俺だけではなく団員もサポーター達も美味い美味いと舌鼓を打ち、カワサキが運んできた酒を浴びる様に飲んでいる。

 

「珍しいなアルトがその程度の量で我慢してるなんて」

 

「いや、今焼いてるの俺達が買ってきた肉だろ? カワサキが出すのが酒だけとは思えないんだよなあ。それにほれ、ゼウスのじっ様とザルドが動いてねぇ」

 

ゼウスのじっ様とザルドの手にも少量の肉があるが、2人の食べる量を考えると全然少量だ。口慰み程度にしか食べていないのに気付いたのだ。

 

「つまり本命が別にあるって事か?」

 

「多分な、だからちょっと我慢したほうが良いかなって思ったのさ」

 

香ばしい香りと肉の焼ける音で食いたいという気持ちが沸きあがってくるが、それをグッと堪えて最初に取ってきた牛肉を頬張る。程ほどに脂が乗っているが固い肉だ。だがその固い安い肉でさえ、カワサキの味付けのおかげか極上の味に思える。

 

「うめえから我慢するの難しいけどな」

 

「それな」

 

カワサキの事だからまだ何かある。だけどこの肉も美味い、酒も美味い。ちょっと控えめにしようかとも思うのだが……食べたいという欲求は抑えられなかった。

 

「1回目そろそろ全部はけるけど、欲しい奴はもういないのかー? 次を始めると暫く待ちだぞ」

 

カワサキの声に俺は辛抱しきれず、結局肉のおかわりを貰いに行ってしまうのだった……。

 

 

 

修練場の真ん中に何時の間にか積み上げられた石作りの竈、そしてその上に置かれた鉄板で豪快に肉が焼かれるのは中々に見物の光景じゃった。

 

「んぐんぐ、ぷはああ……ふうーッ」

 

ザルドとカワサキがでかい肉を仕込んでおったからそれが焼かれるのを待とうと思ったのじゃが、この食欲を誘う香りには辛抱しきれなかった。

 

「安物の肉もお前の手に掛かると1級品だな。何かカラクリはあるのか?」

 

「あるぞ、俺の種族の固有技能だ。食材の時間を加速させる」

 

時間を操作するとザルドとの会話で軽く言うカワサキにワシは目を見開いた。

 

(時間操作を料理のためだけに使う……なんとも言えんのう……)

 

神でも難しい時間操作を料理の為だけに使う……カワサキの種族は料理に命を掛ける種族だと聞いたが、命を掛けすぎではなかろうかと思う。

 

「時間を加速させてタレをしっかりと染み込ませる、そして肉を焼きながらタレを追加して焼き上げる。これだけで安い肉も美味くなる」

 

「普通にやったらかなりの手間だけどな」

 

「それはそれ、これはこれさ」

 

カワサキはそう言うと肉を片方に寄せ、虚空から箱を取り出した。

 

「なんじゃそれは?」

 

「肉だけじゃ飽きるだろ?」

 

「いや別に飽きんけど?」

 

「……まぁゼウスの爺さんはそうかもな」

 

ずっと肉だけでも平気だが? と言うとカワサキは何とも言えない顔をする。別に美味い酒があれば肉だけでも全然良いんじゃけどなと見ているとカワサキは箱から取り出した食材を手際よく鉄板の上に並べ始める。

 

「貝か、それに烏賊に帆立」

 

「おうよ、肉だけじゃなくて海鮮も美味いだろ?」

 

「うむうむ、確かに」

 

海鮮をバーベキューにするのも悪くない。焼いてる最中にバター醤油が掛けられるとその香ばしい香りに口の中に涎が溢れる。

 

「ほれ、ゼウスの爺さん」

 

焼きたての帆立と輪切りにされた烏賊、そして殻つきの海老が取り皿の上へ乗せられる。

 

「ふっふ、はふっ! あふっ!! ほほおッ! 美味いッ!!」

 

口の中でほろりと解ける旨みに満ちた帆立の味わいに思わず顔が緩む、その熱さと旨みを楽しみ冷たいビールを流し込むとその美味さは倍増だ。

 

「俺もくれ!」

 

「俺も!」

 

「よっしゃよっしゃ。ほれ、熱いから気をつけろよ!」

 

帆立をくれ、帆立をくれと眷属達が群がるのを見ながら、殻付きの海老をどうするかと考えて……。

 

「うむ、美味い」

 

「殻剥けよ、ゼウスの爺さん」

 

殻を剥くのがめんどくさいなと思いワシは殻ごと海老を噛み砕くという暴挙へ出た。カワサキも呆れているが……。

 

「美味いぞ、殻もしっかり味が付いてる」

 

「……そりゃついてるだろうけどよ、歯大丈夫か?」

 

「はっはっは! ワシの歯は丈夫じゃよ!」

 

こんな海老の殻如きでおかしくなる歯ではないと笑い、ワシは冷たいビールを口へ運ぶ。

 

「ぷはああ……ああ、たまらんッ!!」

 

この雰囲気もそうだが、この雰囲気と食材を焼く音が無性に楽しいと思えてくる。新しいビールを注ぎに行き、振り返ると笑顔に満ちた眷属達の姿があり、思わずワシも笑ってしまった。

 

「お、そろそろ本命じゃの?」

 

「程々にしていて正解だった」

 

マキシムと並んで肉を食い、海鮮を食い、酒を楽しんでいるとカワサキが巨大な釜を持って来たのを見て、ザルドと仕込んでいた巨大肉が来ると座っていた椅子から立ち上がる。これを待っておったんじゃ、どんな味がするか実に楽しみだ。

 

「酒も良いが、飯を食わなきゃ駄目だろ? 今から米に合う、最高の肉を焼くぞ」

 

そう言ってカワサキが虚空から取り出した巨大な霜降り肉に修練場に野太い歓声が上がるのだった……。

 

 

 

カワサキが取り出した巨大な牛肉を見た団員達。普段ならば騒動になるが、カワサキに米をよそう様に言われ団員達が丼によそっているので騒動になること無く大人しく肉が焼きあがるのを丼を片手に待っている。

 

「美味そうじゃなぁ」

 

「確かにな、あれほどの肉はそうはないだろう」

 

ゼウスが美味そうだと言うが、料理に関しては門外漢の俺が見ても美味そうだと思うほどに上質な牛肉だ。

 

「良し、出来た。丼出せ」

 

「「「はいはいはいッ!!!」」」

 

焼きあがった牛肉をスライスし、丼の上にカワサキはどんどん盛り付ける。十分に牛肉が乗った所で団員達はどんどんはけて行き、鉄板の前に並んでいた団員の姿が少なくなった所でそわそわしてるゼウスと共に鉄板の前へ移動する。

 

「マキシムとゼウスの爺さんも来たか、丼をくれ」

 

「ああ。頼む」

 

「大盛りで頼むぞ!!」

 

「分かってるって」

 

山盛りに盛られた米の上に肉を大量に乗せ、その上に軽くタレを掛けてくれた。それを受け取って修練場に置かれている机の元へと向かう。

 

「いただきます」

 

手を合わせていただきますと呟いて丼の上の牛肉を1枚取って頬張ると牛肉が口の中でさっと溶ける。しかしそれでいて赤身肉の牛肉らしい旨みも十分にあり、食欲がどんどん沸いてくるのが良く分かる。

 

「うん、美味い」

 

「うんまっ!! いい肉じゃなッ!」

 

ゼウスは丼を持ち上げガツガツと頬張り始めているのを見て、これで主神かと思わず残念な気持ちになるがかき込みたくなる気持ちはよく分かる。

 

「美味い美味いッ!!」

 

「酒もいいけど、やっぱり米も良いよなあッ!!」

 

団員達も口々に美味いと言いながらガツガツと頬張っている。その中でもアルトの食べっぷりは凄まじく思わず苦笑してしまうほどだ。喜んで食べている団員を見ていると1人だけ浮かない顔をしている男に気付いた……ザルドだ。ザルドだけは浮かない表情で肉を口に運び、苦笑いを浮かべていた。

 

「……美味い、美味いんだが……」

 

「ザルドの分はまた取っておいてやるよ」

 

べヒーモスの毒が抜けたとは言え本調子ではないザルドはもう食べれないのかと残念そうな様子で、それに気付いたカワサキがザルドの分を残してやると言っているのを見て、料理の腕前だけではなく気遣いも出来る。姿こそ人間では無いが、人格面にもやはり優れた人物と認めざるを得ない。

 

(しかし美味い。最初の肉と違って肉本来の味を引き出す為のシンプルな味付け。だがそれがいい)

 

タレは少量でカワサキが良く使う醤油をベースにしたタレだ。そして肉には岩塩と黒胡椒、それににんにくの香りが食欲を強く刺激する。

 

「炊き立ての米と焼いた肉……完璧な組み合わせだな」

 

醤油ベースのタレと牛肉の脂が米に染みこんでいるから米だけでも十分に美味い。

 

「おかわりじゃッ!!」

 

ゼウスが勢いよく立ち上がり米と肉のおかわりをカワサキに頼みに行く。俺が半分も食べてないのにもう食べ終わってる姿に本当に味わって食べたのかと少し呆れてしまう。

 

「ふっふッ!」

 

息を吹きかけて炊きたての米を冷ましながら肉を一緒に頬張る。米の甘さと肉の脂の甘さが口の中一杯に広がり、その美味さには思わず唸ってしまうほどだ。

 

(米とタレと牛肉だけでこれか……)

 

素材の良さも勿論あると思うがカワサキのつけた味付けがそれだけ良いのだろう。

 

「……物足りんな」

 

山盛りの米とたっぷりの肉を食べはしたが、物足りなさがある。

 

「おかわりを頼めるか?」

 

「ああ、どんどん食ってくれ! 米も肉も沢山用意しているからな」

 

にっと笑うカワサキに米を盛りつけた丼を渡し、再び盛り付けられていく肉を見て、良い歳だと分かっているがそわそわしてしまう自分に気付いて、思わず苦笑しながらカワサキが肉を盛り付けてくれるのを楽しみに待つのだった……。

 

 

メニュー9 チーズケーキ へ続く

 

 




腹ペコ男児の扱いに慣れているカワサキさんの話でした。炊きたての米と目の前で焼かれてる肉にはきっと問題児が多いゼウスファミリアの団員も釘付けでしょう。そしてその肉が美味ければ尚の事大人しくなるでしょうね、次回はヘラファミリアでアルフィアをメインにしてみようと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは

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