ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか?   作:混沌の魔法使い

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幕話

幕話 冥府よりの生還者

 

アリーゼ達を生き返らせることが出来るかもしれない。何を馬鹿なと、私を馬鹿にしていると叫びたかった。だが分る、分ってしまう。

 

(カワサキは本当の事を言ってる)

 

神だから分る。カワサキは嘘を言っていない、ずっと真実を口にしている。それならなんでもっと早くに、リューが復讐者に堕ちる前に来てくれなかったのかと問い詰めたかった。だが発生するかもしれないデメリットを聞けば、カワサキが踏み切れなかったのも分かる。

 

「失敗すれば灰になる可能性がある……」

 

「最悪の場合だ。蘇生に失敗するだけという線もある。確率で言えば3割くらいだ」

 

3割と言えど無視出来る確率ではない、カワサキのいう通りこのまま埋葬するのも1つの手だとは思う。だけど……。

 

「……本当に生き返る可能性があるの?」

 

藁にも縋る……違う、もう1度アリーゼ達に会えるかもしれない……。それが埋葬するべきという考えを消してしまう。

 

(今なら闇派閥に利用された人の気持ちが分る)

 

愛した人に、大事な友に会える……それは恐ろしい毒だ。何をしても、何を犠牲にしても、その可能性に縋りつきたくなる。失った者が大事であればあるほどにその言葉は心を蝕んでいく。

 

「多分蘇生自体は成功すると思う。過酷なリハビリが待っているだろうし、冒険者としては再起不能になる可能性が高い。それにメンタルケアにもかなり時間が掛かるだろう」

 

「そうね、当然ね」

 

死んだ苦痛を覚えている可能性があり、その状態で蘇生した場合は廃人になる可能性もある。神は不変……アリーゼ達が再び寿命終えるまで面倒を見ることは苦痛ではない、だがその場合はゾーリンゲンで新しく迎え入れたセシル達に何と話せば……冷静に考えれば一度セシル達に話を通すのが普通……だが。

 

「お願い」

 

「……分った」

 

セシル達に話を通すよりも先にアリーゼ達を蘇生したいという気持ちが勝った。

 

「新しい眷族には一度出てもらってくれ、多分見せない方がいい。後出来れば防音が出来る場所がいい」

 

カワサキの言葉に言葉では無く、行動にでる事を返事とした。セシル達に古い友人が尋ねて来たからと食糧を買いに出てもらい、生産系に変った事で準備した鍛冶場へとカワサキを案内する。

 

「鍛冶場か」

 

「まだ準備は出来てないから大丈夫だと思うけど、どうかしら?」

 

「音が外に響かないから大丈夫だ。あと、倒れるなよ、アストレア」

 

そう警告されたが、カワサキが虚空から取り出した物を見て私はその場に膝をついて倒れ込んだ。

 

「あ、あああ……ああああああッ!!」

 

回収したと聞いていたので人の形を保っていると思っていた、いや、思い込んでいた。だがカワサキが虚空から取り出したのはアリーゼ達ではない、そこにあったのは肉片だった。かろうじて人の形を残している肉片の山――それがアリーゼ達の遺体だった。

 

「ごめ……っ! ごめ……ッ! ごめんなさいッ! 私ッ! 私がッ!!」

 

アリーゼ達の遺体をいざ目の前にしたら立ってなんかいられなかった。咽帰る血の匂い、記憶にある姿よりずっと小さいその姿に冷静さなんて保っていられる訳がなかった。

 

「始めるぞ。すこし離れてくれ、それとこれから見ることは他言無用でな」

 

カワサキはそういうと指輪を外し、その姿が黄色い亜人の姿になる。その姿に絶句しているとカワサキは蛇が巻き付いている杖を頭上に掲げた。

 

「術式解放――真・なる蘇生(トゥルー・リザレクション)ッ!!!」

 

その上から放たれた黄金の輝きがアリーゼ達の遺体を包み込み、光が晴れた時には肉片だったアリーゼ達は五体満足になっていた。

 

「肉体の修復は成功した。あとは意識が戻るかだ」

 

深刻な顔色で指輪を再び嵌めて人の姿に戻った。だが私はそれ所ではなかった。

 

「恩恵が、恩恵が……ッ」

 

消えていたアリーゼ達の恩恵が復活した。それは紛れも無く、アリーゼ達が息を吹き返した証拠だった。そして……。

 

「あ……ああ……?」

 

今にも消えてしまいそうだったが、その声は間違い無くアリーゼの声だった。

 

「よう、アリーゼ。生き返った気分はどうだ? 多分悪いと思うが……ちゃんと意識はあるか?」

 

「う…うあ……」

 

目を覚ましたであろうアリーゼの顔の前で手を振り、アリーゼの反応を見ているカワサキ。アリーゼに続き、輝夜、ライラと次々と恩恵が復活し、私は平常心を保つことが出来ずその場に崩れ落ちて号泣するのだった……。

 

 

 

 

私達はアストレア様の頼みで買い物に行っていた。オラリオから尋ねて来た古い友人とアストレア様はいっていたけど……。

 

「どう見ても20代後半よね?」

 

「そう見えたな。古い友人っていうのは無理があるんじゃないか?」

 

「どうなんでしょうね~?」

 

古い友人というには尋ねて来た男性は若かった。しかもオラリオから……アストレア様の身を案じてならもっと早く来ていたはずだろうし……何か腑に落ちない物を感じながらホームに帰る。

 

「うう……うああああ……」

 

「もう泣くなって、これからだろうに」

 

「でも……でもぉおおおお……」

 

号泣してるアストレア様とそんなアストレア様を慰めている男に何があったのかは分らないが、男が何かをしたのだろうと思い身構える。

 

「お、お前の団員帰ってきたぞ。おい、アストレア」

 

「せ、セシルぅ……」

 

「アストレア様!」

 

アストレア様に呼ばれて駆け寄り、男からアストレア様を引き離し、視線で合図を送り男を取り囲む。

 

「別に害を与えた訳じゃないんだけどなぁ」

 

やれやれと肩を竦める男に背を向けて、アストレア様の前にしゃがみ込む。

 

「アストレア様。一体何が」

 

「ち、地下の鍛冶場……鍛冶場に着替えと……あ、後お風呂の準備を……」

 

「は?」

 

「あ、あのね……か、カワサキ、カワサキが……ひ、瀕死のアリーゼ達を……保護してて……つ、連れてきて……」

 

アリーゼって私の前の団長の名前じゃ……死んだと聞いていたけど……でもアストレア様が言うなら嘘じゃない。

 

「皆鍛冶場に行くわよ。貴方はそこに」

 

「おう。悪いけど男がやるモンじゃない、お前らに頼むわ」

 

警戒しながら鍛冶場に向かうと、そこにはアストレア様のいう通り横たわっている何人もの女性の姿があり、私達は慌てて倒れている女性達を担いで鍛冶場から連れ出すのだった……。

 

「も、申し訳ありませんでしたぁッ!」

 

「いや、良い。あの状況を見れば、誰だって警戒するし、嫌悪感だって見せるだろうよ。あ、俺はカワサキ。よろしく、これ一応手土産の

お菓子な。後で食べてくれ」

 

「あ、これはこれはご丁寧にどうも……じゃなくてッ!!!」

 

「まだお茶の時間には早いか?」

 

「じゃないです! アリーゼ団長達を救って頂きありがとうございました!」

 

「「「ありがとうございました!」」」

 

アストレア様が心を痛めていた前の眷属の全滅……それが全滅していなかった。実は助けられていたというのは信じられないが、目の前でアリーゼさん達を見ればそれが事実だと受け入れるしかない。

 

「いや、そのだな……実はまだ救ったとは言いがたい状況でな……。むしろここからというか……」

 

「どういう……何事です!?」

 

突然響いて来た絶叫に思わず声を荒げるとカワサキさんとアストレア様が走り出した。

 

「ああ……あああああッ!!!」

 

「いたいいたいたいたいッ!!!」

 

「あぎゃあああ……ぎゃああああああッ!!!」

 

喉も張り裂けんばかりに叫びのたうち回るアリーゼさん達。涙を流し、鼻水を流し、尿を撒き散らし暴れる姿に絶句する。

 

「今は眠れ」

 

巻物をカワサキさんが広げると明るい光が溢れ、アリーゼさん達はその場に倒れ込み、続けて広げられた巻物で汚れていた部屋が元に戻る。

 

「何が……」

 

「魔道具で瀕死の傷を負った状態で救助した。その時の痛みと死に直面した事による恐怖と絶望……傷は治したが、心に負った傷は戻らない。このまま再起不能になる可能性もあるんだ。時間をかけて治療をする必要がある」

 

命は助かった。だがこのまま発狂する可能性があり、長い時間を掛けて治療をする必要がある。その余りにも残酷な現実に言葉を失った。生きてるけど、心は壊れてしまっている。それは死に等しい状態だからだ。

 

「私は眷属であるアリーゼ達を見捨てられない、このままアリーゼ達が再起不能になっても、最後まで面倒を見るつもりよ。だからセシル達は一度良く考えて、このまま私のファミリアに残るか、改宗するか……返事は明日聞くわ。今日は宿にでも止まって頂戴」

 

「アストレア「お願い。若い貴女達を私の我侭には巻き込めないの、だからお願い」……分りましたッ」

 

アリーゼ団長達が生きていた。それは喜ばしい事だが、このまま発狂し続けるかもしれない。もう元には戻らないかもしれない、廃人同然のアリーゼさん達の面倒を見ることには巻き込めないと強い口調で言うアストレア様に私達はこれ以上何も言えず、背後から響いて来る絶叫を聞きながらこれから生産系ファミリアとして活動するために準備したホームを後にするのだった……。

 

 

 

「まだ気は抜けないが、とりあえずは落ち着いた筈だ。ほれ、お茶」

 

「……ありがとう」

 

カワサキが淹れてくれた温かいお茶を飲んで一息ついた頃には既に太陽は落ちていた。

 

「ここまでとは俺も思ってなかった」

 

「そうなの?」

 

「俺は俺の知ってることしか知らないんだよ、アストレア。この蘇生だって成功率の方が低かったんだ。全員蘇生出来たのは文字通り奇跡だよ」

 

それと俺に出来るのは俺に出来る事だけと苦笑したカワサキ。だがその顔色には濃い疲労の色があった、錯乱し痛いと叫び、糞尿を撒き散らしながら暴れるアリーゼ達を落ち着かせるのは本当に苦労した。

 

「カワサキの魔法は別世界の物なのね」

 

「まぁな。とはいえ俺は術者じゃないから大したことは出来ねえよ。あ、煙草吸って良いか?」

 

「どうぞ」

 

私の許可を得たカワサキは煙草を加え、指先に火を灯して煙草に火をつけると紫煙を吐き出した。

 

「詠唱が必要ないのね」

 

「こっちは詠唱が必要不可欠らしいな。俺のところはそうでもないが」

 

詠唱が必要ない魔法というのは驚いたが、次のカワサキの言葉に更に驚いた。

 

「ほれ、この巻物読んどけ」

 

「何かしら?」

 

「清潔(クリーン)って魔法を覚えるスクロールだ。認識範囲の汚れを清める。ケアに必要だろ?」

 

「神でも覚えれるの?」

 

「覚えられるぞ。ヘラは出来た。ただ攻撃系の魔法ばっかりだったけどな、特に雷系が好きみたいだ」

 

「あなた本当に規格外ね」

 

それほどでもと笑うカワサキが差し出したスクロールは3つ。その内の1つを早速広げ、空になったカップに指を向ける。本当に神威を使わずとも魔法を使えるか試してみようと思ったのだ。

 

「清潔(クリーン)……驚きね」

 

「便利だろ?」

 

新品そのものになったカップに驚いているとカワサキはもう1つ巻物を取り出した。

 

「睡眠(スリープ)だ。あんまり暴れるなら眠らせろ。それがお前にも、アリーゼ達にも良いだろう」

 

「ええ、ありがとう」

 

力任せに暴れる高レベルの冒険者を取り押さえるのは不可能。眠らせることが出来るならそれに越した事はない。私は勿論、アリーゼ達を守るためにも繋がるので眠らせる魔法はとてもありがたい物だ。

 

「さてと、話は変るがこれからだ。まずはお前の許可を得てからだが、アリーゼ達にこの指輪を嵌めたい」

 

そう言ってカワサキが机の上の上においたのは無骨な指輪の数々だった。

 

「これは?」

 

女がつけるには余りにも無骨、そして不気味なデザインの指輪の数々……。だが今の巻物と同じ様に何か特別な効果があるに違いない。

 

「装備してると狂乱とか、混乱……精神に作用する状態を無効化するもんだ。多分これで話をする余裕は出来ると思う」

 

「それはありがたいアイテムね、でも……これは本命じゃないんでしょう?」

 

カワサキの言葉に含みがあるのは分っていた。精神を落ち着かせる指輪に、神でも習得出来る魔法はあくまで前座だと直感で感じていた。

 

「ああ、指輪でアリーゼ達と話が出来るようになってからだが……俺からの提案だ。今の状態から高確率でしかも一瞬で回復出来るかも知れない」

 

「……貴方がそんな事を言うってことは何かあるのね?」

 

カワサキが言い渋っていた。それだけ何か不都合な事があるのは間違いない。

 

「……人間をやめることになるが、即座に健康体になれる可能性がある」

 

「え?」

 

「治るかどうかの先行きも分らない治療を続けるか、人間をやめることになるが確実に回復出来る手段がある。治療を続けるなら薬とかも準備するし、ミアハ達を連れてきても良い。どっちを選ぼうが俺は俺の責任を果たすつもりだ。その上で俺からはこの二択から選んで欲しいと思っている」

 

このまま治るか分らない治療を続けるか、アリーゼ達が人間をやめるか……カワサキが切り出したのは究極の二択であり、その言葉を私は一瞬理解出来ないのだった……。

 

 

幕話 2つの選択へ続く

 

 

 

 




この話はベル君頑張るの前の時間軸の話になります、なのでベル君頑張るの時間ではアリーゼ達は一応復帰しているという形にはなりますが、リューさんには再会していないのであしからず、次回はこのまま治る見込みが低い治療を続けるか、人間をやめるかという選択についての話を書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうか宜しくお願いします。

オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは

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