ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか? 作:混沌の魔法使い
幕話 2つの選択
眠っているアリーゼ達の指にカワサキが次々と指輪を嵌める。人間を辞めるか、このまま恐ろしい時間が掛かるかもしれないがリハビリで復帰を目指す……蘇ったアリーゼ達が選ぶには余りにも重い選択だ。
「すぐ目覚める。眠りも状態異常だからな、それも無効化される」
目覚める……狂乱状態ではなく、私の記憶の中のアリーゼ達と話が出来る……喜びと恐怖に身を震わせているとアリーゼが目を開き、ベッドから飛び起き身構え……。
「え? アストレア……様? それにカワサキさん?」
「おう。元気っつうのはおかしいか、気分はどうだ?」
「え、え……ダンジョンじゃない……ここは……リオン! リオンは!?」
リオンの事を思い出し、リオンはどうなったかと叫ぶアリーゼ。蘇ったアリーゼの記憶は死んだ直後からなのだろう、1年時間が過ぎていると言われても恐らくすぐには理解出来ないと思う。
「うるさいぞ。何を……待て、待て……腕がある……」
「見える。目が見える……ッ!? どうなって!?」
「え、え……なに、何が起きてるの!?」
次々と目を覚ます大事な眷属達。だが全員が全員混乱している。それは無理もない、アリーゼ達の記憶はダンジョンで死んだところで止まっている。混乱するのも当然だ。むしろカワサキの指輪が無ければ狂乱に陥っているのは何度も見ているから、強い混乱の中でも話す事が出来るのは本当にありがたかった。
「全部説明してやる。受け入れられる、受け入れらないのは別にしてな」
だから落ち着けと言ってカワサキは椅子に座るように促し、私達にお茶を配った。
「さてと……簡単に説明するとお前達は死んで蘇った状態だ。記憶が不自然に途切れてるのはそれだ」
「黄泉還り……何を馬鹿なと言いたいが、事実か」
「冷静だな。輝夜」
「ふん、自分が死んだ瞬間を覚えているんだ。私もアリーゼも、ライラもこの場にいる全員が覚えている。認めたくはない、受け入れられないが事実なんだろう」
それに何よりアストレア様が否定しない、ならそれが事実だと告げた輝夜はお茶を口にして一息ついた。
「何をした? いや、お前は何だ?」
「オラリオを引っ掻き回してたのは俺だ」
カワサキはそういうと指輪を外し、黄色い異形の姿になりアリーゼ達がぎょっとした表情を浮かべる。
「亜人だったの?」
「おう。まぁこの世界の亜人じゃないけどな」
「「「は?」」」
「いやな、俺の世界は滅んで俺も消滅する筈だったんだけど、なんかの間違いでこっちに墜ちてきたんだよ」
アリーゼ達が私を見るので小さく頷く、カワサキは嘘は言っていない。別の世界の住人で、不慮の事故でこっちに落ちてきたのも事実だ。それは神が天上から地上に落ちてくるのと全く同じ現象と言える。
「……信じられねぇ、お前神なのか?」
「似て非なる何かとはゼウスのじーさんは言ってたな。まぁそういうわけで俺はこの世界にはない物を持ってる。それでお前達を蘇らせた訳だ。何か質問はあるか?」
カワサキは再び指輪を嵌めて人間の姿になり、何か質問はあるかと尋ねる。
「リオンはどうなったの?」
「オラリオにいる。闇派閥をオシリスファミリアと一緒に殺して回ってる」
「ちょっ!?」
行き成りすぎる言葉に声を上げるが、カワサキはこんな話は早いほうが良いと言って悪びれた様子もない。
「なんで止めて」
「止める理由がない、復讐を止めたらリューは壊れてたぞ? だからアストレアも正義を捨てろと言った。だよな?」
「え、ええ。リオンはああするしかなかったわ」
アリーゼ達を失った事に耐え切れなかった。闇派閥への憎悪を捨て切れなかった。そんなリオンを止める術はなかった。だからリオンが壊れないように私は正義を捨てろとリオンに言ったのだ。アリーゼ達は信じられないと言う目で私を見ているが、あの時はあれしか方法がなかったのも事実なのだ。
「オラリオに「今は戻れない、いや、永久に戻れないかもな」……どういうことですか?」
「その指輪でお前は正気を保ってる。だがそれは戦闘に耐えれるほど頑丈じゃない、それは謂わばアリーゼ達がアリーゼ達でいる為の生命線でもある。それを外せば発狂するぞ? 嘘だと思うなら試してもいいが、後悔するぞ。糞尿を撒き散らして暴れることになるし、そのアイテムも万能じゃない、何度も付け外しをすれば効力が弱くなって廃人になる可能性が高まるからな」
それでも良ければ外してもいいが、外すのは俺の話を最後まで聞いてからにしろと言われ、アリーゼ達は指輪に伸ばしていた指を引っ込めた。
(ここから、ここからが本題ね)
アリーゼ達に突きつけなければならない二択。口の中が乾いていく感覚がし、お茶を口に含んだがその味も香りも何も今の私には分からないのだった……。
死んで生き返った。信じられないが、事実というのは私自身が1番良く分っていた。末期の瞬間はしっかりと脳裏に焼きついているし、腹を貫かれた痛みも覚えている。全てが余りに鮮明すぎてそれが事実だと受け入れてしまっていた。
「まずだが、俺の使える蘇生は完璧じゃない、いくつかデメリットが存在する。色々あるが1番致命的なデメリットはレベルの喪失だ、俺達とお前達のレベルには認識が大きく異なるが完全では無いが、俺自身のレベルは100になる」
「「「ひゃ、ひゃくッ!?」」」
異次元のレベルに思わず声が裏返るが、カワサキさんはからからと笑っていた。
「多分恩恵のレベルに合わせると10って所だな、と言っても俺は戦闘職じゃないから冒険者のレベルで仮定するとレベルは6って所だ」
「いや、それでも十分すぎるだろうよ」
レベル6相当……ライラのいう通り、それでも十分すぎるレベルだ。
「話を戻すが、俺達の蘇生はレベルを消費する。今回の蘇生では10レベルの消費だが……アリーゼ達にどれくらい影響があるかは不明だが、多分レベルは1~2、酷くて3は下がっていると思う」
となると今の私のレベルは良くて4、最悪で2って所……。死んで生き返るための費用と考えれば安い……そう思ったのだが……。
「消費したレベルを再び偉業と経験値で上げなおせるかは正直言って分らん」
「つまり冒険者として復帰してもレベルアップもランクアップも出来ない可能生があると……?」
「まぁそうなる。ランクとステータスUPは出来ると思うがレベルは正直言って分らないな、偉業でレベルアップと言っても同じ偉業で効果があるのか分らんし」
「ああ。なるほど、前回よりもずっと難しい偉業と経験値が要求されるってことですね」
レベルダウンという現象は今までに無い事例なので、再びレベルアップ出来るか確証がないってことらしい。
「次にだが、その指輪についてだが、それは狂乱などの精神状態を無効化する物だ。アストレアも見たが、その指輪がないと暴れるし、自傷行為にも走る。それがあるから今の状態を維持できると思ってくれ、試そうと思って外すなよ。もう1度効果があるかは分らないからな」
外すなと繰り返し言われたうえに、カワサキさんとアストレア様の真剣な表情を見れば事実なのは明らかだった。
「ですがこれをずっとつけていても何にもならないでしょう?」
「ああ。それに関しての話だ。1つは長い時間をかけてリハビリと自分に向き合って少しずつ精神状態を回復させて、身体も少しずつ思うように動かせるように訓練をする。多分これは気の遠くなる時間が掛かるし、何よりも治るかどうかは何とも言えない。死ぬまで治らないかもしれないし、それよりも早く治るかもしれない。ただ途方もない時間が掛かるのは間違いない」
「そうなったら私が面倒を見るつもりよ。神は不変だからね、主神として貴女達を見捨てるつもりはないわ」
治るか治らないかも分らない、死ぬまでそのままかもしれない。それでも面倒を見てくれるとアストレア様は仰ってくれたけど、そこまでアストレア様に迷惑は掛けられない。
「他にもなにかあるんですよね?」
「……あると言えばある。無いと言えばない」
「言葉遊びはいいから教えてくれ、何があるんだ? あたしらが復帰する為に何を払えばいい」
ライラの苛立った言葉にカワサキさんは頭を掻きながら、机の上に小瓶をおいた。
「身体の違和感も精神障害も間違いなく治る魔法薬がこれだ」
「……当然デメリットがあるんですよね?」
なんの影響もないならカワサキさんがここまで出し渋る理由がない。何かそう、致命的なデメリットがある筈だ。
「ライラの言い方を変えればお前達が払う対価は人間としての生だ。これは種族を変える物で、人間を犬人や狐人といった獣人やエルフに変える。モンスターになるような見た目の物は取り除いているが、ランダムで、どんな種族に変るか分らない。ただ身体が作り変り、精神性が変るからアリーゼ達が背負ってる障害を全部回復出来る可能性が極めて高い。そして飲んだらもう人間には戻れない」
治る可能性があるが、どんな種族になるかも分からない霊薬を飲むか、治る見込みが少ない治療を続けるか……その二択を突きつけられた私は迷う事無く瓶を手に取った。
「治るんでしょ? なら飲んでやるわよ、この霊薬」
リオンの為にも、アストレア様の為にも、そしてアストレアファミリアの団長として、一番にこの薬を飲むのは私しかいない。
「アリーゼ、まちなさいッ!」
アストレア様が止めようと手を伸ばして来るが、それよりも早く私は瓶の中の薬を一気に飲み干し……。
「……うわ、なんか凄い臭い、それに音がめちゃくちゃ聞こえて来るんだけど……ねえ、輝夜。私どうなってる?」
「耳と尻尾が生えてるな、後髪にメッシュが入ってる。多分犬人だな」
「犬人かぁ……あー確かに尻尾が生えてるわね。うん、でもこれなんか良い感じよ、カワサキさん。指輪を外しても全然平気っぽい」
犬人になったからか、感覚が鋭くなった気はする。後尻尾で少しバランスが取りにくい気がするけど、指輪を外してもカワサキさんに言われていた障害が出る事も無く、人間を止めたという感覚も無く、犬人になったという事実を当たり前のように私は受け入れたのだった……。
アリーゼは迷う事無く種族変化の薬を飲み、犬人になった。犬耳と尻尾を得て身体能力も向上したのだが……。
「あいたた……」
「くうっ!? 痛いですわねッ」
「あたしは保留にして正解だったよ」
同じく種族変化の薬を飲んで狐人になった輝夜もだが、マトモに歩けず顔面から地面に倒れこんでいる。
「ほれ、ポーション」
「ううーありがとうございます」
「腹がたぷたぷになるな」
種族が変った事で向上した身体能力、そしてレベルダウンしてもレベル5のステータスは健在で思うように動けないでいた。
「やっぱり時間は掛かりそうですね」
「それはスマンとしか言えんな」
「いや、責めてる訳じゃない、レベルが上がらない可能性を考えれば身体能力が向上するのはありがたい」
「感覚とかも鋭くなったしね。これを上手く使いこなせれば前よりもずっと強くなれそう」
結局の所種族変化の薬を飲んだは今のところはアリーゼと輝夜の2人だった。自分達が実験台になるので、その結果次第で皆も種族変化の薬を飲んでという話で決まった。
「でも少しずつ歩けるようになってますよ、団長! 輝夜さん!」
「頑張りましょう! 大丈夫、きっと回復できますよ!」
「ありがと! 頑張るわ!」
「言われなくても頑張るさ」
セシル達も結局アストレアファミリアに残り、アリーゼ達のケアに協力するらしい。雨降って地固まるではないが、良い形になったと思う。
「また来る」
「ええ、いつでも来て」
ベルの事もあるので、アストレアに許可を得てから、新生アストレアファミリアのホームを拠点の1つとして登録させてもらった。これで転移で来れるので一度村に帰ることにした。
「カワサキ」
「ん?」
「ありがとう」
「……おう」
礼を言われるようなことはしていない、結局蘇生したとしても実験の意味合いもあった。助けたかったのも事実だが、失敗してもしょうがないと割り切っていた。助けたいと言う気持ちもないわけではなかったが……。
(結局俺は人でなし……か)
俺はカワサキであって川崎雄二ではない、9年近く過ごして認めたくない、受け入れたくないと思っていた真実に直面し、感謝されるようなこともしていないと感じた俺は逃げるようにゾーリンゲンを後にするのだった……。
アリーゼと輝夜は犬人、狐人で復活。他のメンバーも時期を見て種族変化で復活していく予定ですが、今は2人ですね。
人ではないという事を受け入れ曇るカワサキさんですが、本編でギルメンと再会し、オバロ版のようなカワサキさんに戻って行く感じで書いて行こうと思います。
オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは
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間違っている
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間違っていない