ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか? 作:混沌の魔法使い
幕話 アイズちゃん頑張る
カワサキがオラリオを出た次の日からロキファミリアのホールの一角にアイズが陣取るようになった。最初は何をしているのだろうかと思って見ていたが、それが1週間も続けばアイズに何か心境の変化があったのではないかと期待するようになった。
「あれは踊りだろうか……?」
「1……2……1……2」
本を壁に立てかけて、それを見つめながら踊りのような事をしていて微笑ましいと思って私は見ていた。ダンジョンに連れて行け、連れて行けと騒ぐよりもああやって踊りとかをしてくれていたほうが見ていて安心出来るそう思っていたのだが……。
「1、2、1、2」
そこにベートが加わり、おや? となった。そしてそれに続いて一時的にギルドから預かっているルーキーも加わった所で私はアイズ達に何をしているのかと聞く事にした。
「アイズ、ベート。何をしているんだ?」
「ん? ああ、リヴェリアか。これはカワサキさんが教えてくれた準備運動だ。身体を温めて、柔軟性を高めて怪我をしにくくする準備運動だ」
「……ん」
踊りではなく、準備運動だったのかと少しガッカリした。しっかりと準備をしてからダンジョンに行くと騒ぐと思ったのだが……。
「……わたしは終わり」
「ん? そっか、学校行くのか? 送っていくか?」
「……うん、お願いする。ベートさん」
ダンジョンに行くと騒ぐ事無く、木刀を振り回すことも無く、見ていた本を鞄に片付けて出かける準備を始めるアイズに今度こそ驚いた。
「学校に行くのか? アイズ」
ダイダロス通りにカワサキが作った学校。学区のような冒険者としての知識を身に付けるのではなく、読み書きや、小物作りに裁縫などを教えてくれる生きる術を身につける場所。ダイダロス通りの孤児は勿論、オラリオの孤児院達も通ってる……そんな場所にアイズが率先していくというのは本当に驚いた。
「勉強して遊んで、カワサキさんがくれた本を見て強くなる。だから今は勉強する時間」
「だ、そうだ。んじゃ連れて行ってくるわ」
ベートが見送りにつき、アイズを学校に連れて行く姿に感動すると共に、フィンは本当に何を、いや、オラリオは何て事をしたのかと後悔する。
(こんな事を言えた者では無いが、カワサキはオラリオに必要だった)
温厚で面倒見が良く、思慮深く、オラリオを変える為に尽力していたカワサキをオラリオは追い出してしまった。
「闇派閥が消えてこれからって時なのにな」
闇派閥は地に潜んだ。再び立ち上がるとしても相当な時間が掛かるだろう……オラリオを変えれる今、最も力を借りたい人物がオラリオにいないことに私は溜息を吐きながら窓から見える恨めしいほどに澄んでいる空を見上げるのだった……。
「……今日は学校で小物を作った。リヴェリアにあげる」
「あ。ああ……ありがとうアイズ」
「ん、頑張った」
そう言ってアイズがくれたハンカチに思わず目頭が熱くなるのを感じ、そして日に日に明るくなるアイズの姿にカワサキよりも長い間面倒を見ていたのに、私達がアイズに出来たことは、アイズを変えるために出来たことは何も無かったと深く後悔するのだった……。
学校では読み書きと計算、それと市場で売れる小物の作り方を教えてくれる。後は皆が食べて行くためにカワサキさんが教えてくれた料理を皆で集まって作って作って、引退した冒険者の人に頼んで売りに行ってもらう。これが学校での授業だ。
「アイズー。行きますよー」
「うん」
ただ勉強は余り好きでは無いが、運動の時間は好きだ。リリが投げたボールをグローブで受け取り投げ返す……が。
「あ……」
「アイズはへたくそです!」
「ごめん」
リリの頭を大きく越えて飛んで行ってしまったボールをリリが拾いに行き、投げ返されたボールを受け止める。
「もっと軽く、軽く投げるんです」
「分った」
これくらい……? 力加減が難しいが力を余りこめずに軽くボールを投げるとそれは1回跳ねたがちゃんとリリの手元まで飛んだ。
「最初はこれくらいですよ、慣れればもっと上手になりますよ」
「……うん、頑張る」
運動の時間はカワサキさんが教えてくれた遊びをやることが多い、キャッチボールや高い所にぶら下げた籠にボールを投げ入れるバスケットや、枠組みの中にボールを蹴り入れるサッカー。
「けんけんぱ。けんけんぱ」
「むーアイズが強い」
「負けないもんッ!」
地面に丸を書いてそれを片足で飛んで、あるいは足を開いて着地するけんけんぱなど……オラリオでは余りない遊びが多い。
「運動の時間は終わりだよ。次は勉強の時間だよー」
「……」
「……」
「行きますよ?」
「勉強も大事」
「「「はい……」」」
運動は楽しいが勉強はやっぱり苦手というか好きではなく、勉強の時間で嫌そうにしている皆と共にリリ達に引っ張られて校舎へと戻り……。
「おーう、おかえり」
「「「えっ!?」」」
なんでもないよう学校にいたカワサキさんにリリ達と共に驚いた。
「誰かの誕生日なら帰って来るって約束しただろ? ほれほれ、ちゃんと勉強を頑張って来い。夜はご馳走だぞ」
「「「はいッ!!」」」
誰の誕生日かは判らないが、カワサキさんが少しでも帰ってきてくれた事に私含め、リリ達は満面の笑みを浮かべ、好きでは無いが勉強をするために教室へ足を向けるのだった……。
「「「「わぁ……」」」」
「ほれ、座れ座れ。温かいうちに食べよう」
「「「はいっ!」」
揚げ立てのジャガ丸くんに、湯気を放つコーンスープに、鶏の足を1本使ったフライにケーキに目を輝かせる。
「俺も食っていいのか? カワサキさんよ。というか何時帰ってきたんだ?」
「こいつらの中の誰かの誕生日に帰ってくるっていう約束だからな、別に追放された訳じゃねえんだ。そりゃ戻ってくるさ」
「いや、まぁいいけどよ。んじゃまあ、俺も食わせて貰うか」
「なんならお前の誕生日にも来てやろうか? ベート」
「それは止めてくれ、流石に恥ずかしい」
「がっはははははッ! そうか、そうか、それなら来てやろう」
なんでだよっと叫びベートさんに私達は笑みを浮かべ、次の日にはカワサキさんが帰ってしまったが、それでも楽しい1日を過ごすのだった。
そしてそんな日々を過ごして数年、私がもうすぐ8歳になるという頃に、初めてカワサキさんは私に戦い方を教えてくれた。
「えい、やぁ!」
「お、良い踏み込みだな」
私は木刀、カワサキさんは何故かお玉だったが、私と軽い、本当に軽い戦闘訓練をしてくれた。遊びの延長のような物だったけど、楽しかった。
「得意じゃないっていってたのに強い」
「男の子はチャンバラが好きなんだよ」
「……おじさんなのに?」
「はっ……ははははははははッ!! いや、いやいやいや、こりゃあ1本取られたな!」
カワサキさんは楽しそうに笑い、私の手にしていた木刀をお玉で下から弾いて、落ちてきた木刀を片手で掴んだ。
「ここまでだ。筋が良いな。俺のいう通りにちゃんとやっていたのが分る。強くなったな」
「でも……届いてない」
強くなったと言われても全然……いや、少しは嬉しいけど負けた事を考えると嬉しくない。
「はっはっは! そりゃそう簡単に負けるわけにはいかないからなッ!」
子供の遊びとも言えるチャンバラだが、それでも学びは多かった。
「そういやあ。ベートから聞いたんだが、恩恵を刻んだんだって?」
「うん、まだレベル1だけど……」
「そんなに焦る事はないだろうによ。まぁ焦らず頑張れ、無理をせずにな?」
「ダンジョンにも行くけど、学校もちゃんと行ってる。怪我をすると皆心配するからしない」
「それで良い。アイズ、大事な者を増やせ、きっとそれがいつかお前を助ける力になる」
「分からない、カワサキさん。私には分からないよ」
カワサキさんの話は難しくて分からない。だけど大切な者が増えて、その大切な者が無くなるのは怖い。
「今は分らなくていい、今はな? その内分る。大体子供がそれを理解するにゃぁ難しいもんさ。だけど……いつか分かる時が来る。それが分った時きっと今よりもずっと、ずっと強くなれる」
「カワサキさんよりも?」
「なれるさ。俺より強い奴なんて山ほどいるからな」
ぐりぐりと私の頭を撫で回し、またなと言って帰っていくカワサキさんの言葉の意味はきっと私には理解出来ない……そう思っていたあの時までは……。
「あうっ!」
「リリッ!!?」
私だけがダンジョンにいくのが心配だと、魔石やドロップアイテムの回収を手伝ってくれると付いて来てくれたリリ。1~2階層の弱いモンスターと戦っている時に現れた鎧を纏い、剣と盾を装備したゴブリンから逃げている最中に倒れ、モンスターに襲われそうになっている時、ゴブリンが手にした剣が振り下ろされそうになっていたその時に……。
「リリッ!」
「目覚めよ」
【エアリエル】
「やぁあああああああッ!!!」
助けないと、守らないと思ったその時に魔法が使えた……私は私が思う以上にダイダロス通りの皆が大好きで、大切なんだと実感するのと同時に、少しだけだけどカワサキさんの言葉の意味が分かったのだった……。
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カワサキがオラリオに訪れた事でアイズは友を得た。それによって様々な物を得た。いや、アイズだけではなく、本来失われる者が失われなかった。本来生きるべき者がその命を終えた。
そして本来この世界の破滅のトリガーを引くべき存在がそのトリガーすら失った。
【……】
それによって無垢な悪意が己の欲望のまま動く事となる。しかしその存在が明らかになるのは……手遅れ1歩前の最悪の状況となるのだった……。
オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは
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間違っている
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間違っていない