ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか?   作:混沌の魔法使い

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下拵え ベル君 頑張る その2

下拵え ベル君 頑張る その2

 

カワサキさんは僕が冒険者になるために色々と勉強を教えてくれているのですが、今回の勉強はちょっと今までと毛色の違う物でした。

 

「まずベルにこれをやろう」

 

「……誰でも楽々PK術……大多数戦編? なんですか? この本は」

 

とんでもなく分厚い本を差し出されただけではなく、そのタイトルにも少し僕は反応に悩みました。そもそもPK術とは一体何なのかも分りませんでしたし……。

 

「俺の仲間の1人が考案した戦術書だ。あくまで対人戦術だが、いくらかはモンスターとの戦いにも応用出来ると思うぞ」

 

「そんな大事な物貰えませんよッ!?」

 

カワサキさんの仲間にはもう会えないと聞いている。そんな仲間が作った物をもらえないというとカワサキさんは笑いながら同じ物を3つ取り出した。

 

「ええ……?」

 

「凝り性な奴でな、同じ物が沢山あるから心配ない」

 

「それなら……借りておきますね」

 

貰うのではなく借りておきますと呟いてその本の最初のページを見て僕は閉じた。

 

「なんかとんでもなく細かい文字が見えました」

 

蟻よりかはまだ大きいがそれでもとんでもなく細かい文字がびっしりで、いくら勉強のためとはいえ見たいとは思えない本だった。

 

「おう。俺も見てると頭が痛くなるぞ」

 

「そんなに!?」

 

上機嫌に笑うカワサキさんはまぁ少しずつ覚えれば良いさと笑い、もう一冊の本を取り出した。

 

「で、これはアルトに書かせた本だ」

 

「お父さんに?」

 

お爺ちゃんと一緒になって馬鹿をやってアルフィア母さんとお婆ちゃんに良く折檻されているお父さんが本を書いた。正直ちょっと信じられなかった。

 

「まぁあれだ。多分衝撃を受けると思うが、役立つぞ。うん、多分絶対、きっとメイビー」

 

カワサキさんが不安に感じてる時の口癖を聞いて、本当に大丈夫なのかな? と不安を抱きながら本を開いて噴出した。

 

「ぶふっ!? か、カワサキさん。これ」

 

「言うな、アルトは大真面目に書いてる」

 

「これが!? 僕より大分ヘタですよ?」

 

モンスターっぽい絵に、額に「スライム」とか「コボルト」とか書かれている図と、その下に細かく書かれてる特徴の説明文。上と下で余りにも完成度が違っていてなにこれっと思うレベルだった。

 

「絵心がないんだ。しょうがない」

 

その本はダンジョンに出現するモンスターの特徴が書かれた本だった。絵はへたくそだが、アルフィア母さん達がダンジョンで戦ったモンスターの事が記されていた。

 

「俺達の流儀だが、俺達の戦いは始まる前に勝っているのが基本だ」

 

「始まる前に? どういう意味ですか?」

 

お爺ちゃんとお婆ちゃんのファミリアではなく、昔カワサキさんが所属していたアインズ・ウール・ゴウンというファミリアの話というのはすぐに分かった。語り口が優しく、昔の事を思い出しているような雰囲気がカワサキさんにあったからだ。

 

「相手が何をしてくるか、どんな事が苦手か、戦うであろう地形の特徴、相手が得意なこと、得意な戦術に能力、そういった物を調べて、自分が有利に立ち回る。そしてそれと同じ位自分がどういう事を出来るのかというのを把握しておくのも大事だ。その本は18階層までのモンスターが記録してある。なんでもこれが最初の目的地にしておくと良いだろうというゼウス達の考えだ」

 

目的地……ここまで辿り着ければある程度冒険者としての素質があるってことで良いのかな……。

 

「後これ、記録用のノート。ベルが自分で発見した事をメモしておくといい、だが間違えてもダンジョン内で記録するなよ?」

 

「わ、分ってますよ、いくらなんでもそんな事したら危ないってことくらい」

 

「ならいい、今日は地図の書き方を教える。そこまで正確じゃなくていい、大まかでいいから自分で記録しておくといい。こうなってるって思い込むのは危険だが、ある程度の戦術を立てるときに役立つ」

 

「あ。そこでさっきの本に繋がるんですね」

 

PK術って言うのは良く分らないけど、ようは大多数を相手にした場合の沢山の戦術が記録されている本と組み合わせるのかと納得した。

 

「そういう訳だ。良いか、冒険者は冒険するのが仕事だ。だが死地に自ら飛び込むことではない、生きて帰ること、それが出来てこその冒険だ。それを忘れるなよ、ベル」

 

「はい!」

 

カワサキさんが教えてくれる様々な事を覚えて、僕は冒険者になる。才能はない、危ないから止めておけとお母さんやお父さん、アルフィア母さんにザルドおじさんもいうけれど……それでも僕は冒険者になりたい。お爺ちゃんやお婆ちゃん、そしてセラスさんや、マキシムさん……皆が負けたモンスター……その時の悪夢にまだ魘されていることを僕は知ってる。だから……僕がやると決めた、才能が無くて、体格も恵まれていない、だけどそれでも気持ちでは負けない。皆が出来なかったことを僕がやる……それが僕が冒険者を志す本当の理由だ。

 

「頑張ります!」

 

「おう、頑張って覚えろ、知識は時に力以上の武器になるからな」

 

「はい!」

 

出来る事は多ければ多い方がいい、知識はあればあるほどいい、才能がないなら努力で習得出来る物は何でも覚えて自分の力に変えて冒険者になるのだから……どんな大変なことでも覚えてやる……そう思っていたのだけど……。

 

「カワサキさん、これはちょっと」

 

「やっぱ駄目「駄目に決まってるだろう! このド阿呆!」痛いぞ、アルフィア」

 

「ベルに毒物の作り方なんか教えるな!」

 

ただ毒物の作り方は駄目だと思ったし、アルフィア母さんも激怒していたのでこういう危険すぎる知識は良くないと思うのだった……。

 

 

 

それは突然の誘いだった。元来他のファミリアに所属している冒険者とはある程度距離を取るのが基本だ。まぁ俺は守っていないが、それでも暗黙のルールとして主神同士、あるいは団長同士の話し合いもなしに他の派閥の冒険者に声を掛けるのはご法度、暗黙のルールだった。

 

「ベート。これからダンジョンに行く、付き合わないか?」

 

だがそれを無視してオッタルは俺に声を掛けてきた。鍛錬に使っているダンベルを置いて額の汗を拭った。

 

「誘ってくれるのは嬉しいが、なんで俺に声を掛けた」

 

「お前は強くなろうと貪欲だ。そして才がある。アレンやへグニ達はまだ俺についてくるには力不足だ。だがお前ならある程度大丈夫だと思ってな」

 

「ありがたいね、そこまで目を掛けてくれてるなんてさ。こちらから頼みたいくらいだ」

 

マキシムやザルドという圧倒的高みを共に見て、その背中に追いつこう、追いつきたいと共に思っている相手だからこそ、俺はオッタルの事が嫌いではなかった。

 

「だけど、先にザルドに勝つのは俺だ」

 

「ふっ……まだまだだろうに、お互いにな」

 

レベル9のザルドはあまりにも遠い高み、それでも勝ちたい、それでも追いつきたいと思う。憧れであり、乗り越えるべき壁、それがザルドとマキシムの2人だ。

 

「これをやる」

 

「なんだ、これバンダナ?」

 

「目隠しして18階層まで行くぞ、暫くは慣らし。慣れれば深層までこれで行くぞ」

 

「……マジで言ってるのか?」

 

目隠しして18階層までいく、はっきり言って正気の沙汰ではない。視界という情報を自ら塞いでダンジョンへ潜る、それだけで雑魚モンスターの攻撃でさえ致命傷になりかねない。

 

「俺はこれで毎日深層まで行っている。慣れて来れば空気の流れと殺気と周囲の音で回りは分る」

 

猪人の俺より、狼人のお前ならもっと楽だろうと言われ、視線で出来ないのか? と言われれば……。

 

「やってやらあ!」

 

「それでこそだ。これはカワサキの提案した修行方法だ。間違いではない、現に目を閉じていても敵の攻撃に反応できるようになったり、自分の間合いに入った相手には殆ど無意識で反応出来るようになる」

 

んなわけあるかと言いたかったが、カワサキさんが言ってるなら間違いない……間違いないはずなんだと思い、バンダナで目隠しをした俺は……。

 

「ブモオオオオッ!!」

 

「ぐっふうっ!!」

 

「何をしているベート! もっと殺気を感じ取れッ!!」

 

「出来るかぁッ!!?」

 

ミノタウロスの一撃を貰い、更にオッタルにもっとしっかりしろと怒鳴られる。ふざけるなといいたくなったのだが、3日もオッタルに付き合えば、オッタルの言う事が理解出来た。

 

「感じるぜ、肌にビシビシ来る……相手の動きもなんとなく視えて来たぜ」

 

「それだ。それさえ分れば後は問題ない」

 

肌に突き刺さる殺気、相手が見ている気配、目を閉ざした事で目で見るよりも多くの情報を得る事が出来た。

 

「らぁッ!!」

 

「!?」

 

「流石だ、筋がいい」

 

「煽てるな、狙いがずれてる」

 

オッタルと違い、魔石まで砕いているし、武器の切味と大振りでモンスターを倒しているだけだ。

 

「ふっ!」

 

紙一重でかわし、大剣ではなく、ナイフでモンスターを討伐しているオッタルを見て、俺は身震いした。

 

(あそこまでは習得できる……いいぞ、俺はもっと強くなれるッ)

 

カワサキさんに教わって習得したならここ数ヶ月の成果のはずだ。なら俺も覚えられる、俺も習得できる技術だと今まで以上に集中し、オッタルと共に目隠しでダンジョンへ潜り……視界ではなく、気配で戦う術を俺は1ヶ月掛けて習得した。

 

「なぁ? ベート。この心眼と制空圏ってなんや? なにしてたん?」

 

「ねえ? オッタル。この心眼(真)と制空圏(真)って何? なにをしていたの?」

 

「目隠ししてダンジョンに」

 

「目隠しして深層まで……」

 

「目隠ししてダンジョンに潜るとか何考えてるんや!?」

 

「目隠ししてダンジョンに行ってたって、オッタル貴方なにをしてるの!?」

 

ステータスの更新の際に突然生えてきたアビリテイと突然発展したアビリテイについてベートとオッタルはなにをしていたのかと詰められ、目隠しダンジョンアタックをしていたと話し主神に叱られるのはまた別の話である……。

 

 

下拵え ベル君 頑張る その3へ続く

 

 




目隠ししてダンジョンに潜りアビリテイが生えたベート&オッタルとPK術を教わるベル君と順調に成長中です。ベル君頑張るは後4つで終わり、そこからは本編に入ろうと思いますのでどうなるのか楽しみにしていてください。

オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは

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