ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか? 作:混沌の魔法使い
下拵え ベル君 頑張る その3
新婚旅行という名目の世界各地の調査を終え、アルトと共に村へと帰って来ると安心したように大きく伸びをした。
「んー久しぶりに帰ってきたわ」
「そうだな、今回は大分ハードだった」
「うん、お母さんとお爺ちゃんにもちゃんと伝えないとね」
リヴァイアサン、べヒーモス、そして姉さん達を死の間際まで追い込んだ黒龍。ダンジョンの外に出たモンスターであり、3大クエストと
呼ばれるモンスターの討伐クエスト。だがダンジョンに外にいるモンスターは他にも沢山いる。
「古代のモンスターは大分やばい、ゼウスのじっさまに伝えないとな」
縄張りを外に移したモンスターと、古代の英雄譚に出てくるモンスターは格が違う。リヴァイアサンやべヒーモスに匹敵するモンスターが出現するかもしれないから、それを事前に探すのが私とアルトの仕事だ。
「ベルには聞かせないでね」
「分ってる。アルフィアにも叱られるからな」
「そうしてちょうだい。それに私はベルにはやっぱり冒険者にはなって欲しくないから」
大事な1人息子のベル。可愛い人に教えられて料理人になってくれれば嬉しいのだけど、冒険者になりたいといっていることに私は頭を抱えていた。
「とは言え諦めさせるのは少し難しいかもだけどな」
「それでも親としてはやっぱり嫌」
冒険者になって物言わぬ骸になって帰ってくるかもしれない、そう思うだけで怖くて怖くて仕方ない。だからベルには冒険者になって欲しくない……。
「きっと可愛い人なら」
あの人ならベルの冒険者になりたいという気持ちをとめてくれる……そう思っていたのだけど。
「シッシ!」
「良い踏み込みだ。その調子」
「はい! 頑張ります!」
可愛い人がベルを鍛えている姿を見て私は思わず早歩きで歩き出していた。
「ん? メーテリアかおかえり」
「お母さん、おかえりなさい!」
「可愛い人! なんでベルを鍛えてるの!?」
おかえりとのほほんと言う2人に向かってそう怒鳴った私は絶対に悪くない筈。後ろのほうであちゃーと言わんばかりに額に手を当てているアルトの姿があったけど、これだけは絶対に譲れない所だった。
「どうしてベルが冒険者になるための訓練をしてるの?」
ベルを1回マキシムさんに預けてから、私は何故ベルに冒険者になるための訓練をしているのかと可愛い人に問い詰めていた。
「そりゃメーテリア。憧れは止められないんだよ、いや、もっと言えばこうすると決めた奴は止められねぇ。そういうもんさ」
「どういうもんです! 可愛い人!」
「その可愛い人いい加減止めない?」
「やめません! お義母さんも何で止めてくれなかったんですか!?」
ヘラお義母さんにもどうして止めてくれなかったのかと思わず声を上げながら尋ねる。
「駄目だと止めつづけてベルが1人で何の心構えもなしに村を飛び出してしまうのが怖かった」
「私も同意見。ベルはこうと決めたら譲らないから村を飛び出して行く危険性を考えての事だよ」
「セラスさん……」
確かにその可能性もあるけど、あるけれど……。
「私は反対してる。諦めさせようとしてるんだが、どうにもな……」
「お姉様でも駄目なの……?」
お姉様が諦めさせようとしているって事は間違いなく力づく。それでも諦めないというのは想定外だった。
「じっさまにザルド。あんたたちの意見は?」
お爺ちゃんとザルドさんにアルトがそう問いかけるとお爺ちゃんは手にしていた湯呑みを机の上に置いた。
「ベルに才能はない。だが想いはある……その強い想いは止められん。だがベルにも1つ約束をさせた」
「約束?」
「オラリオに行って僅かに冒険者はやらせる。だがそれは現実を見て諦めさせるためだ。自分でも無理だと思ったら、いや、ベルは賢い子だ。きっと自分の限界を理解してこれ以上は無理だと理解してくれる。だから駄目だ駄目だと言わず、一度経験させるのも良いんじゃないか?」
ザルドさんの言う事は最もだ。一度現実を見て諦めさせるというのはいいと思う。私もアルトも才能のある冒険者ではない、だからベルもきっと同じだと思っていたし、おじいちゃんも同じ意見だった。
「でもベルがダンジョンに潜るのは怖いわ」
「俺がついてくよ。ベルがオラリオに行くときは俺が責任を持って面倒を見る。だから少しだけベルの思うとおりにさせてやらないか?」
可愛い人の言葉に私は溜息を吐き、搾り出すように分りましたと返事を返した。本当は行かせたくない、冒険者になんかさせたくないけど、ベルが自分で諦めてくれるほうがいいと思ったから。
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「なぁメーテリア。カワサキから手紙が来たんだけどさ」
「ベルが冒険者諦めるって?」
「いや、なんか最速レコードでレベルアップしたって、なんか才能開花したっぽい?」
「ふう……」
「メーテリアぁああああああッ!!!」
ベルが最速レコードを更新したと聞いたメーテリアは小さく呻いて、その場に倒れこむのだった……。
お母さんが冒険者になることに反対しているのは知っていたけど、あそこまで凄い剣幕で叱られるとは思ってなかった。
「それだけ心配してるんだ。ベル」
「……はい、それは分ります」
お母さんは心配させたくない、でも冒険者になりたい。アルフィア母さん達が出来なかった黒龍討伐を成し遂げたい、いや、出来ないとしても僅かでも黒龍についての情報や、能力を知り後に続けたい。出来れば僕がアルフィア母さん達の苦しみを取り除きたい。この気持ちに嘘はつけないし、諦めたくない。だけど無謀な行いはしない。自分に出来る事を全力で成し遂げる。
「頑張るしかない。少なくとも冒険者になっても大丈夫だと思わせれるようにお前は頑張るしかない、もう頑張るのはイヤか?」
「いえ! 頑張りますよカワサキさんッ!」
「良し、良い返事だ。今日からは1つ先の技術を覚えていくぞ。フットワークやステップと呼ばれる物だ。前にザルドとのスパーリングを見せたが、俺の動きを覚えているか?」
カワサキさんの問いかけに僕は頷いて、軽く構えを取ってみた。
「こうやってずっと動いてました」
構えを取ったまま身体を小刻みに動かし、ザルドおじさんのパンチを凄い速度で避けたり、回り込んだりしていた。
「それがステップワークだ。奥足、構えた時に後ろ側に来る足の膝を少し曲げて、踵を上げる。これで脹脛が常に使えるから強い力が出せる。だが重心を前に寄せすぎるな、重心はあくまで中央に来るようにだ」
構えを取って動いて見せてくれるカワサキさんの真似をして見るが……。
「違う、両方の踵を上げるな。それだと姿勢が崩れる。浮かせるのは奥足、脹脛は少し曲げる。最初は前後に跳ぶ感じだ」
「こ、こうですか?」
「違う。跳ぶことを意識しすぎるな。もっと軽くだ」
「む、難しいです」
1つ先の技術の言葉に嘘は無く、今までのパンチの打ち方や蹴り方とは全然違う物だった。
「当たり前だ。技術ってもんはそう簡単に身につくもんじゃない。何回も、何十回も何百回も練習してそれでやっとだ。俺だって十全とは言えないんだぞ」
「カワサキさんもですか?」
カワサキさんでもまだまだと言われ、それは正直信じられなかった。
「俺より強い奴なんてごまんといる。俺は料理人だからそこまで気にしないが、本気で強くなりたいなら驕るな、努力を怠るな、良いか努力は決して裏切らない、成果が見えなくとも、負けたとしても、努力を続けろ。その努力は決してベルを裏切らない」
「僕を……裏切らない」
「ああ。努力すれば成功するなんてことない、努力しても越えられない壁って物はある。だがな、努力を怠った者は決して成功しない。そしてもう1つ――何より大事な事がある。何だと思う?」
努力より大事なこと……なんだろうか、才能? 武器? それとも魔法?
「すいません。分りません……」
色々考えてみたが、どれもしっくり来ず分りませんというとカワサキさんは僕の頭を撫で回した。
「自信だ。自分を疑う奴はどれだけ努力しようが、才能があろうが成功なんかするわけがない。自分が自分を信じられなくて何が出来る? ベル。お前はお前だけは疑うな、信じろ。自分なら出来るって信じろ。お前の努力はお前を裏切らない。だからお前は自分を疑うんじゃないぞ」
努力を怠った者は決して成功しない。そして自分を信じられない者もまた同じ。たった一言だが、それはとても重い物だった。
「ベルは才能は無いが、地味な努力を続けられる。腐らず頑張れ」
「はい! 頑張ります!」
「良し、まずはこれだ。この円の間をステップで移動する。こういう感じだな」
軽く跳んでるようにしか見えないカワサキさんだが、突然瞬間移動のように前後に……いや前後左右に自在に移動する。
「すごい……」
「いや、俺のは起こりが完全に消せてる訳じゃないし、予備動作もある。同格には通用しないんだな、これが」
「でもザルドおじさんとかマキシムさんには勝ってますよね?」
「ありゃ2人は俺の動きに慣れてないだけだ。何度も戦って引き出しを出し切ればもう勝てねえよ」
まぁまだまだ引き出しはあるけどなとニッと笑ったカワサキさんはパンパンと手を叩いた。
「まずは練習あるのみ。慣れない内は足が攣ったり、筋肉痛になると思うが新しい事を身につけようっていうんだ。泣き事を言うなよ?」
「頑張ります!」
とにかく僕は頑張るしかない。カワサキさんが教えてくれた事を何度も何度も練習して、自分の物にする。才能がないのだから努力して、努力して、出来る事を山ほど増やして、足りない才能を補うのだと気合を入れ、夕暮れまで訓練を続けた。そしてこの時の努力はダンジョンで遭遇したミノタウロスから僕の命を救ってくれることを今の僕は知るよしもないのだった……。
部下から上がって来る報告書の山を見ないようにしながら、私はペニアとの話し合いを続けていた。
「戦争遊戯をすると聞いた。なんと馬鹿な事をしたんだ」
「真っ向から戦争遊戯なんてするつもりはないさ、カワサキが残してくれた正しい意味での戦争遊戯のテストに良くないかい?」
カワサキが草案として残していたのは野球やサッカー、バスケットを生産系ファミリアでの戦争遊戯に使えないかという物だった。
「探索系ファミリアの試合でも不可能では無いが、危険だぞ?」
「それは分ってるよ。だからこっちだ、9対9じゃなくて、こっちの……野球盤ってルールの方」
ペニアが差し出してきた資料に目を通す。他にも「フリースロー」「PK」と書かれたバスケットやサッカーの別ルールにも目を通す。
「これならばまだいけるか……野球とサッカーが不安だが……」
「魔道具とかで何とか出来ないかね? 後はルール的にあいつらを縛りたい」
カワサキが残したレシピ本というのは今のオラリオでは喉から手が出る程にほしい物だ。ミアハファミリアが探索の規模を下げ、食堂を経営し始め、娼婦や酒を飲む場を提供していたイシュタルも飲食店を始め、莫大な利益を得ている。それを見逃す神ではなく、そしてミアハとイシュタルファミリアの成功にカワサキのレシピがあると分ればそれを求めるのは当然だ。
「子供達相手に戦争遊戯を仕掛ける恥知らずどもだ。無理な条件も飲ませる」
「それで頼むよ」
後は任せるとひらひらと手を振り帰って行くペニアを見送る。
「……ここまで堕ちるか……」
闇派閥の攻勢が収まって5年。その5年の間にアストレアファミリアは壊滅し、1人残されたリュー・リオンとオシリスファミリアの手による報復。ダイダロス通りの子供達を狙っての他のファミリアへの圧力……私もウラノスも出来る事はやっている、ギルドをより強固にそして抑止力とする為のギルドナイトの政策に、新規の冒険者の入団に関しても関与するようになった。厳しい管理を行う事である程度ファミリア間の暴走なども抑えてきた。
「戦争遊戯は確かに正当な権利だが……常識を考えろッ」
戦争遊戯は確かにファミリア同士の正当な権利。だがそれを子供と引退した冒険者しかいないペニアファミリアに行なう等という常識外れで恥知らずなことをするファミリアとそれを命令する主神には怒りしか覚えない。しかしこの状況が以前よりもましというのだから目も当てられない。
「……神……か」
私自身神に良い印象は抱いていない、賢者の石を作ったことで罰せられた事は自分が愚かだったと割り切っているが、それでも口頭による警告でもあれば留まって……いなかったかもしれないが、少しは考えることもあったと思うが……そこでふと思う。何故ここまで「神」について考えなかったのかと……。
「いや、それだけじゃないな。ダンジョンについてもだ」
全知零能となり地上に降りてきている神々について深く理解しようとも思わなかったし、考えようともしなかった。異端児の存在を知り、彼らと友好関係を築いてもなお深くダンジョンについて考えようとしなかった事に気付いた。
「……自分で考えろと言っていたな」
カワサキが辿り着いたダンジョンの真実……ウラノスが頑なに話さない神々の罪……。
「……探って見るか」
カワサキがくれた維持する指輪のお蔭で肉体的な疲労はない、精神的疲労は凄まじいが……それでも体力的に問題がないというのはありがたい。
「まずは戦争遊戯のまとめとギルドナイトの面接。それと新規の冒険者の勉強会……2時間ほどは時間を取れるか」
間違いなく維持する指輪が無ければ過労で倒れるレベルだなと苦笑しながら、私はギルドの仕事に励み、深夜に数時間だけ神について、ダンジョンについてを調べ始め……。
「ウラノス! ウラノス! お前と共に地上に降りた神は何をした! 何をさせた!」
「……そうか、辿り着いたか」
「答えろ! これでは、これでは……モンスターのほうに正当性が出来てしまうぞ!」
辿り着いた真実は私が思うよりも数段残酷であり、そしてダンジョンにモンスターが沸く理由も、そして冒険者を襲う理由も、アストレアファミリアが壊滅したジャガーノートの存在も、異端児の存在も……その全てが神々の原初の罪に繋がると知り、その当事者であるウラノスに詰め寄るのは当然の結果なのであった……。
下拵え ベル君 頑張る その4へ続く
本編に向かっての準備が着々と進んでいます。このまま行くとベル君はカワサキさん仕込みの料理の技能とい徒手空拳の技術にPVPの知識を持ってオラリオ入りするので原作より強いベル君になりそうです。それと野球盤、PK、フリースローは幕話で書いてみようと思いますのでどうなるのか楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは
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間違っている
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間違っていない