ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか? 作:混沌の魔法使い
下拵え ギルメンズ・リポート その2
穏やかな風が吹く原っぱで少年が2人大の字で寝転んでいた。その近くには木刀が2本と原っぱに似つかわしくないクレーターが2つあった。
「なー建やん。どこまで思い出した? 俺ユグドラシルってゲームとクソみたいな現実」
「俺も似たようなもんだな。どうするよ、弐式炎雷」
「いや、それ止めてくれよ。武人建御雷」
「そっちも止めろよ」
武人建御雷と弐式炎雷――かつて自分達が遊んでいたゲームのユーザー名を口にした2人は原っぱの上で上半身を起こした。
「ここ昔なのかな?」
「どうだろうなー? 神とかいるし、まさか異世界転移とか?」
ゲームやアニメ、漫画や小説の題材である「異世界転移」それに巻き込まれたかもと笑う建やんに俺はそうかもと呟いた。
「昨日散歩してて、隕石が頭にぶつかって……いや、多分あの光が俺達の意識だったんじゃないか?」
「かもな。でもなんか変な感じだ。フドウ・武人としての記憶と武人建御雷の記憶がある」
「俺も、トドロキ・剣と弐式炎雷の記憶があるわ」
俺も建やんもゲームをしていた大人の記憶と極東で育った子供の記憶がある。若干子供の記憶はあやふやだが、それでも覚えてる。
「「なあ俺達って何者だ?」」
俺も建やんも同時に互いに問いかけていた。スサノオファミリアの最後の生き残りで、リアルでクソみたいな力仕事をして体を壊して、クソみたいな朝廷にこき使われて、死ぬ寸前に思い出したのはゲームで馬鹿をやってたことで……。
自分は何者か? この世界の子供と未来で大人の自分……その2つ混ざり合って俺がいる。
「知ったことじゃないな」
「知ったことじゃねえよな?」
自分は何者か? 孤児で、自分達を拾い上げてくれた神も救えない弱き者、何もかも無くして、かつての楽しい思い出を思い出して……もう帰れない場所に帰りたかったと涙する卑怯者。
「簡単な話だ」
「そう、簡単な話なんだよ」
フドウ・武人と武人建御雷、トドロキ・剣と弐式炎雷――2つの人生が1つになったとか、憑依してるとか、夢を見てるとか、どうでもい。
「「俺だ」」
声を揃えて大声で笑う、俺は俺。簡単な話だ、俺は俺――何も悩む必要も、考える必要もない。俺は俺、それだけで良いのだ。
「このクソみたいな極東から逃げるか? 生贄とか、貴族支配とか俺うんざりなんだが?」
「リアルより酷いよな。でもよどうやって逃げるよ? 船か?」
アマテラスが主神を勤めるファミリア「朝廷」だが、アマテラスが主神といってもその実体はその配下の神々が好き勝手しているだけで、アマテラスに実際の権力はない。重い年貢に、暮らすところまで線引きされ管理されている極東は俺達にとってはリアルでの富裕層と貧民層と何の違いもない。
「俺達の恩恵は生きてる。どうする? 朝廷に突っ込んでスサノオを助けるか?」
俺達の主神スサノオは朝廷に反逆し、この極東のどこかに幽閉されている。それを助けるというのは1つの選択肢ではあるが……。
「俺の動きがどこまでいけるか分からん。それに建やんはレベル3に勝てるか? いや、技術で勝てても装備とか身体能力でどこまで食いつける?」
「装備で無理か……んーツクヨミに直談判するか?」
「それも無理だろ? あの人も監視されてるし、あーくそ、しくじったな。タケミカヅチについて逃げればよかった」
「それな」
つい先日生贄にされそうになっていた子供達と極東を逃げたタケミカヅチ。このクソみたいな極東の神の中でマトモな人格者であるタケミカヅチと逃げればと後悔するが、それも後の祭りだ。
「現実的に考えようぜ。俺達はレベルアップ出来ない」
「おう。経験値を得ても駄目だ」
俺達2人は恩恵こそあるがレベルアップ出来ない、ステイタスは上昇するがレベルアップは1回も出来ていない落ち零れコンビだ。まぁ、ステイタスは高いので自分よりも高位のレベルを叩きのめすことは出来ているが、やはりレベルの壁というのは無碍には出来ない。
「レベルアップは諦めて、技術の向上を徹底して、こっそり武器を作るか?」
「やっぱそれだよなー」
レベルアップは捨てて、俺達自身の技量の上昇と、ゲーム時代に得た技術を再現できるかどうか……。
「ん? 警報だ」
「なんだなんだ? モンスターの襲来か?」
これからどうするかと考えている時に鳴り響いた鐘の音に立ち上がり、朝廷の膝元の集落まで降りた所で俺達はまさかを見た。
「「なっ!?」」
朝廷に隠されていた数多の道具と女を抱えて轟音を立てて、朝廷の屋根の上から飛び降りてきた黒髪の男。米俵のように抱えられている女のほうはずっと前に極東から逃げたゴジョウノ・輝夜だったが、もう1人の姿に驚いた。
「もっと丁寧に運べ、カワサキ」
「お前があれも、これもと欲張るから見つかったんだ。我慢しろ」
顔は良いが、目つきが尋常じゃ無く悪い、そして筋骨隆々の成人男性を輝夜は間違いなくカワサキと呼んだ。俺達の仲間のギルメンだったカワサキと呼んだ。そして俺達もオフ会であった時と同じ姿だったのでカワサキだと確信した。
「これ以上の騒動はごめんだ、逃げるぞ」
「……すまん。だがガラクタ共が持つには過ぎた物だ。有益に利用出来る私達が持つべきだ」
「はいはい、分かった分かった。言い訳はアストレアにしな」
そう言ってスクロールを投げるカワサキ。その姿が光に包まれて消えるのを見た俺達は目を見開き、朝廷から出てくる兵隊を見て慌てて近くの空き家に飛び込んだ。
「……あれ帰還の巻物だよな?」
「……間違いねぇ。ユグドラシルのアイテムはこの世界でも作れる。だが大事なのはそこじゃねぇ、カワサキがいた」
「だよね! あれカワサキだよね! そっか、そっか……俺達以外にもギルメンがいるのかぁ……」
俺達以外のギルメンがいる。もう1度皆に会えるかもしれないというのは俺達の心に火をつけるのには十分だった。
「輝夜は確かオラリオに逃げたんだったけ?」
「おう。だからカワサキの拠点はオラリオにあるに違いない。なら」
「「行くしかねえよなッ!!」」
俺達もオラリオへ向かう、先ずはその為の準備と思い出した知識を完全に自分の物にする。落ちこぼれと馬鹿にされてる俺達だから何をしていても俺達に意識を向ける奴はいない。だから好き勝手に活動出来る、
「なら善は急げ、タケミカヅチが隠れ家にしてた場所を俺達の拠点にしようぜ!」
「OK-ッ! 急ごう」
朝廷の認識範囲ギリギリの集落、あそこまで行けば兵士の巡回も少ないから好き勝手出来る。そこでモンスターを討伐しながら経験値を溜めて、俺達の武器を作り修練を積むという話になり、俺達は巡回をしている兵士の目を盗んで、新たな目標の為に走り出すのだった……。
お菓子を食べている時に入ってきた団員が机の上においた辞表と書かれた便箋に私――女神アフロディーテは酷く混乱した。
「今までお世話……いや、してあげてたね。だけどそれも終わり。私は行くわ」
「待て、待って!? 嘘でしょ!? 改宗するのッ!? 待って止めてッ! タブ行かないでッ!」
歌劇の国メイルストラはその名の通り歌と劇という芸術が高く評価される国だ。私のファミリアの演出家――タブラの出した辞表が改宗届けだと分り、行かないでとしがみ付く。
「恩は感じてるけど駄目。私は私が何をするか思い出したの」
「昨日の隕石で頭おかしくなったの!?」
劇の途中にタブの頭に命中した拳大の隕石。それのせいで変なことを言ってると思った。タブは今メイルストラでNO.1の演出家で脚本家だ。タブの書いた脚本は高く売れるし、演出家として劇団の依頼を受けては、そのすべてを成功させている。成功請負人のタブラが出て行ってしまうのはとんでもない痛手だった。
「おかしい、そうね、私はおかしくなってしまったかも。思い出したの、思い出したんだ。忘れてたの、なんで忘れてたんだ」
「……タブ?」
男口調と女口調が交互に変わり、右手で顔を隠して泣き笑いをしてるタブの姿は異常だった。
「ねえ、この辞表は受け取るから治癒師のところに行かない?」
「嬉しいけど、それは駄目。私はあの人を探しに行かないと……愛してるの大好きなの、だからどこにいても見つけ出すの」
愛の女神だから分る。これは間違いなく愛だ。だがその愛は余りにも狂気的過ぎる……。
「分った。旅に出るのは許可するわ、でも見つけたらちゃんと連絡して、それとその人を連れて来る事、良いわね」
「勿論。年下になってても、お爺さんでも、なんなら同性でも連れてくるわ」
「……そう」
あの隕石なんだったんだろうか、いや、隕石と呼んでるけど魔力の塊みたいなあれは……本当になんだったんだろうか。
(まるで神の降臨のような……)
神の降臨のような現象と共におかしくなったタブについて思うことはあるが、メイルストラに留めておくことは出来ないと判断し、タブが旅に出ることを許可した。
「脚本は送るわ。じゃあね! 絶対あの人をパパにするから!」
意気揚々と旅に出たタブを嫌々見送り、タブが脚本を送ってくれるなら大丈夫かと思っていたのだが……。
「ええ……嘘でしょ」
タブが旅先から送ってきた脚本はドン引きするくらいのホラーで、これ本気でうちのファミリアで演じるのと恐怖し……。
「嘘でしょ……」
更にそのホラーが大当たりし、今までの倍以上の収益に私は絶句するのだった……。
魔法大国アルテナにある魔法を教える学校の教員棟ではとんでもない大騒動が起きていた。
「マイ! 考え直せ! 旅に出るだって!? 正気じゃないぞ!」
「そうよ! 最年少で魔法省に入閣が決まったのにッ!?」
「超出世ルートを蹴って旅に出るなんて何を考えてるんだ!?」
外から聞こえて来る考え直せという声も今の僕には聞こえなかった。何の目的もなく、親が望むがままにアルテナの魔法学校の教師になり、自分が担当した生徒は皆レベル3にいたり、その育成力を評価されたが……そんなのはどうでもいいんだ。
(僕は僕のやるべき事を思い出したからッ!)
ずっと胸の中で何かが欠けているのを感じていた。どうしても欲しいのに、どうしても必要なのに、それが何なのか分らない。でもそれが何か分らないから、ただ惰性で過ごして来た。教師として過ごす日々は楽しかったし、生徒に慕われるのも楽しかった。だけどそれでも物足りなさと、言葉に出来ない渇望を抱えて生きて来た。だけど僕はやっとそれが何かを理解したのだ。
「僕の邪魔をしないでよねッ!!」
扉を蹴り開けて、外で叫んでいた同僚達をふっとばし、逃げるように、いや実際に逃げるようにアルテナを出る。
「んー良い気持ちだね」
そもそもアルテナの魔法至上主義にはうんざりしていた。勉強して魔法を会得しただけの魔法使いと実戦で魔法を磨いた魔法使いでは力の差があって当然だと思う。それなのに実戦で学ばせようとしないのだからそりゃ実戦で学んでいるオラリオの魔法使いに勝てないのは当然だ。
「とりあえずユウを探そう。そう、ユウだよ。ユウ! もうなんで僕ユウの事を忘れてたのかな?」
幼馴染で許婚のユウ――。大事な大事な僕の愛しい人を見つけ出す……それ以上大事なことなんてない。だけど問題もある……。
「どこにいるんだろ? ユウはいるとしてどこに……?」
絶対にユウはこの世界にいるはずだ。でも何処にいるんだろうか? 何の手掛かりも無く再会する事が……。
「いや、手掛かりあるじゃん」
アルテナに来たエルフや少年達が美味しいご飯を振舞ってくれる人がいたって嬉しそうに話していたのを思い出した。
「そんなのするのユウしかいないじゃん」
腹を空かせてる奴を見るのは忍びないと身を切って炊き出しをしていたんだから、この世界でもそうしているに違いない。
「流しの料理人を探すかなー」
絶対ユウの事ならあちこち歩き回って1箇所に留まっていない筈だ。先ずは情報を集めて行こうと思い……。
「乗りまーす!!」
「はーい、急いでくださいねー」
乗り合いの馬車に乗りますと叫んで走り出すのだった。
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「そうだな、俺の幼馴染の教師はとりあえず殴れという奴だった」
「……教師なんですよね?」
「教師だ。だが殴れば何とかなるという脳筋でもあった」
「聞いてて思ったんじゃが、お主の仲間癖が強すぎんか? 幼い少年を女装させるやつとか、ゴキブリゴーレムを作る奴とか……」
「基本的にじーさんの所と同じ位の問題児しかいないからなあ。でもモモンガさんとかは割りとマトモだぞ、というかモモンガさんがいないと多分ギルドとして壊滅していた」
「ええ……なんでそんな問題児ばかり……」
「ははははッ! 確かに問題児ばかりだが皆良い奴だったよ」
カワサキはかつての仲間の事を楽しそうに語る。それは思い出であり、もう2度と会うことはないのだろうというどこか諦観さえ感じさせる物なのであった……。
下拵え ベル君 頑張る その5へ続く
武人タケミカヅチと弐式 極東スタート。タブラサン 原作アルベドソウルインストール、やまいこさん、アルテナに来た生徒の話からカワサキの存在を知り旅立ち。とギルメン達も少しずつ旅立って行きます。なお若返っているので15~21歳前後でベルより少し年上なギルメンズなのであしからず。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは
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間違っている
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間違っていない