ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか?   作:混沌の魔法使い

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下拵え ベル君 頑張る その5

下拵え ベル君 頑張る その5

 

カワサキの教えで認めたくは無いが、ベルは冒険者になる下地が出来始めていた。だが出来始めたというだけで冒険者としての才能があると言えば答えはNOだったはずだが……。

 

「ちっ、大人しく殴られればいい物を」

 

「福音パンチは死んでしまいます! アルフィア母さんッ!」

 

「大丈夫だ。アルフィアは手加減が上手い、死ぬほど痛いが死にはしないぞベル!」

 

「全然安心できませんよッ!? カワサキさん!」

 

ベルの冒険者になりたいという気持ちを圧し折るためにカワサキと組手の相手を交代した訳だが……組手を始めて1分手加減していることを差し引いてもクリーンヒットは1発も無かった。

 

「話しているとは余裕だな、ベル」

 

「ひいっ!?」

 

悲鳴をあげ、身を固めるベルに私の拳が当たりベルが吹っ飛ぶが、手応えが軽い。それ所か地面に叩きつけられる前に態勢を整えて足から着地するのを見て今の手応えの正体に気付いた。

 

「自分で飛ぶか、器用なことだ」

 

カワサキが良くやる防御術だ。相手の攻撃に合わせて自ら動き衝撃を大幅に軽減する。超近距離特化のカワサキがそれをやってくるといなされ、防がれ、痛烈な反撃を叩きこんでくる厄介な技術だ。

 

(とは言え、カワサキほどではないか)

 

カワサキは顔を捻る事で攻撃を受け流したり、肩や手の甲を使って防ぐか、ベルはそこまでは出来ないようなので再び動き出す前に地面を蹴って間合いを詰める。

 

「もう追いかけてきたッ!?」

 

「殴られた衝撃で逃げるというのは面白いアイデアだな、ベルよ」

 

カワサキが教えたのは生き残る術と身を守る術だ。驕るわけでは無いが、手加減しているとはいえLV9である私の攻撃を防ぎ、致命傷を防ぐのは正直驚いた。

 

「だがそれもそこまでだ」

 

踏み込み、拳を突き出すとベルは腕を十字にして私の拳を受け止めつつ、地面を蹴って後ろに跳んだ。

 

「っとと」

 

(ほう?)

 

だが今度の跳びは今までと距離が短く、転がり込むように着地するのではなく、しっかりと踵から着地して見せた。カワサキに視線を向けると小さく笑いながら指を1本立てた。それは残り時間が1分と言う合図であり、今の違和感を確かめる為にもう1度前に出た。

 

「……」

 

やっぱりと気付いた。さっきまでの怯え様と泣き叫んでいたのは演技ではない、紛れも無い本心からの動きだ。だがそれとは別にベルの目は私の手足をジッと観察していた。

 

(冷静を保っているな)

 

恐怖するのも、痛いのが嫌だというのも本音だろうが、それとは別に冷静にベルは私を見ていた、圧倒的格上である私を相手に少しでも長く生き残る為に頭をフル回転させていた。

 

「ッ!? つっうっ!?」

 

何も話しかけず、事前動作もなしに攻撃を繰り出したがベルは反応した。完全にではないが防御をして見せた、しかも……。

 

(距離が近い。何か狙ってるな)

 

私の攻撃の威力を利用しつつ、距離を取っているが動きが少し変っていた。まっすぐ後ろに跳ぶのではなく、身体を傾けて衝撃を逃がすように防いで見せた。

 

(面白い)

 

ベルは何かをしようとしているのを見て攻撃を続ける。本当に少し、本当に少しずつだがベルと私の距離が近づき……。

 

「ここッ!」

 

ベルが私の手首を掴み、引っ張ろうとする。それはカワサキが得意とする体崩しの技術、決まれば私とてバランスを崩すが……。

 

「甘い」

 

まだベルが私を無力化するには技術不足で完全に決まる前に私から動き、ベルの動きを断ち切る。

 

「え、うわッ!?」

 

そのまま腕力だけで持ち上げて投げ飛ばし……。尻餅をついているベルの頭に拳骨を落とす。

 

「いたあああいっ!! わ、割れる! 頭が割れるッ!!」

 

痛いと騒ぎまわってるベルを見て小さく溜息を吐き、カワサキに視線を向ける。

 

「お前何処までベルを仕上げるつもりだ?」

 

「んー? 自分の身を守れるくらい」

 

カワサキ基準の守れるだとオラリオだと第2級冒険者クラスだなと思いながら、ベルに掴まれた右手首に走る鈍い痛みを我慢しながら、自分で思う以上に能力を伸ばしていたベルをどうしようかと頭を悩ませた。

 

 

 

 

ベルが走りこみをしている間に俺はアルフィアの右手に視線を向ける。サッと隠すアルフィアに小さく溜息を吐き、右手を手に取る。

 

「つっ」

 

「我慢すんなよ。ベルはまだへたくそだからな、無理矢理技に持って行こうとしたんだろ」

 

合気道なのに力ずくで仕掛けてどうするとぼやきながらアルフィアの手首にポーションを掛ける。

 

「見慣れた流れだったんだがな」

 

「それ以上にベルがお前を見てたんだろうよ。まだ手首は痛むか?」

 

「いや、大丈夫だ」

 

拳を閉じたり、開いたりを繰り返すアルフィアは遠くに見える白い影に視線を向ける。

 

「冒険者の才能はないと思ったんだがな」

 

「その考えが駄目だと俺は思うぞ」

 

ゼウスのじーさんもマキシム達も才能はないから諦めろと繰り返し言っていたが、俺はそうじゃないと思う。

 

「どういうことだ?」

 

「てめえがやりたいって思った事と才能が=じゃないだろ? 大体その理屈で行くと俺は高いところでふんぞり返ってる嫌な野郎だ」

 

川崎家というのはリアルでも有数な富豪だ。それこそ政治家に命令できるくらいには大きな家だが、俺には支配者とかそういうのは向いていなかった。そもそも自分達の思いつきで人を苦しめるような連中と同類と思われるのが嫌だった。そういう教育を受けて、出来るだけの才覚があったが、俺はそれを受け入れられなかった。

 

「お前は神だろう?」

 

「俺達の世界の神は不変じゃないんでね、普通にガキで生まれて大人になって、爺になってくたばるんだよ」

 

「お前もか?」

 

「んーまぁその内死ぬだろうよ。100年か、1000年かは分らんが、案外生き続けるのも辛いかもな」

 

多分死ぬとは思うが、余りにも人間とは時間の流れが違うのでここは分らんが、多分死ぬのは間違いないとはヘラも言っていたが、寿命で死ぬのは多分かなり難しいとのことだ。

 

「……お前は……いや、良い。忘れろ」

 

「忘れるも何もないだろ?」

 

人間の姿をしていても、俺は人間ではない。精神は人間だとは思っているが、アリーゼ達の事を思えばそれもどこまで言えるか怪しい。

 

「まぁお前が死にたいというなら殺してやろう」

 

「もう死にたいって思ったら頼むわ」

 

「……お前らなに物騒な話をしてるんだ?」

 

マキシムがドン引きした表情で尋ねてくるが、俺はなんでもないように笑って。

 

「神だが完全に不変ではない、神もどきの終わりについて話してた」

 

「お前もう少し自分がどう思われてるか考えろよ? カワサキ」

 

「考えてこれだから始末に悪いだろ?」

 

笑ってるんじゃないと俺の頭を叩くマキシムだが、実際のところ何処まで俺が川崎雄二なのかはいつも考えている事だ。

 

「……なぁ、もしお前のファミリアの仲間が見つかったら嬉しいか?」

 

「あん? 何言ってるんだ。アルフィア」

 

「良いから答えろ、嬉しいか?」

 

珍しく目を開いてまで答えろというアルフィアに俺は頬をかきながら、ありえないと思いながら……。

 

「まぁ嬉しいわな。別にお前達といるのが退屈って訳じゃないが、見知った仲間がいるっていうのはやっぱり嬉しいもんだよ」

 

少なくとも生きる理由は見つけられそうだという言葉はグッと飲み込みながら、笑みを浮かべたが……マキシム達には見抜かれていたんだろう。

 

「さてと、ベルも戻って来た。ちょいと今回は新しい事を試してみるかね、ここで変に自信をつけられて困る。一度叩いておくか」

 

誤魔化すように膝を叩き、井戸水で冷やしておいたレモン水とタオルを持ち、俺は何かを言おうとしているマキシムとアルフィアに背を向けて、ベルの元へと向かった。

 

「アルフィア「うるさい、黙れ」……まだ何も言ってないんだがな」

 

「黙れと言ってる」

 

「あいつを繋ぐのは難しいぞ。あいつは他人に言うほど、自分の命は勘定に入れてない」

 

「うるさいと言ってるッ」

 

冒険者をしていれば、いやでも命の潰える瞬間を見てきた。だからこそアルフィア達は気付く、ゼウス達も気付く。子供達を助けても、オラリオが平和になるように尽力しようとも……他の世界からこの世界へ落ちてきた神であるカワサキは他人に死ぬな、生きろと言いつつも自分の生にはこれっぽっちも執着していないのだ。

 

「……そんな事は分ってる」

 

死ぬ筈だった自分達を生かした恩人は自分の生に欠片も興味を持っていない。10数年にわたる付き合いでそれをアルフィアは理解し、どうすればカワサキはもっと生きたいと思ってくれるのかと悩み、自分達ではカワサキの生きる理由にはならないことにアルフィアは肩を震わせるのだった……。

 

 

 

目の前を通過する緑色の肌に僕は身震いした。恐怖で身が竦み、カワサキさんに教わった動きが全然出来ていない。

 

「坊ちゃん。これは練習ですよ? これで怯えてどうしますか?」

 

流暢に話しかけてくるのは緑色の肌をした子鬼――ゴブリンだ。

 

「ベル! まずは勝てなくて良い、モンスターに慣れろ!」

 

カワサキさんが魔道具で召喚したゴブリンは流暢に喋り、僕がモンスターに慣れるための訓練の相手になってくれた。

 

「行きますよ」

 

一声かけてから振るわれる爪を手にした木のナイフで弾く、だけど想像以上の力に姿勢が崩される。

 

「相手は小さくとも貴方より力が上ということをお忘れなき用にッ!!」

 

「ぐっ!?」

 

前蹴りが叩き込まれて吹っ飛ばされる。なんとか足から着地は出来たが痛みに目の前が歪む。

 

(勢いを殺しきれなかったッ)

 

アルフィア母さんとの組手では出来た動きが出来ない。身体が強張って、どうしても反応が遅れる。

 

「このっ!」

 

「悪くない、悪くはないですが……馬鹿正直すぎる」

 

そう言ってゴブリンは握り拳を広げる。目の前に広がったのは砂の煙幕……砂が目に入るのを防ぐ為に目を閉じる。

 

「馬鹿! 目の前の敵から視線を逸らすなッ!」

 

「その通りですな。坊ちゃん」

 

「うっ!?」

 

アルフィア母さんと呆れたようなゴブリンの声と共に僕が手にしていたナイフは奪われ、そのナイフの切っ先が僕の喉に突きつけられていた。

 

「ま、参りました……」

 

木剣でもこの距離では避けられない、防げない。素直に負けを認めるとゴブリンは手にしていたナイフを回転させ、柄を僕に向けて差し出してきた。

 

「筋は大変よろしい。ですが如何せん経験不足ですね、あと素直すぎる。ではまた召喚される事をお待ちしております」

 

そう言って一礼したゴブリンは消え失せ、カワサキさんは僕の頭に手を当ててぐりぐりと投げまわした。

 

「まあ、最初はこんなもんだ」

 

「何にも出来ませんでした……」

 

本当に何も出来なかった。教えてもらった事の1割も出来なかった……。

 

「言っただろ? 最初はこんなもんだ。モンスターと対峙するって事がどんなもんかを身を持って知れたんだ。何も出来なくても、無意味じゃねぇ」

 

「そうでしょうか」

 

「そうだ。まぁベルがこれで心折れたら何の意味もなくなるけどな、負けたり、失敗するのは恥ずかしい事じゃない。それをどう生かすかだ」

 

「どう生かすか……そうですね、頑張りますッ!」

 

カワサキさんの言葉を反芻し、次にあのゴブリンと訓練した時にどうすれば良いかと色々と考えたのだが……。

 

「どうするベル。ゴブリン召喚してやろうか?」

 

「あ、い、いえ。まだ……まだ止めておきます」

 

頑張ろう、あれを試そうと考えれば考えるほどに足が止まり、お爺ちゃんやお婆ちゃんの才能が無いという言葉が脳裏を過ぎり、訓練を続ける事は出来たのだが、それを試すゴブリンとの戦いに踏み出す事が出来なくなってしまうのだった……。

 

 

 

下拵え ベル君 頑張る その6へ続く

 

 




アルフィアから重い矢印が向けられ始めるカワサキさんと、モンスターとの初めての戦いに心折れ掛けるベル君です。ゴブリン召喚は角笛よりもレアドの低い、使い捨ての召喚アイテムということで、次回は心折れかけてるベル君を見てのゼウス達を書いて行こうと思います。
それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは

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