ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか?   作:混沌の魔法使い

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下拵え ベル君 頑張る その6

下拵え ベル君 頑張る その6

 

ベルがゴブリンと戦ってから2日――その2日間ずっとベルは空回りをしていた。それに気付いていたが、俺はなにも言わず、ただただ見ていた。

 

「カワサキ。お前何を考えておる?」

 

食後の茶を飲んでる途中で切り出してきたゼウスのじーさん。その隣ではヘラも俺を見ていたので俺はマグカップを机の上に置いた。

 

「挫折もせずに進んでも駄目だろ? 1回くらい挫折は経験しておいたほうが良い。これで折れるならベルはそれまでって事だ」

 

ベルと戦わせたゴブリンはゴブリンソードマン。通常のゴブリンよりもずっと強いレベル10のゴブリンだ。冒険者で言えばレベル2クラスの相手だったので負けて当然だ。

 

「ベルを冒険者にしたいのでは?」

 

「別に冒険者にしたいわけじゃないぞ? ベルがやりたいっていうならそれが出来るように必要な事を教えただけだ。それに出来る、出来ないかじゃなくて男はやるかやらないかだろ?」

 

才能があろうが、なかろうが、やろうと思えば這い蹲っても、血反吐を吐いてもやる。ゴブリンと戦って心折れるくらいなら冒険者なんて目指さないほうが良い。

 

「お前は厳しいのか優しいのか分らんな」

 

「俺は優しくも厳しくも無いと思うぞ」

 

必要な事を教えて、必要な技量も叩き込んだ。それを活かすも殺すもベル次第だ。

 

「ただまぁ……1回ベルに実戦を叩き込んでおきたい。これで諦めるならそれも良い、それで奮起するならそれも良いと思ってるんだがどうだ?」

 

アルフィア達に話せば間違いなく待ったが掛かる。だから俺はあえてゼウスのじーさんとヘラに許可を求めた。

 

「ちなみに何をするつもりじゃ?」

 

「モンスターに変身して追い回す、後は簡易ダンジョンの中に叩き込む。死ぬ3歩手前くらいは追い込んでみようかと」

 

鬼かとゼウスのじーさんは叫ぶが、ヘラは考え込む素振りを見せる。

 

「ベルの心を折るつもりですか?」

 

「手加減はするし、ギリギリまで追詰めるつもりだ。甘やかしすぎても駄目だし、限りなく実戦に近い訓練で追詰めるのもありだろうよ」

 

「いいでしょう。お願いします」

 

「おい、良いのか?」

 

「ベルの訓練に関してはカワサキに任せてますから、それにカワサキならやりすぎる事も無いでしょうしね。それに可愛い子には旅をさせよと言いますしね」

 

「まぁ獅子は我が子を千尋の谷に落とすと言うし、任せるぞい。カワサキ」

 

「任された」

 

ゼウスのじーさんとヘラに許可を得て、俺なりにベルが冒険者に本当になれるのかを試験を始めたのだが……。

 

「やりすぎだ、このドアホウッ!!」

 

初日の試験の様子をアイテムで見ていたアルフィアに跳び膝蹴りを叩き込まれ、ザルド達にも……。

 

「やりすぎだろ!?」

 

「トラウマになるぞ?」

 

「お前に人の心はないのか?」

 

「ベルきゅんを泣かせるなぁッ!!」

 

と散々に詰られる事になり、思わず解せぬとぼやいたら更に叱られる事になった。

 

「ただモンスターに変身して、俺の幻を切り裂いて、ベルを川に蹴り落としただけなのに……」

 

「「「やりすぎだドアホッ!!!」」」

 

死なないように、そしてなおかつダンジョンの内部に落とす方法として最も安全かつ、ベルに程よく危機感を覚えて貰うために考えた俺の試験は大不評かつ大ブーイングなのだった……。

 

 

 

自分が歯を打ち鳴らす音だけが洞窟の中に響く、寒くて、暗くて、痛くて、悲しくて、苦しくて涙が零れる。

 

「ううう……」

 

どうしてこんなことにと思い返す、普段と同じカワサキさんと山の中でランニングをしていただけなのにどうしてと答えの出ない問答を繰り返す。

 

 

「ベル。お前分かってるよな?」

 

「……何をでしょう?」

 

「訓練に身が入ってないの」

 

ジトっとした目で見られ、思わず背筋を伸ばす。ジッと見つめてくるカワサキさんから思わず視線を逸らす。

 

「身が入ってない状態で訓練しても怪我をするだけだぞ」

 

「……怒らないんですか?」

 

「怒る理由がないからな。最初は誰だって失敗するし、挫折もする。その失敗をバネにして頑張るか、不貞腐れるかはベル次第で俺が言うことじゃねぇ」

 

僕次第だというカワサキさんは肩を竦めて、僕の頭をぐりぐりと撫で回した。

 

「失敗や挫折を知らない人間は強くなれない。肉体的にも精神的にもな、それで折れたら折れたで冒険者を諦めて「それは嫌ですッ!」……ふーん」

 

冒険者を諦めるのは嫌だった。僕は、僕は……。

 

「僕は、僕にはやりたい事があります」

 

「ならそれで良いんじゃねえの? 頑張ってどうすれば良いか考えればいい、俺はなにも強制しない。俺が教えてやるのはベルが冒険者になる為に必要な事と生き残る術、それと料理だけだ。それをどう使うかは……「ギャオオオンッ!!!」……モンスターッ」

 

「え、あ……うぐうッ!?」

 

 

カワサキさんと話をしている時に襲ってきたモンスターの攻撃で僕は川に落ちて、カワサキさんは山の斜面を転がり落ちて行った。

 

「カワサキ……さん」

 

カワサキさんは大丈夫だろうか? モンスターに襲われていないだろうか? アルフィア母さんやザルドおじさんは僕とカワサキさんを探

してくれてるだろうか? 助けに……助けに来て……。

 

「……」

 

助けを待てば良いのか? 多分アルフィア母さん達は僕達を探してくれているだろう……。

 

厳しいけど優しい人達だ。きっと助けてくれる……助けてくれて……。

 

きっとこういうのだ。やはり冒険者には向いていないと……。

 

「……違う」

 

僕は決めたんだ。確かに僕に冒険者としての才能はないかもしれない……。

 

……アルフィア母さん達を傷つけた黒龍を何とかしたいと思ったのも思い上がりかもしれない……。

 

「出来る……出来ないじゃない」

 

カワサキさんは言っていたじゃないか、男なら出来る、出来ないじゃない……。

 

「やるか。やらないかだッ」

 

自分でやると決めた。ならやるしかないと、ここまで考えた所で僕は大きくくしゃみをした。

 

「……このままじゃ駄目だ」

 

濡れた服を着ていたら体が冷える。体が冷えたまま眠れば病気などの原因になる……。

 

「まずは、そう火を起こすんだ」

 

隠れていた洞窟からそっと顔を出し、モンスターが周囲にいないのを確認してから近くの茂みから乾いている枝と落ち葉を集めて洞窟の中へ戻る。

 

「まずは……」

 

着ていた服の襟に通っていた紐を抜いて、拾ってきた弧を描いている枝に結ぶ。

 

「出来た。あとはこれを……ちゃんとベルトに縛っておいて良かった」

 

訓練で使う小さなナイフは鞘に収めてベルトに紐で結んでおいたので川に流される事無くあった。その事に安堵し少し太めの枝の皮を剥いて、切込みを作る。

 

「これでいいはず……」

 

弓きり式という火の起こし方。上手く行くか判らないが……まず火を起こす、全てはここからだと気合を入れ、僕は一生懸命に火をつける作業を始めるのだった……。

 

 

 

カワサキが設置した魔道具でベルの様子を見ていたのですが、私は少し考えを改めることになった。

 

『つ、ついたーッ!!!』

 

自分で作った道具で火がついたことに泣きながら喜び、濡れた服を乾かすベル。

 

『……服を乾かしたら少し危ないけど、外に出ないと……荷物を見つければ出来る事は増える』

 

弱気で泣き虫だったベルだが、今は自分で考えてどうすれば良いか、そしてカワサキに教わった事を思い出しながら行動していた。

 

「私達はベルの可能性を潰していたかもしれない」

 

可愛い可愛い私とあの人の孫のベル。大事に大事にして来たが、それがベルの可能性を潰していたのかもしれない、現にアルフィア達は見ていられないと言って私達の家を出て行き、ダンジョンを作るアイテムの中に入ったカワサキが再び出てくるのを待つと言った。

 

「どうしたヘラよ」

 

「……ベルは頑張っているなと」

 

「確かにな、強い子だ」

 

「ええ。とても強い子です」

 

カワサキの作ったダンジョンの中なので安全ではある。安全ではあるが、試験に合格するまでは出る事が出来ないアイテムの中でベルは忙しく、そして考えながら自分で動き始めている。

 

『出来る、出来る。カワサキさんが教えてくれたことだ、僕にも出来る』

 

「自分に言い聞かせているようじゃな」

 

「でもそれでベルは動けていますよ」

 

カワサキに教わったことを口に出して確認し、行動に出ている。それで火を起こし、服を乾かし、木の蔦を編んでロープを作っている。

 

「優しく守るだけが良い事ではないということですね」

 

「うむ。ワシもそう思う」

 

ベルの試験とカワサキは言っていたが、間違いなくこの試験には間違いなくもう1つの意味がある。

 

「そんなに心配しなくても良いって事を教えようとしているのですね」

 

「間違いなくな」

 

ベルの試験であると同時に、ベルに過保護になりがちな私達の認識を変える為の試験なのだろう。

 

「カワサキがいてくれて良かったと思います」

 

「ワシ達だけでは気付けなかったことかもしれんな……」

 

「ええ、本当にそう思います」

 

ダイダロス通りの子供達の面倒を見て、そしてダイダロス通りの子供達を独り立ちさせた。ベルよりも幼く、身体の状態も優れない子供達は自分の身を自分で守れるようにまでなっている。それならベルが出来ない道理はない、ベルが本気で冒険者を目指すなら、ベルにやり遂げるという意志があるのならば、ベルは間違いなく冒険者になれる。

 

「黙ってみていることもまた優しさなのですね」

 

「カワサキは良い教師のようじゃな」

 

私とあの人が見ている中で魔道具に映るベルは回収してきた荷物から鍋を取り出し。

 

『えっと煮沸しないとお腹を壊すかもしれないんだよね。まずは水を沸かして……あッ! 保存食! えっとあったあったドライフルーツッ! んー甘くておいしー』

 

水を沸かして消毒する準備をしながらドライフルーツで腹を満たす。ベルの姿はたくましさに溢れていて、ベルは私達が思う以上に大きく、そして強く成長していたのだと驚かされるのだった……。

 

 

下拵え ベル君 頑張る その7へ続く

 

 




5までの予定でしたが、大分話が書けたのでもう少し頑張る編を続行です。今回のベル君はハガレン初期のエドとアルの修行編みたいな感じで定期的に襲撃してくるカワサキさん(アイテムで変装)と戦いつつサバイバルするみたいな感じで書いてみようと思います。
それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

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