ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか?   作:混沌の魔法使い

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下拵え ベル君 頑張る その8

下拵え ベル君 頑張る その8

 

ベルには少し過酷な訓練だとは思ったが、今回の事でベルは一皮剥けたと思う。冒険者としての心構え……何かを殺す事についての覚悟を学んだ。それで折れるならそれも良いと思ったが、ベルはそれでも冒険者になりたいと覚悟を示した。なら俺はベルの覚悟と思いを尊重しようと思った。そしてその事でアルフィア達が怒るのも織り込み済みだったのだが……。

 

「前から思っていたんだが、お前はそんなに昔の仲間に会いたいのか?」

 

「ベルの話じゃないのか?」

 

「それもあるが今はお前の話だ」

 

「なんでだよ。俺の事は関係ないだろ?」

 

「ある」

 

即答かよ。アルフィアは普段閉じている目を開いて俺を睨んでいる。ベルの事で怒られるのなら分かるが、なんで俺が怒られるのか理解出来なかった。

 

「今理解出来ないと思いましたね? アルフィア。カワサキは反省してないですよ」

 

「貴様……ッ」

 

「なんでだよ」

 

なんでヘラまで協力してアルフィアをヒートアップさせるんだよ。別に反省する理由はないと思うんだが……。

 

「カワサキ。お前は私達のことは仲間と思っていないのか?」

 

「友人だと思ってる。ここが戻る場所だとも思ってる」

 

それに嘘はない。友人だと思っているし、この村は俺の戻る場所だと思っている。だが……帰る場所ではないとも思っている。

 

「帰る場所ではないのかの? カワサキ」

 

ゼウスのじーさんに突っ込まれ、俺は肩を落として溜息を吐いた。

 

「俺は後悔しない生き方をするのが信条だ。自分がやりたいようにやって来たし、これからもやっていくつもりだ」

 

俺は俺らしく。自分という存在が揺らいでいるからこそそう思う。だから……。

 

「俺は俺を知ってる奴らに俺じゃない俺は見て欲しくないんだよ。だから帰る場所はどこにもないし、帰る場所を作るつもりもない」

 

完全に川崎雄二が消え、料理の事しか考えられないカワサキになった俺を、俺は見られたくない。それはもう俺じゃないからだ。そんな俺を見て欲しくはないし、見られたくもない。

 

「ゼウスのじーさん、ヘラ。アルフィア達に話しても良いぞ。その方がアルフィア達も納得できるだろうしな。俺は少し……気分転換をしてくる」

 

「ま、待て、お前、お前はッ」

 

「んじゃな。心配しなくても戻っては来る」

 

待てと叫ぶアルフィアの手を避け、アイテムボックスからバイクを引っ張り出す。こういうときは何も考えずに走り回るのが1番良い。それが無駄なもやもやとした考えを吹っ飛ばすのに丁度良いからだ。

 

「……ふー」

 

誰もいない丘の上で煙草を咥え、紫煙を吐き出す。俺は俺のやりたいようにやる、そして後悔しないようにも生きている。だがそれは……。

 

「我思う、故に我あり。なら我を疑っちまってる俺はどうすれば良いんだろうな」

 

俺は俺だと胸を張って言えれば良いが残念な事に今の俺はそれがあやふやだ。ゼウスのじーさんが用意してくれた本で自分の過去を見ていると、確かに自分が安定しているように思えるが……。

 

「演じてるとも言えんしなぁ」

 

カワサキが川崎雄二を演じてるんじゃ笑い話にもならねぇ。男は地に足がついてりゃ良いが、その足がないんじゃ本当に笑い話にもならねえ。

 

「……ふうー……」

 

アルフィアや、ゼウスのじーさん達の事は嫌いじゃない、仲間とも友人とも思っている。だがアルフィア達はクックマンになった俺しか知らない、川崎雄二を知らない。俺が知りたい川崎雄二を知らないのでは、俺が俺であると胸を張っていうのは難しい。カワサキを知っていても、川崎雄二を知らないのでは意味がないということだ。

 

「ふうー……ったく苦いね、本当に」

 

煙草を咥えたまま寝転がり、満天の星空に手を伸ばし……。

 

「太陽だろうが、星だろうが、月だろうが……届かない者を欲したら人間お終いだな。まァ俺は人間じゃないが」

 

自嘲気味に笑い、俺は届かない星をゆっくりと握るが……当たり前だが握りこんだ星は俺の手の中にはないのだった……。

 

 

 

 

ゼウスとヘラから聞かされた話に俺は目を見開いた。カワサキがあちこち旅しているのは知っていた、珍しい調味料や食材、料理を見かけてついつい長居したと言って予定より遅く帰って来る事はあった。いやそもそもカワサキは放浪癖があったのでまたかくらいに思っていた。

 

「んだよ、そりゃあ」

 

「嘘だろ? なぁじっさま。嘘だろ?」

 

「……事実だ。カワサキは人間の身体を失って壊れつつある。何時壊れるかは分らんが、100年なのか、10年なのか、1年なのか、それとも明日なのか……いつかは分からんが、カワサキは確実に壊れる」

 

「カワサキの世界の神は神の姿と人間の姿を持つ。カワサキは人の姿を、文字通りの半身を失ってしまったのです。戻るべき肉体を1つ失った事の影響はとてつもなく大きい」

 

カワサキが別の世界の神であるという事は聞いていた。だから神と人の姿の2つを持つなんて聞いてなかった。しかも人の肉体を失っているなんて考えてもいなかった。

 

「それはどうにかならないのか?」

 

「難しいの、カワサキからは1年と半年前から話を聞き、対策を考えたがワシらとは根底から違う存在じゃ」

 

「子供騙しにしかならないのが現状ですね」

 

ゼウスとヘラの2人でもどうしようもならない。現状唯一の方法が……。

 

「カワサキ同様にこの世界に落ちてきているかもしれない、カワサキの世界の神を見つけること……か?」

 

「アルフィア。神だけではありません、カワサキが自分の世界を思い出せるものでも構わないのです。ただそれすらも難しいですが……1番の理想はカワサキの人間の身体もこの世界に落ち来ていることですが……その可能性は限りなくゼロに等しいでしょうね」

 

カワサキ自身がイレギュラーで、カワサキの世界の物など落ちて来ていないかもしれない。それでも一縷の望みを抱いて探す……それがどれほどつらい物か考えるだけで胸が痛くなる。

 

「余り触れてやるな、カワサキもカワサキで考えている。ワシらに出来るのは普段通りにしてやることだけじゃよ」

 

ゼウスの言葉にアルフィアは何も返事をせずに家を出て行った。それを追おうとしたがゼウスに止められた。

 

「あの娘も複雑なんじゃろう。好きにさせてやれ、勢い任せで襲うなり、あしらわれるなりな」

 

「趣味が悪いぞ?」

 

「それが必要かもしれんからの。のうヘラや?」

 

「まぁアルフィアの恋路は応援したいとは思いますけどね、炊きつけたのはどうかと」

 

「振り切れば襲っておったさ、あれに人並みの恋路などできんからな。明日の朝に昨日はお楽しみだったと聞いてやるのが楽しみだッ!」

 

本当に趣味が悪いと呟きはしたが、アルフィアの奴にはカワサキのような包容力のある男が良いかもしれないと思ったのだが……。

 

「おう。クソ爺。今から火あぶりにしてやるからよ。覚悟しろ」

 

「もがーもがもがあッ!!」

 

翌朝ガチ切れしたカワサキがゼウスを豚のように吊るしてる姿に俺は絶句した。

 

「か、カワサキ。な、何が?」

 

「アルフィアの奴がな。足を切れば遠くに行けなくなるか、それとも私が孕めばお前は遠くに行かないか?とか言って夜中に目をガン開きにして俺の家に来たんだが、何か知ってるか?」

 

「……なにやってるんだ。あいつは?」

 

「アルフィアは今ヘラとメーテリアに説教されてる」

 

「本当に何をやってるんだ?」

 

明後日の方向に駆けて行ってしまったアルフィアに俺は頭痛を覚え、思わず天を仰いだ。

 

なおアルフィアだが、この日からメーテリアかヘラの同行の下カワサキとの話し合いの時間が設けられた。

 

「男は女を抱きたいものではないのか?」

 

「アウト。もっと自分を大事にしろ」

 

「じゃあ私がお前を抱く」

 

「2アウトだよ。馬鹿野郎」

 

「?」

 

「なんで不思議そうな顔が出来るんだよ。なぁヘラ、お前も子育て間違ってないか?」

 

「申し開きもない」

 

双子の妹が全てだったアルフィアの情緒はそれはそれは酷い物で、カワサキもヘラも頭を抱えた。まともな恋愛感はないのに独占欲、執着心だけが尋常じゃ無く強いアルフィアが暴走生娘と言われるのは時間の問題であり……。

 

「お前マジで本当にやめろってッ!」

 

「止めると思うか?」

 

「ドヤ顔で人に馬乗りになるんじゃねえッ!」

 

カワサキの怒号がしょっちゅう響くことになり、藪を突いて蛇ではなく鬼を出してしまったのだった……。

 

 

 

お姉様が可愛い人を気にしているのは知っていましたが、いきなり襲い掛かるのは想定外でした。可愛い人がお姉様を避けているので、妹としてお姉様のフォローをしようと思い可愛い人を招いてお茶会をすることにしました。

 

「お姉様は悪い人ではないのです」

 

「それは知ってる」

 

お姉様は少々口が悪く、乱暴な面もありますが決して悪い人ではないのです。ただ……。

 

「お姉様は人付き合いがヘタなのです」

 

「それも知ってる」

 

お姉様は基本的に人嫌いであり、騒がしいのを嫌います。ですので少々人との触れ合いが苦手なのです。

 

「べーるーっ!!!」

 

「いやああああああッ!!」

 

「待て! 逃がすかッ!!」

 

家の外から響いて来るお姉様の怒号とベルの悲鳴に可愛い人と顔を見合わせる。

 

「アルフィアは心配性なんだろうか?」

 

「ベルを冒険者にするのは私も反対ですよ?」

 

ですのでベルに冒険者として鍛えた可愛い人にジト目を向けると可愛い人は両手を上げた。

 

「憧れは止まらないんだよ」

 

「だとしても止めて欲しかったですし、その理屈だと可愛い人に憧れているお姉様も止められないのでは?」

 

恋焦がれる事も憧れではと切り返すと可愛い人は誤魔化すようにお茶を口にした。

 

「言っておくが俺は人の姿をしているが俺は人間じゃないぞ?」

 

「ええ、でも、それは愛の前では些細な事ですよ」

 

私はアルトを愛した。子を産めば死ぬかもしれないと思っても愛の結晶を残したかった。今はもう子供を望めない身体だからこそ、余計にベルを産めて良かったと思える。

 

「それは分らんでもないが、自分で言うのもなんだが、俺は結婚とかには向かないし、それに俺も結構歳だし」

 

「結婚が向いてないとか余りにもひどい言い訳ではないですか? それに歳を理由にしていますけど今何歳なんですか?」

 

「多分……60手前か60過ぎてるかも?」

 

「え?」

 

「いや、多分それくらいのはず」

 

可愛い人が60台……ちょっと思っていたよりも上でしたが……。

 

「でもそれくらいなら落ち着いてきていると思うので、お姉様を娶るのはどうでしょう?」

 

「なんでお前そんなに押してくるんだ? メーテリア」

 

「お姉様にも可愛い人にも幸せになって欲しいからですね」

 

「止めとけ、止めとけ、本当俺、禄でもない奴だから」

 

「可愛い人が禄でもないならこの世の人間の8割は生きてる価値もない屑か塵では?」

 

「お前偶にとんでもない爆弾発言するな?」

 

呆れた様子の可愛い人ですが、私は別におかしい事は言ってないと思うのですが……まぁともかくだ。

 

「お姉様とお出かけしてはどうでしょうか? お姉様もちょっと事を急ぎすぎたと思ってるようですし?」

 

「……ベルも連れてピクニックにでも行くか?」

 

「良いですね、行きましょう。アルトも誘いますね」

 

「もう好きにしてくれ」

 

「はい、好きにします!」

 

お姉様が可愛い人が好きだというのならばそれを応援するのが妹という物、それに可愛い人にも幸せになって欲しいと願ってる。

 

(貴方は貴方が思っているほど悪人ではないですよ。カワサキさん)

 

この人の内面はとても複雑に入り組んでいる。人に言うほど薄情ではないし、冷酷という訳ではない、だけど決して善人ではない。でも人を助ける為に全力を尽くす。何か、きっとカワサキさんには自分で自分を許せない何かがあったのだと思う、その戒めか自分への失望か……それは私には分からないけれど、それでも私はきっと胸を張って言える。

 

「可愛い人はとても良い人です」

 

「見る目がないぞ」

 

「いえいえ、私人を見る目はあるほうですよ」

 

諦めたい、だけどそれでもまだ諦められない。どうかこの苦しみもがいている誰よりも優しい人に救いがありますように……私は心の中でそっと祈るのだった……。

 

 

下拵え ベル君 頑張る その9へ続く

 

 




暴走気味アルフィア、くっ付けようとするメーテリアとカワサキさん包囲網その1が形成されました。多分この包囲網はそのうちもっと増えて行くと思います。ベル君頑張るはあと2か3話、本編開始まで大分長くなりましたが、後3話までに原作開始前は終わりにするので本編開始を楽しみにしていてください。

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