ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか? 作:混沌の魔法使い
下拵え ベル君 頑張る その10
カワサキがオラリオを出てから7年。偶にダイダロス通りで会う事はあったが、カワサキが私を名指しで尋ねて来たのは初めての事だった。
「悪いなフェルズ。急に訪ねてきて、忙しかったか?」
「いや、そんなに忙しい訳ではない。それで用件は何だ?」
紅茶の用意をしながら用件は何かと尋ねる。するとカワサキは意外な事を聞いて来た。
「次の新しい冒険者の集団面接は何時だ?」
ロイマンと異なり、オラリオに着たばかりの冒険者はギルドで面接後に斡旋したファミリアに体験入団、本入団という流れを取っている。
ギルドとギルドナイトで取り締まっているが悪辣な方法でルーキーを取り込もうとするファミリアは少なくない。脅迫や借金で無理矢理ファミリアに入れられ、重傷を負ったら捨てられ、ダイダロス通りの悪人に取り込まれ、鉄砲役にされるという例は少なくなく、それを防ぐ為の措置だ。
「次は1ヵ月後だな。それがどうかしたのか?」
「あ、いやな。俺が7年ほど面倒を見ている奴を今度オラリオに連れてくるつもりなんだが……揉めるだろ? 一応公にはしないつもりだが、多分その内バレる」
「確かにな」
カワサキが面倒を見ていたというのは間違いなく神の興味を引く。今だってペニアファミリアの子供達に改宗しないかと誘うファミリアは少なくない。改宗にいたってはファミリアと主神同士だけではなく、ギルドの介入も制度化しているので金儲けなどを目的にしているであろうファミリアへの改宗は今のところはない。ダイダロスファミリアの子供達が改宗したのは今はデメテルファミリアとミアハファミリアの2つだけだ。
「となると自分で見学して、ファミリアを探すという方法になるが……あまりお薦めは出来ないな」
「だよなあ……とはいえ、あのアホが面接担当にいる時に連れてきたくないんだよな。ヘタをするとアルフィア達が乗り込んでくる」
静寂達が乗り込んでくると聞かされ、脳裏にある意味最悪の予想が過ぎる。
「その子供はゼウスファミリアとヘラファミリアの間の夫婦の子供か?」
「おう。アルトとメーテリアの子供だ」
ゼウスと問題ばかり起こしていたアルト・クラネル。そしてヘラが大層大事にしていたアルフィアの双子の妹のメーテリアの子供と聞いて頭痛を覚えた。
「分った。信用出来るファミリアをいくつか見繕っておく」
カワサキが面倒を見ていた子供となればカワサキと繋がりの欲しいファミリアが血眼になって探す。それを防ぐ為にも信用出来るファミリアを見学あるいは体験入団先として斡旋することを約束する。
「悪いな。この借りはちゃんと返す」
「別に気にしなくていいぞ? それを言うなら私の方がよっぽど借りがある」
私だけではなく、オラリオ全体がカワサキに大きな借りがあるので気にしなくて良いと言うがカワサキはそれはそれ、これはこれときっぱりと告げた。
「俺もオラリオに戻るつもりだ。面倒と迷惑をかける分差し入れを持ってくる」
じゃあよろしく頼むと言って帰っていくカワサキを呆然と見送り……。
「そうか。そうかッ」
7年も経ったがやっとカワサキが戻ってくると聞いて、私は小さくガッツポーズを取りギルドの窓からポケットに片手を入れて歩くカワサキの背中を見つめる。
「おっと信用出来るファミリアを見繕わないとな、それにファミリア申請を出している神もな」
こうやって尋ねて来たということは今オラリオにあるファミリアではカワサキの御眼鏡に叶わない可能性が高い、勿論デメテルファミリアやミアハファミリアはオラリオでも人気だが……それを言えばカワサキの伝で入団させれる筈だから有名所ではなく、人格面で優れている主神を重視しているかもしれない……とそこまで考えた所で気付いた。
「いや、待てよ? どっちだ?」
カワサキが連れてくる子供が生産系か探索系希望なのか聞いてなかったのを思い出しはしたが、カワサキの事だから恐らくファミリアの規模は気にしない、信用出来る主神や、頼れる先輩冒険者など人格面を重視するのは間違いないが、探索系か生産系かここが定かではないと候補を上げるのも難しい。だがカワサキに頼られたのだからと気合をいれ、ギルド長の職務の間に私はまず人格面に優れた神から調べ始めるのだった。
外からワイワイと聞こえて来る子供達の声を聞きながらカワサキが土産として持ってきたせんべいを齧る。
「あんたはいつも急だね、しかも行き当たりばったりだ」
「自覚はある」
「自覚があるなら何とかしようとおもいなッ!」
思わず声を荒げるが、本当にカワサキは考えているようで何も考えていない。それが何を齎すかと深く考えないのが欠点だ。
「それであんたが面倒を見ていた子供を少しこっちで預かれと」
「主神が見つかるまでで良い、あと料理は仕込んでるから弁当作りとかを手伝わせて小遣いをやってくれると嬉しい」
カワサキは自分で働き、それでオラリオで暮らす基盤を作らせようとしているようだ。
「それはあの子らが決めることだろうよ、足手纏いなら手伝わせないだろうしね」
「まぁそれはそれでしょうがないだろ」
7年もあればあの時の子供達も10代後半になり、ダイダロス通りに弁当屋を作ったり、自分達がカワサキにやって貰ったように孤児や、ダンジョンに潜っている間子供の面倒を見れない冒険者やギルド職員から子供を預かり面倒を見ている。労働を行い、適切な糧を得る。あたしの教えを忠実に守って頑張ってる。だけどそれは楽に金儲けできると集ってくる屑を集めることにも繋がっている。
「オラリオは良くならんなあ」
「良いも悪いも溢れている街だからね。それでも大分マシにはなったけど」
カワサキのおかげで大分良くなったが、それでもまだまだ。
「それでその子は生産系「探索希望だ。大分鍛えたから手加減してるザルドと組手してるぞ」……とんでもない化けもんを育ててるんじゃないよ!! レベル9と組手なんて正気かい!?」
「いや、ザルドは今レベル10だ」
「余計化けもんじゃないかッ!!」
恩恵なしで手加減しているとはレベル10の暴喰と組手が出来る化物を短期間でも預かるなんて冗談じゃないと思ったんだけど……。
「ベル・クラネルです! 先生に言われてきました。よろしくお願いします」
とても暴喰と組手が出来ると思えない、線の細い穏やかな少年に驚かされ……。
「トンカツ出来ましたよー!」
「良し、良いぞベル。どんどん揚げてくれ」
「はーい」
気難しいあの子達にも馴染み……。
「ペニア様。ありがとうございます! 僕神様を見つけたのでお世話になりました」
1週間後に主神を見つけダイダロス通りを出て行き……。
「ちょっと寂しくなりますね、お婆ちゃん」
「まぁヴァリスを稼ぐ当てもないだろうし、手伝いに来るさ」
探索系じゃなくて生産系のほうがずっと向いてると思ったのだが……。
「は? レベル2? 最速レコード?」
そして1ヶ月半後レベル2になったと聞かされ……。
「ペニアお婆ちゃん! リリはベルのいるファミリアに改宗する事にしました」
「「「え!?」」」
ベルみたいなおのぼりさんが心配だからと先輩として、サポーターで手伝うと言っていたリリがベルのいるファミリアに改宗すると言い出し……。
「リリぃいいいッ! 改宗なんていやだぁ!」
「ソーマ様! リリは、リリはベル様の所へいくんです!」
「やだああ!!」
「うちで喧嘩するな馬鹿ッ!!」
リリに改宗しないでと泣き叫ぶソーマにベルをベル様と呼び出すリリ……カワサキにベルを預けられてから色々と振り回されることになるなんてあたしは考えもしないのだった……。
キッチンでカワサキさんに教えられたことを思い出しながらフライパンを動かす手を止める。
「パンを焼いて……えっとバターを塗って」
軽く焼いたパンにバターを塗ってからキャベツの千切りを乗せて、からしマヨネーズを回し掛ける。
「よいしょっと」
キャベツの上に照り焼きにした鶏腿肉を乗せてサンドイッチにする。少し体重を乗せて挟んだので崩れないのを確認してから包丁で半分に切る。
「出来ました!」
「……9分47秒。調理時間はOK、後は味だな」
オラリオで冒険者をやるための試験は合格した。だけど次の試験――カワサキさんの出す課題の料理を制限時間内で作るのは中々合格が貰えていなかった。
「パンにバターを塗る。キャベツを茹でて水を切る……良し、OK」
「ありがとうございます!「ただ少し味が薄いな、サンドイッチにするなら少し濃い目が良い」……う、はい」
でも良く出来てると言いながらサンドイッチを食べ終えたカワサキさんは手を布巾で拭いた。
「煮込み、汁物、揚げ物、どれも人に出せるレベルだな。これならあの子達の手伝いをしても邪魔にはならないだろう」
オラリオに行った後はダイダロス通り――カワサキさんが面倒を見ていた人達がいる所で料理の手伝いをしながら所属するファミリアを探す手筈になっている。だからまずはペニアファミリアの人達の邪魔になってはいけないのが大前提だ。
「そうだな、次で最後にするか。黄金炒飯を完璧に仕上げてくれ」
「ッ……分りました!」
頑張りますと返事をし、キッチンに駆け足で戻りはしたけど……。
「黄金炒飯かぁ……」
卵だけの炒飯。しかもお米に全部卵がコーティングされてないと駄目……。
「とにかく今は出来る方法で」
ネギを細かくお米より小さくなるように微塵切りにして、卵をボウルに割り入れて少量の極東酒を混ぜて良く解き解し、そこにご飯を入れてよくかき混ぜる。
「塊が無くなるまでっと」
ご飯の塊が無くなるまでしっかりと混ぜたら準備は出来た。
「……すーはー……」
フライパンに油を入れて加熱しながらフライパンを回してよく馴染ませながら深呼吸して集中力を高める。
(良し。勝負ッ)
卵と良く混ぜたご飯をフライパンの中に入れ、しゃもじで切るように手早くかき混ぜる。炒飯はパラパラにしないと駄目で、黄金炒飯は具材もほぼなしだからパラパラ感が大事。
「塩、胡椒で味を調えて」
ご飯がパラパラになってきたら塩胡椒で味を調えて、微塵切りにしたネギを加えてさっと混ぜたらフライパンの縁に醤油を入れて風味付け。
「出来ました!」
「どれどれ」
カワサキさんが僕の作った黄金炒飯をジッと見つめ、スプーンで炒飯を崩す。
「良い具合に混ざってるし、卵もしっかりと米に絡んでる。酒と醤油で香り付けもいいし、ネギもしっかりと米より小さくなるように微塵切りにしてる。うん、OKだ」
「OKですか!?」
「おう。これならあいつらの邪魔にもならんだろうし、それに冒険者が駄目でも料理人としても働けるだろうよ」
からからと笑いながら僕に逃げ道も用意してくれたカワサキさんは僕の目をジッと見つめた。
「冒険者として頑張るにしても、料理人になるとしても、一人前になるっていうのは楽じゃねぇ、だから必死に頑張れ。俺もある程度は手伝ってやるからよ」
「は、はい! 頑張ります!!」
僕の夢の第1歩――そして大事な家族の為の第1歩を進む許可を貰った事にガッツポーズをしたけど……。
「卵かけご飯にしたのはまぁしょうがないとして、その内卵を炒めて作れるようにな?」
「う……はい」
簡単な方の作り方でも今はいいがと釘を刺されて、小さく呻くのでした。
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「ベル。手紙を忘れないでね、あと怪我とか病気とかに気をつけて、冒険者として大成なんかしなくていいから無理だけはしないでね」
「うん、うん。分ってるよ、お母さん。無理も無茶もしない、約束する」
「オラリオには変態か屑しかいない、善人なんて希少なくらいだ。だから信用するな、良いな?」
「それは言い過ぎだと思うけど分ったよ、アルフィア母さん」
「無理はするな、困ったらカワサキを頼れ。良いな」
心配してくれてるお母さんとアルフィア母さんに順番に抱きしめられ、僕も抱きしめ返し。
「無理するなよ。メーテリアが心配する」
「うん、お父さんもお爺ちゃんとあんまり覗きとかしないでね?」
「ぐう……ッ! 分ってる」
「てめえの子供に何を心配されてるんだ馬鹿野郎。ベル、今のお前ならそれなりにやれるだろ。頑張って来い」
「はい! ザルドおじさん」
「俺達の名前を出すなよ。面倒事になる」
「そうね、でも困ったら私達を呼びなさい、いいわね?」
「はい! マキシムさん、セラスさん!」
皆に見送られ、最後に待っていたのはお爺ちゃんとお婆ちゃんとカワサキさんだった。
「ベル。ここから先に行けばもう私達は貴方を守ってはあげられません。それでも行きますか?」
「うん、行くよ。お婆ちゃん」
「……そう……ですか。分りました、ベル。気をつけて」
「うん……頑張る」
「ベル。ワシは心配せんぞ。行って来い、お前なら大丈夫だ」
「うん! ありがとうお爺ちゃん!」
お爺ちゃんに背中を叩かれ、お婆ちゃんに抱き寄せられてから村を出る。
「うし、じゃあ行くか、ベル。オラリオへ」
「はい!」
そして僕はカワサキさんと共に生まれ育った村を後にし、オラリオへと向かった。そしてそこで沢山の出会いがあり、楽しい事、辛い事も沢山あったけど……充実した日々を送ることになるのですが、僕は出発する前に思いも、考えもしなかった事をオラリオで体験する事になりました。その中で1番怖かった体験を一言で言い表すのならば……「エルフやべえ」でした。
下拵え 迷宮都市の白兎 その1へ続く
大分長くなりましたが次回から原作開始です。カワサキさんに修行を付けられ大幅パワーアップしたベル君がオラリオでどんな活躍をするのか楽しみにしていてください。他にも幕話などもやりたいと思いますがここから本編も勧めていこうと思いますので次回の更新もどうかよろしくお願いします。
オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは
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間違っている
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間違っていない