ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか?   作:混沌の魔法使い

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下拵え 迷宮都市の白兎 その1

下拵え 迷宮都市の白兎 その1

 

ゴトゴトと揺れる馬車の壁に背中を預ける俺に対し、緊張と興奮が入り混じった表情で馬車の外を見つめているベル。

 

(こりゃあ駄目だな)

 

完全に浮かれている。オラリオに行けばおのぼりさんとしてカモにされるかもしれん……それも経験といえるかもしれんが、いきなり躓かせるのもどうかと思う。

 

「ベル。お前オラリオについたらどうする?」

 

「はい?」

 

「俺と一緒にギルドに行くか、1人でギルドに行くかどうするよ?」

 

フェルズへの紹介状は渡しているので、少々待たされるかもしれんがフェルズは必ず面会してくれる筈だ。

 

「あ、えーっと……そうですね。多分というか……いや絶対だと思いますけど、僕だけの方が良いですよね?」

 

「どうだろうな、俺と一緒ってことで色んな冒険者に目を付けられるからファミリアからは引く手数多かもな?」

 

ベルは腕を組んで考え込む素振りを見せる。さっきまで浮き足立っていたが、少し落ち着いたようだ。

 

「1人で行きます。えっとこの手紙をダイダロス通りの神ペニアに見せれば宿泊出来るんですよね?」

 

「泊まる分の労働は必要だけどな。下手な宿屋に泊まるよりよっぽど良いぞ、ヴァリスも稼げる」

 

ベルに渡しているヴァリスは15000ヴァリス。安い宿なら1ヶ月、中級クラスなら10日ほど泊まれるだけの額だが、それとは別に装備を整える代金なども必要だ。早くファミリアが決まれば良いが、そうでなければ路頭に迷う可能性が高い額しか与えていない。

 

(ヘラには反対されたが、これがベストだろ)

 

自分で考えて行動に移す。成功したとしても、挫折したとしても自分で考えて行動に移す事が大事だ。他力本願や他人の責任にするようならば論外だ。

 

「分りました、いつも通りですね?」

 

「そう。いつも通り、自分の責任で考えて動け、それが出来なきゃ冒険者なんて夢のまた夢だ」

 

自分で決めて、自分でその道を歩く。それが出来なければ夢なんて叶う訳もない、結局の所……。

 

「自分の足で立って歩けないなら男なんて止めた方がいい」

 

結局それだ。何をするにも自分の責任で、自分の意志で歩き出せないならそれは本気ではないことだと俺は思ってる。

 

「大丈夫です。頑張りますから!」

 

「良し、その意気だ」

 

「はいッ!」

 

元気良く返事を返すベルの頭を撫でてから従者台に顔を出す。

 

「おっちゃん。悪いけどオラリオの前で停めてくれ、降りるからよ。それと俺とベルの事は内緒で頼むぜ?」

 

「分ってるよ、カワサキさん」

 

「恩に着るぜ」

 

「良いよぉ、恩でいえばこっちが返せないくらいだからね」

 

おっちゃんに悪いなと頭を下げて馬車の中へ戻る。しかしまぁガキ共と一緒に市場に何度も売り物を運んでいるうちに顔なじみになった市場の仕入れをしているおっちゃんに会えたのは幸運だった。

 

(オラリオ……か)

 

遠くに見えるオラリオ――だいぶ良くなったとは言え、良いも悪いも神の所為で享楽的なオラリオはベルの目にはどう見えるだろうかと思いながら再び馬車の壁に背中を預けた。

 

「じゃあカワサキさん。僕は先に行きますね?」

 

「おう。俺はオラリオでフラフラしてるから困ったら探せ、なんかアドバイスくらいはしてやるから。それとオッタルとベートにあったら手紙を頼むぜ」

 

「はい! それじゃあ行って来ます」

 

馬車から手を振るベルを見送り、懐から出した煙草を咥えて火をつける。

 

「ふー……さてと、俺も行くかね」

 

のんびり歩いていけばベルがフェルズと面会を終えた頃にはオラリオにつくかねと思いながらゆっくりと歩き出し……。

 

「あーッ!! カワサキさんだぁッ! って咥え煙草は良くないですよ」

 

「そうだな。悪いが煙草を消してくれるか?」

 

休暇なのかラフな格好で歩いていたアーディ達に会い、俺は苦笑しながら煙草の火を消す羽目になるのだった……。

 

「珍しいな、カワサキとこんな所で会うなんて散歩か?」

 

「いんや、オラリオに戻ろうかと思ってな」

 

「え!? カワサキさんオラリオに戻ってくれるんですか!?」

 

「おう。ちょっと野暮用でな、1年くらいはオラリオにいるつもりだ」

 

「やったーッ! 私歓迎しますよ」

 

「いつも元気だな。たださっきも言った通り野暮用だ。内緒で頼むぞアーディ、シャクテイ」

 

勿論ですと笑うアーディと詳しくは聞かないといって頷いたシャクテイ達と談話しながら俺はオラリオへと歩みを進めるのだった……。

 

 

 

 

手にしたジャガ丸くんの袋を片手に私はのんびりとオラリオを散歩していた。リリ達もジャガ丸くんの食べ歩きに誘ったのだが……。

 

『そんなに食べたら太ります!』

 

『わ、私も良いかなー……』

 

『ちょっとお腹が……』

 

と皆に断られてしまった。食べ歩きが良くなかったのだろうか……?

 

(私なりに考えてみたんだけど……むう)

 

リリやサラ達に誘われて買い物に行くが大体ついて行くだけなので、たまには私も何かと思ったが食べ歩きは良くなかったのだろうかとぼんやりと思いながら歩いていた。

 

「っ!?」

 

「わっと」

 

ぼんやりと歩いていたかか曲がり角を曲がった所で誰かにぶつかってしまった。

 

「ごめん。前を見てなかった」

 

「すいません。前を見てませんでした」

 

互いに謝罪の言葉を口にしながら顔を上げ……目の前の少年に目を奪われた。

 

(綺麗)

 

太陽の光を浴びて光る白い髪と真紅の瞳、そして柔らかな雰囲気をした細身の少年。後に名前を知るベル・クラネルから――何故か目が離せなかった。

 

(うわ……綺麗な人)

 

そしてベルもまたジャガ丸くんを手にしているアイズに目を奪われていた。

 

(綺麗)

 

(綺麗だな)

 

しばらく互いにそのままだったが、ベルが先に我に帰った。

 

「すいません、僕オラリオに来るの初めてで、不注意でした」

 

「こっちも考え事をしてたからお互い様」

 

初めてオラリオに来たという言葉に少し驚いた。初めてオラリオに来るそれが意味するものは1つしかないからだ。

 

「集団面接はまだ先だよ?」

 

「あはは……はい、それは知ってます。ただ僕の先生が集団面接の時期はずらした方が良いとアドバイスしてくれたので」

 

「珍しいね」

 

普段はギルドに仲介して貰って、面接や技量試験を行なった後にファミリアに振り分けられるのが一般的だ。勿論個人でファミリアを探す手もあるが、ギルドの公認を受けていないファミリアに入団し、怪我を負ったり、冒険者として再起不能になることもある。それを避けるための集団面接なのに、それを避けろとはまた珍しい事をいう人だと思った。

 

「危ないよ? 面接の時期まで少し待ってみたら」

 

集団面接なら評判の悪いファミリアはまず紹介されない、いや、訂正。アポロンファミリアを除けば基本的にいいファミリアしかないので、その時期を待ったほうが良いんじゃないか? と善意で忠告する。

 

「あ、その先生がギルド長に紹介状を書いてくれてまして、1回ギルド長にあってから考えてみようかと」

 

「そう。ギルドの場所は分かる?」

 

「すいません、分らなくて……」

 

「案内してあげる」

 

「本当ですか!? ありがとうございます」

 

嬉しそうに笑う兎のような少年に任せてと返事をし、その少年をギルドまで連れて行きギルドの近くのジャガ丸くんの屋台へ足を向ける。

 

『えっと、これお願いします』

 

『これは……はい、初心者冒険者の講習希望ですね。エイナ・チュールが対応させていただきます』

 

『よ、よろしくお願いします』

 

「ついてない……」

 

ギルドの受付嬢の中でエイナは見た目は優しいけどとても厳しい人で有名だ。彼女が受付嬢になったのはあの子の……。

 

「名前ッ!?」

 

名前も聞いてなければ、自分の名前も名乗って無い事を思い出しがっくりと肩を落とし、ギルドの横の屋台からジャガ丸くんを買ってとぼとぼとと歩き出す。

 

(でもあの子は目立つから、次がある。うん、次)

 

あの白髪と紅眼は目立つからまたどこかで会える。その時に名前を聞こうと思ってホームに帰ったのだが……。

 

「ギルドからダンジョンの調査依頼だ、しばらくダンジョンに潜るぞ、アイズ」

 

「え……嘘でしょ……」

 

まさかのダンジョン調査依頼が入り、私があの子の名前を知る事が出来たのは半月後のことなのだった……。

 

 

 

 

アイズ・ヴァレンシュタインさんが連れてきた少年――ベル・クラネルを奥の部屋に案内し、冒険者登録の書類の準備を始める。受付嬢として長く働いているが集団面接の時期をずらして来たことに驚いていた。

 

(オラリオの事をあんまり知らないのかな?)

 

「はい、じゃあベル君これを読んでサインをしてね」

 

「分りましたエイナさん」

 

書類に目を通している間にベル君が持ってきた手紙の封を開け、中の便箋を確認する。

 

(これギルド長への紹介状……? えっと相手はカワサキさん!? 確かオラリオ大改革の人じゃないッ!?)

 

私がオラリオに来た時にはカワサキさんはオラリオにいなかったので知らないが、ダイダロス通りの孤児達やペニアファミリアの結成、そして野球などの戦争遊戯をオラリオに広げ、孤児達に仕事を与え、引退した冒険者達に新しい道に進むための訓練所を作った。オラリオの大改革を行なった人物からの紹介状に驚いた。

 

「エイナさん。サインしました!」

 

「じゃあ今度はこっち、フェルズギルド長の所に案内するわ」

 

「お願いします!」

 

カワサキさんは料理人と聞いていたので、カワサキさんの紹介状を持っているベル君が希望するのは生産系だと思ってギルド長のところへ案内したのだけど……。

 

「カワサキから話は聞いている。フェルズだ」

 

「ベル・クラネルです。宜しくお願いします」

 

礼儀正しく頭を下げるベル君にギルド長も好感を得たのか小さく笑みを浮かべる。

 

「ファミリアの希望は探索系? ベルは探索系希望なのか? 生産系ではなく?」

 

「はい!」

 

「え!?」

 

まさかの探索系希望で、元気良く返事を返すベル君にギルド長の前だが、思わず声を上げてしまった。

 

「繰り返し聞くが本当に探索系希望なのか?」

 

「はいッ!」

 

もう1度元気良く返事を返すベル君。書類には14歳と記載されていたが、同年代と比べると細身で、顔付きも女の子と見間違いそうになる。言いたくは無いがとても冒険者に向いている体格とは思えなかった。

 

「エイナ。ベルに初心者向けの冒険者の講習を頼む。それとベル泊まる所は決まってるのか?」

 

「カワサキさんの紹介状があるのでペニアファミリアにお世話になろうと思います。そこでお手伝いしながら所属するファミリアを探そうかなと」

 

泊まる所はあるのは良いけど、そのままペニアファミリアに所属したほうが良いんじゃないだろうかと思う。

 

「カワサキとの約束だ。エイナの講習が終わればファミリアを紹介しよう」

 

「分りました! エイナさんよろしくお願いします」

 

とにかくまずは初心者向けの講習だ。それが終わってからベル君がどう判断するかだと思いベル君を連れてギルド長の部屋を後にする。

 

「それじゃあ講習を始めるわね。えっと筆記用具は」

 

「あります。先生が用意してくれました」

 

「それなら大丈夫ね、じゃあ始めるわね」

 

「はい! お願いします」

 

そして私は冒険者への講習を始めたのだが……始めてすぐに驚かされる事になった。

 

「お疲れ様でした。ギルド長に報告してくるからちょっとここで待っててくれる?」

 

「あ。それでしたらここに保管されてる本を見てても良いですか?」

 

「え、ええ。どうぞ。それじゃあちょっと待っててね?」

 

私の言葉も聞こえないのか楽しそうに保管されている本を物色してるベル君に背を向け、私はギルド長の部屋に向かって歩き出した。

 

 

「これは悪い冗談か?」

 

「い、いえ。事実です。私も正直驚いています」

 

ギルドが制定している講習はかなり厳しいことで有名だ。集団面接を蹴って自分でファミリアを決めようとする無謀な若者に絶対にやらせている物で、殆どの受講者が心折れ。素直に集団面接まで待ってくれるのだが……。

 

「カワサキの弟子というだけはあると言うことか……」

 

私が教えた講習の復習として200問の問題を出したが、ベル君の正解数は合格ラインを優に超えており、その上……。

 

『ここカワサキさんが教えてくれました! やっぱり冒険者には大事なことなんですね! それにエイナさんが優しく教えてくれるので凄く分りやすかったです』

 

と基本的にオラリオで教えていることはベル君は基本的な知識として有していたのも大きいが……何よりも素直で、授業に熱心だった。

 

「凄く真面目で良い子でしたけど、なんか猛獣に襲われたら鼻を殴れ、変態に人権はないので基本的に何をしてもいいとか言ってたのが少し心配です……」

 

「あいつは何を教えているんだ……?」

 

真面目で勤勉、そして物覚えも良く、素直に人の話を聞き、分らない所は質問する。理想的な生徒だったベル君だが、致命的にずれている部分があり、そのずれている部分が余りにも凶暴だった。だが……。

 

「知識面では問題ないか……」

 

「そうなんです」

 

知識面では下手をすれば他のファミリアのレベル1よりも遥かに知識があり、そして応用力に発展力もある。応急手当や、ダンジョンで迷った際の方角の確認方法など、ギルドが定めているダンジョンに潜る際の必須事項も殆ど覚えていたのは正直驚いた。

 

「後は実技だが、これは恩恵を刻んでからになるな」

 

「そう……ですね」

 

知識面は問題ないとしても、問題は実技だ。数多くの冒険者がダンジョンに挑み、そしてその命を終える、その瞬間を私は何度も見てきた。だから筆記よりも遥かに実技の講習は厳しく制定されている。

 

「もしも実技が駄目だったら……」

 

「お前の判断に任せる。それにベルがカワサキの関係者と知った以上他の受付嬢にはベルを回せん。仕事を押し付ける形になるがアドバイザーも務めてやってくれ」

 

「分りました。ギルド長」

 

カワサキさんは今でもオラリオに余りにも多くの影響を与える人物だ。そんな人物の弟子となればどこのファミリアも、どこの神も血眼になってベル君を自分のファミリアに所属させようとするだろう。それを防ぐ為に立ち回ってくれというギルド長に頷き、私は資料庫で本を読んでいるベル君の元へ戻ったのだが……。

 

「ベル君? ベル君?」

 

「あ、す、すいません。エイナさん。お話は終わりましたか?」

 

「ええ。終わったわ、それにしても随分と熱心に読んでいたわね?」

 

「はい、そのカワサキさんが知識は幾つあっても困らないって教えてくれて、それに僕も本を読むのは好きで、あ、あの! また読みに来ても良いですか?」

 

「え、ええ。どうぞ、まだ講習は続くから休憩時間で良ければ見ても良いわよ?」

 

「ありがとうございます!」

 

「明日持ってくるならその本を持っていっても良いわよ?」

 

「本当ですか!? ありがとうございます!」

 

本当に嬉しそうに笑うベル君を見て、余り良くないことだが本の持ち出しを許可し、入り口まで見送った私に手を振ってダイダロス通りへ歩いていくベル君を見送るのだった……。

 

 

下拵え 迷宮都市の白兎 その2 へ続く

 

 




というわけでベル君編開始です。エイナさんのスパルタ講習もカワサキさんとか、女帝とかの指導が基準なので優しく教えてくれるなあっと勘違い気味、カワサキ式を叩き込まれているので少々バイオレンスな部分もありますが、素直な白兎ですね。あと憧憬一途は今回は複数イベントで発言する予定なので、最初は一目惚れからの次のイベントで憧憬に生えてもらう予定です。次回はペニアファミリアで、リリとかとかなり早いですがエンカウントしてもらおうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは

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