ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか?   作:混沌の魔法使い

97 / 99
幕話 エルフの流儀

幕話 エルフの流儀

 

 

エルフ――森妖精と呼ばれる者達は高潔で誇り高い。それがオラリオの外の住民が抱く幻想だ。美男美女であり、高い知性と優れた能力を持つエルフだが、エルフの多くは自分達の能力ゆえにエルフ以外を見下し、人間や獣人に触れられることを嫌う。エルフに幻想を抱く者はエルフを己の目で見て落胆する事が多い。だがそれはオラリオの外での話であり、オラリオでは別の意味でエルフの多くは落胆され、危険視されている。

 

「ただ見ていただけなんですけどッ!?」

 

「はいはい。皆そう言うんですよ。ちょっとギルドで話を聞かせてくださいね」

 

「無罪! 私無罪ッ!!」

 

ギルドナイトに連行されていくエルフが無罪と叫んでいる。だが誰もその意見に同意する者はいない何故ならば……。

 

「あいつ毎日いたよな。どんな天気の日も」

 

「いたいた。ジーっと見てて怖かった」

 

「分る」

 

「ここ数年。ちょっと変なエルフが増えてきたよなあ」

 

市場のダイダロス通りの子供達を凝視していたエルフを擁護する者はおらず、今日もまた1人のエルフがギルドに連行されていた。

 

「見ていただけでも駄目なのね」

 

「でも前におつりを貰った時に手を触ったらギルドナイトに肩を叩かれたわ」

 

「おかしいわね」

 

おかしいのはお前達という言葉をグッと飲み込む市場関係者。数年前から自分達と違う種族に触れることを嫌うエルフが変わり始めた。当初フェルズはエルフが他種族に寄り添おうとしていると喜んだのだが、それは少しの間だけだった。

 

エルフが幼い少年を撫で回していた。

 

エルフが幼い少年を見て絵を書いていた。

 

エルフが幼い少年をホームに連れて行こうとしていた。

 

まごう事無く3アウトである。オラリオのすべてのエルフがそうではない、だが数年前から幼い少年に異常に執着を抱くエルフが増えてきた。今はまだ少女に執着を抱くエルフはいないが、それも時間の問題でありその事実がフェルズの胃を痛めつけていた。

 

「何か申し開きは?」

 

「可愛い少年は眼福でした。可愛い物を愛でると癒されるんです」

 

もうやだというフェルズの心の声が聞こえてきたギルドナイトは小さく溜息を吐き、エルフを連れてフェルズの部屋を出ていった。

 

「ウラノス。頼むから神会で禁止事項にしてくれないか?」

 

「無理だな。もう手遅れレベルで広がってる」

 

「……誰だ。こんな特級呪物をオラリオに広げた馬鹿はッ!?」

 

芸術の神達は止まらない、それだけの劇物がオラリオに落ちた。それは水源に落とされた毒のように享楽的な神々を汚染した。フェルズの机の上に置かれていた本の数々――。幼い少年と年上の女性が恋に落ちる物語を題材にした小説や漫画の数々にフェルズはどこの馬鹿がこんな劇物をオラリオにばら撒いたのかと絶叫していた。

 

「くしゅっ」

 

「カワサキさん。風邪ですか?」

 

「んーどうだろうなあ……案外誰かが噂してるかもな」

 

そしてその劇物を間接的にばら撒いた原因であるカワサキは大きなくしゃみをしていた。なおその本を落としたのは闇派閥を狩っていたとあるエルフであり、落とした直後はお気に入りの本を落としたことに項垂れていたりする……。

 

 

 

長い時を生きるエルフにとって寿命の短い人間とは仲良くなっても辛いだけだ。どれだけ想いを寄せても、どれだけ共に過ごしても人間は必ず自分よりも先に死ぬ――その葛藤がエルフが他種族を見下す事へと繋がっているととある女神は考えていた。

 

元は別離の苦しみに耐え切れなかった。だがそれが長い時の間におかしな方向へと進み、それが現在の排他的なエルフになったのだとその女神は考えていた。

 

何故ならばそれは神が抱く根本的な恐怖だったからだ。どれほど愛しても、どれほど大事に思っても眷族は死ぬ。永遠を生きる神と短い時しか生きられない眷属達……その間には埋められない溝がある。だからこそエルフが排他的になった理由を別離を理由だと女神――サラスヴァテイは考えた。

 

勿論それは他の神々からすれば異質な考えだ。だからその考えに同意する神はいないし、同意されたいとも思わない。ただ彼女がそう思っていただけ、そう感じていただけ――学問の神であり、芸術の神である彼女が愛に踏み込むのはおかしな物かと思われるかもしれないが、芸術の中には男女の恋を描く者もある。ゆえに愛もまた芸術に含まれるものだからこそサラスヴァテイはどうすれば離れてしまったエルフと人間をもう1度近づけることが出来るのかを考えた。そして……ある日彼女は運命に出会った。

 

「これは……まぁ……なんて……ええ……ええッ!」

 

それはカワサキが善意で闇派閥を狩っていたリューに貸し与えたぶくぶく茶釜のグリーンシークレットハウスに残されていた薄い本……「純粋年下少年に情緒を乱されるお姉さん」……俗に言うおねショタに分類される異本によってサラスヴァティは1つの応えに辿り着いた。弁解するわけでは無いが、ホモォもいける茶釜が腐界の戦利品をカワサキに預けるのはちょっとと考えそれらが残されていなかったのが不幸中の幸いだった訳だが、それはそれ、これはこれである。おねショタと漫画という概念を理解したサラスヴァティによっておねショタはオラリオに広がることになる。

 

「えっと、これとこれ」

 

「はーい。65ヴァリスになりまーす」

 

「ありがとう。良い買い物だったわ」

 

「またのお越しをー」

 

「すいません。この年下ヒューマンに苛められるを2冊お願いします」

 

「はーい! 120ヴァリスになりまーす」

 

「こっちも会計お願いします」

 

「はーい。少しお待ちください」

 

「あ、すいません。本は会員から紹介して貰わないと購入出来ない決まりなんですよ」

 

「え、そうなんですか……す、すみません。今度教えてくれた先輩と来ますね」

 

「はい。またの来店をお待ちしています」

 

そしてサラスヴァテイとその眷属達によっておねショタ本はオラリオへと広がった。エルフだけではなく、冒険者として成功したはいいが男が寄って来ない者や、恋に恋する年頃の少女達にも受けがいいように様々なジャンルの恋愛漫画を取り揃えるサラスヴァテイファミリアは知る人ぞ知る高レベルになったが、そのかわりに喪女になった女性冒険者の巣窟と化したが、その代わりに生産系ではトップクラスの資産を手に入れているのだった……。

 

 

 

リュー・リオンの朝は早い。カワサキから譲り受けた隠者のマントによって正体を隠したまま闇派閥を狩りつくしたのは良いが、力尽きかけた所をシルに拾われ豊穣の女主人の店員となり、正体を隠したまま闇派閥を壊滅に追い込んだ事をフェルズに評価され、内密にギルドナイトとして雇われ2足の草鞋を履くことになったが、リューはそれはそれで良いと思っていた。

 

「いや。違うんですよ、ちょっと匂いを嗅いでみたいなって思っただけで」

 

「はいはい。話はギルドで聞きますから」

 

「分ってないね。年下のヒューマンは少し生意気なくらいが良いんだよ」

 

「違うってヒューマンは素直が良いんだよ。小生意気よりも慕ってくれる方が良い」

 

「「あ?」」

 

ギルドナイトに世話になっているエルフや、互いに受け入れられない癖の違いによる醜い争いが起きている隣を抜けて市場へと向かう。

 

(ただの年下のヒューマンでは駄目ですから)

 

オラリオ――いや。この世界で1番最初におねショタの衝撃を受けたリューはかなり厄介なショタコンになっていた。

 

(年下はまず素直でなければなりません)

 

素直で年上である自分を純粋にしたう者でなければならない。

 

(年上を厭らしい目で見てはいけない)

 

求めるのは尊敬であり、性的に見て欲しいわけではない。それはもっと後である。

 

(妙に意地を張ったり、小生意気は論外、少し背伸びくらいはいいですが)

 

少し背伸びをするくらいなら良いが、大人の真似事や、生意気な口を利くのは駄目。

 

(まぁそんなヒューマンはいませんが)

 

リューとて分かっている。そんな都合……理想的なヒューマンなどいないと、だが想う事は自由である。

 

(さてと買い物を終えて帰りますか)

 

年下のヒューマンを見に来ている駄目な同胞や、ギルドナイトに注意されている冒険者には目もくれず、シル達に頼まれて従業員の分の弁当を買いに来たリューは気付かなかったが、今日は普段の2割り増しで注意をされている冒険者が多かった。

 

「いや、天使。天使がいた」

 

「まさかあんなヒューマンがいたなんて……」

 

「もう常連になるしか」

 

考え事をしていたリューの耳にはボーっとしていた冒険者達の呟きは聞こえなかった。そして……。

 

「おはようございます!」

 

「……え?」

 

天使を見た。白い髪に赤い目をしたヒューマン――ベルが満面の笑みで挨拶してくる。余りにも理想的なヒューマンの姿にリューは一瞬脳の処理が停止した。

 

「あ、ああ。おはようございます」

 

「はい。おはようございます」

 

笑顔で挨拶を返してくるベルにまさかこんなヒューマンがいるなんてとリューは衝撃を受けた。見れば見るほどに愛らしい兎のようなベルにリューを観察しながらも表情を崩す事無くリューは注文を口にする。

 

「少し多いですがお弁当を12個欲しいのですが……」

 

「ありがとうございます。すぐに準備しますね」

 

手早く準備を始めるベルの姿からリューは視線を逸らせなかった。いままで数多くの年下のヒューマンを見てきたリューだが、ベルはそれらのヒューマンを完全に越えていたのだ

 

「全部で480ヴァリスです」

 

「あ、はい。ではこれで」

 

「はいえーっと600ヴァリスのおつりですね。ありがとうございました」

 

手渡しでおつりを渡される。だが普段なら手が出るタイミングだが呆然としているリューはありがとうございますと返事をし、手渡しされたおつりと弁当を持って列から離れる。

 

「あんな理想的な……ヒューマンがいるなんて……これは奇跡でしょうか」

 

そして自分にとって理想的なヒューマンであるベルをこの日からリューは視線で追う事となるのだった……。

 

 

 




学問と芸術の神のサラスヴァテイさんをひどいことにしましたが後悔はありません。多分芸術の神だから漫画も大丈夫でしょう、多分きっと。そしてベルに魅了されたリューさん。多分最初の方から割りと好感度が高くなる予定です。前回の更新でアイズとベルが一目惚れしてましたが、リューさんはその翌日にベル君とエンカしているって感じで考えております。

オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは

  • 間違っている
  • 間違っていない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。