ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか?   作:混沌の魔法使い

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下拵え 迷宮都市の白兎 その2

下拵え 迷宮都市の白兎 その2

 

「すみません、神ペニア様でしょうか?」

 

いつものように子供達が夕食の準備をしている声を聞きながら夕暮れの風に当っていると背後から声をかけられた。その声に振り返ると雪のように白い髪と紅い瞳をした子供があたしを見ていた。

 

「神ペニアなんて呼ぶ奴はここら辺にはいないね。あんた何処から来た?」

 

「えっとこれペニアさんにお見せすればいいと」

 

そう言いながら鞄から差し出してきたのは1通の便箋。それを受け取って中を見てあたしはその便箋を握り潰した。中身は「任せた カワサキ」とだけ書かれていて馬鹿にしてるのかと怒りのまま握り潰すのも当然だ。

 

「ええ!? ど、どうかしましたか?」

 

「あんたがカワサキに言われて来た子かい。所属するファミリアが決まるまでここに泊まりたいと」

 

「は、はい! そうです。ご迷惑をかけると思いますがよろしくお願いします」

 

「ふん、まぁ良いさね。ここでは皆仕事をしてる、寝る場所は提供してやるがちゃんと仕事をするんだよ」

 

「はい! お世話になります」

 

「こっちにきな、皆に紹介するよ」

 

まぁカワサキの弟子ならあの子達もそう邪険にしないだろう。

 

「カワサキの弟子がファミリアが決まるまで泊まる。仕事も普通にさせていいから面倒を見てやっておくれ」

 

「ベル・クラネルです。よろしくお願いします」

 

ぺこりと頭を下げるベルと若干の警戒の色を見せる子供達。家の子らは基本的の警戒心が強い子ばかりだから大丈夫かと不安に思ったのだが……。

 

「ベル。パン焼けたかー?」

 

「焼けてますよ、ルーカス。ついでにマヨネーズも塗っておきますか?」

 

「おねがーい。こっちはハム焼くから、ルーカスはキャベツ刻んで」

 

「任された」

 

「分りました」

 

なんか次の日には普通に馴染んでて、あたしは余計な心配だったかとこの時は思ったのだが……。

 

「もうなんでうろうろして迷子になるんですか!」

 

「ううう。ごめんなさい」

 

「1人でッ! 勝手に! 出歩かないって約束しましたよねッ!」

 

「はぃいい……その通りですぅ」

 

「反省してますかッ!」

 

「はい! 反省してます!」

 

「本当ですか? お弁当を渡す時に頑張ってくださいとか声をかけるのはあんまり良くないって理解してくれましたか?」

 

「それはもう……なんか凄い目が怖かったです」

 

「当たり前です! ベルみたいなのは食べられてしまうんですよ!」

 

「故郷の村にもあんな人いましたけど、オラリオにもいるんですね」

 

「変態はどこにでもいますッ! リリ達がいなかったら誘拐されてましたよ!?」

 

「はい……本当に助けてもらってありがとうございます……」

 

どうもピュアすぎるベルを見て、何かが弾けた冒険者からベルを守る為にリリ達が奮闘したようだ。

 

「全く、これに懲りたら今度はちゃんと皆と一緒に行動するんですよ」

 

「はい! 分りました」

 

ペニアファミリアの小さいお母さんあるいは、小さいお姉ちゃんと呼ばれるリリにめちゃくちゃに叱られ、小さくなってるベルの姿にあたしは思わず溜息を吐き、余計な心配じゃなくて妥当な心配だったかと心の中で呟くのだった……。

 

 

 

 

カワサキさんの弟子がお婆ちゃんのファミリアに居候しているのですが、彼――ベル・クラネルは善人ではありましたが、どこか抜けている子でした。

 

「歓楽街に行こうとするなんて正気ですか!?」

 

「え、でも、お弁当を届けて欲しいって」

 

頭が痛い、真面目で優しい子ですが、悪意には少し疎い気がする。

 

(アイズそっくりです!)

 

レベル4になってもド天然のアイズに似た者があるからか、どうしても無碍には出来ない。それはリリだけじゃなくて他の皆も同じだった。

 

「ベル。そこの赤い○のファミリアからの出前は大人に頼むんだ。危ないからな」

 

「逆にそっちの青い○は行っても良いよ。安心できる所だからね」

 

カイン達の話を聞いて手帳にメモしている所は勤勉で、好感が持てますがそれでも心配が勝る。

 

「ベル。悪い事は言いませんからこのままお婆ちゃんのファミリアに入ったらどうですか?」

 

「俺もそう思う。俺達の所は生産系だからダンジョンに行かないから危なくないぞ?」

 

「ベルなら皆も良いよって言ってくれるよ?」

 

2日で馴染み、皆もベルにペニアお婆ちゃんの所に入ればいいと声をかける。だけどベルは絶対に首を縦に振らなかった。

 

「僕はやりたい事があるので、それじゃあギルドに勉強に行って来ます」

 

荷物を纏めてギルドに勉強に行くベルを見送る。

 

「素直に生産系になればいいと思うんですけどね」

 

「それな、おじさんの弟子あって料理も上手だし、愛想もいいから向いてると思うんだけどな」

 

「やりたいことってなんでしょうねえ?」

 

本人が探索系が良いと言って譲らないのが不思議だった。何故そんなにダンジョンにもぐりたいのか、生産系で安定した収入を得ればいいのにと思う。

 

「まぁ良いです。どうしても探索系が良いって言うならリリが少し面倒を見てやるですよ」

 

「リリが面倒を見てくれるなら大丈夫か、まぁベルも自分の限界を知ればすぐに諦めるだろ」

 

「そうですね~ベルならお婆ちゃんの所でもいいですし、ミアハさんの所かデメテルさんの所でもアルバイト出来るでしょうしね」

 

皆の意見はベルは冒険者に向いていない、リリもそう思っていましたが……それは覆させることになるところか……。

 

「え? ベルのいるファミリアに改宗するのか!?」

 

「はい! リリはベルと一緒にいることにしました!」

 

まさかベタ惚れして、ソーマファミリアからベルのいるヘスティアファミリアに改宗する事を望むまで惚れてしまうとは思ってもいませんでしたし……。

 

「……ずるい」

 

「ずるくないですよー? ずるいと思ったらアイズも改宗したら良いんですよ~?」

 

「……駄目っていうもん」

 

「それはしょうがないですねー」

 

「むきいッ!!」

 

「ふしゃあッ!!」

 

まさかアイズもベルにベタ惚れするところか、とんでもない数の人を引っ掛ける女たらしに引っかかってしまうなんて、この頃のリリは想像もしていないのでした……。

 

 

 

ベル君がオラリオに来て今日で4日目。見学先のファミリアの日程はまだ出来てないこともあり、1日の大半をギルドで勉強、早朝はペニアファミリアでのお弁当作りの手伝いという日々を過ごしているようだ。

 

「あいちち……なぁ、エイナよ。ベルだったか? ワシの見立てじゃが、あやつ対人に特化しておるぞ」

 

「……やっぱりですか?」

 

指南役のギルドナイトのローガンさんの言葉に私は思わずやっぱりと呟いた。増長している若い冒険者の鼻を圧し折る役目をしているギルドナイトの中で1番のベテランの言葉を聞いて認めざるを得なかった。

 

「ベルは対人に特化していると?」

 

「はい、ベリスさん、ルインさんと続けてノックアウトして、ローガンさんも負傷したそうです」

 

ベリスさんは右腕の腱を負傷して引退したレベル3、ルインさんは隻眼になった事で引退したレベル4、そしてローガンさんは歳を理由に引退したレベル5。皆全盛期よりは弱っているがそれでもまだ現役クラスの能力を持ったギルドナイトだ。

 

「流石に恩恵こそないので手加減こそしてましたけど」

 

「それでも恩恵なしでそれか、流石カワサキの弟子か」

 

「カワサキさんも恩恵ないんでしたよね? ギルド長」

 

「ああ。それでいて、ベートとオッタルより強い。桁違いの実力者だ」

 

化物ですか? という言葉をぐっと飲み込む、レベル8の猛者オッタル。レベル6の銀狼ベートは現在のオラリオでは最強の2枚看板と言われるほどの実力者だ。そんな2人より強い恩恵なしの人間がいるとは正直信じられなかった。

 

「ただベル君は武器の扱いが余り得意ではないようです。というよりかは……」

 

「年齢の問題か」

 

「はい、体格も華奢ですので武器の扱いは少々苦手のようでして、ナイフ捌きだけは段違いでしたが、他の武器はかなりお粗末のようです」

 

村で稽古して貰ったけど武器の扱いは苦手なんですと笑っていたベル君。だが冒険者が武器の扱いが苦手と言うのは笑えない、素手でモンスターを倒すのは不可能だからだ。

 

「手甲や足甲というのはどうだ?」

 

「私は反対です。リスクがありすぎます」

 

手や足に鎧をつけるのは1つの手段だが、それだとモンスターの懐に飛び込む必要がある。それは余りにもリスクがあり過ぎる。

 

「ある程度経験を積んだ冒険者ならまだしも、ルーキーには自殺行為です。実際何人ディアンケヒト・ファミリアに運び込まれていますかご存知ない訳ではないでしょう」

 

ベート氏に憧れ、足に刃つきの脚甲をつけてダンジョンに潜り、重傷を負うルーキーがただでさえ多いのだ。それをギルドから提供するのは絶対に駄目だ。

 

「冗談だ。とりあえずもう少しベルの講習を長引かせてくれ」

 

「分りました。それじゃあ失礼します」

 

ギルド長の部屋を後にしてギルドの訓練場へ向かう。ベリスさん達がベル君に武器の扱いのレクチャーをしてくれているので武器の扱いが苦手だったとしても、ナイフ以外にもう少し扱える武器がないかの適正を調べてくれている。

 

(出来たら遠くから攻撃できる武器だと安心出来るんだけどなぁ……)

 

槍とか、弓矢とか、最初はそういう武器の方が安心出来るんだけど……。

 

「駄目だな、エイナ。こいつ武器を扱う才能が全然ない」

 

「練習したんですけどね……」

 

「実戦で磨いていくか、このまま訓練場に暫く通ってもらうほうがいいかも」

 

徒手空拳のレベルは高いのに、武器の扱いは全然駄目という評価に私はがっくりと肩を落とした。

 

「とりあえず3日後には見学先が決まると思うからそれまではギルドに勉強に来ても良いし、ペニアファミリアのお手伝いをしてもいいわ」

 

「はい、分りました。僕としてはギルドで本を読みたいんですけどいいですか?」

 

「勿論いいわよ。私に声をかけてくれれば良いからね」

 

元気よく返事をして帰り支度をしていたベル君はまた本を借りて、ギルドを出て行くのを見送ろうとしたのだが……。

 

(あれ? あれは……)

 

猛者をベル君が呼び止め、何かを話して鞄から手紙を渡してからダイダロス通りに駆けていく姿が見え、私は何の話をしていたのだろうかと首を傾げるのだった……。

 

 

 

それは偶然だった。深層アタックで得た素材をギルドに売りに行き、その代金を受け取りに来た時だったので本当に偶然だった。

 

「あの、もしかしてオッタルさんでしょうか?」

 

「ああ。そうだが、俺に何か用か?」

 

ギルドから出てきた白髪に紅い目の子供に呼び止められ、何のようだと若干威圧しながら尋ねる。俺の弟子になりたいというルーキーは多いが、俺は誰かの面倒を見れるような性格ではないし、そもそも俺基準の訓練と稽古などついてこれる者はベート以外にはいない。そんな事を言われても困るだけで面倒だ。だがその子供はごそごそと鞄を漁り、1枚の便箋を俺に差し出してきた。

 

「これ、僕の先生からの手紙です。オッタルさんかベートさんに渡せと言われていたんですよ」

 

「手紙だと?」

 

「はい! それじゃあお渡ししましたから!」

 

失礼しますと言って駆けていくベルを見送り、まさかと思いながら便箋の封を切り手紙を確認する。

 

『俺はオラリオにいるぞ  あの時の続きがしたかったら見つけてみな カワサキ』

 

短い手紙だ。ただオラリオにいる、そして続きをするかというだけの本当に簡素な手紙。

 

「は、はははッ」

 

だがそれは何より俺を滾らせた。ザルドに勝ちたい、マキシムに勝ちたい、女帝に勝ちたい、俺には勝ちたい相手しかいない、俺は弱い、どれほど鍛えてもまだ届かない、それでも勝ちたい、強くありたい。遥か高い頂きに手を伸ばしたい。

 

「見つけてやるぞ、カワサキ」

 

その勝ちたい1人がオラリオにいて、俺の挑戦を待っていると知れば闘志を抑える事など出来ず、このままではギルドに入れないなと苦笑し、アレン達に文句を言われるのを覚悟してホームに戻った。

 

「どうした、クソ猪。ヴァリスは?」

 

「カワサキがオラリオにいる。俺は奴に挑戦してくる、ヴァリスは誰か変わりに受け取っていてくれ」

 

待てと叫ぶ声を無視して、俺はカワサキを探して夕暮れのオラリオへと飛び出していた。

 

「よう、思ったより早かったな。元気してたか?」

 

なんでもないように、それこそ本当に気軽い感じでカワサキは俺に声を掛けてくる。俺の身体からあふれているであろう闘志に当てられても尚平然としているカワサキに言葉に出来ない底知れなさを感じる。

 

「カワサキ。あの時の続きだ」

 

制空圏――スキルに生えたカワサキが教えてくれた鍛錬の結果に発現したスキル。それがあるから分る……距離は3mも離れているが……。

 

(ここはカワサキの間合いだ)

 

カワサキは徒手空拳のプロフェッショナルだ。魔法を拳に纏わせての攻撃なのか、それとも俺の知らない技術があるのかここはカワサキの間合いなのだと分かる。だから俺は拳を構えるとカワサキは背伸びをしながら立ち上がり俺と向き合った。

 

「はは、良いぜ、相手してやるよ。オッタル」

 

「どこまで追いつけたか試させて貰うぞカワサキッ!」

 

月が照らす中俺とカワサキは拳を構えて向き合うのだった……。

 

 

 

 

下拵え リベンジマッチ/白兎料理するへ続く

 

 




カワサキさんのオラリオの最初はオッタルのリベンジと決めていたのでここから、ベル君はベル君で料理描写メインで後半を書いてみようと思います。前半と後半の温度差が凄まじいと思いますが、次回の更新もどうかよろしくお願いします。

オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは

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