ようこそハイスコア狙いの教室へ   作:茶漬生活

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6月02日(火)後編

Be not afraid of greatness: Some are born great, some achieve greatness, and some have greatness thrust upon them.

 貴種を隔てるな。産まれながらの者もいるが、成り上がる者、そして押し付けられる者もいる。

 William Shakespeare(1564-1616)Twelfth Night, or What You Will


 

 完全に出し抜かれました。

 5月頭のクラスポイント発表を見た時の屈辱は忘れません。

 

 Bクラス──今はAクラスでしたね──が山菜定食を食べていたり、何人かがこそこそと監視カメラを探しているらしき動きをしているのは気付いていました。

 早くも気付いた人間がいるクラスなら退屈なこの学校生活の遊び相手にはちょうどいいと考えていた当時の自分を怒鳴りつけたい気持ちでいっぱいです。

 

 戸塚君を御しきれていない葛城君を嗤っている場合ではありませんでした。私が自分の派閥の人間だけにSシステムの真実を共有して、派閥争いを有利に進めようと思っていたころ、彼らは既に2クラスをまとめ上げていました。

 

 お友達になってくれた神室さんや鬼頭君、橋本君も衝撃を受けてあの山村さんでさえ無表情が崩れていたのは流石に胸にくるものがあります。

 

 ……悔しいですが橋本君は内心私たちを見限っているでしょう。鬼頭君はまだ大丈夫でしょうが、いずれ橋本君は私たちを裏切る、それは確実です。彼自身見抜かれていることは理解しているでしょう。

 ですがA・Dクラスのことを探る間。彼は新たな雇い主との繋がりを、私は敵を、お互いがそれを見つけるまでの間は共闘が可能です。

 

 クラスポイントから考えてもこれを主導したのは上に立っているAクラスではなく、譲渡を決定したDクラスの方ですね。

 橋本君と神室さんにDクラスの情報収集をお願いしたところ、その日の晩のうち、予想外にあっさりとDクラスの内情は分かりました。

 

 

 Dクラスに力で押さえつける暴君が誕生していたようです。鬼塚英輔。Cクラスと同じタイプのお猿さん……これは違うでしょう。1年寮のロビーで番犬のようなことをさせられていたはずです。

 

 小テストの成績もよかったという話はありましたがこんな暴力に頼るような男が開始数日で手を打つことはあり得ません。裏に誰かがいるはず──仮にXとでもしておきましょうか──とDクラスの名簿を見た時、私に天啓が下りました。

 

 

 

 

“綾小路清隆”

 

 

 

 

 間違いありません、鬼塚英輔の裏でA・Dクラスを操っているのは彼です。

 

 これは彼からの挑戦状。

 私はそう受け取りました。もっとも彼はまだ私を知らないでしょうが。

 

 

 いいでしょう。こんなに早く機会が訪れるとはおもいませんでしたが、これも運命。

 私があなたを救って差し上げます────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「姫さん、悪い。Dクラスのガードが一気に上がった。どうやら警戒されたようだ。調理準備室に集まってるのがわかったから廊下に張り付いてたんだが、高円寺っておかしな奴に絡まれた。」

 

「こっちも似たようなもの。櫛田って子から少しは聞き出せてるけど、色々気にしてる感じね。」

 

「ええ、構いませんよ。もう“彼”の正体は掴みました。次は葛城君の派閥を早急に解体していきます────なるべくクラスポイントを損なわない形で。中間テストは期待していますよ?中間テストが終わり次第CクラスをAクラスにぶつけます。彼ら程度では相手にならないでしょうが注意を引くぐらいはできるはずです。」

 

 

 

 数日で手を打ってくるとは流石は清隆君。

 会いに行く時が楽しみです。待っていてくださいね──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「テスト結果の発表前に一つ伝達事項がある。昨日DクラスからAクラスに1名が移籍したことによりDクラスは39人、Aクラスは41人になった。Bクラスに直接関係はないが、承知しておくように。」

 

 

 …………いくらなんでも早すぎませんか、清隆君。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 クソが、そういうことかよ。

 

 上級生どもはニヤニヤして苛立たせやがるし、シメるにしても相手になりそうなのはアルベルトぐらい。つまらねぇ学校だと思っていたが、坂上からの説明を聞いてようやく理解した。

 

「うはははは、Dクラスはゼロってそれはねーだろ。どんだけ底辺なんだよあいつら!」

 

 あいつは山脇だったか、ますます苛立たせやがる。

 

「底辺はてめぇだ。どう見てもBクラスとDクラスは繋がってるだろうが。じゃなきゃBクラスのポイントが説明付かねえ。」

 

「同感ですね。しかもポイントがほとんど減ってないということはほぼ初日にこのシステムに気付いたということでしょう。」

 

 あのメガネは金田とか言ったな。なかなか使えそうなやつだ。他は……まぁいい。場所は──教壇だな。似合わねーだろうがこの席よりマシだ。

 

「坂上、どけ。おいカスども。今日から俺がこのクラスの王だ。文句があるやつは相手してやるからかかってきやがれ。そして負けたやつは黙って従え。代わりにお前らをAクラスに連れて行ってやる。アルベルト、今日こそ覚悟しとけ。」

 

 うまいこと乗せられてるのは分かってる。だがおもしれえじゃねえか。やってやるよ。

 

 “Bad boy? ────O.K. The last chance. Show me your soul!”

 

「おい!まだ喧嘩するつもりかよ、ポイント下がるって今言われたばっかだろうが!」

 

「うるせえよ────おら、他にいるなら相手になってやる。かかってこい。」

 

 時任の腹に一発くれてやって黙らせる。いつもは止めにくるアルベルトが今回は傍観……上等だ。今日こそ認めさせてやらぁ。

 とりあえずアルベルトの前に石崎と小宮に近藤、こいつは伊吹だったな。こいつら全員ブチのめしてやるよ────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中間テストで退学者が出なかったのはよかったが……移籍者……

 くっくっく、そういうことかよ。本気で8億貯めようとしてる奴がいるってことだ、しかも俺の遥か先……

 

 おもしれーじゃねえか。極上の相手だ。

 

 手始めに派閥争いで遊んでるとかいうBクラス。こいつらを食って、お前らのとこまで登ってやる。首洗ってまってやがれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 調理実習室。放課後と土日のほとんどを過ごし、既に連合第3の教室と言ってもいい私たちのホーム。

 

 鬼塚君が呼び出した先生たちは今や完全に固まってしまっていた。

 いくら()()()()()()()()()()があると言っても昨日の集会の内容はまだ確認できていなかったのだろう。

 

 

 昨日の集会で鬼塚君が全員に提案したのは全国模試に参加するかどうかという話だった。

 

 この学校のレベルはあまり高くないので、実際に受験すると進学校としてはあまり良くない結果にはなるだろうとも言われた。

 

 一つ受けるごとに1人あたり5000ポイント程度かかるかもしれないという予想には少し悩んだけれど「全国での自分のレベルを知るにはいい機会だ」という言葉と、「まだ高校になって2か月、そして科目も国数英だけなので極端に悪い結果にもならないだろう」という言葉に後押しされて全員がやる気になった。

 

 私もAクラスで少し舞い上がっていた部分がある。鬼塚君や高円寺君、綾小路君のような明らかに学力が隔絶した相手が同学年にいる以上、そろそろ自分の本当の実力を知っておきたい。

 

「どうされました?模試は基本的に外部会場か各自の学校でしか受けられないので、外部に出られない我々が受験できるかどうかをお伺いしたいのですが。」

 

「え、ええ。そうだよね、模試だよね。うん、ちょっと私たちじゃすぐに回答は出来ないかな。学校で相談してみないと……。ほら、業者との調整も必要だし。」

 

 

 

 ああ、この学校は本当に鬼塚君の言う通りなんだな。少し醒めた自分に気付く。

 

 相当に焦っている。結局のところ星之宮先生も汚い大人の一員ということなのだろう。

 一応対応はしてくれるようだけれど、これまで考えたこともなかったというのがよくわかる反応だ。どちらかというと信頼していた相手だけに、信じていた自分が嫌になる。

 

 茶柱先生なんてさっきからずっと黙ったまま。Dクラスのみんなから散々な評判は聞いていたけど、火のないところに──ってやつだね。

 

 私たちが信頼できるのはお互いだけ。何度目かわからないけど身に染みてわかった。鬼塚君に頼りきりのままじゃだめだ。私ももっとしっかりしなくちゃ、みんなを守れない。

 

 ふと目線を向けると神崎君も同じ考えなのが伝わった。目だけでお互いのことがわかるって本当にあったんだね。場違いながらそんなことを考えた。

 

 

「確認いただけるのであれば、併せて三つほどお伺いしたいことがあります。

 

 受験料はプライベートポイントで支払いができるのか。

 それとも一部学校のように学校が負担していただけるのか?この受験料の扱いについてが一つ。

 

 もう一つは、実力の高さを示した生徒がいた場合、部活動での活躍と同様に

 報酬としてプライベートポイントやクラスポイントを受け取ることが可能でしょうか?

 

 最後に、模試結果に応じた結果分析書が届くはずですがこの結果は外部との通信ではない

 ものとして我々の手元にちゃんと届けていただけるのか。以上三点です。」

 

 

「えっ、受験料?通信っ!?あっ報酬もだね。うんそうだね、わかった確認しておくよ。」

 

 

 混乱しているね。ここは今はじめて鬼塚君が切り出した観点。心の準備ができていた私たちは普通に受け止めることができているけれど、不意を突かれた形の先生は理解が遅れているようだ。

 最初は真剣な目で先生を見ていたみんなも察したのだろう。大半が私と同じように醒めてきている。星之宮先生たちが急ぎ足で立ち去った後も、みんな据わった眼をしていた。

 

「とりあえず懸案事項は今伝えた通りだ。学校の判断次第ではタダで受けられるし、認められない可能性もある。その場合は問題だけ買えるか打診してみよう。以上だ。」

 

 私たちは自分で自分たちを救わなければいけない。ここはそういう場所だ。

 

 

 

 

 

 仲間意識は今まで以上に深くなった。

 

 

 




 ネタバレしてしまいそうなので返信は控えていますが感想は全て楽しく読ませていただいており、いつも励みにしております。

 WR関係をバラしてしまってよかったのかという点を疑問に思われた方もおられるでしょうが、その理由には調理実習室での話を聞いているのは連合メンバー“だけではない”という点、そして詳しくは大分先になりますがアンケート内容、冒頭引用文が関係しています。

 ちなみに「高1全国模試」は駿〇の、「高1総合学力テスト」は進〇のを想定しています。
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