ようこそハイスコア狙いの教室へ 作:茶漬生活
“アンパンマンはすごいな。自分が何のために生まれてきたのか知っている。”
“それいけ! アンパンマン かがやけ! クルンといのちの星”
船でのセッションデート以降ますます彼の喉仏や胸板、腕に浮かぶ血管に目が行ってしまうことが増えた。はしたないと思われたくなくて目を逸らすけど気付いたら見入ってしまっている……
最近わかったけど英輔君は大分押しに弱い。
頼ってくる相手を突き離せないし、同じ時間を共有した相手を大事にするタイプだ。
外村君達との関係なんかがまさにそれ。
最近は大分わたしのことを意識してくれているし、このまま彼の隣に居ついていればなし崩しで大事な人の枠には入れるだろう。
あとはそこからどうやって関係を深めていくかだけど……
デートに誘ったら警戒しちゃいそうだし、外村君たちが遊んでるところに混ざるのがいいかな。
なにか切っ掛けがあればいいんだけど……そういえば伊集院君が椎名さんと仲良かったっけ。
そっちから攻めてみようかな。あと英輔君の台詞って漫画とかアニメの引用みたいだし色々調べてみよう――――
朝からちょうど始まってしまった。今月は予想より少し早い。
今月頭に坂柳さんが暴露した英輔君の事情はわたしの予想を裏切るものだった。
それに聞き出したところじゃ彼は一人っ子。
なら彼が謝ってる隆幸という子は……きっとそういう事だ。
とうさんと言うのも彼の父親のことじゃない。
……流石に子持ちだとは思わなかったな。
わたしたちは行為だけじゃなくもうそういう事が出来る身体。
毎月のこれもただ辛いだけのものじゃない……小学校の頃から何度も教えられたけど一度も実感したことはなかった。
実際に同年代でそういう人がいてもおかしくないし、それが彼でも不思議はなかった。ただ私が子供だっただけ。
今月のは少し重い。気分が落ち込む……違う。これは嫉妬だ。
中学の頃のあの子たちは唯々めんどくさい人たちだと思っていたけど実際に自分がなってみると本当に辛い……クラスに菜穂さんが居たら嫌がらせぐらいしていたかもしれない。
泣いちゃダメだ。そういう彼を好きになったんだから受け入れないと。
その方がいい……そんな簡単に諦められる相手じゃないんだから。
でも今日だけは顔を合わせたくないな――――
裏切者が平田君と軽井沢さんだった。
みんなは平田君の方に驚いていたけど私は逆に軽井沢さんの方が意外だった。
平田君は元から優等生っぽくないというか、自分の意思が弱くてどちらかと言うと人の言いなりになりそうな印象だ。
一方で軽井沢さんは普段の態度以上に芯が強そうなところがあって、最低限のモラルは持っていると思っていた。
平田君に巻き込まれた方なんじゃないかと思っていたけど英輔君の説明によるとその通りだったらしい。
……それより不満なことが二つ。
今回のことも絶対櫛田さんは知っていた。
最近櫛田さんは明らかに様子が変わって、櫛田さんと英輔君の距離がやたらと近いし。
聞いた話じゃ彼の部屋でお泊り会をやったらしい……おかしいでしょ!
櫛田さんだけじゃなかったみたいだけど、わたしの気持ち知ってるくせに。
……わたしより櫛田さんの方がいいんだろうか。
そんなわけがないのに弱気な思考が浮かんでしまう……
でも実際、櫛田さんは強敵だ。英輔も櫛田さん自身もきっとまだ気付いてないから、それまでに勝負付けないと――――
10月一杯かけてひよりちゃんとも大分仲良くなれた気がする。早々に狙いを見抜かれたのはびっくりしたけど、ひよりちゃんもオタクグループに合流するのに乗り気だし、かえって良かったかもしれない。
2人で合流しようにも外村君だけ相手がいないと英輔君が嫌がりそうだし、ぐずぐずしてるとひよりちゃんはこのまま私抜きで距離を詰めてしまいそうだし……最近は外村君も結構人気出てきてるんだけど、絶対外村君がいいって子もあんまりいないからどうしようかな、と思っていたところで英輔君から呼び出された。
「千秋、今月末Aクラスに移籍しないか?」
ふーん。そういうこというんだ?
櫛田さんと仲良くなった翌月に持ち掛けてくるとかわたしが邪魔だとでも言いたいわけ?
絶対離れてあげない。
……なんでわたしが怒ってるかわかってないんだろうな。鈍感。
文化の日を挟んで数日、やっと英輔君が謝ってきた。ちょっと気分がいい。
……遅いよばか。ずっと待ってたのに。
「最近櫛田さんと仲いいよね。お泊り会したんだって?」
ちょっと意地悪かな。でもどこに怒ってるかはわかってほしい。
「-すまない。千秋への配慮が足りてなかった。」
「わかったならよろしい。」
ほっとした顔をしてる。そういうところほんとズルい。
惚れた方が負けって本当だね。
「それでわたしはいつ招待してくれるの?」
「は? ……」
「櫛田さんや一之瀬さん、堀北さん、神室さんはいいのにわたしはダメなの?」
ちょっとあざといけど折角のタイミングだしこのぐらいしないと。
「……わかった。土曜の講座が終わった後でどうだ?」
「お誘いありがとう♪ 下着の好みとかあれば聞くよ?」
「見せようとした瞬間追い出すぞ。」
わかってるよ。冗談冗談。
待ちに待った土曜日。
部屋の隅にまだ結構な量の段ボールやコンテナボックスが積みあがっていたけど、絨毯や高そうなソファーや複数あるパソコンも含めて最初から持ち込んだものだろう。
部屋に後付けで鍵を付けていたのも驚いた。本当に事前準備が違い過ぎる。
でも窓ガラスを段ボールで目張りしてあるのは流石にやりすぎだと思う。
外村君達とプロジェクターで上映会やるとか言ってたし、暗室にしたかったんだろうけど……はっ――!?
あれってもしかして……不満がまた一つ増えた。
後で問い詰めよう。
「お招きいただきありがとうございます。これつまらないものですが。」
ケヤキモールで買ってきたシュークリームだ。
「これはご丁寧に。まぁ綺麗な部屋ではないが上がってくれ。
あと手土産なんて気にしなくていいぞ。博士達だって持ってこないしな。
特に女子は物入りだろう。」
ちゃんと掃除もされてるし、換気はしっかりしているみたいだ……本がそこら中に散らばってるひよりちゃんの部屋とは大違い。
「早速いただくか。飲み物は紅茶だよな?」
「さっすが。お砂糖はなくていいよ。」
さて、クッションが二つ置いてあるからそこに座れってことなんだろうけど……
うん、こっちの方がいいね――――
戻ってきてすぐため息つくとか酷くない?
「クッション置いてただろ。」
「せっかくソファがあるんだから座りたいじゃない?」
「ならクッション返せ。」
「えー。隣空いてるんだからここでいいじゃない。ほらほら。」
返したらそっちに座っちゃうじゃない。またため息ついてる。
でも結局隣に座ってくれたから許す! あれ? これって。
「いただきます。ありがとな千秋。」
「いただきます。このスイートポテトって自作?」
むぅ……女子力で負けた気がする。
わたしも自作してきた方がよかったかもしれない。
「鳴門金時が安かったからな。博士たちが来る時にもたまに作る。
あいつら甘いの好きだしな。」
その後、お菓子作りのレパートリーや外村君達と普段何してるのかとかで盛り上がった。
だけど、徹夜でアニメ視聴するのは流石にどうかと思うよ……
グループ入りするかひよりちゃんともう一度話し合った方がいいかもしれない。
「ところで一個聞いていいかな?」
「なんだ?」
「あのコンテナから見えてるのいかがわしいグッズだよね。
そっちの趣味があったの? ちゃんと答えてね。」
英輔君の顔が凍り付いた。
一気に冷や汗をかいている。
……まさかの特殊性癖。
英輔君のことなら大抵は受け入れる気でいたけど、流石にこれはちょっと抵抗がある。
「……待て千秋。お前は重大な誤解をしている。」
「誤解も何もないでしょ! あんなもの使い道一つしかないじゃない!」
「違う! あれは坂柳対策…っ、」
「坂柳さんに使うつもりだったの!? 何考えてるの!?」
頭に血が上る。
最近、随分坂柳さんのこと気にしてると思ったらそういうことだったの!?
そういうことがしたいなら私がいるでしょ。
「待て千秋! ときに落ち着け! ちゃんと説明させてくれ。
坂柳が得意なチェスでCPや退学を賭けて挑んできた用の対策だ。
もう必要なくなった。信じてくれ。」
「チェスに大人のおもちゃがどう関係するのよ!?
言い訳するならもっとマシな言い訳をしてよ!!」
英輔君の必死の説明によるとStockfish、DroidFishとかいうチェスアプリを使って外村君達が強い手を探索、オモチャの振動でその手を伝えて勝つなんて言うズルを考えていたらしい。
……話の筋は通ってるし、その手が有効なのも分かる。
手が進めばすぐバレるだろうけど、証拠を握るのが彼女には困難だし。
説明の必死さからしても言ってることは多分本当……でも
この男、頭おかしいんじゃないだろうか?
いくら坂柳さんがポンコツだからと言って、たかがチェスの勝敗にクラスの運命や退学を賭けたりするような子には思えない。
そんなものに対策なんて要らないでしょ。
はぁ、なんでこんな人好きになっちゃったんだろ……
英輔君がすごい焦って仮面が緩んでるみたいだし、そろそろ本題を切り出そうかな。
もう一つの不満。
「ねぇ英輔君。ついでにひとつ言っておきたいことがあるんだけど。」
「……なんだ?」
そんな警戒しなくても襲ったりしないよ。まだね。
「英輔君が退学したら私もここ辞めるからね?」
どこで気付かれたんでしょうね。
千秋をしっかり拒絶しておくべきだった。さっきの誤解をそのままにしておいた方が……
いや、千秋が気付いたなら六助も気付いてますね。
何も言ってこないのは不干渉なのか止める気なのか……最悪だな。
「……こっちは否定してくれないんだね。」
「別に退学したいわけじゃない。その可能性があるってだけだ。」
「そうなんだ。でも撤回しないよ。」
自分を盾にして来るとはやっかいな……
原作佐倉はブログ更新してることからしてもグラドル辞める気がないのは明らかですし、一番人気が出やすい黄金期に活動休止なんてキャリアプラン棒に振ってるようなものなので、正直退学した方が幸せだと思ってましたが、千秋はなぁ……
そういえばそろそろ佐倉にもちゃんと将来踏まえてどうするか聞いておかなきゃいかんですね。
「クラス内投票」や「学年末試験」なんて後を濁さず退学できる絶好の機会の直前でいきなり話振られても困るでしょうし。
佐倉次第ですが白波も一緒に聞かせた方がいいでしょうかね。
しかし、千秋はどうするかな。
退学しても清隆がいれば講座は何とかなるし、まともになり始めた3担任や六助も手伝ってくれると思ってましたが、千秋を巻き添えにするなら……いや、
やりたいこととやるべきことが一致して
なんとか千秋を思いとどまらせる方向を探しましょうか。いや、どっちにしろ問題ないか。
「一応考えておく。ところでいつ気付いた。」
「選挙の後……だよね? あれから時々そんな顔してる。」
は? ……姿見は……ははっ、なるほどね。見抜かれるわけだ。
即バレとか所詮レアリティNの凡人ってことだな。やっぱ隠し事は向いてない。
「千秋はすごいな。」
「ずっと見てるからね。寝てるときずっと謝ってるのも気付いてないでしょ。」
「……無人島と船か。」
道理でみんな変な顔をしてたわけだ。ボロ出し過ぎだ。
……夢で謝る相手も鬼塚の両親じゃないな、あの二人にそこまでの感傷を持てない。
千秋はどこまで気付いている……
「……昔のこと忘れなくていいけど、自分の幸せも考えてほしいな。」
忘れられないんだよ千秋。
オレを買いかぶりすぎだ。オレは俺の幸せしか考えてない。
こんなクズに引っかかってないでちゃんとした相手を探してくれ。
六助とか分かりにくいだけで無茶苦茶大人だし、スリルには事欠かないぞ。
絶対お前を守ってくれるしな。
「悪いがそろそろ帰ってくれないか。」
「一人にはできないよ。」
「一人にしてくれと言ってるんだ。」
「ダメだよ。」
……こういうところが女は狡い。俺はなにも成長できていない。
英輔君のチェス対策は2020年時点だとまだバレてないんですよね。
これも一種の未来知識チート。
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NASごと書き溜めが吹っ飛びました……ある程度書きなおせたので2学期は何とかなるはず。