ようこそハイスコア狙いの教室へ 作:茶漬生活
“Hiéron ſe défit de ſes amis & de ſes ſoldats qui l'avaient aidé à l'exécution de ſes deffeins; il lia de nouvelles amitiés, & il leva d'autres troupes.”
ヒエロン2世は目的達成の過程で彼を助けてくれた友と兵士達を廃し、新たな友人を作って異なる部隊を立ち上げた。
Friedrich II "Friedrich der Große"(1712-1786)“
イカロスの影を踏むゲーム。はーじまーるよー。
前回クソゲーオブザイヤー2021の選評を書いたわけですが、これを前提として原作のとある生徒を見ていきましょう。
憎悪のホワイトルーム生・八神拓也。
2年生編7巻で退学してしまいましたが、彼の行動は謎だらけです。
まず彼の行動を見ていきましょう。
一般的に、彼の経歴はこのようなものとされています。
〇ホワイトルームで育ち、綾小路を退学させるためにパパ小路の指示で高育に入学。
〇ペア試験では櫛田と組んで取り入ることを優先して、綾小路退学計画をスルー。
〇生徒会に入り、書記として堀北とチャットアプリの連絡先を交換。
〇第2回特別試験で波多野を嵌めて退学に追い込んでその罪を宝泉に着せる。
〇これを利用して宇都宮・椿と宝泉の間に離間工作を仕掛ける。
〇無人島サバイバル4日目早朝にGPSを壊して容疑を外した上で小宮と木下を突き落とす。
〇5日目には「高橋・宇都宮・椿・宝泉に秘密を喋ってしまった」と櫛田に嘘を吹き込む。
〇6日目にはF9のビーチに1年代表の1人として集合。
〇高橋が席を外したタイミングで宇都宮・椿に櫛田の秘密を白状させられる。
〇7日目に綾小路を尾行させて七瀬との戦いを撮らせようとするも天沢に妨害される。
〇12日目にはGPSの故障を言い訳に宇都宮グループから離れて単独行動。
〇13日目には椿の綾小路退学作戦に綾小路テーブルのタブレットを持参。
〇椿のやり方に口出しをして椿に嫌われる。
〇14日目朝、堀北のテントに綾小路が退学させられることを示唆した紙を放り込む。
〇満場一致試験では、櫛田を唆して堀北をリーダーにさせ、櫛田に反対票を入れ続けさせた。
〇試験終了後は居留守で櫛田を避ける。
〇文化祭で綾小路退学計画のことを噂として流し、南雲宛てのラブレターを盗み見る。
〇堀北のいる生徒会室に呼び出され伊吹に取り押さえられる。
〇そして、そのまま南雲や龍園たちに過去の事を暴かれて綾小路を殺しに行こうと暴れた。
〇ホワイトルーム関係者が迎えに来て退学。ホワイトルームに連れ戻された。
八神のやっている行動に一貫性がありませんが、これほんとにあってるんですかね?
彼の退学シーンを見てみましょう。
文化祭の裏、生徒会室で断罪された際に、来賓たちが彼を連れ去っていきました――――おかしくないですか?
生徒会室という開放していないエリアに、部外者が雪崩込んできて生徒を連れて行った?
国立機関とはいえ「法人」である以上、立派な不法侵入です。
警察ですら令状がないとやれない行動ですね。
パパ柳体制に戻っているはずですよね?
ましてや人目がある場所で強行した? 立派な誘拐です。
ホワイトルームの被害者という意味で八神は綾小路と同じ立場のはずなんですが、人格者な理事長さんはどうして八神を助けようとしないんですかね?
2年生編5巻。パパ柳は来賓についてこのようなことを言っています。
『異例の文化祭、政府関係者とその家族が招待されているらしいことは耳に届いているね? 働きかけをしてしまった以上、止めることは僕にも出来なかった』
0巻、パパ小路の政界追放後にパーティで神崎たちと会ったのはパパ柳が高育を継ぐ前。
これはパパ柳が高育を継いだのが7年ほど前の話なので、20年弱の議員歴があろうと、現時点でパパ小路は政府関係者どころか、無職歴7年以上―――完全に過去の人です。
この乱入者の主はパパ小路ではあり得ませんね。
先ほどまで手の付けられなかった八神くんが突如として震えだす。
「な、なんであなたたちがここに……? な、なんで……」
「生徒会室にまで
僅か少し前まで殺気立っていた八神くんは、気が付けば子供のようにしぼんでいる。
「八神、天沢の関係者です。この場は我々が納めますのでどうぞ治療されてください。それからここでのことは先生方、そして生徒も他言無用でお願いします。全て坂柳理事長には話を通させていただきますのでご安心を」
「……分かりました」
これは乱入者があらわれた直後の描写です。
この電話をかけて乱入者を送り込んだ人間は誰だったんでしょうか?
これを解く上で重要なことがあります。
真嶋と坂上が「坂柳理事長には話を通す」と言われて素直に引き下がっていますよね?
学校内部の事件を「自分たちが処理する」と来賓に言われて教師がなんで引き下がるんです?
八神の反応から二人の知り合いだと察し、八神の退学が確実だったにしても、退学手続きが終わるまでは間違いなく高育の生徒であり、「外部と接触をさせない」という高育のルールからして預けるのは論外です。
ましてや暴れていた八神が震えて萎縮するような相手。
客観的に考えれば八神を虐待している相手であり、八神がこうなるような環境で育てた人間でしょう。
もっと言えば、曲がりなりにも教師であるなら「関係者を名乗っただけの相手に子供を引き渡した」場合に起きる
仮にも教員免許を持っているなら、いくら政府関係者が相手と言っても、部外者の話を鵜呑みにして児童・生徒の身柄を預けてはいけないことぐらい分かっているはずです。
この二人はそこまで無責任でも腐ってもいません。
しかし、八神と天沢に関係の確認すらしていませんね?
「坂柳理事長とは話を通す」という言い分をあっさり信用しています。
つまり、この乱入者の中には担任二人と面識のある上位の学校関係者がいたということです。
要はこいつらはパパ柳の駒で、電話をしたのもパパ柳です。
八神がやらかしたので急遽お持ち帰りさせたということです。
体育祭で寮をガードしていた連中と同じでしょうね。
なんでそんなタイミングよく電話を掛けられたんだよ!と思うでしょうが、生徒会室はほぼ間違いなく盗聴されています。
根拠は櫛田です。
9巻で坂柳が南雲から一之瀬の過去を聞きだしたとき、生徒会室には二人しかいませんでした。
そして、坂柳が退室するのと入れ違いで櫛田が入っていきましたよね?
つまり櫛田と南雲の会話内容を知っているのは二人が誰かに話していない限り、南雲と櫛田だけのはずです。櫛田が話すわけはないですね。
「たとえばそうだなぁ。南雲生徒会長に取り入ろうとしたみたいだけど、門前払い食らった話とか。ま、仮に上手くいってたとしても堀北先輩が生徒会に入った以上、櫛田先輩には後ろ盾を期待することはできなくなったわけだけど」
無人島サバイバルで天沢がこの会話内容を知っています。
月城が高育上層部から引き出したデータを共有されていたにしても、この密談の内容が記録されているということは高育がこの会話内容を把握していないとおかしいです。
高育は元々こういう場所で、生徒会室も例外ではないということです。
一応もう一つの可能性はありますが。
生徒会室で盗聴器発見器に反応はなかったので有線式ってところですかね?
翔が有栖ちゃんの有利に動こうとしているとパパ柳に伝えるためにも都合がいいので、英輔君の部屋のように金属探知機使って壁を掘りまではしていないですが、夏休みに生徒会室の工事していたのはこれのメンテでしょう。
葛城妹の誕生日プレゼント関係で、綾小路と兄北がヤバ目の会話をしていましたが、協力していたらそれはそれで不味かったわけですね。
そして、無人島サバイバルの時の流れを見れば分かる通り、1年生に「強力な4人グループ」を組むという一番の愚策を推したのは
月城と組んでいるはずである以上、無人島での大グループ形成が容易だということを聞いている方が自然だというのに……実際、5日目時点で「
彼がヌケサクでなければ、意図的に1年全体を不利に追い込んだことになります。
あれれ~? おっかしいぞ~。
八神の誘導のおかげで1年はぶっちぎりで不利になり、大グループ人数解放の課題を狙う意味も消失しました。2年と3年はライバルが減って大グループを作るのがますます楽になりましたね。
そして1年に対しても宇都宮クラスの波多野を退学させ、その罪を宝泉に擦り付けています。
過去の秘密と綾小路への執着を使って優秀な櫛田をグループから離脱させたりもしていますね。ついでに櫛田の秘密を知ったという濡れ衣を着せてヘイトを高橋・宇都宮・椿・宝泉に向けています。
龍園クラスの小宮と木下を襲撃した疑惑が掛かっており、南雲たち3年生に対しても綾小路退学試験のことを噂として広めた疑惑が掛かっていましたね。
全方位に火をつけて回っているように見える八神ですが、一切手を出していないクラスが存在しています。
「龍園くんが手を貸すのは自然な話ですが、私にはメリットがありません。強いて言えば2年生のクラスポイントが他学年に流れることを防ぐというところですが、正直Aクラスに損害がないのなら気にするほどではないと考えています。」
そう、坂柳クラスとその同盟相手になった一之瀬クラスです。
月城曰く、ホワイトルーム生を入学させることを決めたのは月城の
行動を見る限り「憎悪のホワイトルーム生」八神拓也はパパ柳の駒です。
八神拓也が命令を聞く相手は月城ではなくパパ柳。
そして、パパ柳にとって八神は失敗すれば捨てても構わない
娘以外は人間じゃないってことですかね? 大した人格者があったものです。
綾小路は無条件でパパ柳を信用していますが、完全に騙されています。
そして、無人島サバイバルの最後で月城はこういったことを発言しています。
「最後に1つ聞かせてください月城理事長代理。あなたは本気でオレを退学させようとしていたんですか? 確かに強い制約はあったと思いますが、もしオレがあなたの立場なら、もっと確実な方法を用意して実行しました」
目の前の男はそれを思いつかないほど愚かな存在だとは思えない。
「買いかぶりすぎですよ。私は
一つ分かったのは、やはり月城という男はまだ底を見せていないということ。
今の言葉に嘘偽りがあったかどうかは不明だが、
この無人島サバイバルの内容も月城が考えたものではないと説明されています。
2年生編8巻や0巻の内容からパパ小路が綾小路を高育に入れたのはパパ小路の狙い通りなので、綾小路を連れ戻すつもりがないのは明らかです。
そして、これまで語ってきた通り、あらゆる描写が月城の上はパパ柳だと示しています。
綾小路を退学させようとしていたのはパパ柳。
月城はそれに従いつつも手を抜いているということです。
一度は入学を許したはずのパパ柳の変節の理由は何か?
綾小路をDクラスに配属した際、パパ柳は茶柱に対して「綾小路を使うな」と指示していたらしいですね。
そう、綾小路が動き始めたことによる堀北クラスの大躍進と坂柳のピンチです。
原因を元から断とうとしたわけです。2年目の体育祭でも綾小路に欠場するよう促していましたよね。
綾小路をAクラスに動かした方が盤石になるのにそれをしないのは坂柳がリーダーから落ちて挫折するのを気にしているからでしょうね。
綾小路から電話がかかってきたときは「バカ親子が揃って自分から騙されに来てるよ」と内心笑いが止まらなかったでしょう。
ヒトガミみたいなやっちゃな……
そして文化祭。
「生徒会室にまで迎えに来るように電話を受けた。
この乱入者達は何らかの予定が狂って八神を迎えることになったが、元々は少し違う形で迎えに来る予定だったということを言っています。
予定と違った点はなんだったんでしょうか?
元々八神を別の場所で拉致する計画だったということでしょうか?
ここで断罪が行われることを知っていたとかでなければ理由が浮かびませんね。
しかし、知っていたなら知っていたで、もっと前に攫っておけば学校としても醜態を犯さずに済みました。
八神が嵌められることを知っていたのは綾小路、石上、宇都宮、椿だけの
この中で乱入者に指示を出せるのはパパ柳と繋がっていると思われる石上ぐらいですが、彼はこの後の宇都宮の携帯を通した通話で分かる通り、そもそも八神が退学まで追い詰められるという全貌を知りません。
石上の指示で動いていた
つまりこれは違う。
逆に考えてみましょう。
八神以外の
生徒会室に居たのは最初からいた堀北・八神・伊吹、そして後から来た南雲、龍園・小宮・木下、真嶋・坂上、そして直前に現れた天沢―――タイミングからして天沢は違います。実際に迎えられてませんし。
これも無理筋――――ではありません、
八神・天沢以外に考えられる人物がもう一人います。
実際には居ませんでしたが「来ると想定されていた人物」が居ましたよね。
「あっはっは! やっぱり綾小路先輩がきていたんですね! 嬉しいなあ!」
そう綾小路です。
ここに綾小路が来ると考えていたのはラブレターを解いた八神だけのはず。
他にいたとしても、南雲からラブレターを見せてもらってアナグラムを解けた人間だけですね。
ですが八神がパパ柳の駒だという条件が加われば話が変わります。
パパ柳は八神から綾小路がここに来ると聞いて、ここで綾小路を排除しようと企み、計画が失敗したため、余計なことを言われる前に八神を連れ帰らせたわけです。
そして、2年生編1巻の月城と綾小路の会話を見てましょう。
「ホワイトルーム生独特の気配は一切感じられなかった。綺麗に匂いを消しましたね。」
「この数か月、カリキュラムとして高校生になりきることに取り組んでいたようですので」
事前に念入りな手を打っていたか。まあそうでなければ、話にもならないわけだが。
「それに引き換え、君は入学当初は随分と苦労したようだ。言葉遣いや態度、考え方、過ごし方。そのどれにも多くの不自然さがあった」
まるで傍で見たかのように、月城はおかしそうに笑う。
それは単なるからかいのように見えて、全てを掌握していることをアピールしている。
月城が綾小路にお前のことは全て把握していると伝えたシーン――――ではありません。
「この学校内はどうか知りませんが、君はけしてナンバー1じゃない。後発であるホワイトルーム生には、既に同等、あるいはそれ以上の生徒が何人も誕生しているんです。量産型の1人に過ぎないことを自覚すべきだ」
綾小路は1年かけてkonozama、一方で八神は数か月で高校生になりきっています。
月城の発言は「八神は部分的にお前より優れているぞ」と言う
2年生編4.5巻で「自分を優先しない方がおかしい」と考えているなどに代表される通り、この頃の綾小路は既に「普通の高校生」を見下しています。
だから、その分野で自分より高い能力を示した者がいると言われても、裏の意味を考えてそちらにハマり込む。
原作綾小路には自分を過大評価して他人を見下し、常に裏の意味を考えてしまい、表の意味や裏の裏を見落として騙されるという誰かさんと非常によく似た悪癖があります。血は争えませんね。
そして、この発言の裏の裏、つまり表の意味を深く考えてみましょう。
綾小路は徹頭徹尾、理解しがたい子供として描かれています。
一方で八神はどうでしょうか?
高い能力を持っているが故に他人を見下し攻撃的な性格、比較され続けた劣等感の裏返しになった憎悪の感情、あるべき場所に対する依存心――――
これの何が問題なんですかね?
ホワイトルーム生は感情面に問題を抱えているということですが、ホワイトルーム生でなくてもこの程度であれば世の中にいくらでもいます。
エジソンなんて典型例ですし、SNSや掲示板を覗いてみればダースどころか大グロス単位で見かけますよ。
英輔君だって表には出しませんが馬鹿じゃねーのと思う相手は思いっきり見下します。
六助や清隆、有栖ちゃんやひより、博士や航、春樹を始めとしたみんなに劣等感を持ってますし、自分より才能や環境に恵まれた相手を憎く思います。
あるべき場所に帰りたいという気持ちも非常によく分かります。
実行に移すのはいかがなものかとは思いますが、ここは元々そういう場所です。
高育で言えば坂柳や初期北を見てください。
八神程度で問題を抱えている判定なら、坂柳は人格破綻者ですし、初期北は取り繕うことすら出来ない社会不適合者です。
どちらもちょっと歪んでいるだけで普通の子だと思いますが。
ついでに言えば綾小路も自己愛が強いだけで、一之瀬のためにI2に向かうなど善性のようなものは見えています。
というか他人を罠にかけて蹴落とし、脅迫し、罪を他人に被せて自分は外面を装う八神の行動は高育の求める生徒像そのものであり、この高校に染まった不正役人やチンピラが目指す理想形です。
この二人との違いは八神が優れていたため、入学直後に
客観的に見て、八神は入学時点で能力が高くコンプレックスを抱えただけのごく一般的な高校生になっています。
ホワイトルーム生が抱えているはずの問題がほとんど解消されていますね。
ホワイトルームは問題を解決済みということでしょうか?
5期生の時点でこの結果が出せているなら、月城は問題を抱えているなんて言い方はしないですし、0巻にはホワイトルームで感情に問題を抱えて壊れた子供の実例が出てきますがこんなものではありませんでした。
4期生はβカリキュラムなので環境が大分違いますし、雪にトドメを刺したのは綾小路ですが。
ホワイトルームには数か月で八神のように普通の子供にできる機能はないはずです。
ましてや外に一切出ずVRで学べることに限界があるというのは綾小路自身がはっきり示しています。
しかし、八神は実際に比較的普通の子供になっている。
つまり、
これが月城の発言の裏の裏です。綾小路はスルーしていますが。
「いいさ。今から、今からアイツを、アイツをこの手でぶっ殺せばいいんだろ! そうすれば僕はあるべき場所に帰れるはずなんだ! 道連れにしてやる!!」
これは八神が断罪されて暴れる瞬間の発言ですが、本音が出ていますね。
そしてこの直後にこんな発言をしています。
「そんなことはない! 先生たちが待ってるんだ! 僕は、僕は一番になるんだ!」
先生、とは誰のことなのだろう?
これは乱入者が現れる前の八神の台詞、そして堀北の疑問です。
なにかひっかかりませんか?
2年生編8巻で綾小路はこんなことを言っています。
「ホワイトルーム生であれば『綾小路
これはホワイトルームで育った者たちに共通する部分だ。
そして無人島サバイバル準備編に当たる2年生編2巻の冒頭。
「ホワイトルーム生の独白」=八神拓也の独白にはこのような記載があります。
そんな感情は、
ある日
八神はホワイトルームの指導員を「教官」と呼んでおり「先生」ではありません。
パパ小路も違う。
ホワイトルームには八神が「先生」と呼ぶ相手がいませんね?
つまり、八神が帰りたい「あるべき場所」は「ホワイトルーム」ではないということです。
では八神の「あるべき場所」とはどこなんでしょう。
実は八神の経歴上、明白に存在しているにも関わらず「ホワイトルーム生の独白」には一切出てこない場所があります。
「信頼できない語り手」の典型的な手法ですね。
ホワイトルームの一時凍結。
半年になるのか5年になるのか、その期間は今のところ目途が立たないが、こちらが一番困るのは表沙汰にされること。だが直江サイドも同じ考えであることは救いだろう。
何とかして闇から闇へと葬り去りたいとして、策略を巡らせていることは間違いない。
手配していた車が到着し、田淵が後部座席のドアを開く。
助手席に鴨川もゆっくりと乗り込んだ。
「田淵。手配の方は?」
「予定通り子供たちは一時的に買収した
児童養護施設――――
一般的に「先生たち」がいる場所ですね。
そしてこの田淵はパパ小路の感覚ですが「一番まともな感性を持っている」ため、研究者ではなく監視役に選ばれた人物で、いつの間にかパパ小路の腹心になっている人物です。
表に出られない経歴を持ち、金に困っている人間として、直江から紹介された人物にも関わらずまともな感性を持っているとは違和感がありますね。
この児童養護施設、本当にパパ小路のコントロール下にあるんでしょうか?
パパ小路は「一時的に買収」と言われて納得していますが、児童福祉施設は国・都道府県・市町村による公営か、都道府県の認可を受けて補助金で運営される実質公営機関なので会社のようにポンポン売買できるものではありません。
審査だってありますし、そもそも表に出られない立場の人間が交渉できる相手ではありません。
ホワイトルームが法人として企業理念を説明して法人格買収の認可申請してたら爆笑ものですし、前世だと東京都が変なコラボレーションやった例があるので絶対とは言えませんが。
そもそも児童福祉施設の入所者数は国や都道府県に把握されているので、突然何十人もの子供を雑にぶち込んだら「おかしい」と思われるでしょうに。
一か所ではなく分散して配分していると考えるべきです。
パパ小路が真面目に政治家の仕事をしていれば自分がデタラメで誤魔化されていると気付いたでしょうに……気付かないマヌケだから嵌められているわけですが。
シャブのキメすぎで判断力を失っているのかもしれませんね。
どちらかというと鴨川か田淵あたりに薬漬けにされたのかもしれませんが、自分が散々やってきたことですから自業自得というやつでしょうか?
正直ヤク中には嫌な記憶しかないので、そのままくたばっていただきたいものです。
話を戻すと0巻のこの描写は綾小路が14歳の頃。
「世間でいう中学2年生の課程を修了する歳」になっているので本編開始より半年~1年前の出来事です。綾小路自身も7巻12月時点でパパ小路との会話を1年半ぶりと語っていますね。
そして綾小路が入学するまでは間違いなく凍結されたまま。
パパ小路の発言によれば凍結1年後の12月時点でホワイトルームは再稼働したようですが、月城の発言によれば入学まで数か月、八神たちは普通の高校生になるカリキュラムを受けているそうです。
4月入学の数か月前なので12月時点で八神はホワイトルームに居ませんね。
もうわかりますよね?
八神は中学2年生なりたて相当でホワイトルームが凍結された後の約1年半から2年間、最も多感な時期にホワイトルームに戻る時間的猶予がほとんどないんですよ。
八神が叫んだ「あるべき場所」とは「児童養護施設」。
八神は綾小路と違って既にホワイトルームに見切りをつけ、「先生たち」がいる新しい「あるべき場所」を見つけています。
イカロスは綾小路ではなく八神の方です。
孫悟空の方が近い気がしますが。
そんな八神にとって一番の障害は? ホワイトルームですね。
では、パパ柳は?
いずれホワイトルームを潰す側の人間ですね。
しかもパパ小路と違って高育を出た後の保証をするだけの力がある人間です。
つまり憎悪の対象は「ホワイトルーム」そのもの。
八神が「ホワイトルームの最高傑作」を最悪殺してしまうのも一つの手段と考えていたのは、ホワイトルームを潰すただの手段。
そのためにパパ柳に協力していたわけです。
失敗して切り捨てられてしまいましたが。
ところで、なにか思い当たりませんか?
ホワイトルーム生の感情面を改善させる……
「そ、それじゃあ……あの、気になったんですが……乳幼児から子供を施設に預けて教育しようとする親がいるでしょうか。とても実現できる話には思えなくて……
それを聞いた直江先生は、
「もっともな疑問だ。おまえはその疑問に答えられるか? 綾小路」
新人には許されるかもしれない
一度呼吸を整え、俺は鴨川へと向き直った。
「そんなものはどうとでもなる。生まれた直後親に捨てられる子が、判明しているだけでも毎年数百人は存在する」
赤ん坊を調達することなど、造作もない。
「捨てられた子供が命の危機に晒されることもなく政府からの手厚い支援を受け、適切な教育を受けられる。高校や大学への進学も容易に可能にするプロジェクトです。」
パパ小路はここまで答えた上で、鴨川が提示した「間抜けな回答」の通り、大場組を使った児童誘拐なんて頭の悪い手法を選びました。
そんなことをしなくても子供を確保できる方法はちゃんと存在していると、自分で答えていたというのに。
それを一通り読み終えた後、深く考えることもなく坂柳は呟く。
「確かに日本では年間数百人の子供たちが捨てられています。その現実を受け入れているわけではありませんし、政治家の方が何とかしようとすることは悪いことではない。むしろ歓迎すべきことでしょう」
「共感していただけるということですね?」
「もちろん共感はします。しかし、これはまさに政府が議題として取り上げるべき問題であって、僕のような民間人には……失礼な言い方ですが関係のないことでは? 綾小路先生に是非この問題を取り上げていただき、対策に取り組んでいただければと思います」
(中略)
「しかし……それでも綾小路先生は議員です。国と向き合い国と戦うべき人だ。そもそも国としてこれを議題に取り上げず、どう進めるおつもりです?」
パパ柳も繰り返し正論を述べて、パパ小路が「
「力を持っていながらそれを使わないのは愚か者のすることだ」
正式名称がブラックルームだったら笑うぞ……
冒頭引用の反マキャヴェリ論を著した後のプロイセン王フリードリヒ2世と同名の、神聖ローマ皇帝フリードリヒ2世を始めとした何人かの権力者はホワイトルームに似た「とある実験」を行ったという記録がありますので、興味がある方は調べてみてください。結果の正確性は怪しいですが。
苦労してドイツ語版を探して該当部分を訳した後に、原著がフランス語だと気付いてちょっと泣きました。そりゃ探すのに苦労するわ……なにやってんだこの馬鹿は。
明日・明後日は投稿しません。