キミの瞳に恋してない 作: 龍也/星河琉
「まさか……あの人と家が隣同士だったとは……」
浦の星に行ってから数日後の朝。朝食を食べている時に、
ぼくは十千万の入口で雑草むしりをしながら、
途中までは優しく良い人だったものの、ぼくが女子校に侵入した不審者及び部外者、略して不審部外者であることを察した彼女の冷たい視線を送る眼差しが、どうも頭から離れないのだ。
なんだか養豚場のブタを見るような目だったような気がしてならない。このブタもいつか出荷されてしまうのね、可哀想だけど明日にはお肉屋さんの店先に並ぶ運命なのね、という哀れみを持った目だった。多分。ぼくの主観では。
いや、この主観がどうとかも、ぼくの個人的な望みに過ぎない。どうか不審部外者として見ないでくれ、という1ミクロの希望を彼女に押し付けているだけだ。
人間はつくづく、追い詰められるとエゴイストになるな。
「まぁ関わることないだろうし、どうでも良いか……」
そう呟いた途端だった。聞き覚えのある声を、後ろからかけられたのは。
「あっ……! あなた……!」
「はい? ……えッ」
鉢合わせ、と言った方が正しい。間違いなく、待ち合わせではない。
彼女は制服を着たまま、ぼくの後ろに立っていた。学校帰りだろうか。着の身着のまま、ここに来たという感じの出で立ちだ。
「え……あぁ、どうも……こんにちは……」
「本当にここで働いているのね。
「ぼくの名前……覚えててくれたんですね」
「覚えるわよ。名前と……出会ったシチュエーションが鮮烈過ぎて、忘れられる筈がないわよ」
「あはは……それはそうですね……」
まさか名前を覚えられているとは。今まで名前を覚えられることはおろか、東京にいた時は覚えてもらう人と知り合うことさえ少なかったからか、少し新鮮な気持ちだ。
なんか、自分で言ってて悲しくなってきた。
「先日はお騒がせしてすみませんでした……」
「別に何か迷惑を掛けた訳でもないし、私に謝る必要は無いと思うけど……でもあなた、周りの生徒からは浦の星の歴史に言い伝えられてる幽霊か何かだと思われてたみたいよ?」
「そんな風に思われてたんですか!? まぁ、無理もないか……」
ぼくの知り得ないところで、ぼくの存在が七不思議に仕立てあげられているな。
「一応言っときますけど、アレはただ千歌ちゃんにお弁当を届ける為に仕方なく着てただけですからね! 決してそういう趣味があるとかじゃないですからね!!」
好きでセーラーを着ているわけではない。ぼくはパーカーやスウェットが好きなんだ。百歩譲ってセーラーは水平服ならいいが、ワンピースなんて以ての外だ。
コスプレ趣味、というか、女の子が着るような服を好き好んで着る趣味ではないことを、ぼくは桜内さんに必死で訴える。
「逆に、お弁当を届ける為だけにそんな事が出来るなんて……随分なお人好しなのね」
「んん、お人好しというか……千歌ちゃんが困るからそうしたってだけです。ぼくは、千歌ちゃんに救われた恩がありますから。あの人が毎日幸せに過ごせるようにしたいって、思ってますから」
「よほど愛されてるのね、
彼女はそうつぶやくと、ぼくの方を見やって少し考えるような仕草をする。顎に手を当てて下を向いたたまま、ぼくに桜内さんは言う。
「……ねぇ、零夏さん。少し……時間を貰えない? あなたに聞きたいことがあるの」
「えっ? あー、でも、ぼく今お仕事中で……終わるのが大体8時か9時とかそこらになるんですが、その後で良ければ……」
少し眉を下げる桜内さんに、仕方ないんだと言おうとしたぼくの肩に、手がぽんと後ろから乗せられる。
「あらあら、零夏ちゃん」
突然だったものだから、その声の主のほうを勢いよく振り返ると、パートのおばさまがニヤニヤ顔で立っていた。
「せっかく誘ってくれた女の子をそんな時間まで待たせるなんて、ヤボなんじゃない?」
「あ……お疲れ様です! サボってた訳じゃないですよ!? 今から業務に戻りま……」
「まぁまぁそう焦りなさんな。零夏ちゃん、今日はこれで上がって良いよ」
「へ……?」
まだ仕事を終わらせた覚えがない──この仕事とは、本来の仕事内容を終えてしまい、持て余した時間を埋めるために貰った仕事のことだ。ぼくは、間抜けた声で返す。
「どうしてですか?」
「今日やる分の仕事はもう終わってたし、お客さんも少ないから、料理運びはあたし達だけで回せる。だからその子とお話してやんなさい?」
「良いんですか……?」
「もちろん。零夏ちゃんが働きすぎて、あたし達かなり楽になってんだから。そのお返しよ。零夏ちゃんくらいのトシの子は、仕事よりも、お友達と遊ぶ時間の方が大事なんだから。ほら、わかったらとっとと行った行った!」
まあ、確かに今日やった仕事は他の人の仕事を食っているまである。タオルはノルマよりも10枚多い30枚、皿洗いは全体の半分。この入口にある小さな庭の草むしりも終わりそうなところだ。
要領をつかみ始めたおかげか、仕事もはじめの頃より大分早く終わるようになった。後は任せても大丈夫。そうパートさんが言うもので、感謝しか返す言葉は見当たらない。ぼくはただ、頭を下げるしかできなかった。
「す、すみません……ありがとうございますっ! お疲れ様でした!」
ぼくがそう言って頭を下げるのを見て、パートさんは笑顔で手を振って、ぼくらの前を通り過ぎていった。
「……たった今、フリーになりました。未空です」
「ええと……こちらもフリーの桜内です……素敵な職場、ね?」
「はい、まっことホワイトで……」
続ける言葉に困ったぼくらは、数センチ程度の世間話をする。
「お話……しますか?」
「そうね。あと、敬語じゃなくて大丈夫よ。同い年なんだし」
「あぁ、そうか……じゃあ、タメで。あっちの縁側でいい?」
桜内さんが頷きを返したのを確認した後、ぼくは十千万の縁側へと彼女を案内した。
「それで、桜内さん。ぼくに聞きたいことって……?」
桜内さんは、縁側に腰かけて一息つくと、こちらをちらっと見やってから話し始める。
「高海さんから、あなたの話は聞かされていたの。この旅館で住み込みで働いている、と。この前もここに来たけど、姿が見えなかったから……だから、今日は偶然会えたって感じかしら」
「この前……あ、千歌ちゃんが桜内さんに作詞を手伝ってもらったって言ってたな……ぼく、その時は裏で洗濯物畳んでて……今日はたまたま敷地内の草むしりをしてたから会えた感じだね」
前に桜内さんが家に来たのは、千歌ちゃんから知らされたことだ。
ぼくもこうして、千歌ちゃんから桜内さんのことをちょくちょく聞かされていたりするのだ。
「高海さん、私のこと話してるのね……」
「千歌ちゃんもぼくのこと話してるんだ……意外」
「ええ。それで、気になったの。あなたは……どうしてここで働いているのか」
「ん……? と、いうと?」
「高海さんは、零夏さんと出会ってからそんなに時間は経っていないと言ってたの。なのに自分の家に住まわせて、あんなに楽しそうにあなたの話をする。それが……気になってしまって」
「……なるほど?」
千歌ちゃんは、ぼくに関してどんなことを話しているんだろう。特に言われて困るようなことはないが、なんだか気になりはする。
「さっきあなた、高海さんに『救われた』と言ってたわね。あなたと高海さんの関係って……?」
「まさか千歌ちゃんがぼくのこと話してるなんて思わなかったけど……話せる範囲で良いなら、話すよ」
「それで大丈夫よ。ごめんなさい、話すことを強いてしまったようで……」
「良いよ。自分のことを知りたいと思われるのは、嫌いじゃないから」
自分について知ろうとしてくれるのは、新鮮でもあり、なんだか嬉しくもある。昔から、ぼくのこれまでの人生に興味を持ってくれたのは本当に数少ない人だけだったから、そこまで悪い気はしないのだ。
これからそこまで関わる機会もないような人ではあるが、彼女は悪い人ではない。なんだか、そう思えるのだ。
「……ぼくは、『死にたい』と思ってこの場所……静岡に来たんだ」
「えっ……?」
「家族も、友達も、居場所も。何もかも失って、どうでも良くなっちゃったんだ。良い死に場所を探して、アテもなく彷徨ってたら……ここの海に着いてた。まぁ……現実から逃げる為って言ったらそれまでだけど」
そこからぼくは、十千万で働くまでの経緯を話す。
「それで、ここが良いって思った。死ぬなら、この綺麗な海が良いって。そしたら、千歌ちゃんがそれを止めた。出会ったばかりなのに、ぼくを『助ける』って、『救いたい』って言ったんだ。……実際、救われたよ。千歌ちゃんや、高海家の皆さんに」
太陽は、万人を照らす。その光を当てる者を選ばない。スポットライトと違って、太陽はバミテの上に立たなくとも、誰もを照らしてくれるのだ。
だから千歌ちゃんは、ぼくの太陽なんだ。今まで誰もがぼくのことを薄暗いままで放っておいたのを、千歌ちゃんがすくい上げてくれた。照らしてくれたのだ。
ぼくはその光を少し借りて、誰かしら、何かしらを見えやすくする月になりたいだけなのかもしれない。月は、太陽なしには輝けないものだから。
「だからぼくは、千歌ちゃんの助けになりたいと思った。あの人の為にできることをしたいって。それに……この十千万で働いて、皆を笑顔にしたいんだ」
「笑顔に……?」
こればかりは、実際に働いてみなければ気づくことのなかった気持ちだ。お客様を、笑顔にしたい。従業員さんも含めて、皆を笑顔にしたいという気持ち。
「そう。ここに住んでる人、皆良い人たちなんだよ。だから……十千万に来てくれる人皆をさ、笑顔にできるような……そんな人になりたくて。って……ごめん。今更こんなの流行らないよね? カッコつけて言ってるワケじゃないんだけど……なんか痛いかな……」
「いいえ。素敵だと思うわ。『誰かの為になりたい』。そう思えるのは、とても素敵なことよ。私は、そう思いたくても……思えないから……」
伏せ目がちにそうつぶやく桜内さんは、ここではないどこかに居るようだった。
「たしか……桜内さん、千歌ちゃんから誘われてるんだよね? 『スクールアイドルやらない?』って」
「ええ……まだ、答えは出せていないけれど」
彼女自身も、申し訳なさは感じているようだ。きっと、千歌ちゃんと曜ちゃんの熱心な勧誘に、若干の罪悪感すらも芽生えているのだろう。
「誰かの為になりたいって、それを千歌ちゃんの為にするのはどうかな? 今、ふと思ったんだけど」
「高海さんの……為?」
「直感だけどね。桜内さんを誘うってことは、さ。きっと、どうしても譲れない『理由』があると思うんだ。ぼくには、その『理由』がなんなのかはわからない……でも、そんな気がする」
「譲れない、『理由』……」
「うん。『桜内さんじゃなきゃいけない理由』があるんだよ。絶対に。桜内さんが良ければだけど、千歌ちゃんの力になってほしい」
千歌ちゃんだって、曜ちゃんだって、桜内さんを加えてスクールアイドル活動をすることを心から望んでいるはずだ。
ぼくはそれとなく桜内さんに、千歌ちゃんの提案に乗ってみるように促す。
「……私、ピアノをやっていて。もう1度ピアノを弾けるようになる為にここへ来たの」
「弾けるように?」
「ええ。前は弾くのがすごく楽しくて……好きだった。何よりも、大好きだった。でもある日、ちょっとしたスランプになっちゃって。そのせいで、大事な発表会での発表は4分33秒になっちゃったわ」
「えっ、どういうこと?」
「あ、いえ……全くピアノを弾かない曲があるのよ。『4分33秒』っていう」
「ああ。なるほど、そういう音楽家ジョークか」
「音楽家って。肩書きが大きいわね」
「ごめんね、せっかくの一発ギャグを説明させちゃって」
「別に持ちネタじゃないわよ!?」
それから桜内さんは、自分が東京から沼津に来た理由を、ぽつぽつと話し出す。
「その失敗が原因で、スランプがイップスになってしまったの」
「今はもうピアノを全く弾けない、ってこと?」
「ええ。少なくとも、人前でなんて無理ね……」
「強い失敗のショックで、人前に立ってパフォーマンスができない……そういうスクールアイドルも、過去にはいたからね」
「詳しいのね?」
「……スクールアイドルは、ちょっとかじってたんだ。ちょっとだけ、ね」
こちらに微笑みかけた桜内さんの目は、笑っていなかった。手元も少しだけ震えている。思い出すだけで、手がBPM250を刻むようになってしまったのだろう。
「だから、半ば逃げるように、
「逃げる、か」
「ええ。意識的に私は、あそこから逃げたの」
これで分かったことがある。桜内さんは、こんな所で終わるタマなんかじゃないってことだ。
ぼくと桜内さんは、どこか似ている。東京に生まれ、沼津に移ってきた──いや、どちらも自称しているのは逃げてきたという表現だ──という点でも共通点は十分にある。
しかし、東京から沼津に逃げてきたとは言いつつも、ぼくも桜内さんも、逃げるという方法で、なんとか過去の自分と向き合っている。
そして、千歌ちゃんという太陽に出会った。これだけで立ち直れるという証拠は十分だ。しかし、彼女自身の立ち直る力だって侮っちゃあいけない。
何度でも言おう。桜内さんは、ここで折れるような人じゃあない。ピアノが大好きだった彼女は、東京から泣いて逃げてきたわけでもあるまい。
自分自身の中にある、弾きたいのに弾けないという状況と向き合うために、東京から逃げてきたのだ。
逃げるのは別に、悪いことなんかじゃない。勧誘を断るのにも、イップスを治すのにも、逃げることは必要だ。
だから、逃げること自体は悪ではないと、ぼくは思うのだ。
幸せとは、長続きなんかしない。ずっと続く幸せなんか、ありはしない。あちらから歩いてもきてくれない。幸せなんてものだけを頼りに生きる人生なんて、クソッタレだ。
だからこそ、逃げてもいい。クソッタレの人生から逃げたところで、幸せが砕けたから逃げたところで、誰がぼくらのことを責められよう。
「高海さんの活動に手を貸したい気持ちはある。けれど……スクールアイドルになって、ピアノを疎かにしたくない気持ちもあって……」
「そうなんだ。どっちもできたら良いんだろうけど、難しい問題だね……」
「どちらも……中途半端な気持ちで向き合いたくはないから……」
「そっか。……優しいんだね。桜内さん」
「優しい、のかしら? ただ決断が出来ていないだけだと思うけれど……」
「
ハッとしたように、彼女はこちらを向く。
彼女は決して、頭ごなしに断っているのではない。スクールアイドルという活動を軽視したり、敬遠したりをしているのでもない。
桜内さんは桜内さんなりに、やりたいことのヴィジョンをしっかりと持っていて、そのやりたいことと千歌ちゃんのやりたいことが重ならないから、仕方なく断っている。ぼくには、そう思えるのだ。
「ピアノと同じくらい、千歌ちゃんの活動を大切にしたいって思うから……決めきれない。桜内さんは優しいよ。『やらない』ってきっぱり断ることもできるだろうに、ちゃんと考えて断ってると思うから」
「そう……かしら?」
「うん。あくまでぼくの価値観だから、参考にならないとは思うけど……何かに誘われたり、頼られたりするなら……応えた方が良いんじゃないかなって。ぼくがそうだからね」
「それは……高海さんの為?」
「それもあるし、最近は……沼津に住む人たちの為でもある。こんなぼくを頼ってくれる人が、可愛がってくれる人たちが居る。その人たちが毎日笑顔で過ごせるように、頑張りたい。もちろん、桜内さんの為にも」
「えっ? 私の為にも……?」
至極不思議そうな様子の桜内さんに、こちらは至極真っ当なことを言っているぞと返す。
「そりゃ、桜内さんはお隣さんだからね。お隣さんを笑顔にするのもぼくの仕事だから。こうして悩むのも良いけど……1番は、『桜内さんが笑顔でいられること』だって思うからね」
「……!」
こちらを向いた桜内さんの目が、大きく見開かれる。
少しクサいことを言ってしまったか。頭の後ろをかき、照れ隠しに笑ってみる。しかし、彼女はどうやらクサいなんてことはどうでもよかったようだ。
彼女は少しフリーズした後に、堪えきれなかったように、ぷっと吹き出した。
「ふふっ。ふふふっ……」
「えっ……」
「あなた
「……さては褒め言葉じゃないね? それ……」
「褒めてるわよ。……ええ。とっても」
悪意がないとは分かるが、その声は明らかに呆れてるな。流石に。猛攻に折れたって感じだ。
「ありがとう。零夏さん。少し……心が楽になったわ」
「ほんと? 役に立てたなら、良かったよ」
「もう1度、ちゃんと考えてみるわ。ピアノのことも。スクールアイドルのことも」
「うん。あ、でも無理しちゃダメだよ! ……桜内さんがしたいことをしてくれれば、ぼくはそれだけで嬉しいから」
ぼくらは顔を見合せて、同時に笑う。
「まったく……本当にお人好しね」
「まぁ……旅館勤めですから」
「ふふっ。そうかもしれないわね。あなたが良ければまた……ここにお邪魔させてもらっても……良い?」
よしッ。
ぼくはどうやらこの短時間にして、お隣さんにして常連さんと仲良くなったようだ。
「……はい! またのご来訪を、心よりお待ちしております。この未空零夏が、誠心誠意……おもてなしさせていただきます!」
「ええ。よろしくお願いするわ。……またね、零夏さん」
十千万を去る彼女の背中を見て、もう大丈夫だと感じたぼくは、再び仕事を貰いに行くことにした。
時は流れて現在は午後10時、風呂上がり。仕事を終えたぼくは、ひとしきり寝る支度をして布団に入る。
目を瞑ってから暫く。ぼくは、桜内さんから香る、千歌ちゃんとも曜ちゃんとも違うような甘い匂いを思い出していた。
記憶と匂いの情報は、密接にリンクしている。確かテレビで見たような気がする、そんな話を。
そうだ。思い出した。桜内さん、神田あたりにあるフレンチトーストのお店に似た匂いがしたんだ。だからなんだか、印象に強く残ったのか。
布団に入ってからしばらく、くだらないことを考えていた。認知シャッフル睡眠法のように、取り留めのない思考を繰り返しているうちに眠くなってきたが、ぼくの目はすぐにパチリと覚めることになる。
どこかからピアノの音色と、微かに歌声が聴こえてくる。お隣さんの、ナイショのレッスンだ。μ'sの『ユメノトビラ』が見事にピアノアレンジされた音色を聴き、ぼくは安堵する。
「頑張ってね。桜内さん。きっと……大丈夫」
届くはずのない、しかし確かな思いをそっと囁き、ぼくは眠りについた。
その翌日から、桜内さんが千歌ちゃんの部屋に頻繁に上がるようになった理由については、ぼくから説明するのさえも野暮だろう。