ドルフィンウェーブTB   作:月想

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愛よ!(挨拶)


第10話『杏里と氷の女王~飲み会は計画的に~』

「入華!カーブで速度落とし過ぎだ!」

「みちるも!いちいち水しぶきなんかに反応すんな!」

「「はい!」」

 

水上練習場に威勢のいい声が響く。

それはしばらく、ここで聴くことがなかった声だ。

 

「......何だよ。いつも以上にニヤニヤして。」

「ふふっ、おかえり。杏ちゃん。」

「......別に、戻ったわけじゃない。あたしなりのケジメってだけだ。」

 

陽南杏里。

彼女は今、入華とみちるの『期間限定コーチ』ということになっている。

一度はジェットバトルを拒絶した彼女が何故ここにいるのか。

その理由は、数日前に遡る。

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

「はぁ?あたしにコーチになれって?」

「うん。新人戦までの2ヶ月間、二人のコーチングを手伝って欲しい。」

 

日向重工との練習試合を終え、私は陽南杏里に会いに来た。

今のKIRISHIMAには足りないものが多い。

それを補う為には、実戦経験が豊富で、尚且つジェットバトルに本気で取り組んだ先輩が必要だ。

すなわち、彼女である。

 

「......あのさ、あんたこないだの話聞いてたか?あたしはもうジェットバトルはやらないって、そう言ったはずだろ。」

「選手に戻って欲しいとは頼んでないよ。コーチの手伝いをして欲しいの。」

「いやだから。あたしが受け入れると思うかって」

「だから取引なの。仕事サボってるんだから、まともに給料入ってないんでしょ?」

「ぎくっ...。だ、だから何だよ。貯金ならあたしにだってそれなりに」

「節約したくて居酒屋に入るか迷ってたのに?」

「う、うるせー!」

 

ふむ。やはり詩絵に聞いた通りだ。

財政状態は芳しくないらしい。

 

「コーチングを手伝ってくれるなら、出勤扱いになるよう私が掛け合う。選手の時より給料は少なくなるだろうけど。それに加えて、私が夜ご飯奢ってあげる。居酒屋でもいいよ。」

「マジ...!?」

「好きな時にご馳走してあげる。」

「ぐ、ぐぬぬ...。」

 

思ったよりいい食い付きだ。

分かりやすく揺らいでくれている。

 

「さっきも言ったけど、期間は2ヶ月。新人戦が終わったら、もう誰も陽南さんに無理強いも引き留めもしないと約束する。ジェットバトルとKIRISHIMAから好きに離れてくれて構わない。」

「......。」

 

陽南さんは気まずそうに目を背け、ため息を吐く。

やがて困り果てたように頭を振って、私の方に向き直った。

 

「あんたも監督も、あたしにいったい何を期待してるんだ。負け犬のあたしにさ...。」

「監督も...?」

「頼まれたんだよ、この前。力を貸して欲しいってさ。あんたが思い付いたこと、監督はもうとっくに必要だと分かってたってわけだ。」

 

流石監督。

KIRISHIMAに足りないものを既に見抜いていたなんて。

......ちょっとくらい、こちらにも共有が欲しかったが。

 

「あたしはKAZAMIに勝てなかったんだぞ?そんな奴のアドバイス聞いて、いったい何になるって言うんだ。」

「そうやって、いつまでも私から逃げるつもりですか?杏里。」

「っ...!?」

 

いつの間にか私の後ろに立っていた人物が一人。

今日会うのはこれで二度目。

しかし違う。

今までの雰囲気とは明らかに違う威圧感だ。

 

「氷織...!?何でお前がここに...!」

「ナユキさん!?...って知り合い!?」

「知り合いも何も...。」

 

杏里さんが忌々しげにナユキさんを指差し、私にとって驚愕の真実を告げる。

 

「永雪氷織。こいつが、KAZAMIの。ワダツミの、最強のライダーだ。」

「ナユキさんが、KAZAMIの...!?」

「ちさきりん。KIRISHIMAのコーチ。私の話はしたことがありませんでしたね。」

 

ただ者ではないと思っていたが、本当にスゴい人だった。

だから刃兼さんとも面識があったのか。

 

ナユキヒオリ。永雪氷織。

資料で一度目にしたことがあった。

デビュー以来常勝無敗。

今のKAZAMIをワダツミ最強に押し上げた立役者。

確か、異名は...。

 

「氷の、絶対女王...。」

「ちっ...。その女王様が、負け犬に何のようだよ。」

「まだ逃げるつもりなのかと聞いているのです。」

「逃げる?勝負なら何度もしただろ。お前が勝った。勝ち逃げ出来てんだから、逃げるも何もないだろうが!」

 

陽南さんにとって、KAZAMIに敗北したことが挫折のきっかけだ。

その張本人に『逃げている』と言われ、かなり苛立っている。

 

「確かに、かつて私は勝利しました。しかし、私の勝利を揺らがせ、一瞬でも敗北を意識させたのは杏里。あなただけです。あれから私は、更なる強さを手に入れました。だからあなたも、もっと強くなるはずです。強くなったあなたを倒し、今度こそ私は絶対的な勝利を手にする。杏里、戦いなさい。あなたに絶対的な敗北を与えない限り、私はワダツミ最強足り得ない。」

「お前...!」

 

絶対的勝利を傷つけた杏里さんを、完膚なきまでに叩きのめしたい。

異常なまでの勝利への執着。

あまりにも自分勝手な話だが、それが彼女が女王足る由縁なのだろう。

......あれ?もしかして私も同じくらい目の敵にされてたりする?

 

「お前の都合なんざ知ったことか!あたしはもうジェットバトルはやらない!コーチの話もやっぱなしだ!放っておいてくれよ!!」

「ついでに話流されかけてる!?」

「待ちなさい杏里。」

 

立ち去ろとする陽南さんの腕を掴み、引き留める永雪さん。

 

「離せよ!」

「離しません...!」

 

何やら段々修羅場染みてきてしまったぞ。

ギャラリーまで集まってきている。

まずい。

大騒ぎになれば最悪KIRISHIMAにもKAZAMIにも迷惑が...!

 

「ど、どうしよう!?」

「あら。燃え上がるような愛を感じるわ。」

「へ?」

 

またしても後ろに気配を感じる。

それと同時に何か柔らかいものに抱き締められた。

とてもあったかくていい匂いがする。

......抱き締められた!?

 

「そんなに慌てないの。わたくしに任せて?」

「だ、誰ですかあなた!?」

「あら、わたくしを知りたいの?でもそれはまた後で。今はハルとナユッキーが優先ね。」

 

そういうとドレス姿で金髪の外国人さん?は綱引きを続ける二人のところに近づき。

豪快に二人まとめて抱き締めた。

......抱き締めた!?

 

「!?」

「げっ!?ヴィーナ!?何でお前までここに!?てか離せっ!?」

「ハル、ナユッキー。二人の愛は熱く燃え上がっているわ。ここでは狭すぎるほどに。場所を選んだ方が良いのではなくて?」

「相変わらず話が通じねぇ...。」

 

ハグ大好きお姉さん(仮称)の言葉に思うところがあったのか、永雪さんが陽南さんから手を離し、落ち着いた様子でハグから抜け出した。

 

「......少し強引過ぎました。謝罪致します。」

「っ...。......あたしも、頭に血が昇ってたとこはある。」

 

永雪さんの謝罪に漸く落ち着いた陽南さん。

すぐに逃げようとはせず、ハグ大好きお姉さんから抜け出すに留まった。

 

「あら。もう少し愛を感じ合っていたかったのだけど。」

「仲裁に来たんじゃないのかよ!?」

「あの、この方は知り合いですか...?」

 

場が落ち着いたようなので、このハグ大好きお姉さんがいったい誰なのか聞いてみる。

どうやら知り合いのようだが...。

 

「知り合いと言えば知り合いだけど...。」

「知っていると言えるかは断言しかねますね。」

 

知っているようで知らない人?

頓知か?もしくは有名人的な。

にしてはニックネーム呼びだし、親しくないなんてことあるのだろうか?

疑問が深まる私にお姉さんは妖艶に微笑むと。

 

「わたくしはヴィーナ。美と愛を体現する者。さあ、わたくしと愛し合いましょう。チサキリンさん。」

 

モデルのように決まったポーズで、私にプロポーズしてきた。

......うわぁ...。

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

ハグ大好きお姉さん、もとい変な人、もといヴィーナさん(本名ではないらしい)に促され、一度居酒屋前から移動した私たち。

これまでの経緯をヴィーナさんに説明したのだが。

 

「つまりハルがモテモテってことね。」

「どう解釈したらそうなるんだよ...?」

「あら、愛ゆえに人は人を求めるのよ。ナユッキーもチサも、ハルのことを熱く求めているの。これはまごうことなき愛よ!」

 

何故そこで愛。

誤解を生むような発言だ。

まあ確かに、陽南さんは私たちに必要な人ではあるが。

というか、『チサ』っていつの間にあだ名を付けられたのか。

そこは『サキ』じゃないのか。

それだと誰かと被るのかな?

 

「ハルが二人の愛を拒み、二人はハルからの愛を諦められない。激しい愛のぶつかり合いに、わたくしは呼び寄せられたのよ。」

「だってよ。お前らのせいだからな?」

「えぇ...?」

「そもそも杏里が逃げるからでしょう。責任はあなたにあります。」

「何であたしのせいなんだよ!突っ掛かって来たのはお前だろうが!」

「ああもう。またケンカになっちゃう...。」

 

またしてもバチバチと火花を飛ばし始めた二人の様子を見て、ヴィーナさんは少し思案した後。

 

「この場の愛はわたくしが取り持ちましょう。愛を賭けた勝負はいかがかしら?」

「勝負?」

 

ヴィーナさんはその豊かな胸元から一枚のコインを取り出した。

いやどこから出してんだ...。

よく見れば、杏里さん御用達のあのカジノのコインだ。

『勝負』という言葉に永雪さんの瞳が鋭くなる。

 

「あら。残念だけどナユッキーはお休みよ。今回はそもそも、ハルとチサの愛を巡る争いが原因だもの。勝負は二人にしてもらうわ。」

「勝負?そのコインでどうするって」

「コイントスで決めましょう。」

「いや分かれ道決める時か!」

 

勝負にもならない完全な運ゲーじゃないか。

思わず突っ込んでしまった。

 

「あら、単純だからこそ公平な勝負だと思わない?運命を天に任せる。勝利の女神が微笑むのはどちらかしら?」

「はぁ。コイントス、コイントスねぇ。」

 

杏里さんがめんどくさそうな、呆れ半分諦め半分の声音で呟く。

 

「あたしが勝ったらどうなるんだよ?これ以上纏わりつかれないで終わりか?」

「ハルが勝ったら、チサにはKIRISHIMAのコーチを辞めてもらうわ。」

「...は?」

「だってハルがいなければ、KIRISHIMAは終わったも同然なのでしょう?なら、辞めて諦めてしまった方が良いのではなくて?」

「いや、んな無茶苦茶な...。」

 

想定外の条件に、陽南さんの方が狼狽えている。

コーチを辞める。

あまりにも大きい代償だ。

私はどうすべきか。

 

「いいよ、それで。」

「ほら、そりゃこんなの受けるわけ...は?」

「それじゃあ、決まりね。」

「ちょ!?待てよ!何ムキになってんだ!こんな勝負受ける利点ないだろ!?」

「あるよ、利点。」

「は?」

 

確かにリスクの方がデカイかもしれない。

だけど私は逃げられない。

入華とみちるには、それに詩絵にも。

陽南杏里はKIRISHIMAに必要だ。

ここで逃げればもうチャンスはないかもしれない。

それはダメだ。入華たちの夢の為に、私なんかの保身を優先させるわけにはいかない。

 

「私が本気だってこと、陽南さんに伝わるでしょ?さっき何を期待しているのかって言ってたけど、私たちが期待しないわけないよ。入華たちも私も、あなたの走りを何度も見た。とても楽しそうに、自由にマシンを駆る姿。素晴らしかった。私たちにとっては、あなたがKIRISHIMAなの。まだ先が見えない中で、あなたの背中が目指す道なの。負け犬なんかじゃない、だってあなたはまだ戦える。また立ち上がれる人なんだから。」

「っ...。地咲...。」

 

心は折れたって、きっかけがあれば回復するかもしれない。

あれだけ好きだったものを諦めるのは、それこそ負けるより遥かに辛いはずだ。

彼女はその辛さを受け入れなくていい。

立ち上がる足はまだ健在だ。

 

「今の私には、これくらいしか出来ないんだよ。」

「...。」

「良い覚悟です。KAZAMIとして、KIRISHIMAの運命を見届けさせてもらいましょう。」

「決まりね。さあ、表裏どちらにするの?」

「私は表で。」

「...。」

「ではチサが表、ハルが裏でいいわね。いくわよ?ハルが戻るか、チサが去るか。」

 

ヴィーナさんが器用にメダルを親指に乗せ、勢いよく上に弾く。

綺麗に放物線を描き、メダルが落下していく。

KIRISHIMAの運命は、どちらだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

「ふふっ、これもハルの愛の形なのね。」

「うるさい。」

「自ら勝利から逃げるとは、逃げ癖でも付いたのですか?」

「だからうるせー!つーかニヤニヤすんなお前ら!」

 

結論から言って、コイントスの結果は分からず終いだ。

コインが落下する瞬間、陽南さんがコインをキャッチしてしまった。

そのままポケットにコインを入れてしまい。

 

「表だった!あー負けた負けた!仕方ないから期間限定コーチの話受けてやるよ。いやー悔しい悔しい。」

 

と、物凄く白々しい演技をされた。

そんなこんなで、結局勝負は私の勝ちとなったのだった。

 

「裏だったんだよね?」

「だから表だったって言ったろ。あんたの勝ちだよ。良かったな。」

「......ふふっ。気を使ってくれてありがとう。」

「っ...。あんた、時々トシエに似てるよな...。」

 

照れたように頬を掻く陽南さん。

詩絵から話を聞いていたせいだろうが、そんなに似ているだろうか?

 

「ま、仕方なくだが勝負は勝負だ。期間限定とはいえ、これからよろしくな輪。」

「うん、よろしくお願いします。陽南さん。」

「杏里でいいよ。名字じゃ母さんと被るだろ?」

「うん、分かった。よろしくね、杏里。」

「おう。」

 

初対面ではギクシャクしてしまったが、本来の彼女は気さくな性格のようだ。

こういうさっぱりとしたタイプとは付き合いやすい。仲良くなれそうだ。

 

「愛の波動を感じるわ!」

「お前らいつまで付いて来るんだよ!?あたしはこれから早速奢ってもらうところなんだ。関係ないんだから帰れ。」

「私は元々あの居酒屋に用事があったのです。知人に呼ばれていましたので。」

「知人...?」

 

いつの間にか居酒屋前まで戻っていた為、永雪さんの知人が気になる中、自然に入店する。

するとそこには。

 

「お、きたぞー。」

「うむ、全員揃っているな。」

「コーチ、杏ちゃん。いらっしゃーい。」

 

日向の刃兼さん、暮無さん、そして詩絵がいた。

既に座敷で宴会を始めている。

 

「なっ!?どうしてお前らここに!?」

「久しぶりじゃんか。」

「不摂生をしていると聞いたが、壮健そうで何よりだ。」

「あ、店員さん。生3つ追加お願いします~。」

「いや話聞けよ!」

 

促されるまま三人同じ座敷に着く。

そういえば、日向の二人は打ち上げをするといったような話をしていたが。

 

「コーチから杏ちゃんの居場所ば聞かれて、じゃあここで待っちょれば合流できる?と思ったとよ。」

「それにあたしらが便乗したわけだ。」

「うむ。宴会は大勢がよい!」

「行動筒抜けかよ...。」

 

なるほど。

詩絵としては説得が上手くいくと踏んでいたわけだ。

本当に母親なんじゃないかと思うくらい、杏里さんの動向を熟知しているな。

 

「永雪は私が招待した。」

「本日も手合わせ頂きましたので。断る理由もありませんでした。」

「手合わせって...。何やってんだお前。」

 

それは私も思う。

天才には変人が多いと聞くが。

変人といえば、何か忘れている気が。

疑問に思った直後、居酒屋に見知った人物が入って来るのが見えた。

 

「ワダツミの有名人が勢揃いって感じね!」

「ヘリーさん?」

「リンさん、直接会うのは久しぶりね!」

「お久しぶりです。奇遇ですね。」

「奇遇というか、私は知人に呼ばれて来たのだけれど...。」

 

ヘリーさんが誰かを探すように店内を見渡す。

どうやら日向に呼ばれたわけではないらしい。

 

「ヴィーナはどこかしら?」

「え!?知り合いなんですか?...あれ?いつの間にかいない?」

 

一緒に居酒屋前まで来ていたはずだが、思えば詩絵たちも特にヴィーナさんに触れた瞬間はなかった。

 

「ああ、まあ。彼女はいつも神出鬼没なの。いちいち反応してたら身が持たないわよ?」

「そ、そうなんですね...。」

 

結局何だったんだあの人...。

一応、ヴィーナさんのおかげで話がまとまったわけだし、今度会ったらお礼を言っておこう。

 

「せっかくだし、私もご一緒していいかしら?」

「あ、はい。全員ジェットバトル関係ですし。」

「ありがとう!あら、ヒオリもいたのね。」

「ええ。合同練習以来ですね。」

 

そういえば、NereIdesはKAZAMIにジェットバトルに関してサポートを受けているんだったか。

面識があっても不思議ではない。

いつの間にかワダツミにおける私の大人な知り合いが勢揃いだ。

せっかくだし彼女も招待しよう。

 

「後一人呼んでもいいかな?」

「?いいけど、誰だよ?」

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

「本当に私もいていいのかな...?輪ちゃん。」

「どうして?由芽も立派な関係者じゃない。」

「だってみんな有名な選手の方ばかりだよ?浮かないかな~...。」

「私だって選手じゃないし。それに由芽がいた方が、私は楽しいから。」

「り、輪ちゃん...。」

「いちゃついてんなー。なんだ、そういう趣味かー?」

「夕離!貴様はまだ反省していないようだな!」

 

居酒屋と言えばというところで、由芽にも来てもらった。

これで晴れて大人オールスターズが勢揃いだ。

 

「それじゃあみんな!グラスの準備はいいかしら?」

「本日もお疲れ様でした。」

「「「「「「「「かんぱーい!」」」」」」」」

 

総勢8名。

知人の輪が広がるとこういう楽しみがある。

飲みニケーションとはよく言ったもので、最初に緊張していた由芽を始め、意外な組み合わせで宴会の場は盛り上がっていた。

 

「こないだもお嬢が可愛くてですねー。」

「ふふっ、かなちゃんは甘えん坊やねー。」

「浦見の娘か。生意気な盛りだが、こうしてみると愛らしいものだな。」

 

かなちゃんトークに盛り上がるお姉さん二人に、姉御感で負けていない刃兼さん。

 

「ギャンブルなんか面白いかー?」

「面白いに決まってんだろ。あのヒリつく感覚と来たら、一度ハマるとやめられない魅力が」

「まあ、彼女は負けてヒヤッとするのが好きなのです。」

「負けたいわけじゃねーよ!?っていうか、何であたしがいつも負けてるって知ってんだ!」

 

ギャンブルトーク?で賑わう杏里、暮無さん、永雪さん。

意外と仲が良さそうだ。

 

「シオンのこと、いつもありがとう。」

「いえ、一緒に話ながら帰ってるだけですから。」

「ふふっ、だからお礼を言っているのよ。」

 

そんな私はヘリーさんと会話していた。

紫苑のボディーガード業はそこまで頻度は高くないが、週に数回程度はしている。

相変わらずちょっと気難しいけど...。

 

「そういえば、こないだ妹さんにお会いしましたよ?」

「っ...。...セレナに?」

「はい。姉妹でデザイナーでガンナーなんですね。」

「......ええ。まあ、そうよ。」

 

何だか反応が悪い?

セレナさんと何かあったのかな?

 

「そんなことより!あなたのお話を聞かせてちょうだい?Galateaの服は買ってもらえたかしら?」

「え?ああ、アクセサリーならいくつか...。」

 

そんな感じで、各々会話を楽しむのだった。

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

「リンさん!見て!大きいでしょ!?柔らかいでしょ!?姉に勝る妹なんていないのよ!?」

「輪ちゃ~ん。えへへ。うふふ。」

「何で二人とも私なの...。」

 

開始から2時間近く経ち。

大人たちの社交場は、すでに見る影もなくなっていた。

きっかけはちょっとした一言。

 

「そんなに勝負したいなら、飲み比べでもすればいいんじゃないか?」

 

またしても言い合いを始めた杏里と永雪さんに暮無さんが放った一言だった。

飲みなら負けないと息巻く杏里に、勝負なら逃げないと受けて立つ永雪さん。

その女王に参加しろと睨まれた私に。せっかくならとヘリーさんもやると言い出し。

結局全員が参加することとなった。

やっぱり根に持たれてました。

 

最初のうちはみんな楽しんでいたが、酔いが回って来たタイミングで一変。

 

「うふふ。ふふっ。うふふふ。」

 

詩絵がひたすら笑うようになり、先ほどのようにヘリーさんはセレナさんの愚痴が止まらなくなり、由芽はやたら私に抱き着いてくる。

ちなみに日向の二人だが。

 

「明日練習なしな?」

「うむ!よし!」

「ここお前の奢りな?」

「うむ!よし!」

「あたしの減給もなしな?」

「うむ!よし!」

「あたしは巨乳、乙姫は貧乳。」

「うむ!よし!」

「あはは!やっぱ乙姫は最高だわ!ゴクッゴクッ!......すぴーZz」

 

刃兼さんはうむ!よし!しか言わなくなり、面白がっていた暮無さんは寝た。

ちゃんと刃兼さんの記憶が飛んでいることを願う。

そして、勝負と息巻いていた二人はというと。

 

「う、うぷ。...お、おい。降参するなら今のうちだぞ...。」

「降参など、しま、せん...。うぅ...。」

「うっ!?や、やば...!」

 

先に杏里が限界を迎え、お手洗いに駆け込む。

 

「ふ、ふふ...。私の、しょうり...うぷっ!?」

 

勝利したと喜ぶ永雪さんだが、次の瞬間その美しい白い顔がさらに青白くなり、物凄い勢いで杏里さんの後を追った。

......引き分けだろ、これ。

こんな姿、とてもアンダートゥエンティの面々には見せられない。

お店の方に謝らなくては。最悪出禁ではないだろうか。

 

「あら。チサはお酒強いのね。」

「いえ、途中からみんなの介抱で飲んでませんから...ってヴィーナさん!?」

 

いつの間にか隣に腰かけている。

丁寧に由芽は退かし、寝かしつけている。

 

「お店に入る前に強い愛の波動を感じたの。だから一度離脱させてもらったわ。」

「は、はぁ...。」

 

律儀に戻ってきてくれたらしい。

今となってはまともに会話できる人は私だけなのだが。

 

「今日はありがとうございました。ヴィーナさんのおかげで、杏里に協力してもらえることになりました。」

「いいのよ。わたくしは愛を実らせたに過ぎないのだから。」

 

相変わらず何を言っているのか分からないが、いい人ではあるのだろう。

この際色々聞いてみようと考えていると。

 

「さて。それじゃあ早速、続きを始めましょうか?」

「続き?」

 

ヴィーナさんがまたしても妖艶に笑ったと思えば、私をその場に押し倒してくる。

 

「!?え、え!?」

「何を驚いているの?わたくしはあなたと愛を深めに来たのよ?」

 

何言ってんだこの人!?

前言撤回、やっぱりやばい人だ。

目が肉食動物のそれだ。

見た目からは分からないパワーでホールドされている。

 

「や、やめて...!」

「うふふ。怯えなくていいのよ?すぐにわたくしの虜にしてあげる。」

 

だ、誰か助けて...!?

 

「その辺にしとけよ?出禁になるだろー?」

「あら。」

 

間一髪、誰かがヴィーナさんの肩を掴み、そのまま引っ張り上げる。

それは意外なことに、眠ってしまっていた暮無さんだった。

 

「あなたもわたくしの愛が欲しいのかしら?」

「遠慮しとく。あたしはイタズラし甲斐のあるやつが好みでね。あんたは違うだろ?」

「あら、残念。」

 

諦めたのか、ヴィーナさんは立ち上がると入り口付近まで歩いていく。

 

「チサ。わたくしの愛を受け入れたくなったら、いつでも呼んで欲しいわ。」

「そんなタイミングなさそうなんですけど...。」

 

ヴィーナさんは一瞬、不思議そうな顔をしたと思えば、今度は面白がるように笑顔になった。

 

「ふふっ、ますます興味深いわね。また会いましょう、コーチさん。」

 

そう言って、ヴィーナさんはワダツミの夜に消えていった。

 

「......ありがとうございました、助けてくれて。」

「いいよ別に。昼間の分のお返しってことで。それともあたしの揉むか?揺れるぞ~。」

「い、いえ。大丈夫です。」

 

意外と義理堅いのだろうか。

ちゃんとやり過ぎたと思ってくれていたらしい。

何だか暮無さんへの評価が急上昇だ。

 

「てっきり酔い潰れて眠ってしまっていたのかと。」

「あんくらいの酒であたしが酔い潰れるわけないだろー?テキトーなタイミングで酔ったフリしないとあいつらめんどくさいからな。」

 

なるほど。

永雪さんたちに突っ掛かられない為か。

あれ?なら何で飲み比べ勝負なんか提案したんだろうか?

 

「そりゃあ酔っぱらうとみんな面白くなるだろ?あたしは酔わないでそれを笑って見てられる。完璧な作戦だわ、我ながら。」

「そ、そうですか。」

 

刃兼さんにバレたらまためちゃくちゃ怒られるなこの人。

ちょっと評価低下である。

 

「さ、ゲロコンビが戻ってきたら出るぞー。そろそろ店に怒られそうだしな。」

「ゲロコンビって...。」

 

不名誉なあだ名まで付けられてしまった。

二人には内緒にしておかなければ。

 

その後、酔い潰れたみんなを起こし、何とかお会計を済ませるのだった。

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

「その、まあなんだ?......こないだは言い過ぎた。悪かったよ。」

「杏里、さん...?」

 

週明けの練習日。

約束通り杏里はKIRISHIMAに戻ってきてくれた。

勿論、完全復活ではないが。

みちるは信じられないのか、時々頬をつねって現実かどうか確認している。

 

「......。」

「入華、だったよな?...あたしは今も、ジェットバトルをするつもりはない。」

「そう、なんですよね...。」

「お前たちのコーチがしつこくてな。仕方なく鍛えることになった。......お前もあたしみたいに、ジェットバトルが嫌いになるって言ったよな?」

「......はい。」

 

入華は俯き気味に話を聞いている。

憧れの杏里が戻ってきた、いや本当の意味で戻っていないことに複雑な心境なのだろう。

 

「......お前は、そうならないって言い返したよな?」

「......はい!」

 

今度は杏里の目を真っ直ぐ見つめ、力強く返事をする入華。

手酷く負けてもなお、あの時の覚悟は変わっていない。

そんな入華に微笑み、杏里は彼女の頭に手を乗せる。

 

「なら、証明してみせろ。お前の走りでな。」

「はいっ!......あの、杏里さん!」

「ん?」

 

不安を振り払うように、弾けるような笑顔になる入華。

さあ、役者は揃った。

今は少し前を向いてくれた英雄の帰還を、喜ぶことにしよう。

 

「おかえりなさい!」

 

 

 

 




杏里さん、氷織さんのライバル感を出すためにちょっと二人共喧嘩っ早くなってます。
このくらいの方が関係性が深くなっていいかなと考えてます。
みんなの酔い方は完全に想像です。
解釈違いでしたらごめんなさい...。

このキャラがメインの話を見たいって子は誰ですか?

  • 入華
  • みちる
  • 杏里
  • 詩絵
  • エレン
  • 氷織
  • シュネー
  • 桐利
  • 見波
  • 乙姫
  • 夕離
  • 紫苑
  • ヘリー
  • セレナ
  • ヴィーナ
  • かな
  • 由芽
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